「共同参画」2009年 6月号

「共同参画」2009年 6月号

スペシャル・インタビュー

女性が変える日本経済 ~女性の活用と経済に及ぼす影響~

今回は、女性の活用と日本経済の関わりについて小峰法政大学大学院教授にお話を伺いました。

女性が辞めないということは、職場環境を表す一つのシグナルです。

─ 女性の活用が経済全体に与える影響についてお聞かせください。

小峰 経済に及ぼす影響としては3つあります。1つ目は雇用面、2つ目が消費とか貯蓄の面、3つ目が企業経営。1つ目の雇用面については、これから人口が減って労働力が減っていく中で、女性がこれを相当カバーするだろうと思います。

仮に日本がノルウェーやスウェーデン並みに女性が経済活動に参画すると、日本の一人当たりGDPが23%今より高くなると計算されますので、かなりの影響があります。ただし、人手が足りないので女性を動員して頭数だけ増やすということでは本末転倒です。本当の問題点は高学歴の女性、潜在的な能力を非常に備えている女性が十分に力を発揮していないということだと思います。

2つ目の消費・貯蓄という点は、女性の経済力が高まれば、女性が消費や貯蓄を左右する力が強まりますので、女性が好む商品、サービスを提供したところが成功するということになります。

男性と女性では消費行動や貯蓄行動が違うという調査結果があり、例えば購入行動では、女性の方が品質を重視する、貯蓄行動も女性は比較的リスクを嫌って、あまり何回も資産の出し入れをしないという傾向があります。これからは、女性のニーズをとらえることが重要になってくるだろうということですね。

3つ目の企業経営という点でも、実証的な分析調査をやってみましたが、女性を積極的に活用している企業ほど、業績がいいという結果が出ました。従業員に占める女性比率、管理職に占める女性比率、大卒新卒社員の採用に占める女性比率と、企業の資本収益率、株価と企業価値との比率のような企業の経営パフォーマンスを占める指標を両方取って、両者の関係を計量的にチェックすると有意にプラスの関係が出ます。これは海外で行われたのと同じような分析を日本でもしてみたら、同じ結果が出たということですね。なぜ両者がプラスの関係を持っているのかについては、海外でもいろいろな指摘があるのですが、2つの説明があって、1つは現代の企業というのは、似たような商品を多くの企業が作っている中で消費者にとってより魅力的な商品を作るという面で競い合っている。そうなると、やはり多様な視点で企画を考えた方がいい。女性の視点とか、海外の人の視点とか、若い人の視点とか、色々な目線で企画を練った方が良いものができます。

もう一つは、女性が辞めないで残る企業とはどんな企業なのかということです。つまりそれは、男性にとっても働きやすい企業だと考えると、女性が辞めないということは職場の環境が良いということを表わす一つのシグナルだと言えます。

─ 企業が心がけるべきは、職場の環境ということですね。

小峰 女性だけでなく、色々な年齢層、正社員と非正規社員、または外国人とか、多様な立場の人が能力を発揮でき、意志決定に参画できるような職場にしていくことが重要です。今までの日本は、男性を新卒で採用するのが基本的なモデルでしたが、より多様なモデルが並列してあった方が良い。

これには実例があって、私の大学で院生が、実際にある中小企業のことを調べたのですが、それによると、その企業がどうしたら女性が辞めないで済むかを女性社員に聞いたところ、時間の管理がルーズで、だらだらと会議が長引いたり、長時間の残業が一番困るということだったそうです。そこで、会議はなるべく効率的に短くして、残業時間をゼロにしたところ、全体の生産性が上がったということです。

─ ワーク・ライフ・バランスを導入する上でのポイントとは何でしょうか。

小峰 3つポイントがあると思うのですが、1つはそもそもライフのためにワークがあるわけですから、仕事のために生活を犠牲するのではなく、生活の方を充実させるということ。2番目は子育て支援の観点から、子どもを産み育てたいという女性も就業を継続できるようにする。3番目は、自己啓発の時間も必要だということ。今まではそれを組織がやっていたわけですけれども、組織に依存した能力形成だと、なかなか組織から離れられない。自分の意思に沿った能力形成をするためには、やはり自分の時間が必要になります。

─ 現在、派遣切りや育休切りなど、特に女性が置かれている雇用情勢が厳しい中で、女性の活用を進めるために最も重要なことは何でしょうか。

小峰 相当雇用調整が進んでいますが、問題なのは企業が一番弱い立場の人から順番に切っていくということです。それは非正規であったり、女性であったり、新卒者なんですね。これは今の雇用システムがそういう前提になってしまっている。つまりコアの男性を中心に仕事が設計されていて、女性や非正規労働者は周辺労働力という位置づけなので、そちらを調整しても企業は余り痛みを感じないということになります。

ですから、長い目で見ると、やはりシステムそのものを変えていかないといけないということになりますね。よく言われるのは、同一労働、同一賃金にしていって、正社員、非正規の差をなるべく小さくしていく。また、正社員と非正規社員の間の移動の垣根を低くし、働き方を弾力的に変えられるような仕組みにするということでしょうか。

─ 女性に向けたメッセージをお願いします。

小峰 経済でも社会でもよく考えてみれば、これは間違いなく進むだろうという「流れ」があります。女性がより能力を発揮するような経済社会になっていくというのは、ほとんど間違いなくそうなると思います。そういう流れであれば、これは早めに適応してしまった方がのちのち絶対有利になるのです。

日本では、女性の方で管理職になりたがらない人がまだ多く、むしろ女性自身が自分の能力をフルに発揮しようとしない面もあるとも言われます。これは恐らく、ロールモデルが周りにいないからだと思いますが、ロールモデルが身の回りにもっと増えてくれば、将来のオプションがわかるようになります。女性の方も、自分たちの能力がこれからもっと発揮できる方向に進むんだと考えて選択した方が良いのではないかと思います。男性も同じで、これから男性も家事に参画をするという世の中になるんだと思えば、例えば早めに料理を勉強しておくとかですね。

─ お忙しいところありがとうございました。

小峰 隆夫
法政大学大学院
政策創造研究科 教授
小峰 隆夫

こみね・たかお/69年経済企画庁入庁。国土庁審議官、経済企画庁審議官、経済研究所長、物価局長、調査局長などを経て、2008年より現職。