「共同参画」2010年 12月号

「共同参画」2010年 12月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(8) 組織全体に浸透させる方法の実例-鳥取県庁
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

現場の主体性を引きだす

WLMのキーワードは『働き方の見直し』だが、現場に「やらされ感」が漂わないように注意すべきだ。そのためには、最初から解決策・他社事例を紹介しないで、ワークショップ等を活用して現場の主体性を引きだすといい。

また、部署のメンバー全員で職場の業務を洗い出して、再検討する場を設定する方がうまくいく。各人ができる範囲で、気付いた小さな改善を積み重ねてもらうといい。改善の結果、実際に業務が進めやすくなり、自分たちが楽になると気付くと、自主的にどんどん取組みを深めていくものだ。

以下、鳥取県庁の取り組みをご紹介したい。

1年で時間外を3割減らした鳥取県

先進自治体として名高い鳥取県だが、昨年からWLBの浸透と現場の業務改善を進めてきた。

筆者は県政アドバイザーを拝命しているご縁があり、昨年度からワークライフバランス推進コンサルタントとしてサポートしてきた。今年度からは、中部産業連盟のコンサルタントの方々も加わり、トヨタ方式で業務改善を指導なさっている。今年度当初には、平井知事が時間外勤務縮減に本腰を入れると宣言し、本年5月から『スマート県庁55(ゴーゴー)プロジェクト』を開始し、全職員の業務効率を5%向上させることで、2年間で時間外勤務を半減させることを目指している。

出発式をメディアに公開したり、国の労働局の方々も業務改善研修に参加をするなど、庁外にもかなりオープンな形で進めている点が特徴的だ。

そして、「午後4時以降の新たな指示の禁止」「職員の時給を表示し、労働コストを意識した働き方の推奨」などの取り組みを進めている。鳥取県には、約300の部署があるが、各部署の管理職、補佐職クラスを対象に研修を実施し、40人を「カイゼン推進員」に任命した。さらに、成果を県庁内で横展開するため、3つのモデル職場を選定した。

こうした取組みの結果、全部署の7割で「気づいたところから改善」がなされたという。例えば、(1)会議のムダ(目的が曖昧、参加者数や回数が過剰)、(2)資料作成のムダ(会議用資料の余剰、コピー機前の待機)にメスが入れられた。7月末時点で時間外勤務は対前年比35%と大幅に縮減した。

「庁内の資料が過剰品質となりやすいことに気づいた」「定時で帰りにくい雰囲気がなくなった」「暗黙知をみんなで洗い出して、良いことは真似をする雰囲気が生まれた」「自分たちが楽になるとわかった」等の変化が起きている。

今後の課題としては、積極的に取り組もうとする前向きな職場もある一方で、「やらされ感」「上すべり感」が依然としてあり、「職場による取組の差」が生じてきている。特に、管理職がカイゼンに懐疑的な職場や職員自身が、自身を楽にする取組(カイゼンの本質)だと理解していない職場においては、消極的といった点が挙げられる。

こうした点を踏まえ、来年度はワークライフバランスとの両輪、一般職員向けのカイゼンに関する研修、全庁的課題に対する優良な取組事例を横展開が計画されている。

図表1 鳥取県モデル部署の時間外勤務の変化
図表1 鳥取県モデル部署の時間外勤務の変化

【取組み】

(1)仕事の平準化

・仕事の分担

・仕事のシェア⇒ 余裕のある職員、非常勤職員へ

(2)仕事の見極め

・ムダな作業は止め、後でもいい作業は後回し

(3)品質は確保されているか?

・決算の時期の作業であり、先送りなどではなく、実効数字(品質は確保されていた)

(4)今後の予定

・今後は、業務の標準化(マニュアル化)にも取り組み、より普遍性かつ効率的な方策を行う。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等の公職を歴任。