「共同参画」2011年 3月号

「共同参画」2011年 3月号

特集

農山漁村における女性の参画促進~活力ある農山漁村の実現に向けて~
農林水産省経営局人材育成課 女性・高齢者活動推進室

我が国の農山漁村において女性は、農業就業人口の約半数を占めるなど重要な役割を担っている一方で、農業委員、農業協同組合役員など関係団体等の意思決定の場の女性の登用割合は依然として低く、女性の持つ視点や能力を農林水産分野において発揮するためには、一層の参画促進が必要となっています。

我が国の農山漁村では、女性が農業就業人口の約半数を占め、農林水産業において重要な役割を担っています。経済情勢が厳しさを増している中、農林水産省では、戸別所得補償制度を創設し、農家経済の安定に向け全力で取り組むとともに、農林水産業経営の発展と、農山漁村の活力再生を図るために、農山漁村に豊富に存在する未利用資源を有効に活用し、地域ビジネスの展開や新産業の創設を図る「農山漁村の6次産業化」を推進しているところです。

図表1  農業就業人口等に占める女性の割合の推移

このような中、女性農林漁業者は、農山漁村において加工品づくりなどの起業活動で活躍を続けており、いわば6次産業化の牽引役として今まで以上に高い期待が寄せられています。

しかしながら、こうした個々の経営や地域農業のあり方に対して大きな力をもっている、農業委員、農業協同組合役員など関係団体等の意思決定の場における女性の登用割合は依然として低く、女性の持つ視点や能力を農林水産分野において発揮するためには、一層の参画促進が必要となっています。

このため、農林水産省としては、昨年8月に、各農業協同組合及び農業委員会において、

(1)役員又は委員(以下「役員等」という。)に女性が一人も登用されていない組織を次回の役員等の改選時において解消すること

(2)平成27年3月までに、各組織において2名以上の女性役員等の選出を確実に達成すること

を具体的な目標として設定し、その達成に取り組むこととし、都道府県や関係機関に対し協力依頼を行ったところです。

※HPアドレス

http://www.maff.go.jp/j/keiei/kourei/danzyo/d_hourei/pdf/chiji.pdf

図表2 農林漁業者団体の役員等に占める女性の割合の推移

また、同じく昨年12月に策定された第3次男女共同参画基本計画においても、成果目標の一つとして、平成25年度末までに「農業委員会、農業協同組合における女性が登用されていない組織の解消」することが掲げられたところであり、関係者が連携し、取組を強化していくことが期待されています。

図表3 第3次男女共同参画基本計画(平成23年12月17日閣議決定)第6分野の成果目標(抜粋)

○「農山漁村女性の日」について

農林水産省では、農山漁村女性の役割を正しく認識し、適正な評価への気運を高め、女性の能力発揮を促進することを目的として、昭和62(1987)年度から3月10日「農山漁村女性の日」として設定し、毎年記念行事を行うなど、農山漁村における男女共同参画の推進に向けた普及啓発に取り組んでいます。

第24回目となる本年度の記念行事は、大会キャッチフレーズを「女性が動く、男性が動く、農林水産業が動く、そして地域が動く」と定め、記念講演と起業等で活躍している女性達や農山漁村の活性化のために活動等を実施しているシニアの方々、今後の地域の担い手として期待されている若手女性農業者、役員等への女性登用に積極的に取り組んでいる農業委員会やJA等の表彰及び活動報告が行われました。

日時:平成23年3月10日(木) 10:00~16:00

場所:よみうりホール(東京都千代田区)

内容:講演「足元の宝を生かして暮らしを楽しむ」

講師:松場登美氏((株)岩見銀山生活文化研究所所長・(株)他郷阿部家代表)

活動報告:(農山漁村男女共同参画優良活動表彰農林水産大臣賞受賞者)

表彰式

活動報告:(農山漁村女性・シニア活動表彰農林水産大臣賞受賞者)

「農山漁村女性の日」設立の経緯

この日は、「国際婦人の10年」ナイロビ世界会議(昭和60年)で採択された「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」を受け、我が国において決定された、「西暦2000年に向けての新国内行動計画」(昭和62年策定)の具体的施策の一つとして、位置付けられたものです。

3月10日に設定することについては、まず第1に国際的な視点として「国際婦人の10年」の基本となる世界行動計画草案が検討された時期であること、第2に農家・農村の生活リズムの視点から、農作業が比較的少なく社会生活においても女性が学習や話し合いを共にする条件が整っていること、第3に女性自身の視点として農山漁村女性の3つの能力(知恵、技、経験)をトータル(10)に発揮して欲しいという願いも込められています。

○農山漁村で活躍する女性達

農林水産省では、農山漁村地域での女性の素晴らしい活躍を広く知っていただくため、様々な表彰を行っています。今回はこれらの受賞者等の中から、特に優れた活動を行っている女性達の活動を簡単にご紹介させていただきます。

1「平成22年度農山漁村男女共同参画優良活動表彰」農林水産大臣賞受賞者の紹介

この表彰は、農林水産業分野において、次世代を担う地域リーダーとなることが見込まれている女性や、女性の参画を積極的に推進している組織等を表彰することによって、農山漁村における男女共同参画の取組の推進に資することを目的に行っております。

次世代を担う地域リーダー部門(経営参画部門)
阿部 都氏(宮城県石巻市)

阿部さんは、JAの直売会に義母の補助として参加するうち、生産物を直接販売する楽しさ、大切さを知り、漬け物加工業の許可を取得し、農産物加工品の販売を開始しました。その後、JAが常設直売所を開設したことを契機に、飲食店営業の許可を取得し、自家製の米・野菜を使った弁当の販売を開始。現在では、3カ所の直売所を中心に、弁当・漬物・総菜等の販売で売り上げを伸ばし、経営の中の重要な部門として確立されています。

また、JAいしのまき女性部フレッシュミズふたば会会長としても活躍されています。

“直売所へのお弁当出荷の様子(阿部 都さん)
直売所へのお弁当出荷の様子(阿部 都さん)

次世代を担う地域リーダー部門(地域参画部門)
伊藤まち子氏(北海道苫前町)

伊藤さんは、平成2年に結婚を機に就農後、JA勤務時代の財務管理や簿記の知識を生かし、当初負債農家だった伊藤農場を立て直し、その成果を全国酪農青年婦人酪農発表大会で発表して受賞されたこともあります。自らが中心となり、留萌管内の農村女性ネットワークや町の酪農女性グループを設立して代表職を努めるなど、リーダーシップを発揮され、18年には留萌管内初の女性指導農業士として認定、19年からるもい指導農業士の副会長に就任されるなど、若手女性のモデル的存在でもあります。夢は、後継者(娘)とセラピー牧場を作ることだそうです。

経営改善に取り組み、地域リーダーとして活躍する伊藤まち子さん
経営改善に取り組み、地域リーダーとして活躍する伊藤まち子さん

組織における女性登用部門
新ふくしま農業協同組合(福島県福島市)

新ふくしま農業協同組合は、組織運営において、女性参画による多角的視野による運が重要との観点から、女性登用率の目標を25%と定め、女性の登用を進めるため、平成12年から女性総代枠50名を設置するとともに女性総代への学習会を開催したり、15年に女性組織検討委員会を発足させるなど県内の他JAに先駆けての取り組みを行ってきました。その結果、女性理事の割合は21%(理事38名中女性8名:H22)、女性総代の割合21.3%(600名中128名:H21)となっており、全国でもトップレベルの人数と構成比になっています。

総代会で議長団として議事進行する女性総代(新ふくしま農業協同組合)
総代会で議長団として議事進行する女性総代(新ふくしま農業協同組合)

長野県女性農業委員の会(長野県長野市)

長野県女性農業委員の会は、平成13年に女性農業委員の連携により設立され、食農・女性の登用促進等、女性農業委員として取り組む課題をテーマとした研修会を開催して女性農業委員の資質向上と登用促進に努めてきました。特に農業委員の改選にあたっては県市長会、県町村会等への要請活動を、また支部段階でも市町村長、市議会議長等に要請活動を行い、着実な成果をあげています。

その結果、女性農業委員の登用状況は、農業委員数は1,401名中154名、女性割合は10.99%(H22)となっており、全国トップの人数と構成比を維持しています。同会では、全農業委員会で複数以上の女性農業委員の選出を目指しているところです。

男性農業委員も参加したグループ討議(長野県女性農業委員の会)
男性農業委員も参加したグループ討議 (長野県女性農業委員の会)

2「平成22年度農山漁村女性・シニア活動表彰」農林水産大臣賞受賞者の紹介

この表彰は、農林水産業及び農山漁村生活並びに農山漁村の活性化に優れた活動の実績をもち、男女共同参画の推進又はいきいきとした高齢者の活動の推進のために積極的に動かしている経験豊富な女性・高齢者の個人又は団体を表彰することにより、女性や高齢者といった地域の多様な人材が農山漁村でいきいきと活躍できる環境づくりの推進に資することを目的に行っております。

女性地域社会参画部門
家族経営協定が背中を後押し、仲間のためにできること
芳賀よみ子氏(宮城県登米市)

芳賀さんは、町に生活改善クラブを立ち上げるとともに、家族経営協定の取組を県外にも講師として広く紹介・普及してきました。また、宮城県初の指導農業士として若手後継者の指導・助言を続けてきました。さらに、県農業会議常任会議員として女性農業委員登用拡大にも取り組み、県内の女性農業委員で組織する「みやぎアグリレディス21」を立ち上げました。また、指導農業士を定年退任後は、女性農業者ネットワークの初代代表として、次世代育成に取り組まれています。

農村女性の代表として宮城県農業会議員となり活動する芳賀よみ子さん
農村女性の代表として宮城県農業会議員となり活動する芳賀よみ子さん

思いを形に、まずは実践を
村岡ツユ子氏(鹿児島県霧島市)

村岡さんは、昭和37年に自ら就農し、昭和40年に結婚後は林業も手掛け、林業分野で初の女性グループを結成して県内に林業女性の組織活動を波及させました。経営主として経営改善に積極的に取り組み、平成7年度に県女性農業経営士第一期生として認定されました。また、加工品販売の活動では他の規範となり、その活動が登録者200人の物産館設置につながりました。さらに農業委員として活躍されるとともに、関係者への要請活動を行って、40人だった女性農業委員を80人誕生させました。

量販店にて、地元の特産品と物産館をPRする村岡ツユ子さん
量販店にて、地元の特産品と物産館をPRする村岡ツユ子さん

女性起業・経営参画部門
女性として 農業者として おふくろとして~家庭・地域での役割と仲間とのかかわり~
鈴木春江氏(宮城県栗原市)

鈴木さんは、家庭内での役割をいち早く明確化し、農業経営の中心を農薬・化学肥料節減栽培として環境にやさしい農業を実践されています。平成14年に農家レストラン「四季味」をオープンし、地場産、自家製など食材にこだわり、安全・安心な食事を提供しています。平成18年には家族経営協定を締結、夫・息子とともに認定農業者となり、農家レストラン部門の担当を明確化しました。現在、県指導農業士、栗原市地域審議委員、栗原市初の農業委員として活躍中です。

栗原市内で地域の行事食を料理講習する鈴木春江さん
栗原市内で地域の行事食を料理講習する鈴木春江さん

山香米を使って、おししい!楽しい!うれしい!特産品づくり
有限会社 楽四季舎(大分県杵築市)

有限会社楽四季舎では、地元農山漁村女性が中心となり、山香米という地域の規格外に付加価値をつけて米粉パンにし、商品バラエティを豊富にするとともに、他の起業家のコラボレーションにより新商品を生む等、所得向上と地域活性化に貢献しています。また、地元農村女性を多く雇用し、女性の経営力向上にも寄与しています。さらに、加工技術の研とPR販売によって、確実に販売額を上げています。

笑顔まん中、楽四季舎
笑顔まん中、楽四季舎

シニア起業・地域活性化部門
私の財産~技で広がる活動、つながる仲間~
桑田ミサオ氏(青森県五所川原)

桑田さんは、60歳まで保育所に勤務しており、本格的な地域活動は定年退職後ですが、それまでも地域との関わりを大切にし、餅作り等の技術を持っていました。平成14年に75歳で自己資金により加工施設を設置して、起業活動を始めました。一番人気の笹餅は1日平均100個近くを販売しています。平成18年からは地元の津軽鉄道を支援する「津鉄応援直売会」に加入し、列車内やホームでの販売をはじめ、地元の歌を披露するなど名物おばさんとして地元のPR、活性化に寄与しています。

桑田ミサオさんと仲間たち
桑田ミサオさんと仲間たち

豊かな暮らしの実現に向けて 生活改善グループが担うもの
オアシスグループ(山口県柳井市)

オアシスグループは、平成2年に結成され、収益追求だけではなく「より良い暮らし」をめざして活動してきました。自治会に活動が評価され、公会堂の検討委員として地域の集会所設置に関わるようになり、これを契機に高齢者介護予防を目的とした事業実施を依頼され、地域の高齢者を対象とした交流会の企画・運営等を活動の柱としています。集落で立ち上げた「農事組合法人伊陸美味」では、運営に積極的に関わって加工部と加工所の設置を実現させ、法人の多角化に寄与しています。

オアシスグループと地域のみなさん
オアシスグループと地域のみなさん

まとめ

農山漁村においても女性が中心となった様々な優れた活動が展開されております。このような女性の視点を活かした活動は、今まで以上に農山漁村活性化に向けた牽引役として大いに期待されており、その期待に応えるためにも、農山漁村それぞれの地域での地に足のついた女性の参画への取組を図って行く必要があります。

3月10日の「農山漁村女性の日」を機会に、農山漁村における女性の参画のあり方についてそれぞれの地域で、組織で、そしてご家族で考えてみませんか。