「共同参画」2010年 3月号

「共同参画」2010年 3月号

スペシャル・インタビュー

農業振興に女性の力を
~JAいるま野の取組 小澤 稔夫

JAが、1つの大きな家族のような組織になることを目指しています。

今回は、平成21年度JA全国女性大会においてJA全国女性組織協議会会長賞を受賞した、いるま野農業協同組合(埼玉県入間市)の代表理事組合長 小澤 稔夫さんに、「JAいるま野」の取組について伺いました。

─ はじめに、JAいるま野の特徴についてお伺いします。

小澤 JAいるま野は、平成8年に、11のJA(川越市、霞ヶ関、入間東部、入間市、狭山市、坂戸市、鶴ヶ島、毛呂山町、越生町、埼玉日高、飯能市)が合併して誕生し、平成13年にJA所沢市が加わり現在に至っています。多品目の生産、観光農業など都市近郊農業を行う県内最大規模のJAとなっています。

農村をとりまく環境の変化、高齢化社会の進展などを受け、JAの役割も徐々に変わってきています。そこで、私どもは、「人に優しい豊かな地域社会を目指して」という基本理念のもとに、農業振興のほか、地産地消、食育、高齢者福祉事業、子育て支援などの地域貢献活動に力を入れています。

例えば、管内で獲れた新鮮な野菜の直売や農産物の品評会を行うJAまつりのほか、小学生が農業体験を行う「田んぼ教室」、料理コンクールの実施、デイサービスセンターの運営なども行っています。

─ 平成21年度JA全国女性大会においてJA全国女性組織協議会会長賞をJAいるま野として受賞されました。男女共同参画の継続的な取組を評価されての受賞ですね。

小澤 平成12年の「第22回JA全国大会」で女性参画推進の決議がされましたが、JAいるま野でも、主に女性部の連携強化から取組を始めました。平成13年には、「JA常勤役員と女性組織協議会役員との交流会」を実施、平成14年から15年にかけて「女性組織学習会」を本店と7つの地域で開催しました。平成18年には、女性参与2人を選任し、この年には女性部の部員の増加と組織の活性化を目指して、「女性組織活性化委員会」を開いています。また、平成18年から20年まで「参与・女性部リーダー意見交換会」を開いて、「JAに望むこと」をテーマに話し合いを各地区で合計21回行いました。

これらの取組とともに、女性の裾野を広げていくため、数値目標の設定も行っています。平成17年度からは、JAの正・准組合員について、500人の数値目標に対し591人が加入、翌18年度には女性部員を対象にした正組合員加入運動で200人の目標に対して273人の加入を実現しました。平成19年度から21年度末までに、正組合員に占める女性の割合を25%にするという数値目標も定めており、この目標も達成の見込みです。

さらに、25%を女性が占めるに至っても、女性の役員や理事が一人もいない、という事態は非常に不自然ですよ、ということで、意思決定の場への女性の参画も進めるため、管内の57の支店への協力をお願いしているところです。例えば、女性総代については、各選挙区(46区)から女性総代が一人以上選任され、総代680人中、48人が女性となりました。平成21年の総代会では、女性理事が7人選任されました。現在この7人の非常勤理事は、「管理」、「経済」、「金融」の3つの委員会に委員として所属しています。

─ 当初からたいへん積極的な取組を行われたということですが、スムーズに進みましたか。

小澤 やはり以前は組織内が男性中心で、女性が積極的に意見しやすい雰囲気ではありませんでした。実際、女性が発言すると、否定的なことを言われるということもあったようです。私どもが、各組合員や支店にご理解とご協力をお願いしてきて、ここまでくるのに、約10年かかりました。勉強会などの取組を徐々に積み上げてきた成果だと考えています。

─ 女性の参画で得られるメリットは、どんなところにあるとお考えでしょうか。

小澤 まず、実際に農業にはたくさんの女性が関わっていますから、女性の声というのは、本当は聞いていかねばならないものですよね。また、先ほど申しましたとおり、JAいるま野では、農業振興以外にも様々な地域や生活に密着した活動を行っています。こうした活動を効果的に進めるには、多様な視点、アイディアが不可欠ですから、女性の意見を取り入れることが大きな力となるのです。

─ 女性の参画を進めたことでどのような変化があったか、エピソードがあればお聞かせください。

小澤 女性理事が増えたのは比較的最近ですから、まだ大きな意思決定において、目に見える影響・成果があったという段階ではありません。これからの活躍に期待しています。

もっと小さなレベルですと、例えば、ある役員さんが、いちじくジャムの試作品を会合に持ってきたところ、女性メンバーからたくさんの意見や細かいアドバイスが頂けたということです。男性だけだと、どうしてもジャムを食べて、おいしいね、で終わってしまいがちなんですが(笑)、女性だとジャムの味つけのみならず、色がどうだ、パッケージはこうしたほうがいい、など様々な意見がでてくる。やはり、日常的に調理をしたり、買い物をしたりしていますから、消費者としての目線が生きてくるのでしょうね。

また、JAまつりなどの大きなイベントでも、女性の参画によってより活気のあるものになってきていると思います。

─ 最後に、全国の農業に従事する女性の皆さんにメッセージをお願いします。

小澤 ほかのあらゆる分野でもそうだと思いますが、農業にとっても女性の力はたいへん重要です。農村では、女性が家事、育児、農業まで幅広く担っていて、たいへん苦労されていることがまだ多い。そうした経験を生かしていける場を作っていければと思います。

JAいるま野では、合併以来、もっと若者や女性にも参加して貰おう、という方針のもとに運営してきました。かつて農村では、田植えや稲刈りを隣近所で協力をして行う、という地域の繋がりがありました。現在は、そうした農作業のほとんどは機械化されていますから、以前と比べるとそのような繋がりは希薄になっています。そこでJAが、農業分野での地域の拠点として、1つの大きな家族のように、若い人もいて、女性がいて、男性がいる、という組織になれればと考えています。是非、女性のみなさんにも積極的に参画してほしいです。

─ 地域の農業の発展のために、明確なビジョンを持っていらっしゃるのですね。本日は、ありがとうございました。


小澤 稔夫
いるま野農業協同組合
代表理事組合長

おざわ・としお/
昭和14年 川越市生まれ
昭和34年 自家農業に就農(米作)
昭和60年 川越市農業委員
平成5年 川越市農業協同組合理事
平成8年 いるま野農業協同組合理事
平成9年 いるま野農業協同組合地区代表理事
平成14年 いるま野農業協同組合地域統括理事
平成15年 いるま野農業協同組合代表理事副組合長
平成18年 いるま野農業協同組合代表理事組合長