「共同参画」2011年 11月号

「共同参画」2011年 11月号

連載 その1

ダイバーシティ経営の理念と実際(7) 女性社員の多様性Part5
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜

役員クォータは女性優遇か?

先日、筆者は大学時代の同窓会で男友達に囲まれて、責められた。「君は女性役員クォータを導入すべきと主張しているようだが、俺たちがこれから座ろうと目指している椅子をみすみす女性に引き渡せとはけしからん。そもそもクォータは企業の裁量を奪うことになるし、女性優遇はおかしい」という内容だった。

そこで筆者は、いくつかのデータを提示した(図表1)。入社の段階で、平均的にみて男性よりも女性が成績優秀なのは明らか。にもかかわらず、大半の企業で新卒社員に占める女性比率が5割未満なのは、男性枠があるためと推測される。つまり、入社時(入口付近)では、実質的に性別クォータが存在しているのではないか。

図表1 役員クォータ制批判への反論に使用したデータ
図表1 役員クォータ制批判への反論に使用したデータ

現在、日本の女性役員割合は1%程度に過ぎず、時系列でみてさほど改善する傾向は見られない。このままでは、入口付近で優秀だった女性たちは、役員まで到達するキャリアパスを見い出せずに、モチベーションが大きく下がってしまうことが懸念される。そこで、出口付近にもクォータを導入して、女性たちにもキャリアパスを明確にすべきと考える。

なお、筆者は役員クォータは女性優遇ではなく、むしろ将来的には男性優遇として機能するのではないかと考えている。なぜなら、仮に『大学生における総代輩出率』を『管理職における役員輩出率」に置き換えて考えると、女性役員割合は20年後に40%、40年後には95%になるだろう(図表2)。この場合、役員クォータは男性枠として一定割合を割り当てるという点で、男性優遇になるからだ。

図表2 総代輩出率と役員輩出率
図表2 総代輩出率と役員輩出率

男性活躍推進室がある企業

数年前に、筆者がヒアリングをしたスウェーデン企業で聞いた言葉を思い出す。その会社は、40年前に女性活躍推進室を作り、女性管理職割合が3割を超えた段階で、いったん室を閉じた。その後、同割合が5割を超えるに至り、男性社員の沈滞ムードが目立ってきたので、今度は男性活躍推進室を作ったのだという。

担当者曰く、「かつての女性たちは自己評価が低かったので、ネットワークを図ったら、自分たちで情報交換したり、助言し合うようになって成功した。さて、次に男性たちの番だが、プライドばかり高くて、すぐ拗ねる。個別に褒めて育てないとなかなか動こうとしないので、女性よりも男性はよほど手がかかる。」

以前、筆者は企業内の女性管理職およびその候補たちのネットワークであるNPO法人 J-Winの懇親会に出席した。数百人の女性たちの熱気が充満した会場で、どこかの会社のお偉いさん然とした年輩の男性たちがぽつぽつと数人「壁の花」となっており、心細そうに見えた。

現在、日本は片働き主流から、共働き主流へと大きな転換を図っている。今後、壁の花になって憮然としている男性たち一人ひとりに声を掛けて、ほめたり、おだてたりして、巻き込まなければならないのは、たしかに手がかかりそうだ。

役員クォータの導入により、優秀な女性たちの就労インセンティブを引き出しつつ、いずれ男女にかかわらずワークにもライフにも真摯に向き合い、互いの特性を活かし合う風土が醸成された暁には、クォータを撤廃すればいいと思う。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』選挙委員会委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。