「共同参画」2010年 11月号

「共同参画」2010年 11月号

特集

女性に対する暴力の根絶に向けて(2)
NPO法人 DV防止ながさき

自立支援をいっそう進めるために ~DV防止ながさきの活動と官民連携事業について~
―民間ならではの柔軟さを生かして、地域で生きていくための支援を模索中―

これまでの活動の中で、「保護所を出て最初の一週間が不安で寂しくて・・」という被害者の方のことばが気になっていた折、保護所を退所した方等への就労支援事業を長崎県から委託され、官民連携の活動がスタートしました。想像以上に様々なニーズがあることがわかり必要性、有効性を痛感しています。

平成21年度に長崎県から、「一時保護所を退所した方々などへの就労支援を委託事業としてやってみませんか」とお話があった時には、これはぜひ実現したい事業だと飛びつく思いでした。

DV防止ながさきは、2002年の団体設立以来、電話相談や面接相談、啓発講座、若い世代への予防教育、そして当事者の方たちの居場所づくりなどといった活動を、いわばボランティア活動の範囲で続けてきていましたが、当団体でシェルターを所有しているわけではありません。行政との連携も特にルールはなく、相談窓口の紹介や、一時保護の必要があれば、県の配偶者暴力相談支援センターを紹介してつなぐという程度でした。退所者の方が、たまたまDV防止ながさきへ個人的に依頼されることがあれば、支援をするというかかわりが多かったと思います。

しかし、多くの被害者の方が共通して言われる「一時保護所を出て最初の一週間がもうとても不安で・・・・」ということばがいつも気になっており、なんとか地域での生活のスタートの時点から有効な支援ができれば、その後の生活がかなりスムーズになるのではないかという思いが強くありました。

平成22年2月から、長崎県の委託事業として地域での生活の支援ができるようになった今は、ご本人が希望さえすれば、その意志に基づいて支援ができるし、何よりも行政の支援の延長線上に民間の支援が位置づけられることにより、切れ目のない支援の実現が可能で、利用者の安心感も格段に高まったと思います。

具体的な支援の流れは、事業の性格上、あまり詳細には書けませんが、支援を希望する被害者の方と担当者(支援者)が話し合いをしてどのような支援を希望しているのかを確認し、地域で生活を始めると同時にニーズに応じた内容の活動をスタートさせるという仕組みとなっています。(図参照)。

図 委託事業の流れ
図 委託事業の流れ

しかし、「就労支援事業」と銘打ってはいるものの、被害者の方々の回復や自立、就労は、簡単なものではありません。それまでの長い暴力の影響で傷つきが深いほど時間がかかります。就労以前の段階で、まず安心、安定した環境づくりが第1であり、その環境が整うまでに、場合によっては数年かかることもあります。しかも1人ずつ必要な支援内容は全く異なっていて多岐にわたっています。

被害者の方々は、暴力というたいへん過酷な経験に加えて、いきなり経済上の問題、子育ての不安、調停や離婚にむけての不安、見知らぬ土地での孤立感など、予想もしなかった問題に次々と直面し、それを解決しながら生活していかねばなりません。

暴力被害のトラウマで恐怖や不安が強く対人関係そのものが苦痛になっている場合も多く、各役所の手続きや裁判所に一人で出向くことにも困難を感じる場合があるので、支援者が同行することだけでも本人の安心感は大きくなります。心身の状態が悪く医療が必要になっているケースでは、まず生活を安定させるために通院や服薬をきちんとしているかなどの確認が必要なこともあります。保護命令発令中などで加害者の追跡の心配があるケースでは、夫の動向に過剰に反応して動揺しないように気持ちをサポートすることも必要です。それぞれの状況は千差万別ですが、問題が起きたときに、とりあえずいつでも相談できる支援者の存在があるだけでも、本人の心身の安定につながることを痛感しています。

これまで多くの方々の支援申し込みを受けてきていますが、本当に様々な方がいらっしゃるので、支援メニューは私たちが当初想定したよりも、どんどん幅が広くなっていて支援者も忙しく走り回ることが増えています。

支援活動の一部を紹介すると、

・離婚や調停などにむけての個別の対応の相談、同行

・当事者同士が安心して話せる集いの場をつくり、孤立しないような環境を作ること

・生活保護、年金、介護保険など役所の窓口に必要に応じて同行、場合によっては役所での交渉に助言

・入退院の手伝い、通院補助

・夫や元夫の行為への恐怖、不安に対するサポート

・就労情報提供、ハローワークへの同行、キャリアカウンセリング

・家計管理、育児などの基本的な生活面の相談、急病などの相談、家庭訪問

・クローズドな携帯サイトを使っての就労情報やお役立ち情報提供

などが主な活動となっています。

サポートする側としては、あくまで「自立」を支援することを大事にし、あまり依存的になってしまわないように適切な距離を保ちながらの支援が大事だと思っています。また支援者と被害者の1対1の個人的な関係だけにならないよう、集いの場で複数の支援者と顔見知りになったり、会議でそれぞれの方針を確認しながら、支援者全員でかかわっているという意識を持つようにしています。

モデル的な事業としてとりあえずは3年間という時限で始められているこの就労支援事業ですが、やればやるほど、このような枠組みでの支援が地域での自立には欠かせないという認識を深めています。

そしてこのような支援には民間団体ならではの柔軟な対応が必要で、行政と民間の役割分担によって、より被害者の方々に有効な支援ができるのではないかと思っています。今後、このような支援が全国どこの地域でも当たり前に受けられるような仕組みが永続的に作られていくことが必要だと思います。

反面、民間ならではの活動が有効とは言うものの、民間団体が継続して活動できるためには、やりがいのあるこの仕事を続けたいというスタッフの気持ちに応えるだけの経済的な基盤が欠かせません。

民間の経済基盤の確立が重要だと思います。

今後の夢としては、地域に点在して、孤立して生活している被害者の方々が、できれば集合して住めるようなステップハウス、グループハウスがあるといいねとか、その中の集会室で、簡単な就労訓練の場が持てたり、工房活動や、趣味のクラブ活動などをお互いが教えあったりする場があれば、早く元気になれるよね、など夢が膨らみますが、このような具体的な夢をイメージできるのも、地域で必要な支援機能というものが具体的に見えてきたためだと思います。

また、これまでの活動の中から、まず暴力を生まない社会づくりのための予防教育の重要さ、そして起きてしまった暴力の被害を最小限に食い止めるための早期支援、子どもへの影響を最小限にするための子ども支援、そして地域での自立支援のしくみづくり、そういった予防から支援までのトータルな枠組みが必要だと痛感しています。