「共同参画」2010年 6月号

「共同参画」2010年 6月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(2)
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

今回から3回にわたり、ワークライフ・マネジメント(WLM)の第一段階である「従業員の意識啓発」を図る具体的手法について、ご紹介したい。

意識→行動→スキル

企業がWLBを推進する際に、現場の部課長クラスが抵抗勢力となることが多い。いくらWLBをレクチャーしても、なかなか染み込まない。頑なで、できれば触れたくないから、人呼んで「粘土層」(図表1)。

トップダウンで進めようとしても、分厚い粘土層があるため、なかなかWLBが浸透しない、という企業は少なくない。

一方で、粘土層の中に、わずかながらWLBに理解のある管理職もいる。筆者は、彼らを泥沼に咲いた「蓮の花」上司と呼んでいる。多くの蓮の花が咲き誇る姿こそ、職場が目指すべき極楽浄土だ。

管理職研修等で企業に出向くと、女性担当者から「粘土層管理職にWLBを浸透させるには、どうしたらいいですか」「どうしたら蓮の花上司のスキルを広められますか」と尋ねられることが多い。

筆者の回答は、「意識が変わると、行動が変わる。そして、行動が変わると、スキルが向上していくものだ。同様に、WLMも意識啓発段階⇒実践段階⇒スキル向上段階の順に進めることが重要だ」。

例えば、仮に「長時間労働は美徳」という職場風土を放置したまま、タイムマネジメント研修等で、スキルばかりを管理職に教え込んだとしても、大きな効果は期待できない。真先に着手すべきは、職場の風土改革であり、管理職をはじめとする従業員の意識啓発だ。

図表1 浸透を阻む要因『粘土層』
図表1 浸透を阻む要因『粘土層』

意識啓発を図るJFK

とはいえ、人の意識は簡単に変えられるものではない。基本的に、人は命令口調の「上から目線」には反発するし、哀願する「下から目線」は軽んじてしまう。意識啓発を推進する場合は、聞き手が「自分と話者の関係性」に目を留めるのではなく、自らを省みて「気づく」きっかけ作りとなるように心掛けるべきだ。

では、従業員に「気づき」を与えるのは何か。過重なワークが恒常化しており、時間面からみたライフが窮乏しているような職場を窮場(きゅうば)と略すと、「窮場危機」を救うのがJFK。すなわちジョーク、不安、感動だ。

WLB川柳・ポスターの効用

粘土層を正攻法で説得しようとするほど、彼らは頑なになってしまう。直球よりも、変化球で勝負すべし。婉曲的にジョークや風刺で気付きを与える方が効果的だ。また、トップダウンのみならず、ボトムアップの手法も組み合わせることで、「やらされ感」が漂わなくなる。

具体的には、全社員からWLB川柳やWLB標語入りポスターを募る手法がある。これまで十数社が実践したが、かなりユニークな作品が集まる(図表2)。

 ポスター例では、わき腹のぜい肉を指でつまんでトホホ顔のイラストの横に、『減ってうれしいのは体脂肪率と連日の残業』。ニコニコしている地球儀のイラストの横に、『エコ宣言!CO2CO2(コツコツ)減らそう残業削減』

こうした川柳やポスターを社内の各所に掲示しておくと、頭の隅に残る。小さな蓄積が功を奏し、「たまには早く帰宅してみようか」といった実践につながる。

次回は、JFKのF(不安)の効用について述べる。

■ WLB川柳の例 ■

(1) メシ忘れ 家庭忘れて 忘れられ

(2) 暇ならば 部下を誘わず 早よ帰れ

(3) 寝顔より 跳びつく笑顔が 活力剤

(4) 頼んだら 意外と美味しいパパごはん

(5) サービスは 残業×で 家族○

(6) 有休を 取れて仕事も 一人前

(7) 退社時間 上司定時で 俺零時

(8) 部下思い 思うだけでは 通じない

(9) 無駄省け 言った私を 皆が見る

(10)出先から 必ず帰社し 嫌われる

(11)メル友と 呼べる相手は 上司だけ

(12)明日でいい 言った翌朝 あれできた

(13)誘ったら 今日も「今日は」と 断わられ

(14)定時前 「すまんな」「悪いな」「よろしくな」

(15)名を呼ぶな! 私は終業 5分前

(16)帰りぎわ 5分ですむに ダマサレタ

(17)子の気持 わかるぞ上司は 選べない

(18)残業し サービス残業 チェックする

(19)残業も 毎日続けば 定時です

(20)残業代 カットでみんな サービス業

(21)手を出すな オレの仕事だ!残業用

(22)仕事ない だけど早くは 帰れない

(23)妻の声 残業ですか 上機嫌

(24)打ち合わせ 次回の日時を決めただけ

(25)クリスマス わざと会議を 長引かせ

(26)川柳が できないくらい いい職場

(27)「忙しい!」 言いつつ飲み会 フル参加

(28)力関係 躾けてないのに 分かる犬

(29)家族割 家事もみんなで 家族割

(30)育休を 稼ぎで決めて 主夫となり

(31)家族との 会話のつもりが 独り言

(32)加齢臭より もっとイヤな 過労臭

(33)ワークライフバランス?ワークとライフがバラバラざんすと嘆く妻

(34)働き方チェンジ!今すぐ上司をチェンジして

(35)もう8時とまだ8時。熟年離婚の分かれ道

(資料)

(1)~(6)は、川崎市男女共同参画センター「ワーク・ライフ・バランス川柳 入選一覧」より抜粋。

(7)~(31)は、第一生命「サラリーマン川柳」より抜粋。

http://event.dai-ichi-life.co.jp/company/senryu/index.html

(32)~(35)は、筆者が作成。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。