「共同参画」2010年 4・5月号

「共同参画」2010年 4・5月号

スペシャル・インタビュー

APEC女性リーダーズネットワーク(WLN)の役割と取組
2010WLN会合に向けて

今回は、WLNの共同創設者・元共同議長のアンドリーナ・リーバさんに、WLN創設の経緯、またその役割とビジョンについて伺いました。

WLNは、大きなエネルギーが生まれる場。世界各国の女性たちとお互いに学びあえるチャンスです。

― WLNの設立の経緯について教えてください。

リーバ 女性リーダーズネットワーク(WLN)は、1996年初めに、インドネシアにおいて、政府関係者と女性科学者や技術者が一堂に会するところから始まりました。この会合の目的は、理系分野にもっと女性を進出させよう、科学を学ぶ機会を女性に与えようというものでした。当時のAPEC会合の写真を見ますと、出席者は男性が大半で、女性はほとんどいないという状況でした。その状況を変えなければならないと考え、このWLNを立ち上げたのです。

WLNの目標は、いくつかあります。まず政策決定に女性の視点を反映させること、そして十分な数の女性が科学技術を学べるようにすること、また逆に女性たちにAPECの意義を伝えていきたいということです。これらを実現するためには、すべてのセクターがお互いに交流することが必要ですし、APECの場で政府に対しアドバイスできるような人材が必要になります。ところがそのようなアドバイスをできる女性を政府側が余り知らないという現状がありました。

そこで、専門家として、女性がリソースになれることを政府に対して示すため、科学技術分野、民間企業のリーダー、政府やNGOの幹部など実際に多様な分野で活躍している女性たちが集まったというわけです。APECには、女性専門家のデータベースとして、我々を扱ってほしいと思っています。

― これからのWLNの在り方、期待することについて教えてください。

リーバ 我々の使命は、女性の視点を実際に政策の中に統合させていくということです。このWLNに参加する女性はもともとがそれぞれのセクターにおけるリーダーです。それぞれが政府の幹部であったり、民間企業の幹部であったり、あるいは非常に有力な科学者であったりと能力も影響力も、そしてビジョンも持っています。

かたや、そうした声を持てない女性たちも世界には多数存在します。そういう女性たちのためにも、リーダーである女性が発言しなければならないと考えます。

APECの公式会合には、全体の大きなテーマが設定されており、今回の日本の会合でも優先課題が決められていると思います。我々はそれに対して、新たな問題を持ち込むのではなく、それに合わせて議論を進め、女性のユニークな視点を議論の中に持ち込みます。我々は、常に実現可能性が高い、合意可能な提言をすることを目指しています。

― これまでのWLNの成果について教えてください。

リーバ WLNは、APECの公式の一員ではありませんが、96年以来、どのAPEC議長国・地域も必ずWLNの会議を主催してくれました。ですから、これまで14回会合を重ねてきており、少なくとも5,000人の女性が参加したことになります。

我々の提言が直接に政策に反映された例としては、APECジェンダー統合に関するSOMアドホック・アドバイザリー・グループ(AGGI)や、男女共同参画担当者ネットワーク(GFPN)の創設です。1998年と2002年の女性問題担当大臣会合も、WLNの提言だけがきっかけではありませんが、1つの成果と言えるかと思います。この会合にはWLNも支援をしましたし、参加もしました。

いくつかのプロジェクトがその後も立ち上がり、現在も進行中のものがあります。例えば零細企業(マイクロ・エンタープライズ)の貿易ネットワークづくりのため、APEC各エコノミーの農村の女性たちが協力するといったような試みも行われています。また、中小企業(SME)作業部会の下には零細企業サブ作業部会が創設されました。その他、科学技術の分野等でもWLNの提言で進められているプロジェクトがあります。

より目に見える成果としては、APECの各会議で女性スピーカーの数が増えてきたということも一つの効果ではないかと思っています。

このように、WLNの実績といっても、やや抽象的・間接的ではありますが、私は言わば、非常に薄いくさびをようやく打ち込み始めているといったようなところではないかと思っています。長い道のりを経て、APECの場でも今や女性はもう無視されてはいません。

更にもう1つ例を挙げたいと思います。WLNは単に会合を開催するだけにとどまらず、非常に行動志向の強い組織です。それぞれの年の議長国・地域からいろいろなメンバーが参加しますが、会合終了後どのような活動をするかはもちろん、それぞれのメンバーや議長国・地域自身が決めることです。2005年の議長はチリでしたが、それまでチリには公式の女性団体は存在していませんでした。会合はチリの北部の町で開催されましたが、そこに参加したチリの女性たちのほとんどは外国人女性に会ったことがなかったといいます。WLN会合後、この町の女性たちは自分たちの可能性に目覚め、政府に対して、WLNのチリ版を設立することを要請し、実現したのです。その後、政府から資金を供与してもらって、多くの中小企業を立ち上げました。このチリのWLNはその後、2005年以降のWLN会合にはずっと参加をしてくれています。

― 最後に、日本の女性に向けてメッセージをお願いします。

リーバ WLNは、すべてのAPECエコノミーから女性たちが集まるという、すばらしい機会を女性たちに提供する場です。お互いに異なる文化への相互理解が進みますし、ネットワークが生まれ、非常にポジティブな、大きなエネルギーが生まれます。必ずしも意見が一致しなくとも、お互いに学び合える大きなチャンスです。

また、特に若い女性に対しては、「私たちは何でもできるのだ」ということをメッセージとして伝え、自信を与えたいと思います。女性たちが今、ぶつかっている問題あるいは壁は必ず地球上のどこかで女性たちが、同じ問題、同じ壁にぶつかっているはずで、それを乗り越えてきた経験もあるはずです。そういう経験を分かち合ってほしい。

日本の女性たちには、この機会を大いに利用して、外国から参加される女性たちと交流して、自分自身の大きな成功に結び付けていってほしいと思います。

― どうもありがとうございました。お話を伺い、9月の会合がますます楽しみになりました。

アンドリーナ・リーバ WLN共同創設者・元共同議長 リーバ・エンタープライズ社長
アンドリーナ・リーバ
WLN共同創設者・元共同議長
リーバ・エンタープライズ社長

国際貿易・金融・商業開発を専門とするコンサルティング会社「リーバ・エンタープライズ」の創設者、社長。リーバ・エンタープライズはカナダのトロントを拠点とし、企業が国際市場に進出するための支援や、政府の貿易政策や財政改革への助言を主に行っている。
その他、金融機関、政府、国際機関のアドバイザーを務め、イタリア・フィレンツェに拠点をおくBalloon Express srl.の顧問弁護士を務めるとともに、イングランド及びウェールズの弁護士資格、オーストラリア・ビクトリア州の弁護士及び法務官資格を有する。