「共同参画」2012年 7月号

「共同参画」2012年 7月号

特集

男女共同参画の視点からの防災・復興
―平成24年版男女共同参画白書の公表―
内閣府男女共同参画局

内閣府男女共同参画局では、本年6月19日(火)に、平成24年版男女共同参画白書を公表しました。今回は、特集「男女共同参画の視点からの防災・復興」のポイントをご紹介します。

1.はじめに

本年6月19日に、平成24年版男女共同参画白書を公表しました。

男女共同参画白書は、男女共同参画社会基本法に基づいて毎年国会に提出するもので、今年で13回目になります。

平成23年3月11日の東日本大震災では、被災者の状況やその後の対応・取組において、男女共同参画の視点からも様々な課題が明らかとなりました。今年の白書では、「男女共同参画の視点からの防災・復興」を特集のテーマに取り上げ、震災時の状況及び国等の対応について、男女共同参画の視点から検証を行い、今後に向けての教訓を明らかにしました。

2.被災者の状況

【東日本大震災における死者】

被害が大きかった岩手県、宮城県及び福島県における死者は、女性8,363人、男性7,360人、性別不詳63人となっており、女性が男性より1,000人程度多くなっています。この差は、ほとんどが70歳以上の死者数の差によるもので、高齢者で男女の死者数の差が大きくなっています(第1図)。

第1図 東日本大震災の男女別・年齢階層別死者数(岩手県・宮城県・福島県)
【東日本大震災における死者】

【避難所の状況】

内閣府では、平成23年11月から24年3月にかけ、被災地及び被災地を支援した地方公共団体、民間団体等を対象に、「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」を実施しました。同調査では、避難所運営の責任者に女性が加わっていないことから、(ア)女性の要望や意見が重視されない傾向にあったこと、(イ)女性用の物資が不足していても女性が要望することを躊躇する傾向にあったことなどが報告されました。

【応急仮設住宅の状況】

仮設住宅は、砂利道や玄関・風呂の段差等があり、バリアフリー化されていないことから、高齢者、障害者等にとって生活上の困難があったほか、前出の内閣府の調査では、(ア)仮設住宅の責任者の多くが男性で、女性が主体的にコミュニティ運営に関わっている例が少ない、(イ)仮設住宅内に乳幼児や学童が安心して過ごせる場所が不足している、(ウ)集会所等での集まりに男性の参加が少なく、孤立化の懸念があることなどが報告されました。

【人口移動の状況】

平成23年における福島県の転入・転出者数(都道府県間の移動者数)は、全年齢区分で転出超過となっており、中でも0~14歳は前年に比べて大幅な増加となっています。男女別に見ると、0~14歳では男女の差がそれほど大きくないのに対し、その親世代の中心となる25~44歳の転出超過数は、女性が男性を大きく上回っています(第2図)。

第2図 福島県の転入・転出(都道府県間)の状況
第2図 福島県の転入・転出(都道府県間)の状況

【雇用の状況】

岩手県、宮城県及び福島県における有効求職者数(平成24年2月)は、前年同月と比較すると、女性は10.8%増に対し、男性は2.4%減となっています。

雇用保険受給者実人員(平成24年2月)は、女性3万4,256人、男性2万4,060人で、男性は前年同月の約1.7倍であるのに対し、女性は約2.3倍で、男性に比べて女性の増加率が高く、女性の方がより厳しい雇用状況となっています(第3表)。

第3表 岩手県・宮城県・福島県の雇用動向(男女別)
第3表 岩手県・宮城県・福島県の雇用動向(男女別)

沿岸部のハローワークでは、女性の求職者数が比較的多い食料品製造の職業では、有効求人倍率は低くなっています。一方、建設・土木の職業等では有効求人数が有効求職者数を上回っていますが、女性の求職者が極めて少ないなど、女性の被災者の希望する仕事と求人の多い仕事とにミスマッチが見られます(第4図)。

第4図 ハローワーク別の有効求人数・有効求職者数(平成24年1月)
第4図 ハローワーク別の有効求人数・有効求職者数(平成24年1月)

【心の健康の状況】

被災者の健康状態について、厚生労働省研究班が「東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査研究」として、岩手県陸前高田市及び宮城県石巻市の住民を対象に調査を行いました。

同調査について、男女別で集計したところ、震災前後の成人の飲酒量の変化は、全体として変化のない者が多くなっていますが、陸前高田市、石巻市共に、飲酒量が増加している者は、女性が3%台であるのに対し、男性では約7~12%と高くなっています(第5図)。

第5図 飲酒量が増加した人の割合(陸前高田市、石巻市)(男女別)
第5図 飲酒量が増加した人の割合(陸前高田市、石巻市)(男女別)

また、睡眠障害が強く疑われる者は、陸前高田市では、女性44.4%、男性27.7%、石巻市では、女性50.2%、男性32.4%となっています(第6図)。

第6図 睡眠に関する状態(陸前高田市、石巻市)(男女別)
第6図 睡眠に関する状態(陸前高田市、石巻市)(男女別)

さらに、こころの状態(心の元気さ)を測る指標の点数分布を見ると、個別の対応が必要とされる13点以上の重症群は、陸前高田市では、女性7.0%、男性3.3%、石巻市では、女性8.4%、男性6.0%となっています(第7図)。

第7図 こころの状態(陸前高田市、石巻市)(男女別)
第7図 こころの状態(陸前高田市、石巻市)(男女別)

震災による健康への影響は、睡眠障害、心の元気さ共に、男性よりも女性でより強い影響が見られます。

【犯罪被害・暴力被害等の状況】

岩手県、宮城県及び福島県における刑法犯の認知件数(平成23年度)は、各県共に前年度から約14~20%減少しており、全国よりも被災3県の減少率が高くなっています。性犯罪についても、強姦、強制わいせつの認知件数は、おおむね前年度に比べて減少しています。

一方で、内閣府が地方公共団体及び民間団体と協働し、全国の相談員の協力を得て、電話や面接により行っている東日本大震災による女性の様々な不安や悩み、女性に対する暴力に関する相談事業には、「配偶者のアルコール依存が進み暴力がひどくなった」、「自宅が全壊して移り住んだ環境に配偶者がなじめず、イライラして当たり散らされる」、「震災で住まいと仕事を失い、別居していた配偶者と同居したが暴力に耐えられない」、「震災後に元交際相手が支援物資を持って駆け付けてくれ、心細さからよりを戻したが、暴力がひどくなり怖い」などの相談も寄せられています。

3.復興に関する施策

【復興の基本的枠組み】

平成23年6月に成立した東日本大震災復興基本法には、基本理念として、「被災地域の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」が掲げられています。

また東日本大震災復興対策本部が同年7月に策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」には、基本的考え方として、「男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進する」ことが明記され、復興施策に男女共同参画、特に女性の視点を反映することが記載されました。

復興に係る意思決定の場での女性の参画状況を見ると、有識者から成る東日本大震災復興構想会議は15人中1人、同会議の下に置かれた東日本大震災復興構想会議検討部会は19人中2人が女性委員でしたが、平成24年2月の復興庁の発足に伴い新設された復興推進委員会では、15人中4人が女性委員となっています。

【地方公共団体における復興への取組】

被災沿岸市町村のうち、国の職員が赴き復興計画策定を技術的に支援した43市町村について調査したところ、平成24年4月現在、復興計画の策定に当たり外部有識者を含めた委員会等を設置している38市町村の委員会における女性委員は、751人中84人(11.2%)となっています。このうち9市町村では、女性委員がゼロです。

地方公共団体が策定した復興計画には、男女共同参画の視点を取り入れているものも見られます。

【被災地における女性の就業・起業等の支援】

被災した地方公共団体の多くで、震災前から、高齢化や人口減少が進んでいます。地域における暮らしの再生に当たっては、少子高齢化社会のモデルとして、新しい形の地域の支え合いとともに、女性がその能力を十分に発揮して経済社会に参画することが重要です。

被災地では、避難所の炊き出しのボランティアとしての活動がきっかけとなり、弁当製造販売事業やコミュニティ・カフェ等の新しい事業が生まれています。

各府省においても、被災地における女性の就業・起業等を支援する取組が実施されています。

4.東日本大震災の教訓を未来へ

【中央防災会議等の動き】

中央防災会議では、平成23年12月に「防災基本計画」を修正し、避難場所の運営における女性の参画を推進するとともに、女性や子育て家庭のニーズに配慮した避難場所の運営に努めること、仮設住宅の運営管理において女性の参画を推進し、女性を始めとする生活者の意見を反映できるよう配慮することなどをより具体的に盛り込みました。

災害対策基本法に基づき、地方公共団体が設置する地方防災会議における女性委員の割合は、平成24年4月現在で、都道府県では4.5%(前年3.5%)となっています。前年の状況と比べると、女性委員がゼロの都道府県は、12都府県から6都県に減少しました(第8表)。

第8表 地方防災会議の委員に占める女性の割合
第8表 地方防災会議の委員に占める女性の割合

第180回国会に提出され、平成24年6月20日に成立した「災害対策基本法の一部を改正する法律」においては、地域防災計画に多様な主体の意見を反映させる観点から、地方防災会議の委員について自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者のうちから知事等が任命できるものとされています。

【多様な主体の連携による支援】

今回の震災では、国・地方公共団体、男女共同参画センター、大学、NPO、NGO、地縁団体、企業等の多様な主体が連携した支援が顕著な特徴として挙げられます。

地域における男女共同参画推進の重要な拠点である男女共同参画センターは、日頃から情報提供、広報・啓発事業、相談事業等を通じて、地域に根ざした活動を行う様々な団体との連携体制が整っている利点をいかして、災害時においても、これらの団体が行う支援活動の中核や結節点となりました。

【男女共同参画社会の実現と防災・復興】

これまで見てきたとおり、女性は、男性に比べて、総じて災害の影響を受けやすいことが見て取れる一方、日頃から地域社会との関わりが少なくなりがちな男性には仮設住宅における孤立化が懸念されるなど、復旧・復興プロセスにおいて男女のニーズの違いに配慮が必要となっています。

他方で、救出・救助、被災者支援、復旧・復興、防災といった局面で、女性がその担い手として活躍しているにもかかわらず、国・地方公共団体いずれも防災や復興に係る政策・方針決定過程への女性の参画は、この一年でそれなりに改善の動きは見られるものの、なお今後の課題となっています。

東日本大震災の教訓からは、災害対応における男女共同参画の視点が重要であること、多様な主体による円滑な災害対応のためには、国・地方公共団体、男女共同参画センター、大学、NPO、NGO、地縁団体、企業等の日頃からの連携が重要であること、また、防災・復興における政策・方針決定過程への女性の参画が必要不可欠であることが改めて明らかとなりました。

男性に比べて災害時に負の影響を受けやすい女性は決して守られるだけの存在ではなく、平時から男性とともに災害への備えに主体的に取り組むべき存在でもあります。

声を出しにくい人々、あるいは声を出してもその声が届きにくい人々に配慮し、誰をも排除しない包摂型の社会づくりを行っていくことは、災害による影響を受けやすい脆弱な人々の社会的排除(地域社会で人間関係を保てずに孤立したり、必要なサービスを享受できなかったりする状態)のリスクを低減することにつながります。この視点は、被災地あるいは災害発生時に限られることではなく、社会全体の在り方に関わることとして日頃から必要とされるものです。男女共同参画社会の実現は、災害に強い社会づくりでもあります。

※詳しくは、内閣府ホームページをご覧ください。

http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html

コラム

福島県における女性のための電話相談

「女性のための電話相談・ふくしま」に寄せられる相談には、県外避難や家族離散による二重生活の長期化によっての不安や、家族との関係についての訴えも多くなっています。「慣れない土地で子育てを一身に背負っているが、そのつらさを単身で地元に残り仕事をしている夫に話すと、互いのストレスをぶつけあってけんかになってしまう」、「親世代と放射性物質に対する見解が異なりぶつかってしまう」などの相談が寄せられています。

県外からの相談が全体の22.5%となっており、電話相談の窓口は、「苦労が分かり合える福島の人と話したい」という県外避難者の相談の受け皿にもなっています。