「共同参画」2013年12月号

「共同参画」2013年12月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(8) 増えないフルタイム共働き、減り続ける小遣い
中央大学・教授 山田 昌弘

前回、夫婦ともフルタイム共働きの家計は余裕があり、高額商品消費が活発なのに、同じ共働きでも、妻が非正規雇用では、教育費を除けば片働き家庭と消費実態は変わらないことを示しました。

共働き家庭が増えていると言われています。確かに、既婚女性の就労率は上昇しています。しかし、その中味をみると、増えたのは、妻がパートなど非正規雇用の就労であって、フルタイム同士の共働きは増えていません。表1をみても分かるように、フルタイムで働く既婚女性の比率は、年齢によってほとんど変わらず、15%前後です。確かに、1985年に男女雇用機会均等法が成立し、育児休業も整備されて、出産後も働き続ける環境が整いました。しかし、1990年代は、女性の職場進出が進むと共に、「非正規化」も同時に進んだのです。更に、少子化の影響で、新卒教員の採用数が減ります。民間企業で正社員として働き続ける環境が整っても、そもそも正社員や正規の教員として働いている女性の数が減ったのです。だから、フルタイムで働く既婚女性比率がもっとも高いのは、50代前半(2009年時点)で、その三分の一以上が教員と公務員なのです。教員や公務員は昔から、既婚女性が働き続けやすい職場でした。民間で結婚、出産後も正社員として働き続ける女性が増える中、教員や公務員で働く女性の数が減ったので、結果的に効果がオフセットされて、フルタイム共働き率は若い世代で増えていないのです。

現役男性の収入は、ここ20年の間にほとんど増えず減少傾向にあります。その中で、教育費や住宅ローンなどの支出が増え、家計を維持するために、パート等非正規で働きに出る既婚女性が増えただけともいえます。だから、共働きは増えても家計消費は活発化せずに、マクロ経済の内需拡大にはほとんど貢献しなかったのです。

そして、この20年の経済停滞によって最も打撃を受けたのは、実は、家計を支え続けている夫たる男性だったのです。前々回、男性の雇用が不安定化し、結婚相手として選ばれにくい男性が増えていることが少子化をもたらしていることを示しました。結婚後も男性の受難が続きます。それは、小遣い額に端的に表れます。新生銀行(旧日本長期信用銀行)がサラリーマンの小遣い額調査をほぼ毎年行っています(表2、註1)。それによると、1991年の平均小遣い額は月額76000円と最高を記録しました。しかし、バブル経済崩壊以降、減少傾向が続き、2005年には、約4万円となり、最新の2013年には、3万8457円と、1991年のほぼ半額となっています。これには、昼食代も含んでいるので、それ以外の支出の減少率は大変なものです。学生にこの額を示したところ、ある学生は、「私がバイトで稼いだ小遣い額より少ない」と言っていました。

これも、男性一人の収入で生活を支えるという実態の結果であることは間違いありません。前回見たように、消費支出の中で小遣いが含まれる「その他」項目の額は、妻フルタイム共働き94403円、専業主婦62294円と3万円以上の開きがあります。その3万円が夫の小遣いに全部回るとは限りませんが、妻がフルタイム就労の場合、夫の小遣い額が相当増えます。女性の経済的活躍が、夫のためになることは間違いないのです。


表1 年齢別核家族の妻の就業率


表2 新生銀行調査−サラリーマンの平均小遣い額


註1:調査対象のサラリーマンには、未婚者や女性も含まれるが、各調査、対象者の大部分が、既婚男性であるため、このデータを用いた。
・因みに、2013年は、既婚者は、30,996円、未婚者は、46,175円である。

山田昌弘 中央大学教授
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。