「共同参画」2012年 2月号

「共同参画」2012年 2月号

特集

医療分野における女性の参画の拡大
内閣府男女共同参画局推進課

医療分野における女性医師の現状についてご紹介します。

政府は平成22年12月に「第3次男女共同参画基本計画」を策定しました。

計画では、施策の基本的方向として、医療分野における女性の参画の拡大を図るとされています。例えば、医師国家試験合格者の3割以上を女性が占めており、医師の質の向上、国民の健康の保持増進を図るためにも、女性医師が働き続け、能力を発揮しやすい条件整備が必要であり、医師、歯科医師、看護師、助産師、薬剤師、医療技術者等の仕事と生活の調和の確保、就業継続・再就業支援などを進めるとされています。

ここでは、医療分野のうち女性医師について現状をみていきます。

女性医師数とその全医師数に占める割合

女性の高学歴化に伴い、医師等の専門職に進出する女性も増加しており、医療施設等で働く女性医師の数、及び全医師数に占める女性医師の割合は増加傾向にあります。平成22年時点で女性医師は53,002人で全医師数(280,431人)の18.9%を占めます。

また、医学部入学者に占める女性の割合は30%を超えて推移しているほか、医師国家試験の女性合格者はここ数年2,500人前後で推移しており、合格者数に占める女性の割合は30%を超えている状況で、女性医師が増加していることを表しています。

しかしながら、医師を取り巻く状況は、多くの女性医師が慢性的な長時間労働、夜勤や当直等の不規則な勤務形態により育児、介護等と仕事との両立が難しく、長期休業や勤務形態等を限定的にするなどの変更を迫られます。また、育児等が一段落しても、第一線に戻って活躍するためには、その間の医療技術の進歩へのキャッチアップ等、多くの問題を乗り越える必要があります。

図表1 女性医師数とその全医師数に占める割合の推移
図表1 女性医師数とその全医師数に占める割合の推移

年齢別小児科医、産婦人科医数の男女比

医師不足が問題となっている中、医療施設に従事する産婦人科医、小児科医の、女性医師の割合が着実に増えています。新規に医師のなる者の多い20歳代で産婦人科医の67.7%、小児科医の49.6%、30歳代前半では産婦人科医62.7%、小児科医43.9%が女性医師となっています(小児科医師数に占める女性割合は33%、産婦人科医師数に占める女性割合は28%)。

しかしながら、年齢の上昇とともに女性比率は低下する傾向にあります。産婦人科医は30歳代前半の62.7%から30歳代後半に46.7%、40歳代では前半32.6%、後半22.5%と低下しています。小児科医の女性割合も30歳代前半の43.9%から30歳代後半に40.2%、40歳代では前半39.1%、後半30.2%と徐々に低下しているものの、産婦人科医の女性割合の方が大きく低下しているといえます。

日本産婦人科医会が実施した女性医師の就労環境に関するアンケート調査結果(平成23年度)によると、産婦人科勤務医師の1か月の当直回数は5.8回で、前年よりわずかながら減少しているものの、他科と比較すると産婦人科がトップになっているなど、女性医師の就労環境の改善やそれをサポートする体制の強化がますます重要になってきています。

  図表2 年齢階級別医師数の男女比(産婦人科、小児科)
図表2 年齢階級別医師数の男女比(産婦人科、小児科)

女性医師の就業率のM字カーブ

男性医師と女性医師が医師として就業している率を見ると、女性医師の場合、医学部卒業後、年が経つにつれて、減少傾向をたどり、卒業後11年(概ね36歳)で76.0%と最低になった後、再び就業率が回復していきます。

女性医師をめぐる現状は、前述のとおり、女性医師数は増加しているものの、出産・子育て等との両立環境など、女性医師の活躍できる環境整備は十分とはいえません。

特に女性医師の割合が高く、かつ、勤務環境が厳しい産科、小児科などは、放置できない状況です。

医師不足が社会問題となっている中、女性医師が働き続けられるよう、ワーク・ライフ・バランスの推進や、女性が能力を発揮しやすい環境の整備などを進めることが重要となります。

  図表3 男性医師と女性医師の就業率
図表3 男性医師と女性医師の就業率

次頁では、以上のような現状の中、女性医師等の勤務継続に対する支援についての具体例を紹介いたします。

男女共同参画拡大に必要とされる女性医師支援
東京女子医科大学 男女共同参画推進局
女性医師再教育センター長 川上 順子

はじめに

近年、医師国家試験の合格率における女子医学生の割合は、30%を越えたものの、大学医育機関における女性スタッフ(講師以上)の割合は、なかなか増加しないのが現状である。本学「女性医師・研究者支援センター」斎藤の報告では、「平成21年、私立7大学合同シンポジウムにおいて報告したデータと平成12年の日本女医会の調査では、日本の医学部医学科における女性の割合は、講師以上では5%に満たない。准教授、教授には女子は全くいない医学部医学科・医科大学が多く存在する。」となっている。男女共同参画の活動として、若手の女性医師が勤務を続けるだけでなく、医育機関においてスタッフとして活躍できるキャリアアップを支援する必要がある。

大学での支援(女性医師・研究者支援センターの役割)

女性医師は、キャリアの基盤を作る時期に出産、育児が重なる。産休、育休の制度は勿論整備されており、これらの制度を利用する事は難しくない。出産、育児の経験は、人間としての深まりを増し、医師としては良い方向へ作用すると思われる。しかし、自己のキャリアの面から見ると、その間のブランクは残念ながらプラスの方向とはならないことが多く、育休の途中から臨床へ復帰せざるを得ない現状がある。大阪府医師会の調査でも、女性医師の37.5%が育休を取れない理由として「研究・キャリア形成に支障」を挙げている(日本医師会男女共同参画委員会報告参照)。本学では、その対策として幾つかのプログラムが用意されており、最近、その制度を利用する女性医師も増えて来ている。プログラムはキャリア形成の時期により2つの制度が整備されている。

(1)女性医師研究者支援:育児中の女性医師が、勤務を継続しながらキャリア形成を行える制度として、短時間常勤勤務で研究に携わる制度。昨年は2名が利用し、1年間で研究成果を出し、学会発表と論文作成を行った。来年度は3名が申請。

(2)臨床女性医師支援:臨床医師として短時間常勤勤務を選択し、ゆとりができた時間でキャリアアップのための活動を行う。申請者は卒後10年以上か、准講師以上のスタッフ。将来的に大学に貢献する事を目的とする。従って、1年間の具体的な目標(専門医取得、学位取得、特殊な臨床技術獲得、論文の作成 等)を本人と所属医局で設定する。今年度からスタートし、現在、申請者を募集中。保育支援だけでは大学で業績を積んで、キャリアアップするのは困難である。そのためには、業績や臨床技能を高めるための支援が必要である。まだ制度が発足して間がないので成果は語れないが、昨年の申請者の活躍ぶりを見ると将来が期待できる。

セイフティーネットとしての支援(女性医師再教育センターの支援)

東京女子医科大学の卒業生は、大学の教員としてだけでなく、地域医療を支える医師としてそれぞれの地域で活動している者も多い。大学として、大学以外で勤務する女性医師への支援をどのようにする事ができるか。そのような考えの下、さまざまな理由で離職を余儀なくされた女性医師を臨床現場へ復帰させる支援を、平成18年より開始した。現在154名が申請をし、実際に69名が研修を受けた。広く、卒業生以外も受け入れており、80%が本学以外の卒業生である。それぞれの女性医師が必要とする研修を「オーダーメイド方式」で提供するのが特徴である。これらの女性医師が地域医療に貢献できるようになることが、キャリア形成支援であると考える。研修の助けとしてe-learningを提供しているが、研修を受けた女性医師同士の情報交換や指導した医師との繋がり、センターからの情報発信のために、昨年暮れからfacebookに同窓会ページを設置した。より多くの女性医師が臨床現場で活躍できるようにさまざまな支援をこれからも提供していきたいと考えている。

参考資料

(1)男女共同参画局の組織図

(2)再教育センターの申請状況

(3)e-learningの紹介

東京女子医科大学 男女共同参画推進局組織図
(1)男女共同参画局の組織図

女性医師再教育センター 申請者状況(2011年12月末現在)
(2)再教育センターの申請状況

(3)e-learningの紹介