「共同参画」2011年 10月号

「共同参画」2011年 10月号

連載 その1

ダイバーシティ経営の理念と実際(6) リスクに敏感な女性社員
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜

リスク管理力の向上

前回、女性は男性よりもライフ体験を持つ人が多く、多面性を持ち併せているので、リスク対応に優れていると述べたところ、批判の声をいくつかを頂戴した。

第一の批判は、果たして本当にワークのリスクよりもライフのリスクの方が大きいと言えるのかというものだ。筆者は、同期100人のうちただ一人昇進できなかった経験が2回あり、転職をした2回のうち、1回は失業も経験した。ダメ社員というレッテルを貼られることや失業リスクのダメージが小さいとは思わない。

しかし、3年前に実父を介護する生活が始まり、先日、1歳の次男の脳に腫瘍が見つかった。実感として、ライフのリスクの方がダメージは大きいと思う。

第二の批判は、ライフのリスクは性別に関わらず発生するので、女性の方がリスク体験が豊富とは限らないという意見だ。たしかに性別に関係なくリスクは発生するだろう。しかし、仕事中心の男性の多くは見過ごしやすいのではないか。

また、自分自身のリスク体験は男女で差がなかったとしても、女性は口コミよる情報伝播力が強く、疑似体験が豊富だ。

以上より、総じて男性よりも女性は、リスクに敏感で対応力も高いと考える。

実際に、英国リーズ大学のウィルソン教授が1万7000社を分析した結果、少なくとも女性役員が1人以上いる企業は破綻リスクを20%減らせることができた。女性役員数が2・3人に増えると、さらに破綻リスクは減少し、男女で同等に達すると、破綻リスクは変わらなくなる(The SundayTimes March 19, 2009)。

ネガティブ思考の効用

しばしば女性の管理職割合が低い理由は、女性自身の管理職になりたがらない意識も問題ではないかという声がある。

しかし、これは間違った認識だ。まず、長時間労働が恒常化している職場で働き、仮に自分が管理職に就いたら、子育てとの両立は到底、期待できないと考える女性たちが少なからずいる。これは、そもそも職場環境に問題があるのであって、彼女たちの問題ではない。

次に、筆者が以前お手伝いをしたA社では、若年世代ほど管理職になりたいという意識は低下していた。しかも、管理職候補の女性社員は同じ立場の男性社員と比べて能力的には優れているにもかかわらず、昇進昇格に関する自己肯定意識が低かった(図表)。

図表 A社における管理職候補データ
図表 A社における管理職候補データ
(注)1.ポイントは当人の上司たちが客観的に評価する要素と当人たちのペーパーテストの点数という2つの要素がある。
A社では8ポイントを超えるのが、基本的な昇進昇格ラインとなっている。
2.男性候補たちにヒアリングすると、「自分には○○という長所があるので、管理職として貢献できると思う」というポジティブ思考の発言が多かった。
逆に、女性候補たちにヒアリングすると、「自分には△△という短所があるので、管理職として貢献する自信がない」というネガティブ思考の発言が多かった。
(資料)A社資料に基づき、筆者が作成。

筆者はA社で、女性社員の自己肯定意識が高まるような研修を提案するとともに、失敗要因を事前に慎重に検討する慎重さは、リスク管理上はむしろ管理職としての武器になると述べた。女性が活躍していない企業では、リスク管理というと「リスクをとらない」、あるいは「事前に失敗要因を慎重に検討しない」という誤った対応になりやすいのではないか。

個人差は大きいものの、総じて男性は果敢にリスクにチャレンジするタイプが多く、女性は事前に失敗する可能性を慎重に検討するタイプが多い。健全な企業経営には両方のタイプが不可欠だ。

特に、東日本大震災後、リスク管理が重要であるという認識が広まっている今こそ、積極的な女性管理職登用、女性役員登用が重要になっているように思う。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』選挙委員会委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。