「共同参画」2011年 9月号

「共同参画」2011年 9月号

特集

男女共同参画の視点からの防災・復興の対応について
~東日本大震災への男女共同参画の視点を踏まえた被災者支援~
内閣府男女共同参画局総務課

東日本大震災の発災後、内閣府男女共同参画局では、女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応を進めています。その取組の背景や具体的内容、また、男女共同参画の視点からの復興への取組についてご紹介します。

1.これまでの経緯

男女共同参画と防災の関係を考えるに当たり、過去の震災以降の経緯を振り返る必要があります。

平成7年の阪神・淡路大震災では、女性の死者数が男性より約1,000人多くなるなど、特に高齢女性の災害に対する脆弱性について課題が指摘されました。

平成16年の中越地震では、災害対応に当たり女性の視点が必要ということで、発災直後に、男女共同参画局の女性職員を「女性の視点担当」として現地に派遣しました。現地で避難所訪問や意見交換を精力的に行い、その結果を踏まえ、女性の悩みを聞くとともに女性のニーズを把握し、問題を解決していくため、新潟県等に女性の相談窓口を設置していただきました。

また、現地での活動と浮き彫りになった課題に基づき、男女共同参画局として提言をまとめ、内閣府の防災担当部局に提出するなどの働きかけを行った結果、国全体の防災のマスタープランである「防災基本計画」に、『男女双方の視点等の配慮』や、『男女共同参画の視点を取り入れた防災体制の確立』が盛り込まれました。

さらに、平成17年12月に閣議決定された「男女共同参画基本計画(第2次)」においても、防災分野を新たに取り組むべき課題の1つとして盛り込み、さらに、平成22年12月に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」においては、新たに『地域、防災・環境、その他の分野における男女共同参画の推進』として、重点分野の1つに位置づけました。

2.東日本大震災での問題

本年3月11日の発災後、男女共同参画の視点からの様々な問題が浮かび上がってきました。

まずは、発災後の避難所での物資の備蓄や提供の問題です。

避難所に避難してみると、生理用品やおむつ、粉ミルクがないという問題が出てきました。また、生理用品や女性用の下着が届いても、男性が配布しているため、女性がもらいに行きづらい、女性用の物干し場がないので下着が干せないといった問題もありました。

次に、プライバシーなどに配慮した避難所運営が十分になされていないという問題がありました。

例えば、授乳や着替えをするための場所がなく、女性が布団の中で周りの目を気にしながら着替えるという事例も報告されています。

さらに、避難所では、女性だからということで、当然のように避難所の炊き出しの仕事を割り振られ、朝早くから夜遅くまで食事の用意や片づけなどに追われ、その合間に、子どもの面倒や両親の介護などをしています。

震災が起きると、こういった固定的性別役割分担が、更に強化されてしまうという問題が生じます。

これらの問題の背景にあるのは、防災、震災対応に女性の視点が入っていないこと、子育てや女性への配慮が足りないということ、さらには、平時における防災の検討や避難所運営など災害の現場での意思決定に女性が参画していないことがあります。

例えば、都道府県防災会議に女性の占める割合は、わずかに4.1%であり、10の都県では女性委員がゼロです(平成22年内閣府調べ)。また、災害時の避難所運営は、自治会が中心を担う場合が多いのですが、自治会長の96%近くを男性が占めています。

こうしたことが、災害対応において女性や生活者の視点が十分に反映されないこと、女性や子育てのニーズを把握し対応できる避難所運営が十分にできないことなどにつながっています。

3.内閣府男女共同参画局での対応

こうした問題に対し、内閣府男女共同参画局ではこれまでに蓄積されてきた成果も踏まえ、被災者支援等の様々な対応を行ってきました。

まず、被災地への支援物資について、女性や子育てに必要なものをリストに含めるよう関係機関に働きかけを行いました。3月16日には、女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応を文書にまとめて、国の緊急災害対策本部や地方自治体の災害対策本部、男女共同参画の関係部署に送付し、取組をお願いしました。

この文書では、

(1)生理用品、おむつ、粉ミルク、哺乳ビン、離乳食などを避難所で提供する物資に含めること、(2)プライバシーを確保できる仕切り、更衣室、男女別トイレ、乳幼児のいる家庭用エリアの設定など女性や子育てに配慮した避難所を設計すること、(3)女性のニーズ等を反映した避難所の運営体制を整備すること、(4)女性に対する暴力を防止するための警備強化や相談サービスの提供、安全な環境整備、注意喚起を行うこと、などを盛り込んでいます。

また、内閣府男女共同参画局の職員を3月17日以降、政府の現地緊急災害対策本部(宮城県)に、ほぼ継続的に派遣しました(当初は女性職員。延べ女性9名、男性7名)。職員は、本部の業務を行いながら避難所への訪問や、ボランティアやNPO、男女共同参画センターや女性団体の方々との情報交換・連携を行い、女性のニーズや対応状況等の把握や、女性や子育てに配慮した対応への働きかけを行ってきました。

4.女性の悩み相談の取組

また、長引く避難生活や生活不安などの影響によるストレスの高まりなどから、女性が様々な不安・悩み・ストレスを抱えることや、女性に対する暴力が生じることが懸念されました。

そのため、地方公共団体にある女性の悩み相談の窓口や、配偶者暴力や性犯罪に関する相談の窓口等を、地方紙やラジオ、避難所で貼り出す壁新聞等の様々な広報ツールを使い、周知しました。

<壁新聞による周知>
<壁新聞による周知>

さらに、内閣府においても、地方公共団体と共同で女性の悩み・暴力相談窓口を開設し、電話により相談を受け付けるとともに、相談員が避難所や仮設住宅を訪問し、被災女性から直接相談を受け付けることにより、被災地において女性が安心して相談できる相談サービスを提供することとしました。5月から、まずは岩手県において取組を開始しており、今後宮城県や福島県にも広げていきたいと考えています。

5.避難所での好事例の発信

発災後、少しずつ、避難所での女性や子育ての視点を反映した取組が進められてきましたが、避難所によっては取組の差が大きく、全く対応ができていないところもありました。

そこで、避難所の運営に当たっている方などに、取組の必要性について気付き、取組の参考として可能なことから対応いただけるよう、避難所での好事例を集めて、壁新聞などを通じて周知しています。

以下の好事例については、男女共同参画局の職員が現地での避難所訪問や聞き取り等を行ったものです。

(1)女性専用スペースの設置

女性専用スペースを設置し、湯沸かし、着替え、授乳、お化粧、ドライヤーの使用など、様々な目的で人々が集まって情報の提供・交換の場となっており、また、心境や不安を語り、肩肘張らずに相談等ができる場となっています。

この運営は、県の男女共同参画センターの職員がコーディネーターとなって、地元の女性団体のグループがボランティアで行っています。

(2)被災者支援のための雇用創出

被災者の雇用を新たに創出するため、避難所での炊き出し、遺品や写真の洗浄をする人を役場で募集し、雇用しています。

(3)女性のニーズ等を反映した避難所の運営体制等

避難所で女性リーダー会議を毎日開催して女性から上がってくる声を集約し、生活のルールを作っています。女性たちで改善できないといった要望は運営責任者で行う全体会議(男性のみ)に報告し、改善するという体制を作っています。改善されたものとしては、洗濯機の増設、鍵や鏡付きの更衣室の設置、女性の必需品の用意などがあります。

(4)その他

・乳幼児のいる家庭だけの部屋、女性専用の物干し場、更衣室の設置。

・生理用品や下着の配布は必ず女性が担当する。

・女性や子どもは一人でトイレに行かないように注意喚起する。

6.女性の視点からの他の取組

内閣府男女共同参画局以外にも、警察庁が被災地に女性警察官を派遣して避難所等の巡回を行ったり、女性自衛官が女性のニーズの聞き取りや対応等を行ったほか、厚生労働省が妊産婦、乳幼児の支援を行うなど、各省庁で女性被災者への支援を行っています。その取組の内容については、男女共同参画局において、取りまとめを行うとともに、平成23年版男女共同参画白書においても紹介しています。

7.仮設住宅等での生活への対応

生活の場が避難所から仮設住宅や仮設として利用している民間賃貸住宅へ移りましたが、新たな生活の場でも、男女共同参画の視点に立った支援が必要です。仮設住宅等での生活を安全・安心なものとし、生活再建を進めていただくに当たり、現地の生活者のニーズを把握しながら、性別や世代別に対応したきめ細かな支援が必要なことから、6月23日に以下の内容について関係機関へ送付し、配慮をお願いしました。

(1)安心・安全の確保への配慮

仮設住宅に死角や暗い場所があると、女性や子どもに不安感を与えたり、犯罪の発生が懸念されるため、防犯ブザーやホイッスルの携帯を呼びかけたり、街灯や夜間照明等の仮設住宅の周辺環境の整備、夜間の見回り等の被災者への防犯意識の啓発等が必要です。

<仮設住宅の電灯(囲み内)>
<仮設住宅の電灯(囲み内)>

(2)ストレス軽減、心のケア等のための対応

仮設住宅では、「孤立化」、「引きこもり」、「過度の飲酒」等の問題の発生が懸念されます。阪神・淡路大震災では、男性に多くその傾向が見られました。さらに、ストレス等が引き起こす配偶者からの暴力や子どもへの虐待も懸念されます。これらの問題の防止等のため、交流の場づくり、生きがいづくり(コミュニティの中での役割を作る)、悩みを聞く電話相談や巡回相談の実施等の対応が必要です。

(3)仮設住宅の利用、コミュニティ運営体制等への対応

仮設住宅敷地内のコミュニティスペースの設置や、そのコミュニティの運営体制を整えることが重要です。このため、集会所、集会スペース等の設置、移動市場、仮設スーパー等による生活支援体制づくりが必要であるとともに、行政情報、民間支援情報等をわかりやすくまとめて被災者に届けたり、相談窓口を一元化するなどの対応も必要です。

(4)女性の参画の推進と生活者の意見反映

仮設住宅や地域コミュニティの運営において、女性の参画を推進するとともに、女性を始めとする生活者の意見を集約・反映できるようにすることが必要です。

8.復興に向けて

6月24日に「東日本大震災復興基本法」が公布・施行されました。その中で、『被災地域の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと』として、女性の意見の反映が、復興の基本理念の一つとして盛り込まれています。

さらに、6月25日には、東日本大震災復興構想会議が「復興への提言~悲惨のなかの希望~」と題した提言をまとめました。『これまで地域に居場所を見出せなかった若者や、孤立しがちな高齢者・障害者、声を上げにくかった女性などが、震災を契機に地域づくりに主体的に参加することが重要である。とりわけ、男女共同参画の視点は忘れられてはならない。』と、男女共同参画の視点が盛り込まれています。

これらを受けて、7月29日に、東日本大震災復興対策本部が「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定しました。

その「基本的考え方」の部分には、『男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進する』とあり、個別の施策でも女性への言及が多くあります。

地域活動の多くを担っている女性や生活者の視点を取り入れた復興の取組は、住みやすいまちづくりや地域の活性化につながります。

国として、この基本方針に基づき、復興、まちづくりなどのあらゆる場面での女性の参画を進め、コミュニティビジネスなど幅広い分野での女性の活躍を応援するとともに、女性や生活者の意見を反映できる仕組みづくりなどの取組を進めていきます。

また、男女共同参画局としても、復興における女性の活躍を応援するため、6月28日、8月24日に、仙台市でシンポジウムを行うなどの取組を行っています。今後も、女性の活躍のために必要な情報提供や気運の醸成、アドバイザーの派遣などを通じて、女性の活躍を応援し、東北の元気につなげていきたいと思います。

今回の大震災では、防災分野での男女共同参画の取組や地域における男女共同参画の取組が十分に進んでいないことが、現場での様々な問題として顕在化したという面があります。そのため、男女共同参画局では、男女共同参画の視点からの取組や課題を抽出し、今後の防災分野での男女共同参画の取組にいかしていきたいと思います。