「共同参画」2013年11月号

「共同参画」2013年11月号

特集 その2

APEC
女性と経済フォーラム2013
内閣府男女共同参画局総務課

9月6日から8日まで、インドネシア共和国・バリ島で「APEC女性と経済フォーラム2013」が開催されました。その概要と成果について、御紹介いたします。

9月6日から8日まで、「APEC女性と経済フォーラム2013」がインドネシア共和国のバリ島で開催され、APEC域内の閣僚、企業の役員級、起業家など約800名が参加し、議論が行われました。日本からは森まさこ内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、佐藤ゆかり経済産業大臣政務官等が出席しました。

このフォーラムの概要をご紹介するとともに、9月20日に開催した森大臣とフォーラムの参加者との懇談の模様をお伝えします。

※APEC(アジア太平洋経済協力)とは、アジア太平洋地域の21の国と地域(「エコノミー」と総称しています。)が参加する経済協力の枠組みです。その経済規模は、世界全体のGDPの約5割、世界全体の貿易量及び世界人口の約4割を占めています。

各エコノミー代表(前列左から4番目が森大臣)
各エコノミー代表(前列左から4番目が森大臣)

1.女性と経済フォーラム2013の概要について

APECでは、地域経済の更なる発展に向け、女性の経済への積極的な参加を進めていくことを大きな課題とし、女性と経済に関する会合を毎年開催しています。

今回の「APEC女性と経済フォーラム」では、「経済の推進役としての女性」をテーマに、「構造改革」「女性とICT」「インフラと人的資源」をサブテーマとして議論が行われました。

若手女性イノベーター表彰(9月6日(金))

他の女性の経済参画への機会を広げたイノベーター等に対する表彰が行われ、日本からは清藤さん、鮫島さんの2名が表彰を受けました。

表彰式 左から清藤さん、鮫島さん
表彰式 左から清藤さん、鮫島さん


女性と経済に関する官民対話(9月6日(金))

パネルディスカッション形式で、各エコノミーの優良事例の共有と、共通して取り組むべき課題の抽出等が行われました。

「ハイレベルパネル」では、林市長が横浜市の待機児童解消の取組などを中心に基調講演を行いました。その後、サブテーマごとのパネルディスカッションが行われ、日本からは笠さんがモデレーターとして、塚本さん、石戸さん、佐々木さんがスピーカーとして議論に参加しました。

林市長による基調講演の様子
林市長による基調講演の様子


中小企業大臣・女性と経済担当大臣合同会合(9月7日(土))

中小企業大臣と女性と経済担当大臣が合同で議論する会合が、APECとしては初めて開催されました。日本からは森大臣と佐藤経済産業大臣政務官が出席し、「起業文化の促進」及び「金融アクセスの増大」について議論を行いました。この会合の議論の結果は、「宣言」として取りまとめられました。

女性と経済に関する官民パートナーシップ(9月7日(土))

各エコノミーの施策の取組状況や、フォーラムの今後の取組方針などについて議論が行われました。

日本からは、笠さん、塚本さん、政府関係者が出席し、日本が進めている女性の活躍を推進する企業の「見える化」の重要性などについて、報告し、議論を行いました。

女性と経済に関するハイレベル政策対話(9月8日(日))

リンダ・グムラール・インドネシア女性エンパワーメント・児童保護担当大臣が議長を務め、各エコノミーの閣僚級と企業の役員級により、APEC首脳会議に向け、フォーラムとしての今後の取組を表明する「声明」の取りまとめに向けた議論が行われました。日本からは、森大臣、笠さん、塚本さんが出席し、森大臣からは、「日本再興戦略」を中心とした女性の活躍推進の取組を紹介しました。

ハイレベル政策対話
ハイレベル政策対話


森大臣によるスピーチの様子
森大臣によるスピーチの様子


フォーラムの成果

フォーラムの成果は「声明」として取りまとめられ、女性の経済への参加を促進するため、各エコノミーが、女性の活躍を推進する企業の活動の「見える化」等の施策を推進していくこととが盛り込まれました。(「声明」の概要は12ページに記載)

※女性と経済フォーラム2013の詳細は、下記の内閣府男女共同参画局サイトからご覧になることができます。

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_apec/wef2013.html

<APEC女性と経済フォーラム2013 日本からの参加者>

  • 森   まさこ 内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、女性活力・子育て支援担当大臣
  • 佐 藤 ゆかり 経済産業大臣政務官
  • ※以下50音順
  • 石 戸 奈々子 NPO法人CANVAS理事長
  • 清 藤 美 里 パナソニック株式会社アプライアンス社ビューティー・リビング事業部商品企画チーム参事
  • 佐々木 美弥子 ユニ・チャーム株式会社グローバル人事総務本部海外グループシニアマネージャー
  • 鮫 島 弘 子 株式会社andu amet (アンドゥアメット)代表取締役・デザイナー
  • 塚 本 良 江 NTTコムオンラインマーケティングソリューション株式会社代表取締役社長
  • 林   文 子 横浜市長
  • 笠   章 子 大塚製薬株式会社常務執行役員広報部長
  • 内閣府、外務省及び経済産業省

2.APEC女性と経済フォーラム2013の成果と課題に関する森大臣との懇談(9月20日(金))

「APEC女性と経済フォーラム2013」は、3日間に複数のパネルディスカッションや会合が同時に開催されました。短いフォーラム期間中には、参加者間で会合等の成果に関する情報共有を行うことはできませんでした。

そのため、フォーラム終了後の9月20日、森大臣の発案により、それぞれの会合等での成果や課題について参加者間で共有し、今後の官民の取組に生かしていくために、懇談の場が設けられました。

懇談の様子
懇談の様子


森大臣 本日は御多忙のところお越しいただきありがとうございます。それぞれの立場で我が国の取組を発信していただいたことに厚くお礼申し上げます。私は「中小企業大臣・女性と経済担当大臣合同会合」と「ハイレベル政策対話」に出席し、演説において我が国が女性の活躍推進を成長戦略の中核に位置づけて取り組んでいることを紹介しました。各エコノミーからの関心も非常に高く、数多くの閣僚からアベノミクスに関する質問をいただきました。

皆さんもフォーラムへの参加を通じて感じたことや今後の抱負などたくさんあると思います。率直な意見をお聞きするのを楽しみにしております。

森内閣府特命担当大臣(男女共同参画)
森内閣府特命担当大臣(男女共同参画)


林市長 私は2010年に岐阜で開催された「APEC女性起業家サミット」に参加して以来、2011年のサンフランシスコ、2012年のサンクトペテルブルク、そして今年のバリのフォーラムにおいて、いずれも基調講演をさせていただいています。

今回の基調講演では、横浜市が公民をあげて取り組んだ結果、今年4月に保育所待機児童ゼロを達成したことを報告いたしました。安倍内閣は、女性の経済参画と活躍推進を成長戦略の中核として位置づけ、その中で待機児童解消のための施策も推進されています。今や、「横浜方式」の全国展開により、待機児童ゼロを達成する方向が示されています。女性の活躍をさらに推進していくためには、待機児童の解消が有力なツールになると私は考えます。日本の女性に大きなチャンスが到来している今こそ、私は引き続き、横浜市から課題解決のモデルを示し、日本の成長に貢献していきたいと思います。

林市長
林市長


石戸さん 私は「脆弱女性のための社会的セーフティーネットプログラム」と題したパネルに参加しました。“ガラスの天井”を打ち破るにはどうすべきか、というモデレーターからの質問に対して、私が子どもたちへの教育活動に取り組む中で感じることをお話しました。

CANVASが提供する教育プログラムは、子どもたちに、小さい時から「多様なことは尊いことである」と感じることが大切であり、一人では限界があることも協働により可能性は無限に広がる、ということを考えるきっかけを与えるものです。

そのような学びを築く中で、見えないガラスの天井は突破できるのではないかと思います。制度や環境も大事ですが、何よりマインドセット(経験、教育、先入観等から形成される思考態度)面の教育が非常に大切なのではないでしょうか。

石戸さん
石戸さん


塚本さん 私が参加した「女性の活躍促進のためのICT手法」と題したパネルでは、ICTが女性の社会復帰や仕事の継続にどのように貢献ができるかを議論しました。私からは女性が職場復帰するに当たり、NTTグループでは、短縮勤務等の制度面とICT企業ならではのe-ワークの採用により、約8割が何らかの形で会社から支援を受けており、出産・育児を理由に退職する職員はほとんどいないことを紹介しました。

しかし、育児休業後の職場復帰が制度上保証されていても、復職後に管理職やリーダーシップ層まで上がる女性が少ないという状況もあるのです。他のエコノミーでは、復職率は低いものの、一旦職場復帰すれば男性と同等に活躍できている場合もあるため、日本ではなぜそうなのかとの質問を受けました。

保育インフラの不足や男性の家事・育児への不参加などにより、女性が子育てをしながら男性と同等の活躍をできないことに加え、復職後の短時間勤務などによる遅れを後々取り戻せるシステムが整備されていないことがその原因ではないかと思います。

これではせっかく職場復帰しても、女性が能力を発揮できず、モチベーションも上がりません。この二つの原因を同時に解決することが必要ではないでしょうか。

塚本さん
塚本さん


佐々木さん 私が参加した「女性の競争力を高めるためのインフラの整備と能力の構築」と題したパネルでは、ユニ・チャームの取組を紹介しました。

日本以外にインドネシアを含むアジアを中心とした全世界80の国や地域で、2万人程度雇用していますが、半数が女性です。男女問わず全員に「SAPS経営モデル」というマネジメントモデルを実施しています。これは、優先順位の高い課題に時間と行動を集中させ、時間の有効活用を行うよう各自が立てた計画を運用するものです。自分自身で勤務時間をマネジメントできる点で女性の働きやすさにも影響し、女性リーダーも成果を認められています。

帰国後、社内イントラネットでAPECの報告を発信したところ、様々な問題意識を持つ各国の社員からアクセスがあり、女性の問題は難しいが、今後も継続的な取組が必要であると話し合っているところです。

佐々木さん
佐々木さん


笠さん 2011年から連続で3回目の参加ですが、初めてモデレーターを務めました。その中でも「女性の競争力を高める能力の構築」というテーマに関して、佐々木さんを含む3人の民間企業のスピーカーに共通していたのは、教育と実践の場として民間企業が果たす役割が大きいという点です。いずれも女性を多く雇用する企業ですが、そこで働く女性がそこで一生働くことを最終ミッションとするのではなく、将来独立したり、より条件の良い職に就けるようなステップとして貢献したいという企業のスタンスに非常に感銘を受けました。

大塚製薬では現在役員比率が11.4%で、日本全体の1.2%と比べかなり高い数字ですが、長期的な視野で女性の意見を聞き、勉強会を開催し、女性が働きやすい環境づくりを行ってきた結果として達成したものです。女性の社会進出も一日にしてならずということで、長期的な取組が必要であると考えます。

笠さん
笠さん


清藤さん 私は、パナソニックにおいて、女性用の美容家電商品の開発を担当しています。非常にニッチな市場において、男性向け・女性向けの新たな商品を開発し、新需要を創造してきた点を評価され、今回の表彰に至ったとお聞きしました。

フォーラムに参加しての所感を述べますと、今年のフォーラムのテーマ“Women as Economic Drivers”は、女性を経済発展のための促進エネルギーとして活用していこうという趣旨ですが、今後日本経済を支えていくべき30代の女性として、周りの同世代の女性が、どの程度この言葉を意識して働いているか、残念ながらあまりいないのではないかと感じています。他の皆さんのお話とも共通しますが、マインドセットをどう変えていくかは非常に大きなポイントであると思います。制度やインフラとマインドセットの両面にしっかり対策を取ることが、日本の女性がさらに経済に貢献できるような社会になるための道ではないでしょうか。

清藤さん
清藤さん


鮫島さん 私は、エチオピアの高級羊皮のバッグを現地生産し、先進国に販売しています。今回の表彰は日本人の女性がアフリカに進出し、起業していることや事業の社会貢献性が評価されてのこととお聞きしています。

エチオピアでは、女性の社会進出自体が遅れている一方で、大臣や会社の経営者などの比率は意外と日本よりも高いのではないかという印象を受けます。教育を受けることのできる人自体少数で、エリート層がドライバーとなってエチオピアの経済を牽引しているので、女性であっても、大学を卒業した時点で結婚や出産で仕事を辞めるという選択肢自体がないのではないでしょうか。

一方で日本は教育が普及しており、多くの女性が大学や専門学校などを卒業していますが、ガラスの天井という問題を抱えています。フォーラムでは、他のエコノミーの制度や状況を聞くことにより、日本の問題点が浮き彫りになることを実感しました。私は自社でエチオピアの貧困層の方々を雇用していますが、彼らがより働きやすく、自立していける環境をつくるとともに、自分自身がロールモデルとなって日本の女性の社会進出を促進できるような存在を目指していきたいと思います。

鮫島さん
鮫島さん


森大臣 このような国際会議での盛り上がりが、これまでは、帰国してからの取組につながってこなかった。そういう意味で本日の懇談は、会議の成果や課題の共有・情報発信の取組の第一弾として、大変意義あることと感じています。

今回のフォーラムの成果を取りまとめた「声明」には、日本がイニシアティブを発揮し、2点盛り込むことができました。一つは、母親の労働への再参加の利益を認めるよう雇用者の「マインドセット」の促進を図ること、もう一つは、上級管理職・指導的地位等における女性の代表を増加することとその「見える化」を図ることです。

これまで、我が国の女性の経済参画の取組は、官と民、政府と地方、男性と女性、女性同士でさえばらばらに行ってきました。これを女性の活躍を経済発展のエンジンにしようという志により、それぞれの取組に接点を持たせ、一大協働活動にしていこうというチャレンジを行っています。

私は、今回のフォーラムの成果を政府として具体的な政策に落とし込んで行けるよう進め、世界の中で日本の女性がリーダーシップを取れるよう頑張ってまいりたいと思います。皆さんも、今回培った各国の女性とのネットワークを様々な国際会議等でも駆使し、日本の取組をアピールしてください。本日はどうもありがとうございました。

○この懇談の動画や各参加者のコメントを下記の男女共同参画局ウェブサイトに掲載しています。

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_apec/wef2013_02.html

APEC女性と経済フォーラム 女性と経済に関するハイレベル政策対話 声明(内閣府抄訳)
各エコノミーに対し、以下の取組を行うことを奨励する。

構造改革

  • 政策や計画の構築に利用される、零細企業及び中小企業に関する男女別データの収集及び分析
  • 事業運営、市場へのアクセス、資産の所有、資本へのアクセス、社会的保護に関し、女性を差別し、女性に不利益を与える立法、規制及び施策の明確化及び対策
  • APECの各エコノミーの関係者が、女性の完全な経済参画をさらに推進するよう、技術的資源と優良事例に関する情報源の明確化とその利用の促進
  • 女性の事業主による新たな市場の育成及び新たな市場へのアクセスを可能とする能力の指導や開発の促進及び大規模な公共部門及び民間部門の組織による女性供給者からの調達の促進

女性とICT

  • 女性及び少女を対象としたICT技能及び能力の開発の推進
  • ICTにおける男女格差を最小化するため、ICTツールやサービスに対する女性や少女のアクセス向上のための立法、規則、施策及び設備の明確化及び奨励(例えば、ブロードバンド・ネットワーク計画にジェンダー戦略を盛り込むことなど)
  • 女性による時間と移動の制約の克服、女性が所有・経営する中小企業の市場、ネットワーク及び情報へのアクセスの向上、金融サービスへの女性のアクセスを強化するような、ICTを利用したイニシアティブの推進

インフラと人的資源

  • 男女双方のニーズに合致したインフラや就労環境に関する優良事例の共有及び取組による女性の経済への完全かつ平等な参画を可能にすること
  • 女性、特に若い女性が起業し、事業を拡大する能力を向上させるため、市場に着目した研修、教育、メンタリング及び市場情報へのアクセスを高める能力の構築
  • 育児休業、母性保護施策、保育を利用しやすくするため、法律、研修プログラム、就業規則、社会的インフラの点検及び充実
  • 母親が労働力に再参加することの利益を認識するよう、雇用者の思考態度の促進
  • 公的及び私的部門に対する意思決定機関及び上級管理職、指導的地位における女性の代表の増加とその結果の公表の奨励
  • 女性による不動産及び資産の所有並びに女性の契約能力に対する法律上及び規制上の障壁の明確化及び除去