「共同参画」2011年 12月号

「共同参画」2011年 12月号

寄稿

女性化学賞に寄せて
神戸大学特別顧問 相馬 芳枝

今年はキュリー夫人がノーベル化学賞を受賞してから100年目であり、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が発足してから100年目になります。そこで国連は、2011年を世界化学年と定めました。世界化学年の統一テーマ”Chemistry - our life, our future”のもとに、記念シンポジウムがいくつも実施されておりますが、特筆に値するのは、2011世界化学年プロジェクトとして、優れた女性化学者を顕彰する女性化学賞が設けられたことです。国によって状況は違うものの、主要国の女性比率は13~30%と少ないところが多く、女性化学賞の設定は、女性研究者の活躍が世界的に期待されていることを示しております。16か国から23人の受賞者が選ばれましたが、主な人をあげますと、2009年にノーベル化学賞を受賞したアダ・ヨナット教授(イスラエル)、IUPAC会長のニコール・モロー教授(フランス)、アメリカ化学会会長のナンシー・ジャクソン教授、タイのチュラボーン・マヒドール王女等です。私も日本化学会のご推薦をいただき、図らずも受賞の栄誉に浴し、8月2日にプエルトリコでの授賞式に臨みました。

授賞式
授賞式

授賞式会場ロビーの受賞者ポスターの前で
授賞式会場ロビーの受賞者ポスターの前で

8月2日は、朝一番にアダ・ヨナット教授の講演がありました。動画を交えた、素人にもわかりやすくユーモアのある講演に感動しました。10時から6時まで、「科学の世界に男女差別はあるか?」という講演がありました。国により多少の違いはあるものの、共通していたのは、女性研究者の登用はまだ十分に進んでいないということでした。6時からキュリー夫人の生涯に関する一人芝居があり、7時から授賞式が行われました。舞台には受賞者の顔が大きく映し出され、受賞理由が会場にアナウンスされました。舞台に上がると花束が渡され、中央に進んで受賞楯をいただき祝福を受けて記念撮影です。1人に約5分かかりますので、全員の受賞には約2時間かかりました。9時頃からレセプションです。私もロングドレスを着て授賞式に臨み、シンデレラになったような1日でした。

欧米諸国に比べて、日本では女性研究者の歴史が浅いため、女性比率が低いだけでなく、リーダーとなる女性学長、女性学会長の数も少ないのは残念なことです。

日本では、第3期科学技術基本計画(H.18.3)で女性研究者を25%採用しようという目標が示され、文科省では女性研究者の活躍促進に大型予算を付けるようになりました。女性研究者支援モデル育成事業では、今までに65機関が採択され、保育所の設置、病児保育の開始、育児中の研究者に対する研究支援員の配置等の両立支援が進んでおります。また、平成21年からは女性研究者の採用を目的とする女性研究者養成システム改革加速事業が開始され、12大学で女性教員の採用、養成が着実に進んでおります。

これらの支援を受けて、子育て中でも女性研究者は能率を落とすことなく、学会の奨励賞受賞、外部資金の獲得、第2子・第3子出産等の明るい事例が各地で報告されております。また、大学の女性理事、女性副学長が各地で誕生しており、更なる躍進が期待されます。女性研究者の活躍が多様性をもたらし、科学技術の発展に資することを願って止みません。

女性研究者は、遠慮することなく最大限に力を発揮して、たった一度の人生に大きな花を咲かせていただきたいと思います。

男女共同参画局表敬
男女共同参画局表敬

そうま・よしえ/1965年神戸大学卒業。同年、大阪工業技術試験所(現産業技術総合研究所)入所。1977年工学博士。1978年、カリフォルニア大学アーバンにて博士研究員。1986年に猿橋賞受賞。1993年、フランスCNRS客員教授。1997年、神戸大学教授併任。2007年、神戸大学特別顧問に就任、現在に至る。