「共同参画」2009年 8・9月号

「共同参画」2009年 8・9月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(5)
石川県
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

企業による地域の子育て支援

最近のわが国の少子化対策は、保育ママの拡充など、子育て支援大国であるフランスの施策を参考にしたものが多い。日本で最もフランスに近いのは、北陸3県だ。いずれも共働き、3世代同居が多く、就労環境の整備とともに、官民連携して少子化対策を競い合って進めてきた。

特に、石川県は昨年11月に内閣府から「子どもと家族を応援する日本」功労者表彰(少子化対策大臣表彰)を受賞するなど、有名な先進自治体だ。筆者も同賞の選考委員の一人として審査にあたったが、同県の取組みは特筆に値する。

そもそも石川県の人口あたりの保育所の整備率は、ここ十数年、全国一位だ。また、プレミアム・パスポート事業(図表1)、エンゼルサポート事業(図表2)など、企業や県民が連携した子育て支援策を全国で初めて実施している。他の自治体でも類似の取組が展開されているが、大半は税金で実施している。これに対して、石川県では税金を投入せずに、事業費用を企業・県民が負担している。

  • 図1 プレミアム・パスポート事業の仕組み
  • 図2 エンゼル・サポート事業の仕組み

また、2008年の4月から、全国で初めて中小企業の一般事業主行動計画の策定を義務化するとともに、行動計画を公表した企業をWLB企業としてPRしている。その結果、県内企業全体に占める行動計画策定企業数の割合は6%と全国一だ(他県の平均は2~3%)。

石川県の取組みは、国に先んじており、国が追い付いてきたら、さらに次の一歩へと踏み出す。従業員50人以上の中小企業に対して、4年後(2013年)と猶予期間を延ばして、義務化する。ちなみに、お隣りの富山県も本年から従業員51人以上の企業に実施しており、2011年には公表を義務化する。

社会貢献企業の県民が評価

こうした一連の取組みは、谷本知事のトップコミットメントが大きい。知事は、環境、少子化の分野で、自らの政治姿勢を示してきた。同県によると、「環境、子育て支援、WLBといった社会貢献活動に取り組んでいる企業を県民が評価するという思想を普及させてきた成果だ」。

具体的には、県事業に企業が入札する際の評価点数に入れた結果、建設業の行動計画策定が延びた。また、地元の金融機関に協力を仰ぐと、融資を受けている企業は右にならえとなりやすい。

このように、まず量の拡大に努めてきたが、質の向上にも着手している。国に先んじて、中小企業へのWLBコンサルタント派遣事業を実施するとともに、県内の社会保険労務士、企業の人事労務管理担当者等を対象とした「コンサルタント養成講座」を開催している。いずれも筆者がコンサル、講師として携わってきたが、県担当者は実に熱心かつ優秀だ。

実は、中小企業の策定・公表義務化と一口にいっても、具体的な作業は困難をきわめる。従業員50人以上の企業リストを県では把握していないからだ。石川県では、担当者が企業のHPを虱潰しに調べていくなど、苦労してリストを作成した。実は、総務省は登記の関係で企業データを保有しているし、厚生労働省も障害者保険の関係で、56人以上のリストは持っているが、いずれも目的外使用の手続きには時間がかかる。国はもっと県のWLB推進に協力すべきではないか。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美 由喜
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。