「共同参画」2010年 8月号

「共同参画」2010年 8月号

特集

「平成22年度男女共同参画社会づくりに向けての全国会議」について
~話そう、働こう、育てよう。いっしょに。~
内閣府男女共同参画局総務課

男女共同参画週間の中央行事として、6月22日(火)、メルパルクホール東京(東京都港区)において、「平成22年度男女共同参画社会づくりに向けての全国会議」(シンポジウム)が開催され、ホームページ等を通じて応募された約710名の方々が出席されました。

男女共同参画社会の実現のために何が必要か、我が国社会が今後どう進んでいくべきかを考える機会として、男女共同参画週間の中央行事である、「男女共同参画社会づくりに向けての全国会議」を開催しました。

今年は、平成22年度男女共同参画週間キャッチフレーズである「話そう、働こう、育てよう。いっしょに。」をテーマに、困難を抱える男女が安心して暮らせる社会づくりや、いろいろな分野で活躍している方々の様々な男女共同参画の取組を紹介することで、老若男女を問わず、男女共同参画を身近にとらえていただくことを目的として開催しました。

また、今年は、開会前や、休憩時間、また、ロビーにおいて、男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰及び女性のチャレンジ賞・支援賞・特別部門賞、男女共同参画週間キャッチフレーズの各受賞者を映像にて紹介いたしました。

1.玄葉大臣の開会挨拶

開会にあたり、玄葉光一郎内閣府男女共同参画担当大臣から、「男性も女性も、その持っている個性や能力などを存分に発揮できる日本にしなければいけないと考えており、多様な生き方を全面的に支援したい。また、男女共同参画について、あらゆる政策分野にその精神を浸透させながら、着実に前進させていきたい。」旨の挨拶がありました。

玄葉大臣の開会挨拶

2.男女共同参画施策の動き(情勢説明)

内閣府男女共同参画局長より、「男女共同参画施策の動き」と題して、現在の男女共同参画の情勢に関する説明が行われました。その情勢説明では、(1)第3次男女共同参画基本計画策定に向けての動きや特徴、(2)特集である「女性の活躍と経済社会の活性化」を中心とした平成22年版男女共同参画白書の概要、(3)2010APEC女性リーダーズネットワーク(WLN)会合の紹介について、説明がされました。

3.基調講演「老若男女の参画社会へ 生活保障の新しいデザイン」

北海道大学法学部教授の宮本太郎氏により、 生活保障の観点から、老若男女の参加を促進する、男女共同参画社会づくりについての講演が行われました。

○男女共同参画を高く、大きな観点から位置付けなければならない。

経済成長戦略の一環としての男女共同参画や、老若男女の国民すべてが出番と居場所を見つけることができる社会づくりのその大事な根幹として位置づけるべき。

1999年に男女共同参画社会基本法が制定されて、最初の10年を経て、2009年からネクスト・ディケイド、次の10年に入ってきている。最初の10年は“男女共同参画社会”という言葉に対して、最初は何か少し特殊な考え方であるかのような誤解もあった。しかし、さまざまな議論が積み重ねられてくる中で、国民誰しも納得するどころか、この国を生き生きと蘇らせていく上で、大変大事な問題であるということがわかってきた。次の10年では、この問題を私たちの国づくり、そして老若男女がみんな元気に活躍できる社会づくりの一つの分野としてきちんと論じていく、その見通しが高まっていくだろう。

新成長戦略においても、その一環として男女共同参画社会づくりが明確な目標と共に位置付けられており、女性の就業率、継続就労率、男性の育児休暇取得率を高め、同時に、若者や高齢者の就業率も高めていく。まさに老若男女が出番と居場所を見つけていく社会づくりと同時に、これを成長への起爆剤にしていこうという位置付け方である。

○日本における男女共同参画づくりは、なぜ必要か。

雇用と社会保障を併せて、私たちが生活していくことを支える仕組みづくり、これが生活保障。この生活保障の観点から男女共同参画の問題を念頭に置いて、これまでの日本を振り返ってみると、実は社会保障や福祉については、これまであまりお金を使ってこなかった。それにもかかわらず、この社会は相対的に安定した社会を維持してきた。それは、雇用が非常にしっかりしていたからである。

つまり、雇用を軸にした生活保障というのが成り立ってきた。ただ、すべての人に同じように安定した雇用が保障されたというよりは、残念ながら、男性稼ぎ主にターゲットを絞られていた。

この雇用を軸にした生活保障そのものはいい形であり、社会保障にみんなが依存してしまうより、みんなが活躍の場をどこかで得て、出番と居場所を持って、そしてみんなが互いに支え合いながら社会を維持していくもの。

しかし、男性稼ぎ主に限定されていたということも相まって、幾つか問題点(三重構造)があった。

この三重構造とは、(1)官僚制行政が業界や会社を支え、保護する、(2)会社が男性稼ぎ主の雇用を保障する、(3)男性稼ぎ主が妻・子どもを養う。といった官僚制行政、業界、会社、そして家計というこれまでの日本の生活保障の構造である。

社会を安定させてきたという点では良い面もあったが、この三重構造を通して女性は、男性を通して会社や業界に生活を依存し、そして会社や業界を通して官僚制行政にさらに依存した。

しかし、1995年以降、この構造が崩れ、非正規化から貧困化が進んだ。

これまで、現役世代の生活は会社が面倒を見ていたため、社会保障や福祉に全くお金が回らなかったわけではないが、住宅や教育に対する行政の支出が少なかった。したがって、男性稼ぎ主の収入を補完するために、女性が働きに出るようになり、非正規化が進んだ。加えて、これまで補完する役割だったような労働条件、賃金水準で、家計の主たる稼ぎ主にならなければならなくなり、貧困化が進んだ。

1999年、男女共同参画社会基本法が成立し、法的・制度的に男女共同参画が目覚しく進展した年であった。一方で、労働者派遣法の改正があり、非正規化と格差拡大を象徴した年でもあった。男女共同参画は、格差の拡大や貧困化と並行して進んだといえる。実際に、男女格差に加え、女女格差、高齢者と若者の間の格差が拡大した。このため、経済活力を生み出すための戦略の一環として、また、老若男女、すべての国民が出番と居場所を確保できる社会づくりの一環として、男女共同参画を、きちんと位置付ける必要性が高まっている。

○外国の経験を見る必要があるのではないか。

私は、北欧、特にスウェーデンをフィールドにしており注目している。それらの国も決して天国ではなく、日本が先に行っている問題もたくさんあるが、スウェーデンが、強い経済、強い財政、強い社会保障を実現してきたということは、やはりそれなりの理由がある。日本と同じように、みんなが働ける条件づくりのために社会保障や雇用を展開するが、日本と違って、男性も女性もというところがある。

各国の女性支援のパターンとして、スウェーデンは「両性支援型」、ドイツが「家族単位支援型」、アメリカが「市場志向型」と整理できる。一方、各国の経済パフォーマンスや社会的支出、社会保障、福祉についても女性支援の3つのパターンに対応しており、女性労働力率が高い国は、経済成長率が高い。すなわち、強い社会保障を実現することで、強い経済が実現し、強い財政が実現する。この連関を実現するひとつの分岐点が、強い共同参画である。

○老若男女の参加を促進する4つの橋

これまでの日本は、教育を終えて働き始めるが、女性は家庭に入る。一方、男性はそのまま行って定年。失業すると、それは大きな打撃をこうむる。こういう一方通行型の社会、人生に対して、4つの橋を架けていく。第1の橋は、生涯教育や高等教育、第2の橋は介護や保育のサービス、第3の橋は公的な職業訓練、第4の橋は高齢者雇用のためのさまざまな支援政策や体や心が弱まってしまった人を雇用に結びつけるためのさまざまなカウンセリングのサービスなど。この4つの橋を架けるということが、今、日本社会の中で求められており、そして、男女共同参画をこの4つの橋の中の一環として位置付けることが重要である。

北海道大学法学部教授 宮本太郎氏

4.パネルディスカッション「話そう、働こう、育てよう。いっしょに。」

コーディネーターとして、NHK名古屋放送局報道部記者の山本恵子氏、パネリストとして、キリンアンドコミュニケーションズ株式会社代表取締役社長の河野真矢子氏、文京区長の成澤廣修氏、農業者(愛媛県宇和島市)の山下由美氏の3名をお迎えし、パネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、最初に3人のパネリストから自己紹介を兼ねて活動紹介をしていただいた後、会場の皆さんからの質問に対する回答を交え、活発な意見交換が行われました。

NHK名古屋放送局報道部記者 山本恵子氏

山本 パネリストのお三方は、企業、自治体、そして農業と様々な分野から参加いただいた。男女共同参画についてどのような取組をしているのかなどお話しいただき、身近な問題として感じ、実践していくヒントをつかんで欲しい。

まずは、パネリストの方々から活動について紹介を。

河野 1986年の男女雇用機会均等法の施行年に入社。就職活動ではまだ男女の差があり、採用試験日、試験内容が違っていたが、処遇は同じであり、採用面接時の企業の姿勢もとても誠実だと感じ、入社を決めた。

最初営業で、現在はキリンアンドコミュニケーションズで社長を務め、ちょうど2年余り。私自身は、あまり気に留めていないが、女性初の営業、女性初のグループ会社の社長等と言われ、そういうことがついて回る世代だと感じる。

入社時、キャリアを自分で切り開くという強い思いがあったわけではなく、ごく普通の社員。しかし、できることが広がり、成長を感じられたことと、社内外の人の支えがあったことから、今の自分がある。次世代育成を含め、自分の役割や、自分をどう役立たせるかということを考えている。

人事部の時に、多様性推進プロジェクトを担当。その際、キリン版ポジティブアクションの制定や、キリンの多様性推進活動である、「キリン・ウィメンズネットワーク」を作った。そもそも、キリンでは、2006年5月に「長期経営構想」を発表し、多様性の重視が企業経営のキーワードの一つとし、ポジティブアクションに取り組む。多様性は、グローバル化の中で、企業の競争力の向上のため必要。このため、将来の優良な人材を確保することが重要で、永続的な企業活動をにらんだ経営戦略として、女性の活用支援に取り組んだ。

成澤 特別職の公務員であり、休暇という制度や勤務時間がない。制度がないので「なんちゃって育休」といって休む宣言をした。動機は、(1)やっと子供を授かり、力いっぱい愛情を注ぎたいと思ったこと。(2)母体のサポートは産後8週間以内が望ましいこと。(3)育児休業をとっていない男性職員への後押し。

文京区民の意識調査(2009年)では、男女雇用機会均等法、ワーク・ライフ・バランスの用語への認知度等は全国平均よりかなり高い。社会全体での男女の地位等の平等感等についても全国平均に比べると良い。一方、「子どもは男らしく、女らしく育てよう」については6割近くがそうだとし、「女性も経済的な自立をしたほうがいい」や、「男の子も家事ができるように」という方は、当然、9割を超える。

23区で女性議員が最も多いのは文京区。審議会や職員、管理職についても全国平均等よりも高い。

区長として育休を取ったことは、賛否両論あり。否定的な意見は、感情的、先鋭的、危機管理上の問題を懸念。大企業や公務員だから出来るというものも。しかし、実は中小、零細企業の方が育休を取得しているというデータもある。

育休中、母は偉大だということがわかった。男が育児をすることについて、力を入れず、恩着せがましい意識を見せないことが重要。

山下 非農家から柑橘、水稲の農家に嫁いだのは21歳。農家女性として自立するためにはどうするべきか。葛藤の日々が続いた。

そんなときに出会ったのが地域のJA女性部。そのころ、JA女性部の中に若手グループ、フレッシュミズ部会ができ、活動のきっかけに。農家女性として経済的にも精神的にも自立がしたいといった明確な目標ができた。

まずは、元醤油工場を借り受け、「津島あぐり工房」を立ち上げた。最初4人で活動していたが、地道な活動が認められ、JA女性部全体の取組へと変化。組織力、継続することの大切さを痛感。また、「つしまうまいもん宅急便」、JA女性部の手作りのお店「よんさいや」を立ち上げた。

家業の農業とJA女性部の全国女性組織協議会の理事として奔走する中、タイへの商品開発指導のJICA専門家派遣に飛び込んだ。治安が悪いことなどで両親は反対。しかし、夫が強い味方に。挫折しそうになったこともあったが、結果的には、タイ農業省への報告書が認められ、タイ全土の関係機関にマニュアルとして配付された。

その後、認定農業者となったことをきっかけに、コメ粉パン専門店をオープン。さらに、遊休施設・農地解消と地場産業の活性化を目指す。

山本 なぜ、男女共同参画社会があまり進んでいないのか。

河野 男女共同参画は、福利厚生、女性の権利・主張という誤解がある。男女共同参画は、企業戦略。

成澤 固定的な役割意識を持っている人はかなり残っている。

山下 家女性は、縁の下の力持ちで、消極的。チャンスを与えられても、積極的に手を挙げない。

山本 男女共同参画がなぜ必要なのか、実感する点は。

山下 農業は、JA運営に参画しないと、現場女性の声が届かない。

成澤 男性の育児休暇を推進する際は、意識改革が重要。

河野 男女のみならず、多様な人が、国、企業にとって必要。

山本 男女共同参画と子育てについてどう考えるか。

河野 両立支援策は、企業内だけでは限界があり、社会全体で取り組む必要がある。例えば企業で保育所を作っても通勤事情により子供を連れてこられないなど。

成澤 子育てに専念することを選んでいる人たちに対する行政の支援も大事。育児ノイローゼや産後ストレスなど問題は色々ある。

山下 農業女性は、当たり前に、家事・育児・介護を担う。家族みんなでの子育てへの協力も重要。

山本 男女共同参画を進めていく上で、鍵になったことは。

河野 トップが情報発信し、企業経営戦略として、男女共同参画に取り組む。女性自身の意識改革も。

成澤 トップがメッセージを伝えること。男女共同参画を家族で考えることが大切。

山下 女性自身の意識を変え、チャンスは逃さない、与えられたらやってみる。女性のネットワークを広げることも重要。

山本 男女共同参画について悩む男性へのメッセージを。

河野 「知らない」ことを知らないのではなく、「知らない」ことに気付くことが重要。気付けば、その次のことを考えられる。

成澤 男性を変えるのは女性。

女性だけに育児を任せておくのはもったいない。考えているだけでなく、何でもいいからやってみる。

山下 わからない男性を変えようと思っても無理。自分のやっている姿を見せ、示すことが大切。

3人のパネリスト