「共同参画」2011年 2月号

「共同参画」2011年 2月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(10) 職場で実践する方法-会議・資料・メール削減 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

会議の削減

各職場で、過去1ヶ月に開かれた会議にどれぐらいの労働コストがかかっているのかを、【回数×時間×参加人数】で算出すると、約20人の部署で、毎月300万円も掛かっていることが多い。

では、どうしたらコストを削減できるか。参加者全員分の労働コストを合計して、毎分あたりのコストがどんどん増えていく状況を表示する時計を置いている企業がある。また、参加者の役職別に持ち時間を配分し、時間がくるとブザーを鳴らす方法も時間コストを鋭敏にする。

付加価値を生むために貢献しない人は、会議に出る必要はない。後で議事録を配布して情報共有すれば十分だ。そこで最近、採用する企業が多いのが、「立ったまま会議」。発言した順に座っていくと、聞くだけの人は、立たされ坊主みたいになる。また、各会議で3回以上、発言しないと次回からは呼ばれないルールも有効だ。会議中にその場で議事録を作成し、プロジェクターで表示する方法も効果的だ。

資料の削減

A社で、資料の作成コストを算出してもらった。資料の右側に稟議で判子を押す欄に、各人の掛かった時間を記入し、役職別に労務コストを掛算した。そして、資料表紙の右上に大きく、作成費用は○○万円と大書した。

最近では、社内のあらゆる資料デジタル化し、保管している会社が多い。そこで、各人が作成したデジタル資料は各人別フォルダーに保管し、必ず全社員がアクセスできる場所に置くよう『フォルダー整理ルール』を徹底した(図表)。

読みやすく、利便性が高い資料を作成する人は誰か、机を並べている人たちは知っている。そこで、各人のファイルへの社内アクセス履歴をとったところ、かなり人気に差が出た。そして、人気の高い資料を作成した人に個別ヒアリングしたり、社内表彰したり、シンポジウムを開催した。こうして、量ではなく、質の高い資料作りへと意識改革を図った。その結果、この会社の紙消費量は4分の1に激減した。

図表1 フォルダー整理のルール

【目的】

○PC内あるいは会社のサーバー内に格納されている「資料(ファイル)」にすばやくアクセスするため。

○これにより、「目的の資料をあちこち探す」というムダな時間を省くとともに、「なかなか探し出せない」という「ストレス」からも解放され、業務を円滑に遂行できる。

【資料の分類方法】

○各人が作成した資料は各人別フォルダーに保管し、必ず全社員がアクセスできる場所に置く。

○資料を規則正しく分類できなければ、「必要とする資料」へのアクセスが大幅に悪化する。

○したがって、フォルダー整理には、「資料の分類」が前提となる。

○資料の分類は、

  A)資料の種類・性質で分類する

  -「業務」「取引先」のどちらか、あるいは両方で分類する

 B)分類(第1レベル)から中分類(第2レベル)、小分類(第3レベル)へと細分化する

  -文書ファイル整理の基本は、「仕事関連のデータは、ほとんどがここに入っている」という“第1レベル”のフォルダを一つ決める。

  -ファイルや文書の性格に合わせて“第2レベル”のフォルダを作り、そこにファイルを入れていく。

  -関連する文書や類似ファイルを“第3レベル”として、さらにまとめておく

 C)時系列(年月日別等)で分類する

【名前の付け方(ネーミング)】

○フォルダーおよび資料の分類にあたっては、名前の付け方(ネーミング)が重要である。

○作成年月日、資料名(およびキーワード)等を、記載する順番も含めてあらかじめルール化しておく必要がある。

○また同時に、資料(ファイル)をフォルダ内で「名前順」「作成日時順」「更新日時順」等によって整列させる機能を使いこなすことで、「必要とする資料」へのアクセスが速くなる。

○職場全体でルール化しておくことで、異動や退職者が出た場合でもスムースに過去の資料にアクセスできる。一人の例外もつくらないことが重要である。

(資料)渥美由喜『イクメンで行こう!』日本経済新聞出版社など各種資料に基づき、筆者が作成。

メールの削減

B社では、まず社内のメール関連データをとった。例えば、メールを一度に平均4人以上に送る社員が3割いた。同時多数配信社員ほど、相手のメール開封率は下がった。最も低い社員は2割だった。大勢相手に送り過ぎて、「あいつのメールは自分宛てではない。読まなくても大丈夫」と思われてしまっていたのだ。

また、タイトルにアラートマークをつけて送るメールが2割を超えていた1割の社員のメールが開封されるまでに掛った時間は、他の人よりも長かった。

このように、意図に反した受け取られ方をしている行動が多い事実をデータで「見える化」した。日頃の行動がまずいと気づくと、スキルへの渇きが生じる。その後に開催した『メールマナー講座』で、最も好評だった個所を以下に記す。

『文字情報は記録に残る一方で、音声・映像情報は記憶に残る。したがって、すべて文字メールで伝えればOKという考えでは駄目。文字メールのみならず、ボイスメール・電話連絡・口頭での報告をうまく組み合わせて、記憶と記録に残す工夫が重要だ。』

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。