「共同参画」2009年 12月号

「共同参画」2009年 12月号

スペシャル・インタビュー

研究実績を現場に活かして
~女性土木技術者として現場管理職に~

どんな状況でも、夢はあきらめないで。

須田 小さい頃からダムや橋、トンネルのような大きな構造物に憧れがありました。高校生のときに、受験案内の土木工学科紹介ページにあったコンクリートアーチダムの写真を見て「格好いい!」と、おもわず受験しちゃいました。大学の先生には、将来は現場で仕事をしたいと1年生のときから話していました。本人にやる気があっても社会に出たら難しいと思ったんでしょうね。3年生の夏休みに、先生が知り合いの社長に頼み込んでくれて現場でアルバイトをさせてもらいました。現場での仕事は、設計図面どおりに構造物を作るための施工管理のお手伝いでした。鉄筋がちゃんと入っているかを数えたり、測量の助手や立会い写真の整理といった仕事をしました。振り返ってみると、この経験があったので、自分は現場に向いていると信じられたのだと思います。

- これまでのお仕事について教えてください。

須田 土木の仕事は橋やダムなどの社会基盤施設を整備する仕事です。現在は、圏央道の八王子ジャンクションの南側で橋を造る工事をしています。

入社後は、まず研究所に配属になり、その後も22年間なかなか異動の機会がなく、でも女性だからしようがないよね、みたいな感じでした。

研究所では最初に、模型実験用の縮小鉄筋といって、3mmの異形鉄筋をつくる研究に取り組みました。一体何の役に立つんだろうと思いながらも、大学の恩師に10年以上は勤めなさいと言われていたので、どうせやるなら楽しく続けようと、一生懸命やりました。橋の橋脚は耐震性能が要求されますが、スケールの大きな土木構造物を詳細にモデル化して実験を行う技術というのは当時なかったので、この技術を実用化するのが私の仕事でした。

その後、設計部門で裏高尾橋の詳細設計を担当していた時に、耐震性をアップさせるような橋脚構造が必要ということになり、今の現場の所長が、その技術に一番詳しい人間を現場に欲しいと声をかけてくれ、念願の現場に異動できたのです。それまではとにかく現場に出るというのが夢だったのですが、今は、将来にいいものを残すという夢に向けて、「100年をつくる」現場の所長になることを目標にしています。

- 女性が少ない業界で、ここに至るまで苦労された点はありますか。

須田 経験が少ないころは、女性だから異動できないのではないかとか、重要な仕事を任せてほしいとか、いろいろな悩みがあったのですが、あるとき女性だからという考えをやめてみたんです。冷静になって周りを注意深く見てみると、男性でもみんな同じ扱いを受けているわけではなく、人それぞれ個性も違うし、目標も違っています。土木技術者としては女性も男性もないということを実感できたら気が楽になりました。

今の現場には入社二年目の女性土木技術者がいます。所長によると、男性は女性の土木技術者をどう育てていいかというのがなかなかわからないものだが、女性も仕事を任せるとどんどん育っていくというのを経験で知ったと。今では一番の理解者です。

- 建設業界が女性にとって働きやすい職場になるためには何が必要だと思われますか。

須田女性の技術者が増えることです。女性土木技術者に関するアンケート調査の結果をみると、女性技術者と一緒に仕事をしたことがある方は、女性技術者の存在をプラスに見ています。むしろ一緒に仕事をしたことがない方がいろいろ想像してマイナスに考える傾向にあることがわかりました。ですから、やはり女性が増えないことには働きやすくはならないのだなと思います。

また、理工系志望の女子学生向けのイベントによく協力するのですが、驚くのは、本人は理系に進みたいと思っても家族が反対するケースがかなりあることです。自分自身はそういう経験がなかったので、今までは、女子学生に対して土木に興味を持ってもらうように働きかけていれば自然と技術者も増えると思っていたのですが、それ以前にもっと広く情報を発信していかなければならないと思っています。土木技術者女性の会でロールモデルを紹介した冊子を作成したときも、全国紙で取り上げていただいたところ、メールや手紙で注文がきたのですが、両親に進路を反対されているという女子学生がいたり、娘が相談もなしに土木工学科に進学したが、この先どうなるのか知りたいという方もいました。本人にはおおいに関心があるのに「いやいや」と言って蓋をするような世の中ではあってほしくないですね。

- ご自身のワーク・ライフ・バランスについてはどうお考えですか。

須田 よく両立についてのご質問を受けますが、両立はしていません(笑)。ご近所とか、私と夫の双方の両親や職場の先輩・同僚を巻き込んで、支えてもらって続けてこられました。1人で抱えていたら途中で辞めてしまったかもしれません。この極意は、土木技術者女性の会の諸先輩方に教わりました。「仕事もするけど、結婚して、子どもも欲しいのが当たり前」といってそれを実践されているのを見て、もしかしたら自分にもできるんじゃないかと思い込むことができました。それが力になったように思います。子どもには、「お母ちゃんは仕事辞めたら何のとりえもないからね」と小さい頃から話していたら素直に納得してくれました。

- 土木技術者女性の会の活動について教えてください。

須田 ネットワーキングのために始まった会ですが、発足当初から5つの目的を掲げています。1つは励まし合い、2つ目は女性の知識向上。大事にされて、戦力になれないと苦しんでいる女性もいたので、機会を作ろうということです。3つ目は働きやすい環境づくり。1人では言いづらいことも会として要望することができます。4つ目は後進へのアドバイス、5つ目は社会的評価の向上です。この会が、27年続いたのは目的が明確であったことと、土木技術者の集まりだからというのがあるかもしれません。もともと現場で仕切って、組織を動かす仕事ですから。

- 最後に女子学生に対するメッセージをお願いします。

須田 新米の頃に与えられる仕事は想像とは違うことも当然ありますが、続けてみないとわからない面白さがあります。その仕事を楽しめるように、いろいろ工夫して続けることが大切です。また、2~3年ぐらいのスパンで頑張れば実現できそうな、夢につながる目標を設定していく。どんな状況になっても夢はあきらめないでほしいですね。

- 本日は、お忙しい中ありがとうございました。

須田 久美子
須田 久美子
鹿島建設
裏高尾JV工事事務所
副所長

すだ・くみこ/茨城県出身。中央大学理工学部土木工学科卒業後、鹿島建設(株)入社。研究所でコンクリートの耐震性や長寿命化技術を22年間研究、05年に設計部門に異動、07年裏高尾橋工事の現場に副所長として着任。「高強度鉄筋を用いた鉄筋コンクリート橋脚部材の開発」で日本コンクリート工学協会技術賞、「高靭性繊維補強セメント複合材料の実用化技術の開発」で日本材料学会技術賞を受賞。2児の母。