「共同参画」2009年 11月号

「共同参画」2009年 11月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(7)
神奈川県・横浜市
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

4県市共催のシンポジウム

10月に神奈川県、横浜市、川崎市、相模原市が「地域戦略としてのWLB」シンポジウムを共催し、筆者は講演した。

県と政令市の連携も画期的だが、慶應義塾大学WLB研究センターの島先生や各市を代表する先進企業の経営陣が登壇し、会場にはNPOも多数参加するなど、地域でWLB推進に携わっているキーパーソンが一同に会する有意義な場だった。

同県は、企業、NPO、教育・研究機関が多数、集積しているという地域特性を活かして、先進的な取組を進めている。

まず、条例により、従業員数300人以上の事業所に対して、男女別の正社員数、管理職数などの届出を義務づけている。

次に、先進企業の事例集を5冊も発行しており、自治体では最多だ。内容も、単なる制度紹介にとどまらず、プロセスや取組の成果などハイレベルな内容だ。

このように、数値データと実例を組み合わせてWLBを広めるのは効果的だ。

さらに、企業へのWLBコンサル派遣事業や子育てカップル向けのセミナー(拙稿の第一回で紹介済み)は、筆者もお手伝いさせていただいている。企業向けの深める施策と同時に、従業員・住民向けの意識啓発活動も展開しているのだ。

他方、横浜市も企業事例集を作成するとともに、働きやすい職場づくりを積極的に進める中小企業を認定し、「よこはまグッドバランス賞」として表彰している。

横浜ブランド・湘南ブランドに、WLBブランドが加わると、鬼に金棒だ。

知事が「残業ゼロ」を宣言

先日、神奈川県の松沢知事が来年4月から「残業ゼロ」を宣言したのは画期的なことだ。WLBには、外向け(普及啓発活動)と内向け(従業員の働きやすさ追求)がある。この点、官民は対照的だ。

民間企業の多くは、内向けのWLBが中心だ。ただし、最近の先進企業はむしろ外向けが重要だと気づいている。というのも自社だけが女性従業員の働きやすさを追求しても、彼女たちのパートナーが勤めている他社が変わらないかぎり限界があるからだ。筆者が携わっている企業のWLB研究会では、自社の取組の詳細を公開して他社に広めようと熱心な先進企業が少なくない。

一方、官庁・自治体は外向けのWLBが中心で、内向けの取組はなかなか進まない。不況期には民間企業では仕事が減るが、行政では仕事が増える一方だ。また、人件費など行政コスト削減という圧力の中で、WLBを主導している行政の職場環境は過酷という皮肉な状況だ。民間企業ならば労基署に摘発され、使用者責任が問われかねない惨状が放置されているのは大きな問題だ。

どうすれば改善できるか。政治家の使用者責任も重大だ。一部の議員が質問ルールを守らずに、深夜まで職員を議会待機させる。あるいは、首長の指示が朝令暮改で、職員を振り回している面もある。

こうした行動は、単に公務員の職場環境を悪化させるのみならず、結局は無駄なコストを国民に転嫁させることになる。

筆者は今年、某県庁のWLB推進をコンサルティングしている。神奈川県のように政治主導で内向けのWLBに取り組む自治体も最近、徐々に増えてきた。国も自治体もWLBを率先垂範すべきだ。

WLB関連の企業事例集

渥美 由喜
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。