「共同参画」2013年12月号

「共同参画」2013年12月号

特集

科学技術分野における女性の活躍促進
内閣府男女共同参画局推進課

政府の取組〜はじめに

安倍内閣では、「女性の活躍」を成長戦略の中核として位置づけ、安倍総理からも、経済界への要請(本年4月)、国連総会での演説(9月)など、様々な場面でアピールされており、今までにないほど国内外から注目を集めています。

その中で、女性の活躍が進んでいない分野の一つとして、近年、取組が加速されているのが、科学技術分野です。

科学技術分野は、第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月17日閣議決定)で重点分野として新設されました。「日本再興戦略」(本年6月14日閣議決定)や若者・女性活躍推進フォーラムの提言においても、理系分野を目指す女子中高生に対する支援や、女性研究者の出産・子育て等と研究を両立するための環境整備支援が重要施策として盛り込まれています。理系の女性(女子)を表す「リケジョ」という言葉も、最近聞かれるようになりました。

そこで、今回は、「科学技術分野における女性の活躍促進」と題して、国、企業、団体等において、科学技術分野で女性が活躍するために行われている取組や、科学技術分野における女性の活躍状況を特集します。

女性の活躍を推進する安倍総理


科学技術イノベーション総合戦略

総合科学技術会議では、政策の全体像として、「科学技術イノベーション総合戦略」を6月に策定しました。イノベーションを生み出すには、女性研究者を含む多様な人材が互いに切磋琢磨し合うことにより生まれる大胆な発想が必要です。そのため、自然科学系全体における大学や公的研究機関での女性研究者の採用割合を、2016年までに30%にすることを目標としており、必要な施策を講じていく予定です。

文部科学省の取組

文部科学省では、「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月23日閣議決定)における自然科学系全体の女性研究者の採用割合を30%とする目標の達成を目指し、これまでも様々な取組を行ってきました。加えて、平成26年度概算要求においては、「女性研究者研究活動支援事業」において、既に女性研究者の研究と出産・育児等との両立支援のための環境整備に取り組んでいる大学等を中心に、複数の大学等が連携して、女性研究者の研究力向上を図る取組を実施する「コンソーシアム型」を新設することとしています。さらに、優秀な研究者が出産・子育てから円滑に研究現場に復帰できるよう研究奨励金を支給する「特別研究員事業(RPD)」についても、採用人数の拡充等を図ることとしています。

他にも、全国の自然科学分野の大学学部生等が自主研究を発表し競い合う「サイエンス・インカレ」を開催しており、第2回大会では、第1回大会に比べて女子学生の受賞者数が増加しています。

「リコチャレ」はじめます!

男女共同参画局では、理工系分野に興味がある女子高校生・学生たちが、将来の自分をイメージして進路選択できるよう、「チャレンジ・キャンペーン」というHPで、理工系分野が充実している大学・企業の取組や、理工系分野で活躍する女性を紹介しています。

今年度は「理工チャレンジ(略称:リコチャレ)」としてホームページをリニューアルする予定です。新タイトルのロゴデザインは、たくさんの応募作品の中から、現役女子大学生である辻本真友さんの作品に決定しました。これを一つの芽として、今後の「リコチャレ」をより豊かなものにしていきたいと思います。

「チャレンジ・キャンペーン」サイト
「チャレンジ・キャンペーン」サイトはこちらhttp://www.gender.go.jp/c-challenge/index.html


新タイトルのロゴデザイン
新タイトルのロゴデザイン


理工系分野への進路選択支援

科学技術分野での女性の活躍促進の観点からは、女子学生・生徒の理工系分野への進路選択を支援することや、研究者としての育成が非常に重要です。理工系分野への興味を引き出す各種の取組をご紹介します。

女子中高生の理系進路選択支援プログラム

独立行政法人科学技術振興機構は、女子中高生の理系進路選択支援プログラムを実施し、科学技術に関する興味・関心を高め、理系分野への進学意欲・進路意識の向上を図るために、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、大学生等との交流機会などを提供する大学等による取組を支援しています。


採択事例:女子ワイルドライフ・サイエンティスト養成講座

近年、動物(特にペットではない野生動物)に興味を持ち、大学で動物を対象とした研究をしてみたいとか、動物に関わる職業に就きたいという学生が増えています。しかし、進路選択の段階では学部学科や職業に関する情報が少ないのが現状です。本講座では、京都大学野生動物研究センターが京都市動物園生き物・学び・研究センターと協力し、野生動物を研究している若手研究者や、動物園や水族館で実際に動物と関わる仕事をしている飼育員や獣医を講師として、講演会や実習を行っております。本講座のコンセプトは、「本物に触れる」こと。本物の研究者、飼育員や獣医と直に会って仕事の話を聞く機会を提供し、自身が中学高校の頃にどんなことを考え、どんな選択をして今日に至るのかを率直に語ってもらっています。小会場での開催として、直に話をできる時間も多く取り、毎回、参加者の活発な質問が飛んでいます。本年度中にさらに実習が1回と講演会が2回企画されています。

女子ワイルドライフ・サイエンティスト養成講座


ロレアル−ユネスコ女性科学者日本奨励賞:日本ロレアル

日本ロレアルは日本ユネスコ国内委員会との協力のもと、平成17年に「ロレアル−ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を創設しました。生命・物質科学分野の博士後期課程に進学予定又は在籍する若手女性科学者が、研究活動を継続できるよう奨励することを目的としており、生命・物質科学から各2名・計4名を選考し、奨学金100万円を贈呈しています。これまでの32名の受賞者は、共同研究の機会、海外留学、希望の職に就く、結婚、出産などキャリアを切り拓き、ロールモデルとして活躍しています。平成22年に新設した「ロレアル−ユネスコ女性科学者 日本奨励賞─特別賞」とともに、11月中旬から2月末まで応募を開始し(http://www.nihon-loreal.jp/corp/)、授賞式にて受賞者を発表しています。また、理系女子を応援する「リケジョの日」を制定し、次世代に科学の楽しさやキャリアの無限の可能性について訴求する啓発活動を推進しています。

平成25年度授賞式の様子
平成25年度授賞式の様子


大学における取組:東北大学

今年度は東北大学に日本で初めての女子学生が誕生してから100年目に当たります。平成21年度から文部科学省科学技術振興調整費(現:科学技術人材育成費補助金)を利用し理・工・農学系女性教員を対象とした「杜の都ジャンプアップ事業 for 2013」を行っています。この事業では優れた女性教員を積極的に採用し、その能力と職階のジャンプアップを図るため、世界トップリーダーとして必要な幅広い学問領域を見渡せる「自立し、共生し、未来を育み、サイエンスを拓く杜の都女性研究者」を育成することを目的とし、(1)世界トップクラス研究リーダー養成(複数メンター制、セミナー)(2)新ネットワーク創生(人的・技術的ネットワーク)(3)研究スタイル確立支援(ワーク・ライフ・バランス支援、男女共同参画意識の啓発・醸成)の3プログラムを実施しています。これまで、理・工・農学における女性教員(教授、准教授、講師、助教)の総数は事業開始前の平成20年度の値から49%増加しており、昇進し上位職へ着任した女性研究者も複数名出ています。また受賞や外部資金獲得などの件数が増加し、目に見える成果として上がっています。働く環境を整える支援としてハードリング支援事業にも全学で取り組んでいます。ハードリング支援事業、学内病後児室、学内保育園を利用している女性研究者からは、制度の整備が精神的な大きな支えになり、キャリアアップにつながるとの評価を得ているところです。

東北大学女子学生入学百周年記念のロゴマーク
東北大学女子学生入学百周年記念のロゴマーク


コラム1 書籍紹介

「なぜ理系に進む女性は少ないのか?」(西村書店) S.J.セシ/W.M.ウィリアムス編

科学者である大隅典子東北大教授が翻訳された本書は、タイトルの問に対して論じた15の論文から構成されています。認知能力における性差が決定的なものであるか、それが女性の理系分野への進出を妨げるのか、あるいはその他の社会的要因が与える影響が大きいのか等の観点に対し、科学的根拠を豊富に示して多様な分析が展開されており、問題を知り、偏見を取り除くための第一歩として興味深い内容となっています。

コラム2 女性研究者・技術者の声

(1)周囲の大人からの影響が進路選択に影響しやすい?

小中高時代の進路選択に影響を与えたものを研究者らに尋ねたアンケート結果によると「幼少時に自然にわいた興味」「書籍やテレビ番組」が男女ともに突出していましたが、3位以降は「科目の成績」「授業内容」「先生との交流」「家族、親戚からの影響」が続き、いずれの項目も女性の選択率が高くなっています。

(2)ロールモデルの存在は大きい?

現在の職を選んだ理由を年代・性別で分析すると「その職業で活躍する身近な知人にあこがれた」という回答が20代女性で突出しており、女性研究者、技術者が増えれば相乗効果的に益々女性が増えていくことが予想されるとの分析が加えられていました。
(「第三回科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」22、23頁、男女共同参画学協会連絡会(2013)http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/)

コラム3 理系に興味がある女子のための応援サービスRikejo

理系分野に進んだ社会人など約400名のボランティアの先輩と講談社が連携した、理系女子支援サービスが展開されています。会員には、先輩リケジョの活躍や仕事など役立つ情報が満載のリケジョマガジンが届けられ、webサイトでは理系の進路を選んだ大学生や社会人が、進路の悩みや質問に丁寧に答えてくれるQ&Aサービスがありますので理系に興味がある皆様はぜひのぞいてみてください。(http://www.rikejo.jp/)


リケジョの活躍

理工系の女性の活躍は、大学・研究所等の研究機関に限られません。民間企業をはじめとする様々な組織で、あるいは科学技術を生かした起業をして活躍しているケースも多く見られます。また、国家公務員の職場でも、科学技術分野の専門性を生かした様々な業務があることを御存知でしょうか。

女性研究者数及び研究者に占める女性割合の推移


諸外国の研究者に占める女性割合


企業におけるリケジョの活躍:日産自動車株式会社

日産はダイバーシティを経営戦略として位置付け、トップの強いリーダーシップのもと、ボトムアップとの両輪で推進しています。

自動車業界は男性のイメージが強いですが、クルマを購入する際の意思決定の3分の2は実は女性が重要な役割を持っています。これは日本のみならず世界各国でも同様で、女性のお客様に支持されなければならないと考えています。

ある車種の商品企画責任者に女性が就き、女性への魅力創出をスタディするチームによって、後席に設置したチャイルドシートへの子供の乗降や荷物の出し入れがしやすいように後席ドアの開閉角度が検討され、設計に織り込まれました。

工場の生産現場では、実際の製造ラインに入って活躍している女性技能員の提案を反映しさまざまな年齢層や男女の区別なく誰にでも作業できる製造ラインへの改善を続けています。

平成17年には、育児と両立する従業員の活躍をサポートすることを目的として、多くの女性エンジニアが勤務する日産テクニカルセンターに社内託児所「まーちらんど」を設立し、現在計3か所の託児所があります。

同16年以降入社の技術系新卒採用は15%の女性比率を指針とし、同25年は20%でした。活躍する若い世代の女性エンジニアが増えつつありますが、組織の大きい開発部門や生産部門ではまだまだ身近に女性のロールモデルは少ないのが現状で、昨年より開発拠点女性従業員のネットワーク活動がスタートしました。自ら企画し女性ロールモデルのヒアリングをし、両立やキャリアアップについて学びを得ています。

女性視点を取り入れ設計された車


社内託児所「まーちらんど」の様子


独法におけるリケジョの活躍

1.独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)

産総研は、正職員約3,000名を中心に、国内外の多様な人材を集める国内最大級の公的研究機関です。

個人の能力を最大限発揮できる環境実現を目指して:

産総研におけるダイバーシティ推進体制の変遷を下図に示しました。

平成19年度より3年間、文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業により、女性研究者が研究を続けやすい環境の整備、休暇等制度の拡充を行いました。

現在までに、裁量労働制などの柔軟な勤務形態、小学校就学前までの育児短時間勤務制度を導入しています。所内の一時預かり施設や民間託児所・ベビーシッターなどのサービス提供により、突発的なニーズにも応えています。また、産前産後・育児休業中には代替職員の配置や昇格審査の機会の平等性確保を行っています。その他、キャリア形成支援として、ロールモデル懇談会やキャリアカウンセリングなどを実施しています。

女性研究者の活躍:

所内の統計によると女性の外部資金獲得率及び外部発表実績は所内平均を上回ります。注目される活動としては、文化功労賞受賞、経済産業省の審議会会長就任、内閣府男女共同参画推進連携会議議員就任などが挙げられます。

産総研におけるダイバーシティ推進体制の変遷


2.独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)

JAXAでは、本年10月より、文部科学省科学技術人材育成費補助金による女性研究者研究活動支援事業を開始しています。理事長のリーダーシップのもと、男女共同参画推進室を設置し、「人材育成委員会」で策定する基本方針に基づき、男女共同参画の取組をPDCAサイクルにより推進します。

JAXAのミッションは、最先端かつ幅広い分野を対象としています。また、事業所は業種・目的別に全国に広く展開しています。このため、事業所ごとに選任された代表を中心に職員ニーズをきめ細かく把握し、(1)安心して出産・子育て・介護を行える環境の整備、(2)働き方の見直しによるワーク・ライフ・バランスの実現、(3)研究者の研究開発力・組織マネジメント力の向上と能力発揮、(4)女性研究者の採用・登用を拡大、意識啓発、(5)女性ロールモデルの見える化と女子学生・院生との交流機会の拡大、(6)内外連携の推進、相互協力ネットワークの形成などの支援を行います。

ポジティブ・アクションのための数値目標として、(1)在職比率を12%以上、(2)採用比率を18%以上、(3)教授職相当者の採用、(4)子育て・介護による離職率ゼロを目指しています。また、研究開発力の向上として、女性研究者全体で、競争的研究資金獲得額を2倍以上、論文投稿(学会発表、特許件数等)を1.5倍以上を達成する予定です。

外部有識者によるアドバイザリー委員会を開催し、PDCAサイクルで進捗のフォローアップを行い、先進的な支援モデルの構築を目指します。

国際宇宙ステーション「きぼう」の運用管制
国際宇宙ステーション「きぼう」の運用管制


理系国家公務員も活躍しています

国家公務員採用試験には、例えば総合職試験では、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農業科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境の技術系区分を設けています。各省庁は、事務系区分と同じく、技術系区分についても、積極的に女性を採用しています。採用後は、各々の専門知識を活かし、本府省における企画立案業務のほか、各府省に属する研究所における研究業務などに従事しており、活躍の場は多岐に渡っています。

農業水利施設においての業務の様子(農業農村工学区分(農林水産省九州農政局))
農業水利施設においての業務の様子
(農業農村工学区分(農林水産省九州農政局))


人事院HP−女性の皆さんへ−

(女性向け試験ガイド、女性国家公務員の活躍事例集など)

http://www.jinji.go.jp/saiyo/jyosei/toppage.htm

国家公務員女性ガイドの表紙