「共同参画」2010年 2月号

「共同参画」2010年 2月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(10)
宮城県
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

企業ネットワークと行政間連携

先日、宮城県の『女性のチカラは企業の力』シンポジウムで、WLBに関する講演、コーディネーターをさせていただいた。WLBを普及するうえで不可欠な「企業ネットワーク」の構築と行政組織の連携という点で、画期的な事業なので、ぜひともご紹介したい。

宮城県は、2004年に47都道府県では最も早くポジティブアクションの推進を県の建設業入札ポイントに結び付けた。

2008年7月にはチェック項目を見直し、対象を入札参加企業以外にも広げた『女性のチカラを活かす企業認証制度』に移行させた。2008年度までは男女共同参画担当のポジティブアクションと子育て支援それぞれの企業表彰事業が並立していたが、企業巻き込みノウハウと予算確保という点で一長一短があった。両事業を普及の視点から統合した結果、2009年度から「いきいき男女・にこにこ子育て応援企業表彰」を新設した。

依然として、WLB関連事業を労働、少子化、男女共同参画の3部署がバラバラに実施している自治体も少なくない。国は、自治体に対して横串を通すようにという指導はしているものの、現実には縦割りの弊害が完全に払しょくされたとは言い難い。そのような中で、県の担当間で連携したのは画期的だ。

『女性のチカラは企業の力』普及推進事業は、2009年度からの3ヶ年計画であり、年に3回程度「サミット」が開かれる。メンバーは県内の先進企業10社で、業種、従業員規模は多種多様だ。行政はコーディネーター役に徹して、地元企業に自ら情報発信してもらおうという手法は斬新だ。

さらに、座長は県副知事が務め、企業に対するアドバイザーとして(財)21世紀職業財団所長が加わっている。このように宮城県では行政組織の連携が進んでいる点も画期的だ。

サミットの目的は、(1)企業同士の情報交換やノウハウの蓄積、(2)情報発信の場作りだ。筆者は、これまでの議事録を拝読したが、単なる先進取組事例の紹介にとどまらず、企業間で取組を学び、学ばれ、深めていくという相乗効果が起きている。

宮城県では、今後2011年度までに『地域版サミット』を県内4ヶ所程度で実施する予定だ。地域への浸透が期待される。

男性職員の育休取得推進へ

来年度、改正育児介護休業法が施行となる。主たる目標の一つが男性の育休取得推進だ。この点でも、宮城県は国に先んじてユニークな取組を進めてきた。

男性が育休を取得しない大きな理由は「職場の無理解」と「経済的理由」だ。そこで、宮城県では2009年4月から「新マイ(米とMyを引っ掛けている)パパ子育て参加プロジェクト」を導入した。これは、育児休業や特別休暇を得しにくい雰囲気を払しょくしようというものだ。男性職員の配偶者が出産する3ヶ月前までに男性職員は所属長に「育児参加計画書」を提出する。所属長は、計画どおり円滑に取得・実施できるよう、休暇中の業務分担や代替職員の確保等に努める。

また、男性の育休を経済的にサポートするために、県職員の互助会から(税金ではない)、1日に2000円が支給される。

他の自治体も、男性職員の育休取得推進を率先垂範すべきであろう。

渥美 由喜
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/
東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。