「共同参画」2013年11月号

「共同参画」2013年11月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(7) 女性の就労は家計を潤し、内需を拡大させる
中央大学・教授 山田 昌弘

今まで、経済学の分野では、女性の就労は主に労働の観点から議論されてきました。社会学の分野では、主に、家事分担など役割分業の点から研究されてきました。女性が働いた結果、家計消費の変化にはあまり関心が払われてきませんでした。

いわゆるバブル経済が崩壊したのが1991年。それ以降、日本経済は相対的に停滞しています。中でも、子どもを育てている現役世代の収入の低下が著しいことが分かっています。経済学は専門ではありませんが、内需で最も大きな要素を占めるのは、民間消費です。そして、消費の主体は「家計」です。そして、家計消費は世帯数*1世帯あたり消費水準で決まります。少子化、特に未婚化によって、現役世代の世帯数は増えません。前回述べたように、日本では若者の一人暮らしが少なく、大部分の未婚者は親と同居し続けます。今、急増している単身世帯は、消費が少ない高齢者世帯です(註1)

註1:山田昌弘・塚崎公義『家族の衰退が招く未来』(2012年、東洋経済新報社)参照

では、少なくなっている現役世帯の消費はどうなっているのでしょうか。総務省が行っている全国消費実態調査をもとに、共働き世帯と専業主婦世帯では、どのように消費パターンが異なるかを集計してみました(註2)

註2:総務省統計研修所 平成23年度第4回共同研究報告会資料

表1,2とも、全国消費実態調査(2009年)の個票を山田と苫米地伸・東京学芸大学准教授が分析したものである。表1,2とも、夫婦とも60歳未満の核家族世帯を対象にしている。

表1 家族就労形態別世帯年収(万円) 中央値


表2 家族就労形態別、月額平均消費支出(円)(10分類)


すると、夫婦とも正社員(正規公務員を含む)で働く共働き世帯(「正規共働」)と、夫が正社員であっても妻が非正規社員(非正規公務員も含む)の共働き世帯(「非正規共働」)では、その家計構造が大きく違っていることが分かりました。年収は「正規共働」が、「非正規共働」の1.5倍あります。「非正規共働」は、「専業主婦」世帯と年収はそれほど変わりません。

消費をみましょう。家計分析では、消費を10の項目に分類しています。項目ごとにみると、非正規共働世帯の消費は、教育費を除けば、専業主婦世帯の消費水準とほとんど変わりません(その他が1万円増えますが、それは次回述べます)。つまり、非正規で働く妻の収入は、主に教育費に回っており、他の支出はあまり増えないのです。

しかし、妻が正社員の場合は、消費構造が変わります。光熱費や家事用品、保健医療などの項目は変わりませんが、「被服履物」が専業主婦世帯の1.5倍になっているのを始め、「娯楽費」や「交通通信」、「その他」などが大幅に増え、「食費」も多くなっています。この傾向は、年齢や子どもの有無などで調整しても変わりません。細かく見れば、食費では外食が増え、洋服の単価が上り、「交通」では自家用車の支出が増え、旅行支出も増えます。そして、小遣いに多く支出しているのです。

消費することがよいこととは限りませんが、少なくとも、正社員同士で共働きしている世帯は、グレードの高い消費生活を楽しんでいます。その結果、グレードの高い商品、サービスの需要が生まれます。

次回詳しく述べますが、日本では共働きが増えたといっても、妻が非正規である場合が大半です。だから、内需が大きく増えなかったのです。夫婦共に正社員であるような共働きを増やすことが、消費需要を活性化させて、日本の経済成長を軌道に乗せる鍵なのです。

やまだ・まさひろ氏
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。