「共同参画」2011年 2月号

「共同参画」2011年 2月号

スペシャル・インタビュー

ホームグラウンドのあるライフデザインを
株式会社スタートトゥデイ取締役(想像戦略室・フルフィルメント本部担当)
大石 亜紀子

今回は、日経WOMEN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011」総合2位に選ばれた大石亜紀子さんにお話を伺いました。大石さんは、いわゆる“派遣切り”を経験したのち、わずか社員数7名のアパレル会社に入社。IT通販の立役者として会社の急成長を支え、現在社員数約270人、商品取扱高370億円を誇る業界トップ企業の取締役としてご活躍されています。

仕事を楽しみ、その付加価値を意識することが大切かと思います。

― 大石さんのキャリアプロセスをお聞かせ下さい。

大石 私は短大卒業後、アルバイトのような形で派遣として通信系の会社に入ったのですが、支店の統合により、会社都合で契約終了になりました。契約終了自体は不条理だとは考えませんでしたが、社員と派遣の扱いの違いや、業務範囲の違いを感じていました。その後、再度派遣社員として働いていた時、好きなものに携わりたいという気持ちで新しい職場を探していたら、スタートトゥデイに出会いました。私は場所や業務内容など含めて“ホームグラウンド”が欲しいと考えていたので、当時まだ社員が数名しかいない小さな会社でしたが、自然な流れでやってみようと思いました。

― 会社に入ってから、営業や物流など専門性の高い仕事を任せられたそうですが、社員教育などを含め、どのようにこなしていったのですか?

大石 入社してからしばらくは、楽しいと感じる間もないぐらい、いつも何かにかき立てられ、かなり突っ走っていたと思います。自分がどう会社に貢献するべきなのかということを意識した時期があり、私は作業量で成果を出そうと思いました。現場の仕事を誰よりもやって、それで認めてもらいたいということを意識していました。だから毎日一番遅くまで、土日もフルで会社に出ていました。

そのうち取引先様との信頼関係を築けるようになったり、後輩が少しずつ増えたり、またお店を任せていただいたりすると、それに対する責任感等や愛社精神もあり、辞めるという選択肢は出てきませんでした。もし私が80%くらいの気持ちで仕事をしていたら辞めていたかもしれませんが、毎日120%のつもりでやっていました。

社員教育については、特別な研修などありませんが、様々な経歴で入社するスタッフに、平等にステップアップするチャンスがある環境だと思います。例えば、各部署で欠員が出たときに最初に行うのは、中途採用やキャリア採用ではなく、社内公募です。全スタッフが社内公募制度で様々な部署にチャレンジすることができ、皆が成長できるチャンスがあります。

当社では、このような環境を整える人事部門を人事(ひとのこと)と書くのではなく、自分の自という字を用いて“人自”といいます。これは、社員のことも自分のことのように考えようという考えからこのように書いています。こちらは、社長直下の部門でとても重要な領域と位置付けており、現在、私が管掌役をしています。

― 出産と育児、ワーク・ライフ・バランスについてお聞かせください。

大石 私はワーク・ライフ・バランスというのは、実はよくわからないのです。自分の生活において、仕事のウェートは子どもができてからもあまり変わらない。時間的にできないことは当然出てくるのですが、頭の中のバランスは変わらないですね。

私は実家が近くにあり、親と妹に育児をかなり手伝ってもらっています。でも、本当は家族だけで育児をするのではなくて、地域全体で協力し合って育児をしていく方が、社会としてもよいのではないかなと思います。

昔は、地域の協力もそうですが、家族というのも核家族は少なかったので、おじいちゃん、おばあちゃんが子育てをして、働き手は外に出るのが当たり前だったと思います。戦前いかに女性が良妻賢母になるかということが重視され、母親がひとりで子どもを養育することが主流になった時期があったと聞きました。もちろん、母親の責任というのはありますが、子育てはひとりでできないし、ワーク・ライフ・バランスを、“女性も働く”という意味にしてしまうのはもったいない、子育て支援の方法は、もっと様々あっていいのではと思います。

これから結婚、出産を迎える年代のスタッフが多い当社でも、同じような悩みが出てきています。夫が育児休暇を取るというのは、賛否両論だと思いますが、それであれば、会社が託児所をつくったり、育児期間中の社員が他の社員の子供の面倒もみたりするような、ユニット型の育児ができたらいいのではないかと思います。もし当社が新しい育児制度をつくるとしたら、何か先駆けになるようなプランにしたいですね。私もせっかく上場企業の役員という立場で育児をしているので、社員目線ではなく、会社やスタッフを引っ張っていけるようなことをしていければと思います。

― 今、男女共同参画を進める上で「ポジティブアクション」として、指導的な立場の女性を増やそうとしています。御社で例えば取締役やマネージャー等を男女共同参画的な視点で増やしていくようなお考えはありますか。

大石 意図的に女性を登用しようという施策はありません。しかし、当社には男女約半々の社員がいますし、どんどん女性に活躍して欲しいと思っています。ただ、やはり育児制度が整っていないとかモデルケースがないとなれば、女性は現実の壁にぶち当たってしまいます。今でもこんなに大変なのにこの先のビジョンが見えない、という社員は、多分たくさんいると思います。また、女性社員側も登用を望んでいない人がいるというのを少し感じます。無理だからと決めてしまっているのかなと思います。なので、自分がロールモデルとなったり、環境を整えるというのが第一歩だと思います。

― 最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

大石 付加価値というものを意識されるといいのかなと思います。男性が中心で働いているポストが多いとしても、仕事に付加価値を付けて同じ価値を創出するということはできるのではないかと考えています。

まず、楽しむことがすごく重要だと思います。そういう働き方をする女性が増えれば、会社も明るくなりますし、今やっていることが楽しいのであれば、とことん楽しみましょう。そうすれば、いい働き方ができるのではないかなと思います。

― 本日はありがとうございました。

大石 亜紀子 株式会社スタートトゥデイ取締役(想像戦略室・フルフィルメント本部担当)
大石 亜紀子

株式会社スタートトゥデイ取締役
(想像戦略室・フルフィルメント本部担当)

おおいし・あきこ/【生年月日】1976年9月3日(現在34歳)。株式会社スタートトゥデイ取締役。1976年生まれ。2002年5月スタートトゥデイ入社。入社後、アパレルブランド新規営業を担当し、2004年のZOZOTOWNの新規出店立ち上げを担当。2007年6月取締役就任。2007年7月EC事業本部長として、約100店舗の立ち上げに携わる。2009年4月、物流事業全般を統括するフルフィルメント本部長を経て、現職。