「共同参画」2013年 10月号

「共同参画」2013年 10月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(6) 親同居未婚の問題
中央大学・教授 山田 昌弘

前回、「子育てしながら女性が働ける環境が整っていないこと」そして、「男性が仕事、女性が家事」という意識が根強く残っていることが、少子化の大きな要因というロジックを示しました。若い人の雇用が不安定化する中で、妻子を養って豊かな生活を送る収入を得ている未婚男性の数が激減しています。一人の男性の収入で結婚して子どもを育てて人並みの生活を送れる「可能性」が減っているのです。

では、結婚していない人はどうしているのでしょうか。独身者と聞くと一人で自立して生活している人を想像しますが、欧米とは違って、日本では一人暮らしの未婚者は少数です(註1)。20歳から34歳までの未婚者の8割近くは親と同居しています。私は、昔、パラサイト・シングルと名付けましたが、今では、収入が少ないので独立しようにもできないので、親と同居をせざるを得ない未婚者が増えています(註2)

註1:欧米(イタリアなど南欧を除く)では、成人したら男女とも親元を離れて独立することを求められる。一人で暮らすより、二人で暮らす方が経済的に効率的だから、結婚、同棲、そして、ルームシェアが増える。一緒に暮らすうちに子どもが産まれるケースも多い。一方、未婚者が親と同居する慣行が強い南欧やアジア諸国では、少子化が深刻化する。

註2:1997年、私がパラサイトシングルという言葉を作った時点までは、自立できるのに、あえて親元に住み続け、自分の収入を小遣いとして使え、リッチな生活を楽しむ独身者が多かった(拙書『パラサイトシングルの時代』1999年)。1997年までは、男女とも未婚者の大部分は、正社員(職員)であった。しかし、1998年以降、未婚者の正社員率は男女とも劇的に低下し、低収入ゆえに親と同居しないとまともな生活ができない親同居未婚者が増えたのである(拙書『パラサイト社会のゆくえ』2004年)。

私は、正規雇用でない親同居未婚者のインタビュー調査を長年続けてきました。「将来の希望は」と聞くと、ほとんどの女性は、「結婚して主婦となって子どもを育て夫が引退後は趣味で暮らしたい」と、伝統的な家族を作ることを目指しています。非正規の仕事では昇進もなく収入が低く任用継続の保証もありません。だから、親と同居しながら、せめて収入が安定した男性と出会うことを待っています。しかし、そのような男性の数には限りがありますから、親と同居したまま、年齢を重ねます。

非正規雇用の男性は結婚を諦め始めています。「どうせ、俺の収入では結婚してくれる相手はいない」という声を何度も聞きました。「結婚相手が母親のように家で働きづめで、生活も楽にならないのをみるのはかわいそうだ」と言う自営業の跡継ぎ男性もいました。男性も、女性と同じように保守的で、結婚するなら自分の収入で一家の生活を支えなくてはならない、できないから自分は結婚できないと思い込んでいるのです。

親はもっと保守的です。いくら本人同士がよくても、娘の親は正社員ではない男性との結婚をなかなか認めませんし、息子の親は、嫁は家事育児介護を全部するのが当然と考えている人がまだ多いのです。これでは、少子化は止まりません。

少子化対策のため、若年者の雇用状況を改善することは当然ですが、「男は仕事、女は家事」という固定的な意識も変えていかなければ、結婚は増えません。伝統的な性別役割分業がいけないというのではありません。しかし、望んでも無理です。若い内は「男女ともに非正規雇用」で子どもを育てても人並みの生活ができる環境を整える必要があるのです。

今、中年親同居未婚者が増え続けています。35歳から44歳までで親と同居している未婚者は、305万人います(図)。そして、失業者や非正規雇用者比率が、同世代の既婚男性や一人くらし者に比べ多いことが分かっています。今は、70歳前後の親の家に住み親の年金があるので生活できますが、数十年後、親が亡くなり住宅が老朽化したときに、どうなるのか、大きな社会問題になるでしょう。

将来起こる可能性が高いシングル化に伴う社会問題を防止するためにも、男女共同参画社会の実現が必要なのです。

図 壮年親同居未婚者の増大

やまだ・まさひろ氏
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。