「共同参画」2010年 3月号

「共同参画」2010年 3月号

特集

国際協力におけるジェンダーと開発
~JICAの取り組み~
独立行政法人国際協力機構

国際協力においても、男女共同参画は必要不可欠の視点です。JICAでは、全ての国際協力事業がジェンダー視点に立ったものとなるよう、様々な取り組みを行っています。また、事業に携わる関係者向けに、各種ジェンダー勉強会等を行っています。

1.国際協力におけるジェンダー

国際協力においては、1970年代から、開発援助は特定の人々にしか裨益していないのではないか、むしろ男女格差を助長しているのではないかという批判に基づき、開発途上国の女性が開発過程に参加し、女性の地位向上を図ることが重要であると認識されるようになりました。日本の援助政策の根幹を示すODA大綱(2003年)では、「男女共同参画の視点は重要であり、開発への積極的参加及び開発からの受益の確保について十分配慮し、女性の地位向上に一層取り組む」と謳われています。

1995年の第4回世界女性会議(北京)以降は、GAD(Gender and Development:開発と女性、「男性と女性の相対的な関係」や「女性に差別的な制度や社会システム」を変えていくことが必要であるとする考え方)を定着させる政策論的方法として、「ジェンダー主流化」が重視されるようになりました。

ジェンダー主流化とは、あらゆる分野での「ジェンダー平等」注1 を達成するための手段です。すべての開発政策や施策、事業は、中立ではなく男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆる段階で、ジェンダーの視点に立って開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスを指します。

JICAの第二次中期計画(2007年~2011年)でも、「男女共同参画の視点は重要であり、事業実施に当たり、開発への積極的参加及び開発からの受益の確保について十分配慮し、女性の地位向上に一層取り組む。そのため、職員その他の関係者に、開発援助における男女共同参画推進の重要性についての理解促進を図るとともに、実施の各段階において、女性の地位向上に配慮した業務運営に努力する」としています。

2.ジェンダー主流化推進体制

JICAは2002年4月、「ジェンダー主流化推進体制」を構築しました。人事及び企画・調整担当理事をジェンダー総責任者、各部署長(在外事務所、国内機関含む。)をその部署のジェンダー責任者とし、各部署に男女1名ずつジェンダー担当者(合計200名以上)を指名、各種事業のジェンダー主流化をモニタリングするとともに、ジェンダー勉強会などを開催しています。企画・調整部(当時)は事業におけるジェンダー主流化推進のための指針整備、各部署の事業のジェンダー主流化に対する助言などを行っていました。

2008年10月、JICAは国際協力銀行(JBIC)の海外経済協力業務(円借款事業)と外務省の無償資金協力業務の一部を承継しました。これを機に、ジェンダー主流化推進体制も一新されました。新たに公共政策部ジェンダー平等推進課にて、ジェンダー主流化そのものをねらいとする事業を担当し、企画部では公共政策部や各部署のジェンダー責任者・担当者とともにJICA全体のジェンダー主流化を調整する総合機能を果たしています。二つの部署で事業におけるジェンダー主流化をより一層推進していくこととなり、ジェンダー主流化推進体制は強化されました。

3.取り組み事例の紹介

(1)ジェンダー主流化の推進

アフガニスタンでは、過去23年に及ぶ紛争とその後のタリバン政権下において、女性は政治的、社会的に極めて制限された生活を余儀なくされてきました。女性の権利を回復し地位向上を図るため、2001年12月のボン合意に基づき女性課題省が設置されました。JICAは2003年度から女性課題省の組織能力強化をねらいとする支援を実施してきており、現在は、2009年1月から4年間の予定で、「女性の貧困削減プロジェクト」を実施中です。このプロジェクトでは、女性課題省が他省庁の実施する事業へのジェンダー視点からの助言・協力、研修などにより、最貧困女性の状況改善に貢献するとともに、他省庁との共同事業を通じた職員の能力向上を図っています。女性の貧困削減に貢献できるとともに、女性たちが自らの役割を理解し、人として尊厳を持てるようになること、女性に対する社会的認識が改善されることが期待されています。

羊の放牧を行う女性

(2)女性と男性双方に効果

イエメンは成人識字率が男性76%、女性39%(UNESCO/GMR2009)と世界でもっとも男女の教育格差の大きい国の一つです。

「イエメン女子教育向上計画プロジェクト」(2005年~2008年)では、タイズ州の59校をパイロットとして選定し、1) 地域住民への啓発活動(保護者会(父会、母会)の開催、母親向けに識字・裁縫教室などを学校で開催、ラジオを通じた宗教指導者からのメッセージの活用など)、2) 教育の質の改善(授業参観の実施、教員の増や教員研修の実施、優秀な生徒の表彰など)、3) 学校環境改善のための活動(机・椅子の修理、教室・トイレの修繕、建設、清掃活動など)を実施しました。この結果、59校全体の女子の就学率はプロジェクト開始前の1.5倍、のみならず男子の就学率も1.3倍に改善したのです。校長の意識も変化し、男女が平等に教育を受ける権利を有すると答える校長は、プロジェクト開始前の9.4%から終了時の96.6%に大きく改善しました。

学校に通う女子生徒たち

(3)女性の生計向上に貢献

インドのタミルナド州では、森林の荒廃が問題となっており、その原因の一つに、薪の収集や家畜の世話をする女性が樹木を伐採してしまうことがありました。旧JBICで実施した「タミルナド州植林事業」(貸付期間1997年~2005年)では、植林を行うだけでなく、女性が森林伐採に依存しないですむよう、代替収入を得るための支援も行いました。具体的には、5,979の自助組織(セルフ・ヘルプ・グループ)を結成し、9万人以上の女性が加盟してハーブの加工販売、牛の飼育・取れたミルクの販売、寺院の側に店を出し参拝客向けに必要な線香や容器、ココナツ等の販売などを行い、グループとして少しずつ貯金を増やす取り組みを実践しました。こうした活動の原資としてマイクロクレジットが取り入れられ、円借款の一部が原資となり、生計手段の多様化に貢献しました。

お線香作り

4.今後に向けて

国連ミレニアム開発目標には8つの目標が設置されており、この中の目標3は「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」です。JICAもこの目標の実現を見据えつつ、ODA大綱やJICA中期政策に沿い、今回ご紹介したような事例をより一層積み上げるとともに、関係者の啓発活動に努めてまいります。

(参考:http://www.jica.go.jp/activities/issues/gender/

注1 OECD開発援助委員会(DAC)の「開発協力におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントガイドライン」によると、「ジェンダー平等とは、男性と女性が同じになることをめざしてはいない。人生や生活において、様々な機会が男女均等であることをめざすものである。また、ジェンダー平等といっても、すべての社会や文化に画一的なジェンダー平等モデルを強制するものでもない。ジェンダー平等の意味するところを男性と女性がともに考えて選択する機会を均等に有し、そのジェンダー平等を達成するために男女が協同で取り組むという考えである。現在は明らかにジェンダー格差が存在しているので、男女を平等に扱うのみでは不十分である」(OECD “DAC Guidelines on Gender Equality” p.12 Boxより)。(http://www.oecd.org/document/28/0,3343,en_2649_34541_1887516_1_1_1_1,00.html)参照。