「共同参画」2012年 2月号

「共同参画」2012年 2月号

連載 その4

PKOにおける文民の保護とジェンダー
内閣府国際平和協力本部事務局(PKO)

ブラヒミ報告とPKO(平和維持活動)

連載初回の11月号でも紹介しましたが、冷戦の終結は世界のパラダイムシフトを起こし、紛争の様相も国対国から主に内戦へと変化しました。それに伴ってPKOの活動も、伝統的な軍事監視等から複合的・包括的な活動へと変化しました。この背景には2000年8月に国連PKOの在り方に対して専門家が提言を行った「国連事務総長報告」の存在があり(当時の専門家パネル議長であったアルジェリアの前外相ラフダール・ブラヒミ氏の名前から、「ブラヒミ報告」と呼ばれた)2000年以降のPKO設立に大きな影響を与えました。同報告では90年代のPKO活動を振り返り、主にソマリアや旧ユーゴスラビアでの活動上の様々な困難や、またルワンダでの大量虐殺を防げなかった等の反省を踏まえ、PKOを強化するとともに、PKOを複合的・統合的な形にする必要性を提案しました。複合的PKOは、軍、警察、政治・民事部門、法の支配、人権、児童の保護、ジェンダーや広報などを統合し協働すべきであると提言しています。現在の東ティモールやハイチ等でも展開されているPKOは「統合ミッション」で、国連の他の人道組織やNGO等と連携・協働し、現場の文民(市民・非戦闘要員)の保護を含め多様なニーズに対応しているのです。

「文民の保護」とPKO

PKOの変化・発展と同時に、文民を保護するPKOへの期待感は年々高まっています。2000年の国連安保理決議1325「女性、平和、安全保障」と、2005年の決議1612「紛争と児童」と関連し、2006年の決議1674「紛争における文民の保護」が採択され、文民の保護がPKOの最重要任務の一つとして明確化されています。

「文民」とは国際人道法で、紛争下における戦闘員以外の人を指し、丸腰の文民を標的として生命を奪うことや、尊厳を踏みにじるあらゆる形の暴力の行使(誘拐、拷問や性暴力など)を禁じています。文民が紛争の直接的な暴力に加担・行使していないのであれば文民は守られるべき対象とされ、特に、紛争下において脆弱性の高い存在、例えば子どもを攻撃することは国際人道法で禁止されています。

文民の保護は原則として当該国政府の責任ですが、紛争後の当該国政府は、そこまで能力が追いついていない場合が大多数であるため、PKOを含む国連の他の機関や人道支援のNGOが協力して様々な形での保護を行います。また、PKOが文民の保護を行うのは、必ずしも武力の積極行使を意味するのではなく、全ての文民を守ることを意味しているわけでもありません。国際法の枠組みの中でPKOミッションのリーダーは専門家と連携をとりつつ、その状況、現場に合わせた指示を行うことになっています。

女性への性暴力からの保護

その中でも国連が明確な「文民の保護」を打ち出しているのは、紛争下の女性に対する性暴力からの保護です。近年の紛争は女性への性暴力(主にレイプ等)を二次的なのものではなく、最前線の紛争の主な破壊手段として行っているのが特徴です。また、紛争が終わって停戦合意があり、PKOが展開しても、女性への性暴力が止まないのが現状です。このため、安全保障理事会は、2000年の決議1325を皮切りに、紛争下における女性に対する性暴力から女性を保護し、加害者を罰するため、2010年までに4つの決議を採択し、文民の保護の中で最重要課題として認識しているのです。

(内閣府国際平和協力本部事務局 国際平和協力研究員 与那嶺 涼子)

図表1
図表1
©UN Photo/Eskinder Debebe
2000年11月13日、国連安全保障理事会において、今後のPKO活動に「ブラヒミ報告」の提言を反映させることを全会一致で採択した。

図表2
図表2
©UN Photo/Mark Garten
国連にアドバイスを行うブラヒミ氏 (2004年)

図表3
図表3
©UN Photo/Albert Gonzalez Farran
PKO要員に護衛されて薪を集めに行くスーダンの国内避難民女性たち。文民保護のための現場では、様々な対応が行われている。