「共同参画」2011年 11月号

「共同参画」2011年 11月号

スペシャル・インタビュー

加害者更生と予防教育について
佐賀県DV総合対策センター所長 原 健一

今回は、佐賀県において女性に対する暴力の根絶を目指し、配偶者暴力被害者支援に関する取組を行っている、佐賀県DV総合対策センター所長の原健一さんにお話を伺いました。

配偶者暴力をなくすために

―『佐賀県DV総合対策センター』についてお聞かせください。

 佐賀県では、女性に対する暴力の根絶を目指し、DV被害者支援に関する機関や民間団体、弁護士会、医師会などとの連携を強化し、被害者支援を円滑に行うことを目的に、平成16年4月に佐賀県DV総合対策センターを設置しました。

私は、平成19年4月から2代目の所長として勤務しております。

民間支援団体を始めDV被害者支援関係機関、団体が連携して取り組むDV被害者支援施策の総合調整、決定を行うということで、このDV総合対策センターは、(1)関係機関との連携情報の収集・提供、(2)啓発・広報、(3)研修・講演、(4)調査研究、(5)民間グループの育成・支援、(6)相談事業の6つの柱で仕事をしています。

―配偶者暴力対策に関わることになったきっかけについてお聞かせください。

 加害者の更生に取り組み始めたということが、私がDVの世界で仕事をするきっかけとなりました。

加害者更生という言い方と、非暴力プログラムという言い方がありますが、加害者更生については法律などの義務付けがあって、アプローチがしっかりしているものを加害者更生という言い方をしていて、任意参加できるものを非暴力プログラムという言い方にしています。

私は、2001年から、男性のための非暴力ワークということで、暴力を振るった男性希望者を集めて、プログラムをこれまで実施してきました。

プログラム期間は全体で1年ですが、実際にこのプログラムを実施するのは3か月間で、残りの9か月間は、2週間に1度の自助グループのような形でフォローアップをしています。

―所長の考える配偶者暴力の加害者対策についてお聞かせください。

 私が考える「DV加害者対策」とは、まずひとえに再発・再犯をさせないということが重要です。それから、2番目として、探索目的の加害者、例えば市町村の窓口で、加害者が来たときにそれにいかに対応するかということも考えないといけないと思います。3番目に、加害者の心理や行動を研究して、特に被害者の安全につなげるということが考えられます。4番目に「加害者アプローチプログラム」というものを考えており、これには更生プログラムと非暴力プログラムが含まれます。5番目に、暴力予防教育です。将来の加害者をつくらないということが重要です。また6番目として、加害者家族の対応や支援も大切と考えています。このような6つの項目で構成されたDV加害者対策というものを考えています。

―原所長が実践している配偶者暴力の加害者へのアプローチ法がありましたら、教えてください。

 そもそも「DV加害者へのアプローチ」とは、加害者一人ひとりに注目して、例えば生い立ちを見たり、文化的な背景、彼らが暴力・虐待の自己責任を取ることを妨げているものは一体何であるかを考え、それらを外在化していくことによって、変化を促していくものです。

私が考えている「DV加害者へのアプローチ」は、最初に加害者と言われる人たちが相談に来ることから始まります。ここでは、暴力の程度にかかわらず、受容的・共感的態度で臨んでいます。ただし、その共感が強すぎると問題です。あなたはOKだというようなメッセージを伝えると、例えば自分がやった暴力行為そのものを正当化するのを手助けしてしまうという危険性があることに注意が必要だと思います。

加害者ではあるのですが、同時に傷ついているという意識を持っています。妻から見捨てられたなどの被害者意識です。そういうことも含め、しっかりと話を聞くことから始めています。

DV特有の、暴力の否認や正当化、また反対に、相談に来る人は自分がどうしようもなくだめな人間だというような表現をする人もいます。急性期の反応なのかもしれないのですが、とにかく受容します。それで、考えや態度の変容へ導くのは次のステップだと考えているのです。

それで、グループワークを通して信頼関係をつくり、特に、妻がいない日常生活は、非常にストレスが強いわけなのですけれども、それを繰り返し言葉として吐き出してもらうのです。

それと、他者の加害経験も聞きながら、真の加害者になることを支援します。この真の加害者というのは、彼らは被害者だと思っていますので、自分が本当の加害者だと思ってもらわないと、次の更生に向けた取組というのは難しいのです。

時間が経ってくると、探索目的や妻を取り戻すためだけに参加しているという人たちが見えてきますので、そういう人を分けないといけないと思っています

―原所長は予防教育についても詳しいとお聞ききましたが。

 実は、加害者更生プログラムを実践している経験を買われて、予防教育、つまりDV未然防止教育に関わるきっかけがありました。2003年に熊本県でDV加害者研究チームというものが立ち上がりました。その中で出てきた3つの視点として、「DV加害者の個別カウンセリングの手法」、「DV加害者の集団教育」、「非暴力ワークの手法」についてということで、具体的なプログラムまでつくりました。また、加害者を生まないための「非暴力心理教育」、今では「未然防止教育」という名称になりましたが、これが3つめの視点です。

特に今後、学校現場でこの予防教育に取り組んでほしいと考えていることを3点挙げます。まず、「情報提供の効果」です。当たり前の話ですが、DVは犯罪であり誰にでも起き得るようなことであること。多くの生徒が同時にDVの知識と視点を持つことで、予防・発見につながること。次に、「対等な関係を学ぶ場」であること。これは学校教育の部分でも必要な視点だと思います。3番目に、「被害の早期発見と支援」です。交際相手からの暴力の知識と対応について、職員間で共通理解を持ってもらう。DV家庭やリスクの高い家庭の把握とか、DV家庭の子供のつらさを理解し、問題行動の指導だけではなく、困難な環境にいる生徒として支援するという3点です。

―今後の課題について教えてください。

 今後の課題は、校内で予防教育ができる教員の養成や被害者・加害者に対しての個別対応など相談技術を先生方に身につけてほしいことと、予防教育の実施について学校間の温度差の解消であると思います。

―お忙しい中、ありがとうございました。

原 健一 佐賀県DV総合対策センター所長
原 健一 佐賀県DV総合対策センター所長

はら・けんいち/
・2001年、「メンズサポートふくおか」設立。DV加害者男性に対し非暴力ワークプログラムを実施
・福岡県内精神科病院内に「DV外来」を設置。自らも心理士としてカウンセリングに当たる
・2003年 「熊本県DV加害者研究チーム」研究員
・2005年 高校生向け「DV未然防止教育」を担当
・2008年 内閣府「女性に対する暴力予防啓発教材検討会」委員
・2009年 内閣府「女性に対する暴力に関する専門調査会」委員