「共同参画」2012年 9月号
特集1
APEC 女性と経済フォーラム
内閣府男女共同参画局総務課
女性の活躍による経済の活性化について議論するAPEC女性と経済フォーラムが、ロシア連邦サンクトペテルブルク市で開催されました。
APEC 女性と経済フォーラムについて
各エコノミー代表者
1.APECにおける女性と経済に関する取組
APEC(アジア太平洋経済協力)は、アジア太平洋地域の21の国と地域(エコノミー)が参加する経済協力の枠組みです。経済規模で世界全体のGDPの約5割、世界全体の貿易量及び世界人口の約4割を占め、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、人間の安全保障、経済・技術協力等の活動を行っています。
APECでは、1996年からAPEC 女性リーダーズネットワーク(WLN)会合が開催され、政府、学界、経済界の女性リーダーが集まり、経済における女性の役割の拡大について討議を重ねており、2010年には、東京で第15回目のWLNが開催されました。
2011年のサンフランシスコ会合からは、女性の経済的エンパワーメントを促進するため、閣僚級で構成するハイレベル政策対話を含む民間と政府が対話を行う会合として開催されています。
2.女性と経済フォーラム
2012年のAPEC 女性と経済フォーラム(WEF)は、6月28日(木)から30日(土)まで、ロシア連邦サンクトペテルブルク市で開催されました。
「女性と革新的経済成長」をテーマに、「革新的経済」「ビジネス機会」「人的資源」を議題として、APEC域内の閣僚、CEOなど約250名が会議に参加し、議論を行いました。
日本からは、中川正春内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、アキレス美知子(株)資生堂執行役員、国谷裕子NHKキャスター、佐々木かをり(株)イー・ウーマン代表取締役社長、白木夏子(株)HASUNA代表取締役、林文子横浜市長、笠章子大塚製薬(株)常務執行役員広報部長、武川恵子内閣府大臣官房審議官(男女共同参画担当)、五嶋賢二経済産業省大臣官房審議官(国際地域政策担当)(当時)、毛利忠敦外務省経済局APEC室長ほかが参加しました。
○女性と経済に関する政策パートナーシップ(6月28日(木))
各エコノミーの官民代表者が出席し、昨年のサンフランシスコ宣言を踏まえた、各エコノミーの女性の経済参加促進のための取組についての報告、議論等が行われました。
日本からは、本年3月に日本で開催した「APEC横浜フォーラム:女性とリーダーシップ」の報告を行い、女性のリーダーシップ発揮に向けた成功事例・調査研究結果の共有と、企業・組織や国境の枠を超えたネットワーキングを、APECとして取り組んでいくことを提案しました。
また、女性の活躍促進が、日本の経済社会の再生の鍵という認識のもとで、公共調達を通じた企業へのインセンティブの付与や、「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標の達成に向けた、ポジティブ・アクションの取組などについて報告しました。
○女性と経済に関する官民対話(6月29日(金))
オープニングセッションにおいて、林文子横浜市長が、横浜市における待機児童対策などの取組について演説を行いました。
引き続き、参加者は、「革新的経済における女性」「人的資源への投資」「女性と起業家精神」「ワーク・ライフ・バランス」「企業経営における女性」「女性とIT」をテーマとする6つの分科会に分かれパネルディスカッション形式で議論を行いました。
日本の民間参加者は、4つの分科会にモデレーター又はパネリストとして参加し、それぞれの経験に基づいた報告、提案等を行ったほか、会場参加者との意見交換を行いました。
○女性と経済に関するハイレベル政策対話(6月30日(土))
マトビエンコ・ロシア連邦上院議長が議長を務め、18のエコノミーから、女性と経済に関する幅広い分野の閣僚級(外務、貿易・中小企業、女性等)が参加しました。
「女性と経済に関する政策パートナーシップ(PPWE)」及び「女性と経済に関する官民対話」における議論を踏まえて、APEC域内の経済の繁栄と成長のため、各エコノミーによる女性の経済参加の促進に向けた課題等について、議論が行われました。
中川正春内閣府特命担当大臣(男女共同参画)からは、「我が国においては、多くの女性がその発想を活かし、生活者の視点に立って、付加価値の高い商品開発を行い、新たな市場の拡大につながっており、政府は女性起業家への低利融資など奨励策を行っている」「女性の潜在的な能力は、これからの企業及び日本経済の成長の原動力となりうることを、男性、経営層そして投資家が理解する必要がある。そのため、関係閣僚会議で「働く『なでしこ』大作戦」を決定した」「野田総理のリーダーシップの下、日本の経済再生の柱として取り組んでいく」といった内容の発言を行いました。
3.会合の結果
女性と経済に関するハイレベル政策対話における議論の結果は、声明として取りまとめが行われ、APEC域内の経済の繁栄と成長のため、各エコノミーが女性の経済参加の促進に向けた取組を促進することなどが盛り込まれました。
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今回の会議に併せて、中川正春内閣府特命担当大臣(男女共同参画)は、各エコノミーの閣僚級、国際機関との懇談や意見交換を行いました。
宋・中国国務院婦女児童工作委員会副主席とは、東アジアにおける男女共同参画の推進に向けた今後の連携を確認しました。また、コリンズ・オーストラリア学校教育・職場関係担当副大臣とは、両国の男女共同参画の取組について意見交換を行いました。
マトビエンコ・露連邦上院議長、クリントン・米国務長官ら各エコノミー閣僚級と挨拶
宋・中国国務院婦女児童工作委員会副主席と挨拶
注)APEC参加のエコノミー
オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、中国香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペル ー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、タイ、アメリカ、ベトナム
(中川大臣の発言を始め、今年のAPEC女性と経済フォーラムについては、http://www.gender.go.jp/international/int_apec/wef2012.html
APEC 女性と経済フォーラム 声明(概要)
(内閣府仮訳)
我々はサンフランシスコ宣言の成果に基づき、各エコノミーがイノベーションに対する女性の貢献を高め、女性のリーダーシップを拡大し、女性の能力技能を形成し、長期的な経済成長を実現すべく特に母子保健の分野で人的資本と医療制度への投資を強化することの重要性を強調できるようにするため、公共・民間部門の政策、措置及び勧告に関する徹底的な対話を行った。今日のAPEC地域では、女性の直接的な貢献なくして持続的な経済発展を達成することは不可能であり、世界経済が不安定な昨今において特に重要である。
我々はAPECエコノミーに対し、女性の役割と経済への貢献及び女性の経済参加を推進するための既存の事業と政策を評価することを奨励する。
革新的経済
ビジネスとイノベーションを生み出す女性と女児の潜在能力の活用に寄与する効果的な手段と好事例を徹底的に検討することが重要。
•大学・研究施設におけるバランスのとれた男女比率及び研究・イノベーション活動への女性の参加を促進
•若い女性起業家に職業訓練、能力形成プログラム、メンターサービスなどを提供
•災害管理のさまざまな段階への女性の起業家、エンジニア及び科学者の参加を奨励
•持続可能な経済を実現するための革新的な環境保全技術の分野への女性の参加を奨励
など。
ビジネス機会
ビジネス機会におけるジェンダー・ダイナミクスを総合的に評価・分析し、女性のリーダーシップ、雇用及び起業機会の拡大並び女性の総合的な経済参加を推進するため、開かれた議論の促進と取組を要請。
•各エコノミーにおいて個々の企業のジェンダー多様性の開示を促進
•企業及び政府への納入業者の多様性と女性を参入させる政策・実践の奨励により、女性の所有する中小・零細企業が国内及び国際市場へのアクセスに対する障壁を克服できるよう支援
•公共及び民間部門、非営利組織、個人等による多層的な国際ネットワークを構築するため、毎年会議を開催
•女性のリーダーシップが経済の繁栄と企業競争力に与える好影響を示す研究結果及びケーススタディを蓄積、成果と好事例をAPECエコノミーの間で共有
など。
人的資本
公共及び民間部門の政策は、労働市場への女性の全面的かつ積極的な参加と生産性の向上を支援。
•有給育児休暇と柔軟な労働慣行へのアクセスを含め、すべての主要部門にわたって労働力への女性の参加を拡大するために必要な職場及びコミュニティーのメカニズムの実施
•男女のより良いワーク・ライフ・バランスを実現するため、世帯責任と家族の世話を分担することの重要性
•男女双方の健全なライフスタイルと非感染性疾患の予防を促進する手段への投資の重要性について、公共及び民間部門を対象とした総合的キャンペーンに着手
•中小企業と大企業の双方における家族に優しい職場と職場のジェンダー多様性に関し、毎年の賞の創設による成功事例の特定
など。
我々は政府高官とビジネスリーダーに対し、APEC地域全体にわたって女性の経済参加を拡大し、革新的な経済発展とビジネスの拡大に女性が果たしている重要な役割を認識する政策と具体的な措置を推進するよう要請する。
日本からの民間出席者
アキレス 美知子 氏
(株)資生堂執行役員 広報、お客さま情報、環境、CSR、風土改革担当
国際会議、特に女性関連のテーマでは、日本はよく「いかに遅れているか」の例として引用されます。確かにデータだけを見ると厳しい状況ですが、実際、企業人、起業家などいろいろな女性と接していると、彼女たちのパワーと活躍にはワクワクすることも多い。そこで今回参加にあたって、自分なりの方針として「日本の良いところもしっかりアピールする」と決めていました。今回はPPWEの発言者として、そして分科会の「企業経営における女性」のパネリストとして参加しました。
日本の厳しい現状をふまえながらも、一例として資生堂の女性活躍推進の軌跡を紹介し、10年前に比べると、かなり女性リーダー比率が増え(5.3%から22.9%へ)、女性が少ない技術・科学分野においても、当社においては全研究者の約半数が女性であることなどを具体的に紹介しました。その後、各国の代表者から「大変わかりやすく良かった」との声を多くいただきました。やはりアピールすべきところはきっちり発言し、バランスのとれた日本のイメージを伝えることは重要です。一方、女性役員/役員候補の育成など、改善すべき課題はたくさんあります。一つひとつ取り組んで、成果につなげていきたいと思います。
国谷 裕子 氏
NHKクローズアップ現代キャスター
女性の管理職比率を高め、経営に影響をもたらすことでどんなメリットがあるのか、何が障害になっているのかなどについてロシア、アメリカ、ドイツ、そして日本からのパネリストと話し合う機会を今回得た。
EUの中で女性管理職比率が低いドイツの参加者が数値目標を義務化する以外、状況を変えられないと主張。アメリカからのパネリストが数値目標は女性の能力への信頼低下をもたらすと反対、議論が盛り上がった。
興味深かったのはロシアの現状。ソビエト時代から女性が働き、組織の中で上を目指すことが当たり前になっているロシアでは、女性にとって障害は少ない。しかし、企業内の障害が少なく責任ある地位で活躍する女性が多いにもかかわらず、企業の上層部にいるとか経営者であることを公表したくない女性たちが多いという。美しく女性的であることがまず大事、企業で地位が高いとパートナーが見つかりにくいと考えているのだ。女性の意識改革が何より必要というロシアの社会的、文化的背景を直接耳にすることができた。
各国の率直な声を聴きながら改めて社会的背景をしっかり踏まえ、人々の心のひだに触れる形で女性と経済について伝えていく工夫が必要であることを強く感じる会議となった。
佐々木 かをり 氏
(株)イー・ウーマン、(株)ユニカルインターナショナル代表取締役社長、国際女性ビジネス会議実行委員長
今回、白夜の美しいサンクトペテルブルクで開催されたAPECに参加し、日本のプレゼンスについては大きな成果を感じています。プレゼンスとは、事例などの発表がパワフルであることと同時に多くの人と対話し、つながるというネットワークができたことです。
中川大臣や林市長などのスピーチは政治的リーダーが積極的に女性と経済というテーマにかかわっている日本の姿を伝えることができました。休憩時間や食事の席などでの交流は日本団のメンバー1人ひとりが各エコノミーからの代表とつながり、信頼を作り上げるのに十分でした。来年開催地となるインドネシアの代表団とも親しくなり、未来のことを語り合いました。
「女性の経済参画が、経済成長をつくる」。このメッセージを私が発信し始めてからすでに20年がたちました。やっと今、その時代が来たと感じています。来年以降はさらにAPECでの学びが国内に活かされ、日本の事例が多くのエコノミーで活用していただけるように伝えていきたいと思います。最後に、このような機会をいただきました内閣府、経済産業省、外務省の皆さまに心から感謝申し上げます。
白木 夏子 氏
(株)HASUNA 代表取締役兼チーフデザイナー
この度、APEC女性と経済フォーラムにおける「Women and Entrepreneurship(女性と起業家精神)」セッションにてパネリストを務めました。株式会社HASUNAは、人・社会・自然環境に配慮した「エシカルジュエリー」を製作販売する会社で、事業を通して発展途上国の鉱山における労働環境の改善や児童労働等、ジュエリーにかかわる社会問題の解決を目指しています。HASUNAは設立4年目の新しい会社です。その経験から、今回のスピーチでは自身が会社設立時に直面した課題とその解決策を中心に話しました。APECへは初めて参加しましたが、世界各国から集まる女性リーダー達と関係を築けた貴重な機会となり、今後事業を世界にむけて展開してゆくうえでも、良い土台が築けました。
また、私のスピーチには、他の登壇者や会議参加者より深く感動したとのお声をいただき、励まされると同時にエシカルなものづくりへの感心の高さを知る貴重な機会となりました。
各国のオピニオンリーダーのみならず、日本代表団の皆様にも多くの気付きや刺激をいただき、私自身、更なる努力を決意した次第です。お声がけいただいた経済産業省、外務省、内閣府の皆様に心から御礼申し上げます。素晴らしい一日を本当にありがとうございました。
林 文子 氏
横浜市長
サンフランシスコ宣言の後、もはや理念だけではなく実践の時が来たという意識が高まり、今回のAPEC女性と経済フォーラムでも活発に具体的な議論がされたことを嬉しく思います。
開会式でロシアとアメリカの代表とともにスピーチする機会をいただきましたが、これは女性と経済に関する日本の取組への評価と期待の現われだと思います。日本では政府が女性の活躍促進に向けた行動計画「働く『なでしこ』大作戦」を策定、経済界でも経済同友会が経営者の行動宣言を発表するなど、具体的な取組が進み始めています。私が社会に出た当時は考えられなかったほどです。機は熟しました。
私は開会式のスピーチで、横浜市の保育所待機児童解消や女性起業家への支援、働く女性のネットワークづくりの取組などを紹介しつつ、女性の活躍で経済成長と豊かな市民生活を実現する都市として、横浜市が世界をリードしたいという決意を表明しました。女性がもっと能力を発揮して活躍できる社会をつくる、そのためにこれからも力を尽くしていきます。それは私が横浜市長に立候補した理由のひとつであり、四十数年間働き続けてきた私の夢なのです。
笠 章子 氏
大塚製薬(株)常務執行役員広報部長
2012年6月28日から30日まで、ロシア、サンクトペテルブルクで開催されたAPEC女性と経済フォーラムに出席させて頂きました。参加の機会を頂いた政府関係者各位に心より感謝申し上げます。APECへはダイバーシティーを推進する大塚製薬として、昨年のサンフランシスコ、今年3月の横浜開催に引き続き、3回目の参加をさせて頂きました。ダイバーシティーが叫ばれて久しい中、先進国であれ、新興国であれ、多少の差はありますが、女性の社会進出のハードルはどの国にも色濃く残っています。一方で、そのハードルにより、女性のハングリー精神が育ち、女性が事業を成功させる為の工夫、知恵が醸成されている力強さも感じました。女性の社会進出において、目線をより高く持つことは重要です。世界の女性達がそれぞれの強みを生かし、大きな成功を収めた事例を知ることは多くの女性の可能性を拡大する力となると思います。このWEFで発表された日本の事例に加え、世界の女性たちの活躍がライブリーに日本語で紹介される場(ライブ、映像など)を設け、告知頂いて、日本のダイバーシティー推進の一助となれば、大変、幸いに思います。