「共同参画」2010年 7月号

「共同参画」2010年 7月号

特集

女性の活躍と経済・社会の活性化
―平成22年版男女共同参画白書の公表―
内閣府男女共同参画局調査課

内閣府男女共同参画局では、本年6月15日(火)に、平成22年版男女共同参画白書を公表しました。今回は、特集編「女性の活躍と経済・社会の活性化」のポイントをご紹介します。

1.はじめに

本年6月15日(火)に、平成22年版男女共同参画白書を公表しました。

男女共同参画白書は、男女共同参画社会基本法に基づいて毎年国会に提出するもので、今年で11回目になります。

我が国では他の先進国に比較して女性の参画が進んでいないのが現状ですが、それは裏を返せば、女性の参画が進み、女性の活躍する場面が多くなればなるほど、その潜在的な力が発揮される可能性が大きいことを意味します。こうした問題意識から、今回の白書では、「女性の活躍と経済・社会の活性化」を特集のテーマとして取り上げ、女性の活躍を進めることが経済成長にも有効であることを述べています。具体的には、女性の就業継続などによって我が国の労働力人口減少の影響を緩和できること、また、生活者としての視点が需要の創造につながる可能性があることなどについて分析を行い、その実現に向けた課題等について記述しています。

ここでは、特集に当たって内閣府で行った女性の労働力人口増加の試算や「男女の消費・貯蓄等の生活意識に関する調査」の結果などを中心に特集編のポイントをご紹介します。

2.女性の活躍と経済・社会の活性化

【就業における女性の参画の状況】

我が国の女性の労働力率を年齢階級別にみると、30歳代を底としたいわゆるM字カーブを描いていますが、米国、ドイツ、スウェーデンでは、このようなM字のくぼみは見られません。この背景には、我が国では依然として結婚、出産、子育て期に就業を中断する女性が多いことがあげられます(図表1)。

図表1 女性の年齢階級別労働力率(国際比較)
図表1 女性の年齢階級別労働力率(国際比較)

【人口減少と少子高齢化の影響】

我が国では、人口減少と少子高齢化が同時に進行しています。労働力人口や消費者数の減少は、経済成長力の低下につながることが懸念されます。また、働く人の割合が減り、扶養される人の割合が高まる状況において、経済全体として一人当たり所得の増加を続けるためには、生産性の向上を図ることが不可欠となっています。

【「M字カーブ」解消による労働力人口の増加】

M字カーブの解消等を図った場合の労働力人口の増加について簡単な試算を行ったところ、女性労働力人口が131万人~445万人増加する可能性があるとの結果となりました。詳細は図表2のとおりですが、現状でM字カーブが解消した場合には女性労働力人口は131万人増加します。また、現在の潜在的労働力人口は345万人であり、この潜在的労働力率を前提にM字カーブが解消した場合には445万人が増加するという試算結果となっています。

図表2 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算
図表2 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算

【「賃金総額」でみた就業への女性の参画の状況】

内閣府において、男女の「賃金総額」の男女比を試算し、国際比較を行いました(図表3)。その結果、我が国の女性の「賃金総額」の対男性比は4割弱に過ぎず、先進国中低位であることが分かりました。「賃金総額」は、「就業者数」、「労働時間」、「時間当たり賃金」という3つの要素を掛け合わせたものです。この「賃金総額」が他国と比べて低い原因は、「就業者数」、「労働時間」、「時間当たり賃金」のそれぞれにおける男女の差が他国に比較して大きいことにあります。

また、我が国の男女間の賃金格差(時間当たり賃金)の要因については、職場における役職や勤続年数の男女差が大きく影響しています。

図表3 賃金総額男女比の国際比較
図表3 賃金総額男女比の国際比較

【女性の高等教育在学率と高学歴女性の就業率】

我が国では、女性の高等教育(大学・大学院、短大、専修学校等)の在学率は54.1%であり、9割を超えている米国や北欧諸国と比較してかなり低いものになっています(図表4)。

また、我が国は、高等教育を受けた女性(25歳~64歳)の就業率がOECD諸国の中で最も低いグループに属しています。

図表4 高等教育の在学率の国際比較
図表4 高等教育の在学率の国際比較

【生活者の視点による新たな市場の創造】

内閣府が平成22年3月に実施した意識調査(男女の消費・貯蓄等の生活意識に関する調査)によれば、男女の消費意向等について、以下のような傾向が分かりました。

(1)女性の方が、今後の成長分野(「環境・エネルギー」「健康」「観光・地域活性化」1)における消費意向が高い(図表5)。また、女性の方が、商品・サービスの選択に当たり「環境」や「安全性」を重視する傾向がある。

(2)積極的に育児をする男性は、それ以外の男性と比べて家電や育児関連サービス、子育てを楽しむための商品やサービスなどにおける消費意向が高い(図表6)。

(3)仕事を持ち続ける・持ち続けるつもりの女性は、家電、情報機器、子どもの教育費などにおける消費意向が高い(図表7)。

このような傾向から、女性や生活者の視点を取り込むことが成長分野における需要の創造や掘り起こしにとって重要と考えられることに加えて、女性の労働市場への参加、男性の家事・育児への参加、「イクメン(積極的に育児をする男性)」の増加など、人々のライフスタイルの変化の中には、新たな需要創造のフロンティアが潜んでいる可能性が大きいと言えそうです。

  1 政府は、「環境・エネルギー」「健康」「観光・地域活性化」を今後新たな需要を創造しうる成長分野と位置づけている。

  • 図表5 今後お金をかけたい消費分野(性別)
    図表5 今後お金をかけたい消費分野(性別)
  • 図表6 今後お金をかけたい消費分野(男性、ライフスタイル別)
    図表6 今後お金をかけたい消費分野(男性、ライフスタイル別)
  • 図表7 今後お金をかけたい消費分野(女性、ライフスタイル別)
    図表7 今後お金をかけたい消費分野(女性、ライフスタイル別)

【生活者の視点をいかした女性の起業】

近年、女性による起業が増加していますが、「小売業」「飲食店」「医療、福祉」「教育、学習支援」など生活密着型の分野で多くなっています。農村における女性の企業も増加しており、地域内外の人々や組織のネットワーク化を図り、地域活性化に結びつけようとする取組も見られます。このような女性の起業の流れを後押しすることは、新たな需要の創造に寄与していくものと考えられます。

【女性の活躍と企業の活性化】

企業における女性の参画と業績との関係については、直接的な影響というよりも、男性も含めた仕事のやり方の見直しや女性が活躍できる企業風土などが、結果として企業の業績によい影響を与えているものと考えられます。

女性が就業継続できる環境を整備していくためには、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)や働き方全体の見直しが必要であり、多様なライフスタイルをもつすべての人にメリットが及ぶことが必要です。さらに、仕事のやりがいや能力発揮の機会がある職場環境を整備していくことが重要です。こうした取組を通じて人材の多様化を図っていくことは、新しい価値を生み出すための一つの重要な仕掛けとなります。

【「出番」と「居場所」のある社会の実現に向けて】

相対的貧困率2の男女別・年齢別の特徴をみると、ほとんどの年齢層で男性に比べて女性の方が相対的貧困率が高く、その差は高齢期になると更に広がります。世帯類型別には、高齢単身女性世帯や母子世帯で高くなっています。このように、女性が貧困に陥りやすい背景の一つには、女性は非正規雇用が多いこと、就業継続や再就職が難しいなど就業構造等の問題があります。さらに、非正規雇用をめぐる状況の変化(男女の若年層や女性の高年層での上昇など)の中で、今後は、正規・非正規といった雇用形態等にかかわらず、経済成長の恩恵を様々な人々が享受できる機会を高めていく必要があります。そのためには誰もが「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」を得ることができる社会を構築していく必要があります。

こうした中で女性の潜在力をいかしていくためには、女性の就業継続支援、仕事の質の向上、能力発揮促進のための支援、仕事と生活の調和の推進、様々なライフスタイルの選択に中立な社会制度の構築等を積極的に進めていくことが必要です。

男女共同参画社会の実現は、男性や専業主婦などを含めたあらゆる人々にとっての課題です。女性の潜在能力を発揮できる社会の構築は、多様性のある社会づくりにつながります。すべての人々に「出番」と「居場所」がある社会の実現に向けて、今、改めて、男女共同参画の視点に立って、社会全体のシステム改革に取り組んでいく必要があります。

  2 「相対的貧困率」とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した取得)の中央値の半分に満たない世帯員の割合を算出したもの。

3.女性の参画拡大に関する国際機関の提言等及び女性の活躍に関する様々な取組事例等~特集編のコラムより~

特集編では、上述のように、各種統計データや意識調査を用いた分析を行っていますが、これに加えて、女性の活躍と経済の活性化に関する様々な国際機関の提言や、女性の活躍に関する企業等の実際の取組事例をコラムとして掲載しています。ここでは、特集編のコラムからいくつかをピックアップしてその概要を紹介します。

【女性の活躍と経済の活性化:国際機関の提言等】

様々な国際機関のビジネス戦略や経済成長戦略に関する提言の中で、女性の参画の拡大の必要性が位置づけられています。

(1)UNIFEM(国際婦人開発基金)と国際グローバルコンパクトによる「女性のエンパワーメントのための指針」(仮訳)(2010年3月)(抜粋)

・男女共同参画のためのハイレベルな企業リーダーシップを構築

・職場でのすべての男女の公平な待遇-人権及び非差別の尊重・支援

・女性のための教育、訓練及び専門的能力の開発の促進

・女性のエンパワーメントのための企業振興、サプライチェーン及びマーケティングの実施

・男女共同参画達成の進展状況の評価と公表

(2)第17回APEC首脳会議(2009年11月14日~15日)「成長の持続、地域の連繋強化」(首脳宣言)(抜粋) 「あまねく広がる成長(inclusive growth)」の助長

我々は、女性の経済的な機会を最大化するために、教育、訓練、金融、技術及びインフラへの女性のアクセスを向上させることに重点を置く。我々は、女性の経済的関与が生産性及び持続可能な成長に及ぼし得る正の乗数効果を増大するための女性企業家に対する持続的なアウトリーチを歓迎する。

(3)EUの成長戦略"Europe 2020" (2010年3月)

Smart Growth(知識と革新に基づく経済)、Sustainable growth(省資源、環境重視、競争的な経済)、Inclusive Growth(社会的包摂と地域の連帯をもたらす高雇用経済)という3つの方針が示されており、"Inclusive Growth"の実現のための施策には、男女共同参画を推進する政策の必要性が位置付けられている。

(4)OECDの日本に対する提言 (2009年11月)

「日本の政策課題達成のためにOECDの貢献」と題した報告書の中で、OECD諸国の中で、人口高齢化のもたらす影響は日本が一番大きく、労働参加率を高めることが優先課題となっているが、最も明らかな対象は働き盛りの世代(25~54歳)の女性であり、労働市場の二重構造を解消し、パート・タイムの仕事の質を上げることが、より多くの女性の就労を後押しすることとなるとしている。

(5)ESCAPによる女性の参画の経済効果の分析

国連のESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)が2007年に刊行した経済社会調査報告書では、ア域内の主要な7つの国・地域の分析に基づき、アジア太平洋地域の発展途上国の女性の労働力率が、例えば米国並みに高まることで、同地域のGDPが420~470億ドル増加するとのシミュレーション結果とともに、イ域内の国・地域27か国を対象とした分析に基づき、中等教育における男女格差の解消によってGDPが160~300億ドル増加する、という結果を示している。なお、女性の労働力率が高まることによるGDP総額等への影響については、現在女性の労働力率が低い国においてより大きな効果がみられることを指摘している。

【<取組事例(1)>人々のライフスタイルの変化に合わせた新たな価値の創造】

○仕事と子育ての両立を助ける駅前保育所の設置(A社)

 首都圏で鉄道を中心とする運輸業を展開するA社は、駅前保育所の設置で多くの実績を挙げている。駅前保育所があれば、働く女性の利便性向上に加えて、父親による送迎も実現しやすくなる。さらに、駅に生活サービスを集積できれば、同社の「生活サービス事業」の拡大も期待できる。社会的課題に対して、事業活動を通じた社会貢献の側面を持つ一方で、生活課題の解決を通じて新たな需要を生み出そうという需要創造の動きでもある。

○妊娠・授乳期の女性を新たなターゲットとしたノンアルコールビール(B社)

 B社のノンアルコールビールは当初は飲酒運転という社会問題の解決を目指したものだったが、妊娠・授乳期の女性からの支持も集め、「育児の長い月日もノンアルコールなら応援できる」が新たな商品コンセプトとなっている。女性の意識やライフスタイルの変化を先取りすることで新たな需要を獲得した例と言える。

この事例は、「多様性のあるチーム構成がヒット商品の開発につながった事例」でもある。当初想定していた顧客層がビール愛飲者の男性であったが、開発にデータ分析のノウハウを持つ女性人材が加わったことで、女性ならではの視点である妊娠・授乳期の女性への価値の提供という新たな側面が加わったという。また、商品のデザインにも女性の視点がいかされたことが顧客層を広げる結果につながったという。チーム構成員の多様性が新たな価値を生んだ事例といえよう。

○働き方を変え、社員のライフスタイルの変化が顧客ニーズをとらえた事例(D社)

 生活日用品、電化製品、家具から「家」の設計までも手がけるD社。同社のデザインが支持される理由の一つは、男女の共有が可能な「ユニセックス」にあるという。「夫婦で選んで、夫婦で使える・楽しめる」ことは男女で家事・育児を共有するライフスタイルの進展によって支持される新しい価値と考えられる。同社によれば、子育て中の男性社員の意見が新しい価値の提案に寄与している側面があるという。

【<取組事例(2)>自らの経験・体験をきっかけにした新たな価値の創造】

○授乳服の販売からライフスタイル支援まで(F社)

 電車内での授乳時に自ら感じた不自由さを解決しようと考え、授乳中に肌が露出しない授乳服を製作・販売しているF社。スタッフの多くが子連れ勤務であり、買物に訪れる人もほとんどが子連れであるため、同社では、事務所や販売店舗に、おむつ替え用スペースやベビーベッドを備えている。同社が提案したのは、子連れ出勤という働き方のスタイルであり、企業の女性活用の一つのヒントとなっている。

○母親目線で開発したメール配信システムが大ヒット(G社)

 子どもの夏休み中のプール開放の有無の電話連絡の大変さをきっかけに、携帯電話のシステムを利用したメール配信システムを開発したG社。母親目線の使い勝手の良さから大ヒットし、平成22年3月末には利用者も25万人超へと急成長した。

○ビジネスを通じた国際貢献(K社)

 創業者のYさんは、バングラデシュ滞在中にジュートという麻の一種をいかしたバッグの現地での製品化及び日本での販売を行うため会社を設立した。日本の消費者の生産地ツアーなどを通して二国間の民間交流を深めることにも一役買っており、ビジネスを通じた社会貢献としての側面も注目を集めている。

【<取組事例(3)>女性の活用と仕事の見直しを一体的に進め、良い効果を上げた事例】

前述のD社の生産性向上のための取組と女性社員活躍の取組はユニークである。D社が実施したのは、徹底した仕事の可視化・標準化と労働時間に制約を設けること。

同社では、「『毎日残業をしない働き方』は、『毎日残業する働き方』よりも厳しい働き方」と考えている。現在、本社部門は6時半退社、店舗は閉店から30分以内の退社がルールとなっている。女性の活躍のための環境づくりと仕事の見直しとが一体的に行われ、効果を上げている事例といえよう。