「共同参画」2011年 8月号

「共同参画」2011年 8月号

連載 その1

ダイバーシティ経営の理念と実際(4) 女性社員の多様性Part2
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜

ノルウェーは女性取締役40%

昨夏、筆者はノルウェーで1週間、女性取締役の40%割当制が産業界および企業に与えた影響をヒアリングしてきた。

2003年にノルウェーは世界で初めて大手民間企業に対して、取締役会に女性が40%以上を占めることを法律で義務付け、2008年から施行した。

仮に40%に満たなければ上場廃止となるため、日本の経団連にあたるノルウェー経営者連盟(NHO)の加盟企業はすべて40%以上となった(図表1)。

図表1 ノルウェー企業における女性登用
図表1 ノルウェー企業における女性登用
資料:ノルウェー経営者連盟(NHO) Statistics Norway, Figures on PLCs are from the Bronnoysund Register Centre 2008, CEO and Management statistics from NHO’s salary statisticsに基づき、筆者が作成。

現在、同国の女性取締役割合は世界トップの水準だ。一方で、日本は調査国42ケ国中38位であり、すべての欧米、東アジア諸国を下回り、日本より低いのは湾岸諸国のみという有様だ(図表2)。

図表2 女性取締役割合の国際比較
図表2 女性取締役割合の国際比較
資料:米国の国際非営利団体「国際女性経営幹部協会」(CWDI)『CWDI/IFC 2010 Report:Accelerating Board Diversity』2010年に基づき、筆者が作成。

反撥した産業界も、今では歓迎

ノルウェーでも法律が検討されていた当時、NHOは「数値目標の強制は企業の裁量を奪い、国際競争力を損なう」と反発した。しかし、導入後3年を経て、NHOをはじめ筆者がヒアリングした企業の経営陣は、おおむね企業業績には好影響を与えたと回答している。

例えば、女性取締役が増えたことで、リスク管理力が高まった(金融業)、人事労務管理がきめ細やかになり、人材育成の面で成果があった(メーカー)という。

一方で、成功の背景には、女性社員のネットワーク化と教育訓練プログラムの果たした役割も見逃せない。例えば、NHOは女性取締役予備軍のネットワーク(female future program)を構築し、教育訓練プログラムを提供した。現在は、業界版のネットワークを構築している。

取締役割当制は欧州に波及

ノルウェーに端を発した女性取締役割当制は、他のヨーロッパ諸国やアジアにも波及している。例えば、EUでは欧州委員会で導入を検討、マレーシアでは5年で取締役会の3割を女性が占めるよう求める閣議決定をした。

一方、日本における議論は政治分野等にとどまっており、企業を含む民間分野を視野に入れた議論にはなっていない。これには、いくつか理由がある。

まず、産業界からの強い反発がある。

次に、女性社員自身が必ずしも賛成していない。前回述べたとおり、女性社員にはさまざまなタイプがおり、ポジティブアクション(女性の積極登用、PA)への反応はそれぞれ異なる。

過労バリバリは、「自分は実力があるから昇格できるので、不要。誤解されるので迷惑」と考える。ヌクヌク・ダラダラは、「もともと昇進昇格には関心がないので、不要」と考える。イキイキは、「必要性は感じているが、四面楚歌の周囲の厳しい視線に遠慮して消極的」だ。

今後、わが国でも女性取締役40%割当制あるいは企業に女性活躍推進の行動計画を義務付ける法律を検討すべきだ。

女性活躍の発展3段階では、(1)数が増える際に、きめこまやかな配慮をする「ケア」、(2)役職が上がる際に、公正に処遇する「フェア」が重要だ(図表3)。

図表3 女性活躍の第一段階・第二段階 ~『フェア』と『ケア』~
図表3 女性活躍の第一段階・第二段階 ~『フェア』と『ケア』~

PAは第2段階から第3段階への移行を促す施策として有効だ。過労バリバリのみならず、女性社員の多様性を引き出し、活かすことにつながるほか、イクメン・介護する男性など男性社員の活躍も促すと筆者は考えている。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』選挙委員会委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。