「共同参画」2011年 6月号

「共同参画」2011年 6月号

特集

男女雇用機会均等法施行25周年を迎えて
厚生労働省雇用均等・児童家庭局

男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)は昭和61年4月の施行から、25年が経過しました。この四半世紀の間、少子高齢化の進行や経済のグローバル化等労働者を取り巻く状況は大きく変化してきましたが、均等法も数回にわたる法改正を経てその内容が充実・強化されてきました。

厚生労働省では、昭和60年6月1日に均等法が公布されたことを記念し、毎年6月を「男女雇用機会均等月間」とし、均等法の着実な施行のため、法の周知徹底等広報活動を展開していますが、本年は法施行25周年という節目を迎えることから、これまでの軌跡を振り返りつつ今後の課題を整理し、新たな四半世紀をスタートさせる契機の年としたいと考えています。

1.均等法成立・改正の経緯

女性に参政権が与えられたのは戦後の昭和22年でしたが、その後、雇用の場において女性に対する差別を禁止しようとする動きが起こるのは昭和50年代に入ってからになります。

昭和50年代当時、平均寿命の伸長や子どもの数の減少など女性のライフサイクルの変化により、子育て後の期間をどのように過ごすかが大きな課題となり、中でも、職業に対する関心の高まりを反映して、女性の職場進出が進みました。職業を一生のものと考え、自分の能力を活かしたいと考える女性も増える一方で、女性が携わる仕事を単純、補助的な業務に限定するなど、企業の対応は必ずしもそうした女性のニーズに十分応えられてはいませんでした。

こうした中、国際的な動きとして、昭和50年が国際婦人年とされ、男女平等の達成が基本的人権として、また、経済社会の発展のために必要であるという認識が高まるとともに、昭和54年には、政治、社会、経済、文化などあらゆる分野における女性に対する差別を撤廃するため、締約国に対し適当な措置をとることを要請する「女子差別撤廃条約」が国連総会で採択されました。

このような国際的な動きは日本国内にも大きな影響を与え、政府は昭和60年までに女子差別撤廃条約を批准するとの目標を掲げ、種々の施策を推進することとなりました。

当時、女性労働については労働基準法に定めがあり、時間外労働の制限や深夜業、危険有害業務への就業の禁止など、男性に比べて「弱者」であるとされていた女性を保護するとともに、女性が持つ「母性」を保護することなどが規定されていました。一方、女子差別撤廃条約においては、母性保護のための措置以外の女性に対する保護は究極的には解消するべきという考え方があり、世界的にもそのような考え方が潮流となっていました。

また、日本国内においても、女性の社会進出に伴い、労働者側からは雇用の分野における性差別は基本的人権の侵害であって、禁止すべきとの考えが高まっていましたが、使用者側からは「男は仕事、女は家庭」という伝統的な役割分担意識などから、一律の差別禁止には反対という意見も出されていました。

こうした労使の大きな主張の隔たりがある中、昭和60年に均等法は成立しました。成立当時は募集・採用、配置、昇進については、女性を男性と均等に取り扱うことが「努力義務」として課されるにとどまり、不十分との指摘を受けることもありましたが、男女の雇用機会の均等及び待遇の平等の促進に法律上の根拠を与えるものであり、社会に与えるインパクトは非常に大きいものでした。

その後、平成9年に法改正がなされ、募集・採用、配置、昇進についても女性に対する差別が明確に禁止されるとともに、それまで認められていた女性のみを募集することや女性を優遇する措置等は、女性の職域を固定化させたり男女の職域分離をもたらす等の弊害が認められるため、「原則禁止」とされました。また新たにポジティブ・アクションやセクシュアルハラスメントに係る規定等が盛り込まれました。

さらに、平成18年の改正では、男女双方に対する差別の禁止や間接差別の禁止など性差別禁止の範囲の拡大や妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクシュアルハラスメント対策の強化などが盛り込まれ、均等法制定当時に指摘されていた法制上の課題はほぼ解決し、法制度の整備は大きく進展しました。

2.データでみる働く女性の変化

均等法が施行された昭和61年以降の働く女性の変化を概観すると、平成22年の女性の労働力人口は2,768万人となっており、法施行時と比べ373万人増加しています。

女性の年齢階級別の労働力率はM字型を描くことが知られていますが、現在、その形状は法施行時と比べ大きく変化しています。法施行時に比べM字型の底が上昇するなど全体的に上方にシフトするとともに、左右の山や底の年齢階級も上昇しています。この変化をもたらしたのは、未婚者の増加や晩婚化等女性のライフスタイルの変化によるものもありますが、低かった有配偶者の労働力率の上昇も大きく影響しています。

雇用者の平均年齢、平均勤続年数も法施行時と比べ伸長しています。

一方で、管理職に占める女性の割合は法施行時に比べかなり上昇していますが、課長級以上で6.2%とまだ低い水準となっています。また、男女間の賃金格差も法施行時に比べ縮小していますが、諸外国と比較すると格差は依然として大きい状況にあります。

3.性別にかかわらず意欲、能力を十分に発揮できる社会へ

昨年6月に閣議決定された「新成長戦略」では、2020年までに、25歳から44歳までの女性の就業率を73%とするという政策目標が定められました。これは、今後予想される労働力の減少を跳ね返すため取り組むべき課題として策定されたもので、働く女性が就業意欲を失うことなく、その能力を伸長・発揮できる環境の整備が重要な課題となっています。

こうした中、労働者が性別により差別されることなく、かつ、働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するため、均等法の履行確保を図るとともに、実質的な男女均等取扱いを確保するため、男女労働者間に事実上生じている格差を解消するための企業の自主的かつ積極的取組(ポジティブ・アクション)を推進しています。

前述したように、均等法は過去数回にわたる法改正を経て、法制定当時に指摘されていた法制度上の課題についてはほぼ解決し、法制度の整備は大きく進展しました。現行法は平成19年4月から施行されており、(1)雇用管理の各ステージにおける男女双方に対する差別の禁止や間接差別の禁止など性別を理由とする差別の禁止、(2)妊娠・出産、産前産後休業取得等を理由とする解雇等不利益取扱いの禁止などが整備されました。

均等法に沿った雇用管理が各企業で実現されるよう、法の周知徹底や法違反に対する行政指導を行うとともに、勤続年数や管理職割合等の男女間の格差解消に向け、各企業で具体的な取組が行われるようアドバイスや情報提供を行っています。

また、男女間の賃金格差の解消に向け、「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」を昨年策定しました。本ガイドラインには賃金・雇用管理の見直しの視点や格差の実態を把握するための調査票といった実践的支援ツールを盛り込み、男女間格差の実態把握や取組の必要性の「気づき」(男女間格差の「見える化」)を推進することで、労使の自主的な取組に対する支援を行っています。

さらに、本年度は新たに使用者団体や業種団体、労働組合と連携し、業種ごとに男女間格差の「見える化」を進めるために検討を行い、業種ごとの雇用管理の実態の特徴を踏まえた男女間格差の「見える化支援ツール」を作成し、「ポジティブ・アクション取組会議」の開催等を通じて普及に努めることとしています。

4.最後に

本年度の男女雇用機会均等月間では、テーマを「意識が変われば職場が変わる!職場が変われば未来が変わる!」とし、(1)均等法の一層の周知徹底及び履行確保、(2)ポジティブ・アクションの趣旨及び内容の正しい理解と取組の促進を目標として、広報活動等を展開しています。

均等法が施行されて25年が経過し、企業の雇用管理において制度面での男女の均等な取扱いは徐々に浸透しており、女性の職域も拡大しつつありますが、いまだ実質的な機会均等が確保されたとは言い難い状況にあります。男女間格差の「見える化」を進め、労使、社会全体の意識改革を通じ、労働者が性別により差別されることなく、その能力を発揮しながら充実した職業生活を送ることができるよう環境整備を進めてまいります。