「共同参画」2014年2月号

「共同参画」2014年2月号

特集2

女性の視点を一層反映した警察運営の推進
警察庁長官官房人事課

警察では、「「女性の力」をより積極的に取り込むことが、警察を強くする」という観点に基づき、女性の視点を一層反映した警察運営の推進に向け、各都道府県警察を中心として各種取組を進めています。

1 初めに

昨今、警察を取り巻く現状は非常に複雑になってきており、日々の警察活動においても、国民から「安全」の確保だけではなく、「安心」や「不安感の解消」といった多種多様な要請が寄せられ、これらの対応が求められています。

身近な日常生活の安全・安心の確保という点からは、女性の生命を脅かすストーカー事案・配偶者からの暴力事案や、女性の尊厳を踏みにじる性犯罪等への対処が重要となります。これらの犯罪は、各種法令を適用して取り締まり、また、その未然防止を図ることはもちろんですが、性犯罪被害者の支援を始め、女性被害者の心情やニーズに寄り添った施策を進めていくことが求められています。

さらに、少子高齢化の中にあって、女性の力の活用は、社会全体の大きな課題となっています。これは警察においても例外ではなく、「「女性の力」をより積極的に取り込むことが、警察を強くする」(平成25年5月に提出された「警察における女性の視点を一層反映した対策の推進に関する報告書」)という観点から、女性の視点を一層反映し得る体制を構築することが必要となっています。国民の期待と時代の要請に対応するためには、「女性の力」をもって、警察力を質的に強化することが求められているのです。

2 女性警察官を巡る現状

(1)採用の拡大

これまでも警察では、女性警察官の採用に積極的に取り組んできました。

昭和21年に初めて女性警察官を採用して以降、現在では毎年1000名を超える女性警察官を採用しており、女性警察官数は年々増加しています。平成24年度には約1,500名(新規採用者総数に占める比率は13.0%)の女性警察官が採用され、平成25年4月1日現在、全国都道府県警察では、女性警察官約18,700人注)が勤務しており、警察官に占める女性警察官の割合は7.2%となっています。

)育児休業中の者を含みます。

(2)登用の拡大

女性警察官の幹部への登用も進んでいます。都道府県警察で採用され、警部以上の階級にある女性警察官は、平成25年4月1日現在、254人であり注)、警察署長を始め、警察署の刑事課長等にも登用されています。

注)うち44名は警視です。

職域についても、従来は女性警察官の多くが交通部門に配置されていましたが、現在は他の職域に配置される女性警察官の割合も増加してきています。特に、女性が被害者となる性犯罪や配偶者からの暴力事案等において、捜査や被害者支援に女性警察官の能力や特性が生かされているほか、暴力団対策、警衛・警護等を含め、全ての分野にその職域が拡大しています。

都道府県警察の女性警察官数及び警察官に占める女性警察官の割合の推移(平成14年?25年度) 都道府県警察で採用された警部以上の女性警察官数の推移(平成14?25年度)


都道府県警察における女性警察官の部門別配置状況(平成14年、25年度)


3 警察における女性の視点を一層反映した対策の推進に関する検討会

以上のような現状を受け、警察における女性の活用方策等について検討するため、平成25年1月から、5人の部外有識者による「警察における女性の視点を一層反映した対策の推進に関する検討会」が計4回開催されました。

同検討会は、同年5月に「警察における女性の視点を一層反映した対策の推進に関する報告書」を取りまとめ、「警察が女性の視点を一層反映した組織へと変わり、女性被害者等への対応強化等多様性のある社会のニーズに応えられるようになる」というこれからの向かうべき方向性を示しました注)

注)本報告書については、HP上でも閲覧可能となっています(http://www.npa.go.jp/seisaku/seianki/kentoukai/houkokusho.pdf別ウインドウで開きます)。

警察では、本報告書を踏まえ、全職員の意識改革の徹底、性別を問わない能力・実績に応じた積極的な人材登用や女性職員が更に働きやすい職場環境づくり等の取組を推進しています(具体的な取組内容については、4参照)。

検討会座長からの報告書提出
検討会座長からの報告書提出


4 各都道府県警察等における取組内容

(1)女性警察官交流会議の開催(警察庁等)

警察庁や各管区警察局等では、警察組織のマイノリティであるために理想とするロールモデルを見つけることが困難であったり、相談相手となる先輩や同僚がおらずに孤立し、仕事と私生活の両立に苦悩しがちな女性職員のために、女性幹部による講演や女性職員同士による意見交換の場を提供するため、「女性警察官交流会議」を開催しています。

女性警察官交流会議の開催状況
女性警察官交流会議の開催状況


交流会議においては、参加職員の間で積極的な意見交換がなされ、「男女を問わない意識改革が何より大事だと痛感した」「女性一人一人が頑張っている姿を見せることが、男性の意識改革への近道」「両立支援制度を利用する女性側も制度に甘えていてはだめ」「採用・登用拡大に見合う基礎を身に付ける必要がある」といった様々な意見が寄せられています。本交流会議は、今後も引き続き、各管区単位・各都道府県警察単位で開催していく予定です。

(2)育児短時間勤務制度等利用者の業務指定制度等(愛知県警察)

愛知県警察では、部分休業制度や育児短時間勤務制度の制度利用者を配置するポストとして、あらかじめ計画的に勤務しやすい係を指定した上で、制度利用者2名に対してフルタイム勤務者1名を増員配置することで、育児短時間勤務等の制度を利用しやすくし、かつ、所属の負担軽減を図っています。

また、全女性警察官を対象としたアンケート等を通じて女性職員からの意見収集を行った上で、これらの意見を踏まえ、仕事と育児のバランス別に昇任試験への挑戦時期を紹介したキャリアプランシートを作成し、女性職員の昇任への意識付けを図っているほか、電子メールを活用した女性専用の相談窓口を設置し、相談者があらかじめ指定された女性メンターから回答を受けられる仕組みを構築するなどしています。

愛知県警察のこのような取組に対しては、平成25年11月に警察庁長官賞が授与されています。

キャリアプランシート


(3)女性活躍推進プロジェクトの設置等(警視庁)

警視庁では、平成25年9月、女性警視をトップとする女性活躍推進プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトが中心となって平成25年12月には「女性の視点を一層反映した警察運営アクション・プログラム」を策定し、組織を挙げて女性の視点を反映した警察運営に取り組んでいます。

その一環として、後進育成のため自身の知識や経験を伝える適任者である女性幹部を「警視庁キャリア・アドバイザー」として指定し講演を行わせる制度や全所属への子育てアドバイザーの配置等の施策を推進しています。

5 女性幹部職員からのメッセージ

(1)しなやかに、したたかに

京都府川端警察署副署長 小山雅子
(京都府川端警察署副署長 小山雅子)


「フレーフレー女性警察官!」のコールが聞こえてくる今日この頃。副署長をしている私にとって、同僚や後輩の女性警察官の頑張りや活躍が何よりの喜びです。

警察官として仕事らしい仕事をさせてもらえず、捜査をさせてほしいと願っても相手にしてもらえなかった日々。今、女性警察官が内外から必要とされ、また、その期待に応えていく姿を見ていると、頼もしい限りです。以前、警察学校で教官をしていた当時、卒業していく女性警察官達に「仕事のできる職場の花になってほしい。」と言って送り出してきました。職場に女性がいるだけで和むのは悪いことではないでしょう。でも、仕事では、男性も女性もないのです。

とは言うものの、女性職員たちに話を聞くと、仕事と育児の両立に悩んだり、昇任や専務員を目指すことを躊躇ったりと思いは複雑です。そんなとき、背中を一押しすることができたら、と自身の役目を考えています。また、彼女らの思いや希望を組織に届け、そして反映できるよう、わずかでもお手伝いができたらと思います。

私自身、3人めの子供が生まれたとき、警察官だった夫が単身赴任となり、3人の子供を連れて赴任先に向かう途中、電車の中で子供がジュースをこぼし泣きそうになったことや、子供の行事と仕事がぶつかりどちらも選べず挫けそうになったこと、他府県出動中に子供が怪我したことなど、いろいろな思い出が今、よみがえりますが、そんなひとつひとつを、家族や同僚らのサポートをいただきながらも乗り越えてきたからこそ、今日、頑張れるのだと思います。

しなやかに、したたかに、背伸びしすぎず、自分らしく精一杯!をモットーに、女性警察官の仕事を全うしたいと思っています。

(2)知能犯捜査に魅せられて

警視庁刑事部捜査第二課管理官 片岡麻紀
(警視庁刑事部捜査第二課管理官 片岡麻紀)


私は20年前、公認会計士として勤務していたところ、知人に勧められ警視庁の特別捜査官に応募し、捜査第二課で企業を巡る知能犯捜査に従事することになりました。

公認会計士も企業会計の監査をしますが、不正を見つけてもできることは勧告程度。警察では犯人を逮捕して有罪判決を得るなど、よりストレートに不正を糺し、社会正義を実現できる点が魅力でした。

入庁した頃は捜査の現場はベテランの男性ばかり。自分に一体何ができるのか不安でしたが、取り組んでみると「構成要件該当性という命題を証拠で証明する」ことが面白く、膨大な捜査書類も皆で大きな論文を書いている様で、時間を忘れて捜査に没頭しました。

知能犯捜査は、法の網の目を逃れようとする犯人との知恵比べでもあり、財務や法律の知識と経験をフルに活用し、国際的に暗躍する相手には英語も使うなど、知的な刺激に満ちています。子供の頃から本の虫だった私には、押収品の詰まったダンボールも宝の山。中の資料をこつこつ読んで証拠を探す作業が楽しいのです。

署の刑事組対課長を拝命した時も不安でしたが、「捜査が大好き」「複雑な事件を沢山やった」という気持ちで前に踏み出し、素晴らしい捜査員達に恵まれて、近隣署に勝るとも劣らぬ成果が出せました。

昨今は捜査の分野でも、優秀で意欲に満ちた女性達が多数活躍しています。捜査には活動的なイメージもありますが、実際は根気のいる作業が結果に繋がる地道な仕事です。性差よりも努力が活きる仕事であり、チームワークである点も女性に向いています。一人でも多くの女性に、捜査に興味を持ってもらえればと願っています。