「共同参画」2011年 7月号

「共同参画」2011年 7月号

特集

ポジティブ・アクションの推進
─「2020年30%」に向けて─
─平成23年版男女共同参画白書の公表─
内閣府男女共同参画局推進課

内閣府男女共同参画局では、本年6月21日(火)に、平成23年版男女共同参画白書を公表しました。今回は、特集編『ポジティブ・アクションの推進─「2020年30%」に向けて─』のポイントをご紹介します。

1.はじめに

本年6月21日(火)に、平成23年版男女共同参画白書を公表しました。

男女共同参画白書は、男女共同参画社会基本法に基づいて毎年国会に提出するもので、今年で12回目になります。

政策・方針決定過程への女性の参画の拡大は我が国の社会にとって喫緊の課題であり、平成22年12月に閣議決定した第3次男女共同参画基本計画(以下「第3次基本計画」といいます。)においても、特に早急に対応すべき課題の一つとして、実効性のある積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進を挙げています。

諸外国及び我が国において現在行われているポジティブ・アクションを分野ごとに概観・分析するとともに、具体的な好事例を紹介することによりそれぞれの分野や実施主体における具体的な取組の加速を図るため、今回の白書では、「ポジティブ・アクションの推進─『2020年30%』に向けて─」を特集のテーマとして取り上げています。

ここでは、諸外国及び我が国におけるポジティブ・アクションの取組を中心に特集編のポイントをご紹介します。

2.ポジティブ・アクションの推進─「2020年30%」に向けて─

【ポジティブ・アクションの概念】

ポジティブ・アクションについて関連する条約、我が国の法律の規定としては次のようなものがあります。

(1)女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約における規定

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第4条1では、「締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなつてはならず、これらの措置は、機会及び待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない」と暫定的特別措置について規定しています。

(2)我が国におけるポジティブ・アクションの関連規定

ア 男女共同参画社会基本法における規定

男女共同参画社会基本法第2条第2号において、積極的改善措置につき「前号に規定する機会(男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会)に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供すること」と規定しています。

イ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律における規定

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第8条において、女性労働者に係る措置に関する特例として「前三条の規定(性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置)は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」としています。

(3)本白書におけるポジティブ・アクションの整理

平成23年版白書特集編では、以下のパターンを全て包含した概念として、「ポジティブ・アクション」という文言を使用しています。

ア 当該措置の対象者

・「女性のみ」など男女のいずれか一方のみを対象とした措置

・男性と比較して女性を有利に取り扱う措置

・男女双方に同様に講じられる措置

イ 当該措置の講じられる期間

・男女間の格差が解消されるまでの間の暫定的な措置

・当該措置の目的が必ずしも男女間の格差の解消にとどまるものではないため、男女間の格差が解消された後も継続されることも考えられる措置

ウ ポジティブ・アクションの内容

・クオータ制(性別を基準に一定の人数や比率を割り当てる手法)

・ゴール・アンド・タイムテーブル方式(女性の参画拡大に関する一定目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する手法)

・女性を対象とした応募の奨励、研修、環境整備

・仕事と家庭の両立支援、子育て支援等

に分類することができます。

【世界におけるポジティブ・アクション】

(1)政治分野におけるポジティブ・アクション

ア 世界におけるクオータ制の導入状況

2011年3月31日現在、列国議会同盟、民主主義・選挙支援国際研究所、スウェーデンのストックホルム大学が共同で行うクオータ制に関する各国の情報を集めたプロジェクトの調査によると、世界で国政レベルにおけるクオータ制を導入する国は87か国あります。

同プロジェクトでは、政治分野におけるクオータ制を上記の3つに分類しています。(図表1)

図表1 政治分野におけるクオータ制の種類
図表1 政治分野におけるクオータ制の種類

イ 諸外国におけるポジティブ・アクション

我が国における国会議員に占める女性割合は長期的には増加傾向にありますが、2011年3月現在186か国中121位であり(IPU資料を基に内閣府でカウントし直したもの。)、政治分野における女性の参画状況は国際的に見て遅れています。(図表2)

図表2 我が国と諸外国の国会議員に占める女性割合の推移
図表2 我が国と諸外国の国会議員に占める女性割合の推移

国会議員に占める女性割合のランキングで我が国よりも上位に位置するスウェーデン(2位)、ノルウェー(7位)、ドイツ(20位)、英国(55位)、フランス(75位)、韓国(97位)では、様々なクオータ制が導入されています。

スウェーデン、ノルウェー、ドイツでは、複数の政党で自発的なクオータ制の導入がされています。

また、英国では政党が導入することができる自発的クオータ制の範囲を広げるために2002年に性差別禁止法が改正されました。

フランスでは、選挙の候補者を男女同数とすることを定める法律(パリテ法)が2000年に制定されました。パリテ法の導入に先立ち、両性の政治参画平等を促進する条文を追加する憲法改正が行われています。

韓国では、法律による候補者クオータ制の導入に加え、女性の候補者比率に応じて政党に補助金を支給するという制度もあります。

(2)行政分野におけるポジティブ・アクション

韓国では、女性国家公務員の採用にあたり、選抜予定人員が5名以上の採用試験において、いずれかの性が30%を下回らないこととされ、片方の性の合格者の比率が30%未満の場合、合格線の範囲以内で該当する性(男性・女性)の応募者を目標率まで追加合格させる措置が取られています。

ドイツでは、法律により、女性割合が少ない領域において、適性、業

績、能力が同等であることを条件として、競争相手の男性の個人的事情が当該女性よりも重大でない場合に限り、採用・昇進等の際に女性を優

先することができるというポジティブ・アクションを実施しています。

米国では、連邦政府におけるマイノリティーや女性の雇用割合が、労働力人口における両者の雇用割合を下回らないことが求められています。

(3)経済分野におけるポジティブ・アクション

法律により、個々の企業に対し、取締役会の構成メンバーについて男女双方が一定の割合以上になることを求める取締役会におけるクオータ制を導入した国として、イスラエル、ノルウェー、スペイン、オランダ、アイスランド、フランスがあります。(図表3)

図表3 各国の法律に基づく取締役クオータ制の概要
図表3 各国の法律に基づく取締役クオータ制の概要

(4)科学技術・学術分野におけるポジティブ・アクション

オーストリアでは、法律により大学の全ての部局の職員の40%を女性にすることとしています。また、ギリシャでは、法律により研究所、科学技術に関連する国家機関及び委員会の科学者の採用に当たって3分の1を女性とするというクオータ制を定めています。

【我が国におけるポジティブ・アクション】

(1)政府の取組

ア 府省の取組

(内 閣 府)

第3次基本計画において「2020年30%」の目標の達成に向けて今後取り組むべき喫緊の課題として実効性のあるポジティブ・アクションの推進を掲げていることを踏まえ、各政党、都道府県、政令指定都市、地方六団体、各種機関・団体等にポジティブ・アクションの導入に向けた要請を行いました。

(文部科学省)

科学技術振興調整費の公募プログラムの中に、女性研究者が研究と出産・育児等を両立しつつ研究活動を行える仕組みを支援するもの(女性研究者支援モデル育成)や、女性研究者の採用割合等が低い理学系・工学系・農学系における女性研究者の養成を目的としたもの(女性研究者養成システム改革加速)を設けています。

(厚生労働省)

女性の活躍推進協議会の開催、均等・両立推進企業表彰の実施、ポジティブ・アクションに関する総合的な情報提供、ポジティブ・アクション実践研修の実施、中小企業におけるポジティブ・アクション導入に対する支援など、企業におけるポジティブ・アクションの推進に向けた取組を行っています。

(農林水産省)

ある施策による補助金の支給等について別の施策によって設けられた要件の達成を求めるクロスコンプライアンスにより、「強い農業づくり交付金」において男女共同参画社会の形成に向けた施策の推進に配慮することを採択に当たっての要件としています。また、農業委員会等における女性の参画促進に向けた働きかけを行っています。

(経済産業省)

株式会社日本政策金融公庫を通じ、女性又は30歳未満か55歳以上であって新たに事業を始める者や事業開始後おおむね5年以内の者に対して、通常の借入者に適用される基準金利よりも低い優遇金利が適用される制度「女性、若者/シニア起業家支援資金」を実施しています。

イ 女性公務員の採用・登用に向けた取組

第3次基本計画において、女性国家公務員の採用及び登用につき平成27年度末までの政府全体の目標を設定しています。また、各府省では平成27年度までの目標及び具体的取組を設定した5年間の計画である「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定することとしています。

その他、女性公務員の採用・登用に向けた独自の取組を行っている省庁もあります。

外務省では、女性の勤務環境改善のための検討チームを設置し、平成22年6月に提言を取りまとめ、特に優先順位の高い改善策として、業務合理化、育児・介護との両立などに関する10項目をリスト化しました。

財務省では、平成22年4月に、財務省改革の一環として省内プロジェクトチームがまとめた提言の中で、女性職員の採用から登用までを意識した育成の着実な推進が不可欠であるとして、女性の採用・登用やワーク・ライフ・バランスについて提言を行っています。

警察庁では、平成23年2月に各都道府県警察の長に対し、女性警察官の採用・登用の拡大に向けた各都道府県警察の計画を策定するよう求める通達を発出しました。

ウ 公共調達におけるポジティブ・アクション

男女共同参画やワーク・ライフ・バランスに取り組む企業を国として積極的に評価・支援し、企業における自主的な取組を促進するため、平成22年度から、男女共同参画やワーク・ライフ・バランスに関連する調査等の事業の委託先の選定を一般競争入札の総合評価落札方式によって行う際、男女共同参画等に積極的に取り組む企業に対し加点する取組が行われています。

平成22年度には、内閣府5事業、文部科学省1事業、厚生労働省4事業の計10事業について実施されました。

(2)地方公共団体の取組

ア 女性公務員の採用・登用に向けた取組

女性公務員の採用・登用のため都道府県において行われている措置としては、採用目標の設定、管理職登用目標の設定、採用・登用に関する計画の策定、採用・登用担当者の設置、庁内意見交換の実施等があります。平成22年度には、47都道府県のうち管理職登用目標の設定を14団体で、計画策定を12団体で実施しています。

イ 公共調達におけるポジティブ・アクション

公共調達に係る入札につき、男女共同参画やワーク・ライフ・バランス等の取組を評価項目の一つとするなどのポジティブ・アクションを実施している自治体の数は、都道府県27、政令指定都市3、市町村14となっています(平成19年8月時点。内閣府調べ。)。

3.ポジティブ・アクションに関する様々な団体の取組事例 ~特集編のコラムより~

特集編では、我が国の様々な分野、機関・団体におけるポジティブ・アクションの取組例を紹介しています。ここでは、その概要を紹介します。

【政治分野における女性の参画拡大に向けた政党の取組】

○A党:女性候補者支援のための基金

A党では、男女共同参画社会の実現を目指す党の基本理念に基づき、女性の政治参画を促進するため、女性候補者を支援する目的で平成11年に党内に基金を創設した。

党の理念・政策に賛同し男女共同参画社会づくりを進めること、当選後には基金の一員として活動に具体的に参画すること等の条件を満たす女性の新人候補者に支援金を支給している。

○B党:党則におけるクオータ制の原則

B党では、クオータ制の原則を党則に明記し、女性の政治参画を進めるため、党の全国連合役員の三役(党首、副党首、幹事長)、各都道府県連合役員の三役(代表、副代表、幹事長)、党の決議機関に最低1名は女性が含まれるよう努める等の取組を行っている。

【司法分野における女性の参画拡大に向けた取組】

○弁護士の職能団体の男女共同参画推進基本計画

全国52の弁護士会と個々の弁護士等からなる団体Cでは、平成20年3月に男女共同参画推進基本計画を策定し、男女共同参画の推進に取り組んでいる。

計画においては、団体の運営に関する重要事項等を審議する理事会、会務を担う委員会における女性割合等に関する数値目標が設定されるとともに、「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の実施」の検討が掲げられている。

【民間企業における女性の参画拡大に向けた取組】

○女性管理職増加に向けた企業の取組 ~Fグループの取組例~

繊維等の素材事業や医薬医療等のサービス事業を主要業務とするFグループでは、役員等の企業トップ層が欧米企業との事業、取引を通して欧米企業で女性の役員・管理職が活躍している状況を目にし、グローバル企業に成長するためには女性の活躍が不可欠であるとして、新卒採用女性比率30%や、管理職における女性数を3倍に増やすという目標が設定された。また、この女性管理職3倍増計画の一環として、社内の管理職候補の女性を育成するため女性幹部育成強化プログラムが実施された。

○女性管理職増加に向けた企業の取組 ~Gグループの取組例~

銀行、信託銀行、証券会社、情報サービス会社等で構成されるGグループは、社員の4割以上を女性が占めている。

女性社員が高い意欲を持って、その能力を存分に発揮できる職場づくりを目指し、基幹職新卒採用の女性比率30%以上、女性の管理職比率を平成23年度末までに10%以上という数値目標の設定、従来以上に公平公正な評価の徹底、研修等の拡充、仕事と家庭の両立のサポート等の環境整備、管理職を対象とした研修の開催等による組織全体としての意識改革の推進等に取り組んでいる。

【科学技術・学術分野における女性の参画拡大に向けた取組】

○女性研究者専用ポストの設置 ~国立大学法人Hの取組~

国立大学法人Hでは、平成22年度の文部科学省科学技術振興調整費『女性研究者養成システム改革加速』事業に採択されたプログラムに基づき、理・工・農学分野における常勤女性教員を増加させるため、総長管理定員により、教授・准教授採用のための女性枠を設定し、優秀な女性研究者の応募促進・採用加速に取り組んでいる。

○女性研究者に対する企業の支援

・育児中の女性研究者に対する助成金

生命保険業を主要業務とするI社では、育児のため研究の継続が困難となっている女性研究者及び育児を行いながら研究を続けている女性研究者を対象とした助成金の支給(1年間に100万円を上限として2年間まで)を行っている。

助成の要件は、原則として応募時点で未就学児を育てていること、人文・社会科学分野の領域で有意義な研究テーマを持っていること、現在、大学・研究所等に在籍しているか、その意向があること等である。

・若手女性研究者に対する奨学金

世界各地で事業を展開するフランスの大手化粧品会社Jグループの日本法人であるK社では、2005年、日本ユネスコ国内委員会とともに日本の若手女性科学者が国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的とした奨学金制度を創設した。

これは、生命科学・物質科学分野の博士後期課程に在籍または博士後期課程に進学予定の女性を対象とする制度で、受賞者には奨学金100万円が支給される。

【その他の分野における女性の参画拡大に向けた取組】

○中央労働団体における男女平等参画推進計画

日本の労働組合のナショナル・センター(中央労働団体)である団体Lは、男女平等参画の推進のための計画を策定し、計画的に取組を進めている。現在の計画では、団体L本部・構成組織・単位組合・地方連合会のそれぞれが全体として取り組む統一目標として、(1)運動方針への男女平等参画の明記、(2)女性組合員比率と同じ比率の女性役員の配置、(3)女性役員がゼロの組織をなくすという3つを定めている。