「共同参画」2009年 10月号

「共同参画」2009年 10月号

特集

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の
推進を多様な人々の能力発揮につなげるために
~ 専門調査会報告書から ~
内閣府男女共同参画局調査課

男女共同参画会議仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会では、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進を多様な人々の能力発揮につなげるために」を、本年7月に報告書として取りまとめました。今回の特集では、その概要についてご紹介します。

近年、企業・組織において、多様な人材が活躍できる組織作りは、組織の活性化やリスク管理の観点から重要な経営課題になっており、仕事と生活の調和はそのための重要な基盤と考えられます。また、仕事と生活の調和は「明日への投資」として企業・組織のパフォーマンスの向上につながることが期待されていますが、そのためにも多様な人材の能力発揮が必要です。特に、今後の少子・高齢化の進展を考えると、現段階でこの課題に取り組むことは、中期的な企業の競争力確保の観点から不可欠の課題です。

企業・組織において多様な人材が能力発揮できる環境を構築することは、例えば女性管理職の増加や出産・育児等のライフ・イベントを経て女性がキャリア・アップするために不可欠の条件であり、男女共同参画を推進する上でも極めて重要な課題です。

また、これまで仕事と生活の調和は、雇用者の問題を中心に検討されてきましたが、全ての人にとっての仕事と生活の調和を実現するには、自営業者や農林水産業従事者など、雇用者以外の就業者にとっての課題も検討していく必要があります。

こうした観点から、男女共同参画会議仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会では、「多様な人々の能力発揮を実現する仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進について」をテーマに、企業・組織の課題、雇用者以外の就業者の課題について検討を行いました。

1.企業・組織における仕事と生活の調和の推進と多様な人材の能力発揮

(1)働き方全体の見直しの必要性について

企業・組織の中で働く人々の仕事と生活の調和と能力発揮について、

1) 仕事と生活の調和が取れており、能力発揮も十分できている

3) 仕事と生活の調和は取れているが、能力発揮は十分できていない

4) 仕事と生活の調和は取れておらず、能力発揮も十分できていない

という4つのパターンを考えると、仕事と生活の調和の推進や人材登用の方法によっては、2)や3)のような立場の人々が増え、結果として女性を始めとした多様な人材の能力発揮にはつながらない可能性があります。こうした状況を避け、1)のような立場の人々を増やしていく必要があります。また、4)のような状況を是正し、全ての人について、仕事と生活の調和と能力発揮の実現を考えていく必要があります。

(図表1)

図表1 仕事と生活の調和と多様な人々の能力発揮の考え方

企業・組織において、女性の育児・介護休業取得だけを進めるなど特定のグループについてのみ仕事と生活の調和の改善を進め、働き方全体の見直しが行われなければ、結果として多様な人材の能力発揮にはつながらない可能性があります。ある職場は長時間労働が当然である、管理職は長時間労働が前提である、といった状態が続いていれば、仕事と出産・育児を両立しようとする女性社員は職域が限られたり、管理職になることに消極的になる可能性があります。また、育児のために長期の休業を取ることが長期的なキャリア形成に不利になるような評価基準であれば、仕事と出産・育児を両立しようとする女性社員が十分に登用されず、やはり本来の能力が発揮できない可能性があります。将来の能力発揮について展望が立たなければ、自ら能力開発を行う意欲も弱まり、仕事と生活の両立の負担が重ければ就業を中断してしまう可能性もあります。

こうしたことから、仕事と生活の調和の推進を多様な人材の能力発揮につなげていくためには、企業・組織に属する全てのメンバーを対象とし、様々な人材の活躍機会の拡大や適正な人事評価なども含めた働き方全体の見直しを進めていく必要があると考えられます。

企業・組織にとっても、多様な人材が活躍できる組織作りは、組織の活性化やリスク管理の観点から重要な経営課題であり、仕事と生活の調和はそのための重要な基盤と考えられす。多様な人材の能力発揮や生産性の向上など全体のパフォーマンス向上につながるのでなければ、組織として仕事と生活の調和を推進するインセンティブが限定的になる可能性があり、どのような取組が成果につながるのか検討する必要があります。

(2)仕事と生活の調和の推進を多様な人々の能力発揮につなげるための課題

【「ライフプラン調査」等からの示唆】

内閣府が本年実施した「男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査」では、仕事以外の時間の取りやすさだけでなく、「女性の先輩や管理職が多くいる」「仕事と家庭を両立しながら、仕事もキャリアアップできる環境である」といった職場環境が女性の就業継続や管理職志向の高まりに影響していることが示唆されました。こうしたことからも、女性を始めとした多様な人材の能力発揮を図るためには、仕事と生活の調和を進めるとともに、中長期的な目標を持ち自分自身の将来像がイメージできる、周囲からの期待が感じられ実際に能力発揮の機会があるといった職場環境を構築していくことが重要と考えられます。(図表2)

図表2 初職からの離職状況別の初職の勤め先の状況(複数回答)[25歳以上の女性 初職が正社員・正規職員]

企業・組織にとって、仕事と生活の調和は「明日への投資」として企業・組織のパフォーマンスの向上につながることが期待されています。既存研究では、多様な働き方を取り入れるような企業風土への変革が企業業績を高める、人材育成と両立支援策の組み合わせによって生産性が高まる、仕事と生活の調和の推進を公平な評価制度の構築、業務分担や仕事の量・進め方の見直しといった施策と組み合わせて実施することで生産性が向上する、といった結果が示されています。こうした点からも、仕事と生活の調和の推進を働き方全体の見直しとして進める視点が重要と考えられます。

最近の経済情勢の悪化の中で、仕事と生活の調和に向けた取組が停滞することを懸念する声もありますが、今後の少子・高齢化の進展を見通せば、現段階でこの課題に取り組むことは、企業・組織にとって優秀な人材の獲得・定着を通じて中期的に競争力を高める観点から不可欠の課題といえます。 

【必要な取組】

内閣府が本年実施した企業インタビュー調査結果等に基づき、「働き方全体の見直し」に必要な具体的取組(柱としては、1) 仕事と生活の調和を経営戦略として明確化、2) 柔軟な制度整備と利用しやすい環境整備、3) 多様な人材の活躍を進める取組、4) 業務の効率化・労働時間の短縮、5) 管理職の役割の重要性・時間管理等のスキル向上)を整理しました(図表3)。

図表3 「働き方全体の見直し」のイメージ

【期待される効果】

本企業インタビュー調査の中では、出産・育児に際して退職する女性社員の減少や、管理職の一歩手前のリーダー層では女性が増えている、短期間が多いが男性の育児休暇取得が増えているといった声が多く聞かれました。こうした状況が進展すれば、出産・育児等のライフ・イベントを超えた女性の就業継続、女性管理職比率の上昇、男性の家庭・地域社会への参画といった男女共同参画の推進における重要な課題の解決にも資すると考えられます。

また、新卒の採用を中心として優秀な人材の獲得に効果があるといった声が多かった他、職場に対する満足度の向上、企業イメージの向上により社員の仕事への意欲が高まっているという声も聞かれました。

働き方全体の見直しが優秀な人材の採用・定着や社員・職員のモティベーションの向上をもたらすことで、企業・組織のパフォーマンス向上につながるといった好循環が期待されます。

【今後の課題】

企業・組織において、上記のような取組を進めていく上で、今後は以下のような課題に取り組んでいく必要があります。

1) 取組を進める上で更に検討を要する課題

○多様なキャリアを実現する人事制度

 雇用区分間の変更を可能とする人事制度や、雇用区分を設けない人事制度などの検討

○仕事と生活の調和を実現しながらキャリア・アップできる評価の仕組み作り(短時間勤務者を時間当たり生産性で評価する方法、長期休業や短時間勤務がキャリア全体として不利にならない人事評価制度の整備など)

○一人ひとりが時間を作り出し生活を充実させる意識の醸成

2) 今後対応が必要になると考えられる課題

○休業者の増加や基幹的業務を担当する社員の休業に対応するノウハウの確立

○管理職自身の仕事と生活の調和の実現

○業務量や業務発注のタイミングが予測しにくい職場での取組

○業務と人員のアンバランスへの対応

○社会全体での仕事と生活の調和の推進(一社で仕事と生活の調和を進めても、社員の配偶者の状況が改善しなければ、実際の負担は、一方に偏ってしまう可能性があります。そうした意味では社会全体として仕事と生活の調和を進めていく必要があります。また、女性の登用を進める上で組織を超えたメンターのネットワークを作ることも有効です。)

2.雇用者以外の就業者の仕事と生活の調和

(1)雇用者以外の就業者の現状

【仕事と生活の調和をめぐる意識】

雇用者以外の就業者については、雇用者と比べ、一般に経済的な自立という面で不確実性を伴いますが、その反面、一部の個人事業主を対象とした調査では、時間や気持ちのゆと

り、仕事のやりがい、自分らしい生き方などについて、雇用者よりもよいと自己評価している人が多いという結果も得られています。この背景には、自己の裁量で仕事を進められるという特性があるものと考えられます。

【家庭の状況】

雇用者以外の就業者においても、仕事と家庭との両立が課題となっており、女性は、家事、育児、介護などによって仕事と家庭の両立をめぐる負担感が重く、両立支援に対する要望も強くなっています。(図表4、図表5)

【男女共同参画をめぐる新しい動き】

最近では、自ら中心となって事業を起こしたり、事業経営に積極的に参画する動きもまれではなくなっています。

女性の起業では、比較的小規模で、生活や地域に密着したサービス分野での起業が多く見られ、生活経験を活かしたり、地域密着型の起業をすることにより、地域の活性化につながることも期待されます。

農山漁村においては近年では、女性の農業委員や農業協同組合の女性理事の増加に向けた活動など、男女共同参画に向けた地域レベルの積極的な動きが出てきています。また、加工品づくりや直売、農家レストランやグリーンツーリズムなど農村女性による起業も増加しています。

(2)雇用者以外の就業者の仕事と生活の調和をめぐる課題

【仕事と家庭の両立に関する意識の啓発】

雇用者以外の就業者においても、女性が就業を続けていくうえで、仕事と家庭の両立は課題となっています。仕事に必要な事業の知識、情報を収集し、人的ネットワークづくりを進めるための学習や交流の場に女性が参加していくことも重要です。家庭内での家事、育児、介護については、女性の担う割合が高くなっており、過重な負担を負うことなく仕事と家庭の両立が可能となるよう、固定的な性別役割分担の見直しを促進し、男性の家庭参加を進めることが重要です。

【多様できめ細かな両立支援の推進】

保育制度や放課後児童クラブについては、女性の労働市場参加が進む中で、すべての子どもに健やかな育ちを支える環境を保障するための新たな制度のあり方が、その財源・費用負担とともに現在検討されています。検討に際しては、雇用者以外の就業者についても、雇用者と同様に、就業状況や地域の実情に応じた、きめ細かな保育サービス等の提供が行われるよう、十分留意されることが必要です。

【人的ネットワークづくりと情報提供】 現在、雇用者以外の就業者の人的ネットワークづくりや情報提供に関しては、女性起業家向けのメンターの紹介や、ポータルサイトを通じた総合的な情報の提供、出産・育児期にある女性農業者を対象とした相談体制の整備、女性農業者を対象としたe-ラーニングの実施など、関係機関において、それぞれの分野に応じた様々な支援が行われています。これらの支援は、雇用者以外の就業者が仕事と生活の調和を確保できる環境づくりという点からも意義のあるものであり、今後ともきめ細かな施策の展開が望まれます。

【新たな付加価値を生み出す視点としての仕事と生活の調和】

雇用者以外の就業者においては、より直接的に、仕事と生活の調和を実現するための様々なニーズを事業展開のきっかけにできる可能性があります。農山村については、仕事と生活の調和の推進を通じて、学習・研究や趣味・娯楽の時間が確保できるようになることによって、都市生活者による農村体験の機会が増えるなど都市と農山村の交流が活発化し、農山村における起業の促進や、農業に対する理解の深まりが期待されます。

以上が概要ですが、本報告書の詳細については、下記ホームページをご覧ください。

http://www.gender.go.jp/