「共同参画」2010年 11月号

「共同参画」2010年 11月号

スペシャル・インタビュー

被害者に寄り添った支援の実現のために
~性暴力救援センター・大阪 SACHICO~

今回は、性暴力被害者に対する被害直後からの総合的支援を提供することができる施設を立ち上げた加藤治子さんにお話を伺いました。

被害者をいかに救うかということを第一に考え、寄り添うことのできる場所を

― 「性暴力救援センター・大阪 SACHICO」についてお聞かせください。

加藤 SACHICO(サチコ)では、性暴力被害者に対する救急医療の提供と同時に心のケアも行う総合的な支援を提供しています。SACHICOという名前は、Sexual Assault Crisis Healing Intervention Center Osakaの頭文字をとったものです。日本語にすると、性暴力危機治療的介入センター大阪となりますが、わかりやすく「性暴力救援センター・大阪」という名称にしています。

SACHICOでは、レイプや強制わいせつといった性犯罪被害者への対応を中心とした救急医療として、24時間対応のホットライン、産婦人科的診療(性器等身体的外傷への対処、緊急避妊、性感染症の検査と予防処置)、さらに証拠採取も行っています。

また、性暴力被害者は心身とも非常に傷ついていますので、救急的対応を行うと同時に、心のケアも始めることが重要です。必要に応じて、カウンセラーや精神科医を紹介するほか、被害者に対し、「あなたは悪くない」というメッセージをしっかり伝えて被害者のエンパワメントを支える場所としての役割も果たしています。

― SACHICOにはどのような設備があるのでしょうか。

加藤 SACHICOは病院内にありまして、その一室に24時間対応のホットラインを置き、支援員が常駐しています。電話でお話を聞いて、必要があればSACHICOへの来所をお勧めし、面談や産婦人科的診察を行います。

産婦人科外来の一般の患者さんと一緒に待つのは被害者にとって非常に苦痛ですので、待合室、面談室、診察室は一般の産婦人科外来とは別の場所に設けています。

診察室にはトイレとシャワー室を備えており、被害を受けてすぐに来所された場合には、ここでシャワーを浴びることも可能です。

診察の際に採取した証拠物も保管できるようにしています。

― SACHICOはどのように運営されているのですか。

加藤 活動資金は、寄付をもとに設立した基金で賄っています。カウンセリング料の補助や医療費の貸与なども行っています。

SACHICOは病院内に設置しているため、24時間、産婦人科の医師が対応することができます。また、原則、女性の医師が対応するようにしています。

支援員は、電話相談の対応や、診察前の基本的情報の聞き取りなどを行っています。支援員は、養成講座・研修により、養成しています。

― 総合的支援を行うためにどのような連携がなされているのでしょうか。

加藤 SACHICOの機能を維持強化するために、関係機関とのネットワークを構築しています。カウンセラーやケースワーカー、臨床心理士、精神科医師、小児科医師、弁護士、法医学者のほか、警察や産婦人科医会等とも連携して支援を行っています。

被害者の了解があれば、警察への通報を行っており、その場合は、警察がSACHICOへ来て、被害者に事情を聴取してくれます。逆に、警察が被害者をSACHICOに連れて来ることもあります。

また、大阪弁護士会の方々が集まり、相談対応のためのシフトを組んでくださっていますので、弁護士さんに相談したい場合には、連絡をとることが可能です。

― SACHICOの立ち上げから半年が経ちました。

加藤 電話相談の件数は、9月までの半年間で700件を超えています。多くは過去の被害に苦しんでいる方です。レイプや強制わいせつの被害直後に来所した方は、半年間で39人いました。そのうち、20歳未満は25人(64%)でした。

これまでは、警察や養護教諭、親などから紹介されて来所するケースが多かったのですが、若い人にもSACHICOの存在を知ってもらえるよう、最近は携帯サイトに情報を載せています。

― 今後、SACHICOのような総合支援施設が広まっていくには何が必要でしょうか。

加藤 実際に活動を始めてみて、支援が有効に機能するには、産婦人科医療と支援員による活動が密接にタイアップしていることが重要だと実感しました。病院内に設置しなくても、産婦人科医療にすぐにつなげられるような体制は必要だと思います。

とはいえ、被害者への対応は、ゆっくりと時間をかけて話を聞いたり、診察などについても一つずつ本人に納得をしてもらって進めていく必要があるので、診察だけでもとても時間がかかります。ですから、病院の協力と医者自身の理解が重要です。SACHICOは阪南中央病院の中に開設することができました。産婦人科として長年取り組んできた実績があり、病院側も積極的に協力してくれる素地があったのです。ですが、産婦人科医であれば、日常業務の中で性暴力被害に遭った患者さんを診ているわけですから、被害者支援のために何とかしなければならないという問題意識を持っている医師は、全国にたくさんいるはずです。そういう人を中心に、こういった施設を作っていくということができると思います。

24時間対応でないといけないかというと、もちろんその方が望ましいとは思うけれども、24時間対応に固執してできないという結論になるよりも、支援に取り組む施設が増えることが大事です。運営形態には、いろいろなバリエーションがあっていいと思います。

同時に、ホットラインの費用、設備費、運営費、被害者の医療費、カウンセリング料、病院への補助などが公的に保障されることが重要だと思います。

― 最後に、「共同参画」の読者や、誰にも相談できないでいる被害者の方へのメッセージをお願いします。

加藤 性暴力被害というのは、その人の生きる力を失わせてしまうほどのとても辛い体験です。まず、被害者をいかに救うかということを第一に考え、寄り添うことのできる場所が必要です。被害者の方が一人で悩まずに、SACHICOやこれから出来るであろう同様の施設を利用してくださることを願っています。

加藤 治子 性暴力救援センター・大阪(SACHICO)代表・産婦人科医
加藤 治子
性暴力救援センター・大阪(SACHICO)代表
産婦人科医

かとう・はるこ/
1974年大阪市立大学卒業、1975年より阪南中央病院勤務、産婦人科医療に従事。
1986年より院内で助産師・臨床心理士たちと「周産期社会的ハイリスク研究会」を組織し、社会的・精神的にハイリスクな妊産婦を支援。2009年3月まで、阪南中央病院産婦人科部長。同年4月より「女性の安全と医療支援ネット」準備室室長。2010年4月より性暴力救援センター・大阪(通称SACHICO)代表。