「共同参画」2011年 2月号

「共同参画」2011年 2月号

特集
男性、子どもにとっての男女共同参画


内閣府男女共同参画局推進課

昨年12月17日に第3次男女共同参画基本計画が閣議決定され、重点分野の一つとして「男性、子どもにとっての男女共同参画」が新設されました。今月の特集では、基本計画の答申策定の議論に参加いただいた伊藤委員の寄稿を紹介するとともに、自治体や実際に活動されている方々の事例を紹介いたします。

京都大学大学院教授 伊藤 公雄

ここ数年、女性の社会参加・参画が経済に活性化をもたらし社会を活気づけるというデータが次々に出されている。経済産業省の調査(女性が活躍しやすい企業ほど業績がアップしている)、マッキンゼーによるEU企業調査(女性役員の多い企業ほど業績がアップしている)、世界経済フォーラムの推計(アメリカ合衆国で男女平等が達成されるとGDPが9%アップするなど)、さらにモルガンスタンレーの「日本ポトフォリオ戦略」(日本での男女平等の達成はGDPを15%押し上げる)などである。いわゆるウーマノミックス(女性の経済参画による経済効果)の流れだ。

しかし、周知のように日本社会はこの流れに大きく遅れをとっている。というのも、1970年代以後の国際的な男女共同参画=ジェンダー平等の展開に、日本社会が十分に対応しなかったからだ。

それならなぜ日本では、70年代以後、他の経済の発達した諸国のように男女共同参画が進まなかったのか。いろいろ理由はあるだろう。しかし、おそらく最大の理由は、社会を主導的に担ってきた男性たちの意識が、「女性は家庭に」という固定的な意識から脱却できなかった点にあるだろうと思う。

この意識は、男女共同参画の施策が日本で本格的に動き始めた2000年以後も、ほとんど変化しなかった。というのも、男性たちにとって、男女共同参画という課題は「女性の課題であり、自分にとっても社会全体にとってもたいして影響はない」と考えられてきたためだろう。

今回の第三次男女共同参画基本計画が「男性・子ども」という分野を独立させてたてた背景には、こうした男性たちの意識を変える(変ってもらう)ことで、これまで十分に実効性が発揮しえたとはいいにくい男女共同参画政策をより実効性のあるものへと深化させていこうという判断があった。

と同時に、男女共同参画という課題が、「女性の問題」としてだけでなく、実は「男性の問題」でもあるということが、ここには含まれている。1970年代以後急速に拡大した「男性は長時間労働、女性は家事・育児(さらにパート労働)」という仕組みは、日本の経済成長を支える一方で、家庭や地域から男性の居場所を奪ってしまった。現在の家族の危機や地域の人間関係の希薄化などの原因のひとつは、こうした男性たちの「家庭ばなれ、地域ばなれ」にもあるはずだ。また、家庭生活を放棄して仕事に命をかける男性たちの生活からは、過労死や自殺死亡率の上昇という負の側面も生じさせてしまった。男女共同参画社会の形成は、これまでの「仕事中心」の生活から男性を解放し、男性たちが家族と時間を共有し、地域社会に貢献しうることを視野にいれるべきだ。

男女で社会を支え、共に家庭・地域を担う男女共同参画の形成のためには、何よりもワーク・ライフ・バランスが前提になる。生産性を高めつつ男女で効率よく働き、ともに家庭・地域に責任をもつこの仕組みがうまく形成できれば、子育てや高齢者介護の面でも(もちろん、保育所や高齢者施設等の社会的サポートを充実させつつ)、多くのプラスを生み出すはずだ。

もうひとつの「子ども」という課題も今回新たに加えられたものだ。この施策の目的は、何よりもまず「子どもの頃からの男女共同参画の理解促進」だ。子どもの発達段階に応じてジェンダーに敏感な視点から社会を認識する機会を提供し、自尊感情と生き甲斐をもって将来設計ができるような次世代の育成という思いがここには込められている。

また、「子どもの健やかな成長と安全で安心な社会の実現」も、ここでは強調されている。児童虐待や子どもを取り巻く社会環境の問題への対応など、子どもをめぐる多様なリスクから子どもたちを守り育んでいくためには、さまざまな施策が必要だ。子ども自身が自ら判断力を身につけ、自立・自律していくための支援の方策もまた重要な課題になるだろう。男女両性が共に協力しつつ、社会全体で子どもを支えることが求められているのである。

「男性の子育て参画日本一」を目指す取組 ―大分県―

大分県では、平成21年度からの「中期行財政運営ビジョン」において、「子育て満足度日本一を目指す大分県」を政策目標に掲げ、本県の未来を担う子どもたちや若い世代の夢を後押しする取組を幅広く展開しています。

子育て支援のなかでも、男性の子育て参画は、母親の育児負担の軽減や子どもの健全な育ちはもとより、少子化対策、女性の就業率の向上、従業員の意欲向上、職場の業務効率化にも有効であり積極的に推進していく必要があります。

ところが、本県の就学前児童を持つ父親は、全国平均に比べて就業時間が長く、家事・育児にかける時間が一日36分と全国で最も短いという調査結果があります。(総務省「平成18年社会生活基本調査」)

そこで本県では、「男性の子育て参画の推進」を喫緊に取り組むべき課題として、様々な取組を行うこととしています。

「社会全体で応援する機運づくり」

男性の子育て参画について広く県民の関心を喚起し、社会全体で応援する機運を高めるため、全国多数の応募作品の中から選ばれたシンボルマークやキャッチコピー「男から父親へ。あなたの『育児宣言』を応援します。」を活用したバッジ・リーフレットの作成・配布や、父親の子育て応援サイトの立ち上げなど、多様な媒体・手法を使った広報啓発を展開しています。

また、実際に育児休業を取得した男性の体験に基づき、育児の苦労と喜びを描いたマンガ本を作成し、若い子育て世代に読んでもらえるよう、県内のコンビニエンスストアや小児科などに置いて無料で配布しています。

パパの子育て応援本 パパの子育て応援シンボルマーク
パパの子育て応援本 パパの子育て応援 シンボルマーク
今年度の取組

今年度から8月を「パパの子育て応援月間」とし、公募した応援メッセージをラジオ放送するとともに、県内6か所で「パパの子育て応援セミナー」を市町村との共催で実施しました。

また、父親の子育て力の向上や交流の促進を図るため、子育て中の父親をメンバーとする「おおいたパパくらぶ」を立ち上げ、「遊びから学ぶ、こどもとの関わり」「パパのための絵本の読み聞かせ講座」「ママとのパートナーシップ」など、計6回の講座を開催しました。

今年2月11日には、「子育てハッピーアドバイス」シリーズで有名な明橋大二先生の講演やNPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんの絵本の読み聞かせワークショップ等による「男性の子育て参画日本一フォーラム」を開催することとしています。

一方で、県庁における男性の子育て参画を推進するため、職場実態に応じた「大分県庁子育てパパサポートプラン」を部局ごとに定め、職員の意識改革や育児休業等の取得促進といった取組も行っています。

男性の子育て参画の推進は、(1)男性自身も子育てや家庭生活を楽しむ時間を持つことができる。(2)子育てを経験することで視野が広がるとともに、周囲の協力を得たり、時間を上手に使ったりと段取り力の向上も期待できる。(3)家事や育児の楽しみや大変さを共有することで、夫婦間の信頼が高まる。(4)家族のふれあいが増えることは、子どもの健やかな育ちによい影響を与える。といった効果が期待できます。

本県では、すべての人が仕事と生活の両方を充実できる、ワーク・ライフ・バランスの推進に資する男性の子育て参画の推進に今後も積極的に取り組んでいきます。

(福祉保健部こども子育て支援課)

「おおいたパパくらぶ」料理講座
「おおいたパパくらぶ」料理講座

実際にはどう進めていけばいいでしょうか?
平成22年度男女共同参画ヤングリーダー会議4班

「男性、子どもにとっての男女共同参画」を進めることが重要であることは分かっていながら、実際にどのように進めていくかというのは常に悩みの種です。平成22年11月に開催された男女共同参画ヤングリーダー会議の班別討議において、「男性、子どもにとっての男女共同参画」を取り上げた班のメンバーの実際の活動を基に、「男性、子どもにとっての男女共同参画」実践例を班の報告内容を一例としてご紹介します。

Q:男性の家庭、地域への参画ってどうアプローチするといい?

人生のフェーズごとにアプローチは異なってくると思います。独身の人もいるし、プレパパとかマタニティの人もいるし、現役のパパもいるし、シニアの人もいます。その中で例えば独身の人に子育てとはこういうものだと言っても、なかなか関心がないので、訴えかけるのは難しいと思います。そこで、そういう人には、1人で生きていく力をつけていく、つまり自活をする力をつけるというふうにアプローチしたらいいのではないかと思います。

プレパパやマタニティの方に関しては、例えば両親学級の際に、沐浴指導だけでなく、現役のパパと自分の持っている不安なことについての話ができたり、つながりができたりすると、ロールモデルも見えるし、後々パパ同士のつながりにも発展していくので、そのような両親学級ができるといいのではないかと思います。

また、現役パパに関しては、おやじの会だとか、いろんなパパをつなぐような活動がきっかけになると思います。

Q:実際に男性の参画を進めるきっかけづくりって?

通常、例えばパパ対象とした講座を開いても、パパはなかなか集まってこないことが多いです。群れるのを嫌がったりとか、そういう組織に入っていくのを物すごく嫌がる男性も多いので、まずは、「イベントありき」で考えることが重要だと思います。

ママを入り口にパパを引っ張り出してもらうとか、一番いいのは子どもが楽しめる家族向けのイベントなどで集客して、そこにパパを引き込むというのがいいのではないかと思います。

そうしたきっかけづくりという意味でいえば、「お父さん集まれ」というのではなくて、このイベントを行うので、楽しいことをしたい人、この指とまれというところから、後付けで団体にしていくという手法もいいと思います。

一回やったことが楽しければ、次もやろうということになり、その後例えばPTAの役員になったり、地域の防犯活動に携わるなど、地域の子どもを見守ることは楽しいということで実際の活動などにも発展していくのではないかと思います。

Q:新たな組織を立ち上げた後、参加者を増やしていくには?

従来は四角四面のプリントでイベントを紹介し、参加できる方は署名して返してくださいといったやり方をしていたのですが、何とか間口を広げる方法はないのかという話になったときに、チラシみたいなものに変えていくことにしました。これは、サークルですよと、楽しいですよ、ということを全面に打ち出すことにして、そういうところから興味を持ってもらうということにすごく努力を割きました。

また、例えばサッカーゴールのペンキ塗りの活動を行うときでも、サーカーゴールはひっくり返さないと塗れない部分があるので、ペンキが乾くまで待ったりするなど時間がかかります。そこで、その間にソフトボールをすることにしました。ソフトボールをやりたいお父さんはたくさんいるので、そこに参加してきたお父さんもそこで一緒に勧誘して参加者を増やしていきました。

また、参加者を増やしていく中で、お父さん方が心配されることが多いのは、責任を負わなければならないのではないか、何か催しがあるたびに来なければならないのではないかということです。そこでそうした不安を解消するために、1つだけ会則をつくりました。それは、「できる人が、できるときに、できることを」です。注意書きとして、飲み会にはなるべく出席しましょうというのが指示書きとしてあるんですけれども、それぐらい気軽に参加できるような形にすることで間口を広げていくのがいいのではないか。そこから深く入り込んでいくようにしていくのがいいのではないかと思います。

Q:子どもの頃から男女共同参画について理解してもらうには?

子どもたちが一番何を見ているかというと、お父さんやお母さんの姿だと思います。したがって、子どもに自然な形で伝えていくためには、大人が男女共同参画についての理解を深めていくことが必要だと思います。そうした中で、父親が自然な形で子育てに関心を持ち、関わることができれば、自然と、同じ子育て真っ最中のパパ友ができたりして、お父さん同士のつながりができていくと思います。そうした姿を子どもたちが見て育っていくことで、自然と学んでいくことが非常に多いのではないかと思います。

親子で触れ合うということを目的として、例えば食育レストランといったイベントを開催すると、食卓というものをお父さんもお母さんも子どもも一緒になってつくっていきます。家族の食卓というのは、本当に子どもたちにとっても、大人の私たちにとってもふるさとです。そういったものを一緒につくって、一緒に囲んで分かち合う。そんな活動を通して、お父さんがいろんな子どものことに目を向けたり、育児のことに目を向けたりというきっかけづくりになればいいと思っています。いろんなきっかけによって、夫婦のお互いの苦労を知ったり、共有できることで、年数をかけて子どもたちにも伝わっていくのかなと感じます。

Q:地域での活動に時間を割くと、家庭での男女共同参画がかえっておろそかにならない?

子どもと一緒におやじの会に頻繁に出席していたところ、今度は準備する側になり、結果的には家から出ることが多くなったことがありました。

そこで、毎日晩御飯を食べた後に必ず食器を洗いながら、5分でも10分でもいいから、妻の話を聞くことにしました。こっちから話をするのではなくて、今日1日あったこととかの話をどんどん聞いていこう、というスタンスです。ありがたいことに、食器を洗う時間というのは、子どもたちも来なくて、妻とコミュニケーションがとれる時間になりました。ご飯を食べている時間は、子どもたちが一生懸命話をするので、実は妻と話をする時間があまりなくて、どうしたら話ができる時間がつくれるかなと思っていたら、それは食器を洗う時間だということに気づきました。食器洗いをしながら妻の話を聞くというのを始めたことで、地域の活動などで表に出ることが多くなっても、いい夫婦関係がつくれるようになりました。

結局、男性と女性が寄り添うこと。これまで女性が行っていた(行うべきと思われていた)分野に男性が進み出ること。これまで男性が行っていた(行うべきと思われていた)分野に女性が進み出ることで、お互いを理解し、認め合うようになり幸せな世の中を実現できるのではないかと思います。

(平成22年度男女共同参画ヤングリーダー会議4班:近澤恵美子(埼玉県)/荒巻仁(福井県)/藤森新五(静岡県)/鬼頭真理子(愛知県)/山本雄二(鳥取県)/高橋勝子(香川県)/筒井美佐子(香川県)/中村和憲(愛媛県)/赤木貴尚(長崎県)/坂井一也(熊本県)/浅井紀子(相模原市)/戎多麻枝(大阪市))