「共同参画」2009年 4月号

「共同参画」2009年 4月号

特集

新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について
~とりまとめに向けた論点整理より~ 内閣府男女共同参画局調査課

男女共同参画会議監視・影響調査専門調査会では、「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について」というテーマで、中間的な論点整理を平成21年3月26日にとりまとめました。同調査会では、今後生活困難を抱える人々に対する具体的な支援策の在り方についてさらに検討し、夏頃に報告をまとめる予定ですが、今回の特集では、その論点整理で明らかになった生活困難を抱える男女の実態や今後検討すべき課題を紹介します。

家族の変化、雇用・就業をめぐる変化、グローバル化など、経済社会が大きく変化する中、ひとり親世帯、不安定雇用者、外国人、障害者等、生活に困難を抱える人々の状況が多様化かつ深刻化しています。

調査では、複合的に様々な困難を抱える人々の状況について、経済的困難だけではなく、教育や就労等の機会の不足や健康面での障害、地域社会での孤立などの社会生活上の困難も含めた「生活困難」という概念を用いて捉えています。そして、統計・調査等のデータや支援機関・団体に対するヒアリング結果をもとに、生活困難を抱える人々の実態や背景について男女共同参画の観点から分析し、支援をめぐる課題について検討しています。

1.女性の生活困難とその背景
【顕在化しつつある女性の生活困難リスク】

これまで女性の生活困難については、単身女性や母子世帯など限られた層の問題として捉えられ、夫の扶養がある標準世帯モデルのもとでみえにくい問題でした。しかし、未婚や離婚の増加により単身世帯や母子世帯がこれまでになく増える中、女性自身が生計を維持する必要性が増し、経済的な困難に直面するリスクを抱える女性が増加していると考えられます。平均的な生活水準から一定の割合の所得以下の人がどの程度いるかを示す相対的貧困率を男女別・年齢別にみると、ほぼすべての年齢層において女性の方が相対的貧困率が高く、ライフステージを通じてその格差が広がります(図表2)。また、女性の中でも特に厳しい経済状況にあるのが母子世帯ですが、その年間収入は100万円未満が約3割、200万円未満では約7割となっています(図表3)。

図表1 新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について:とりまとめに向けた論点整理(概要)
図表2 年齢階層別・男女別:相対的貧困率(平成14年)
図表3 母子世帯・父子世帯の年間就労収入の構成割合(平成17年)
図表4 25-29歳男性・未婚女性:学歴別にみた雇用・就業状況

【背景にある女性の就業構造】

女性が生活困難に陥る背景には、女性が希望に応じた働き方を選択しにくい社会構造の問題があり、さらにそれには「男は仕事、女は家庭」といった固定的性別役割分担意識が影響している側面があります。仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の浸透や支援策が不十分であり、税制・社会保障制度が女性の就業調整をもたらす影響もある中、現状では女性が出産や育児等をきっかけに就業を中断し、働く場合も相対的に低収入で不安定な非正規雇用に集中しがちな状況となっています。また、女性が非正規雇用に就きやすい状況は、出産・育児に伴うものだけではなく、未婚の女性においても近年強まる傾向にあります。  女性においては、相対的に学歴が低い人で非正規雇用や無業になりやすい傾向が強くみられます(図表4)。特に、妊娠による高校中退など10代の妊娠・出産は、支援が十分にない状況では、その女性の教育機会と就労機会を同時に奪い、キャリアや能力開発の積み重ねを妨げ、人生全般にわたって不利な状況をもたらしてしまうことが懸念されます。

【女性に対する暴力等の影響】

既存調査やヒアリングの結果から、生活困難を抱え婦人保護施設等に入所している女性の多くが、DVや性暴力等の女性に対する暴力の被害経験を持っていることがわかりました。女性に対する暴力は、被害女性の自尊心を著しく壊し、様々な身体的・精神的な不調をもたらします。DVの場合には、加害者の追跡から逃れつつ、新たな住まいや就業先を確保し、離婚や子どもの養育等の複数の課題に向き合うことを余儀なくされるなど、その困難はきわめて大きいものとなっています。また、女性の性を商品化して扱う性産業の存在が、女性の尊厳を傷つけると共に、女性の心身に大きな負担を負わせ、その社会復帰を困難にしていることにも留意が必要です。

2.生活困難層の多様化・一般化と男女共同参画をめぐる問題

の厳しさが増す中、男性についても不安定な雇用が増加し、生活困難に陥るリスクが高まっています。男性については、父子世帯や高齢の一人暮らし男性が周囲に相談相手がおらず孤立しがちであるといった問題や、父子世帯が育児との両立のため仕事量を調整しようとしても周囲の理解を得にくいといった問題も指摘されています。

若年層において無業や不安定雇用が増加しており、キャリアの積みにくさや長期的な経済的困難につながることが懸念されます。これに関連しては、ニート等の問題が女性の場合に「家事手伝い」の形で潜在化しやすい一方、男性の方が本人も親も自立に対する意識が強く、その意識と実態との狭間で悩んでいるといった問題もあります。

また、国際結婚が1990年代以降急増し、平成18年には日本で生まれた子どもの約30人に1人が「少なくとも一方の親が外国人」となる中、在留外国人女性の社会不適応やDV被害、子どもの不就学や日本語教育をめぐる問題などが生じています。

3.基本的視点と今後検討すべき課題

以上のような状況を踏まえ、論点整理では図表5のように「対応の基本的視点」と「今後検討すべき課題」を示しています。  「対応の基本的視点」としては、1.生活困難の中にある男女共同参画をめぐる問題への着目、2.女性の生活困難の防止に不可欠な男女共同参画施策の推進、3.女性のライフコースを通じたエンパワーメントと総合的な支援-の3つを挙げています。特に、女性が働きやすい社会環境への改革や女性に対する暴力への対策等の男女共同参画施策の推進そのものが、女性が生活困難に陥るリスクを低減するという視点が重要です。  「今後検討すべき課題」は、次の4つの柱で整理しています。

図表5

【自立に向けた力を高めるための課題】

教育領域と職業領域等の連携に基づく早期からのキャリア教育や、ニート等の自立に困難を抱える若者への支援の充実が必要です。特に女性が、非正規雇用に就くことが将来に与える影響も踏まえ、義務教育等の早い段階から自らの経済的・社会的自立に関して学び、人生を通じたライフプランについて考えられるような学習機会を充実することが必要であると考えられます。

また、暴力被害当事者や何らかの理由によりメンタル面で問題を抱えた人々については、その精神的な回復を支援し、当事者の持てる力を引き出すエンパワーメントを図るため、相談支援や自助グループ等の活動支援の充実を図ることも重要です。

【雇用・就業の安定に向けた課題】

生活困難の防止にあたって、雇用・就業の安定は最重要の課題です。非正規雇用の増加に対応した均衡待遇の確保やセーフティネットの強化、女性の就業継続や再就業を支援するための環境整備等への取組を一層進めていくことが必要です。特に女性の再就業支援に関しては、子どもを持ちながら学び直しや資格取得ができる職業訓練の機会を充実していくことが必要であり、中でも生活困難な状況にある相対的に低い学歴の女性への支援の充実が重要であると考えられます。

【安心して親子が生活できる環境づくりに関わる課題】

生活困難層が増加することは、次世代への連鎖という点でも大きな問題です。次世代への連鎖を断ち切るためには、世帯としての経済力を高めるためにも女性の就労と結婚・出産・育児の二者択一構造を解消すると共に、生活困難を抱える世帯の子どもに対する教育機会の拡大等の支援が重要です。また、DV被害を受けた母子が施設を退所した後に、地域で段階的に自立に向けて進めるようなフォローアップの仕組みの充実や、父子世帯が地域で必要な支援を受けられるための取組、国際結婚や在留外国人とその子どもへの支援の強化なども求められます。

【支援基盤の在り方等に関する課題】

生活困難者への支援にあたっては、目指すべき自立の形を経済的自立だけではなく、日常生活における自立や社会関係づくり等の社会的自立も含めて捉え、職場体験やボランティア活動等も含めた地域における多様な居場所づくりを進め、支援チャネルの多様化を図っていくことが重要であると考えます。

また、生活困難層が若年男女や中年の単身男女など多様化が進む中、既存の制度では対応しきれない支援ニーズが増えつつあります。また、生活困難を抱える人々の問題は非常に複合化・連鎖しているにも関わらず、現状の支援は各種の制度が要支援者の状況や時期に応じて細分化し、縦割りになっているという問題もあります。こうした問題に対応するため、制度間の連携や体系の見直しのほか、NPOや企業等との連携による柔軟な共助の仕組みの構築について検討を深め、個人をそのニーズに対応して一貫してフォローし支援する仕組みを構築していくことが求められます。

以上は中間的な論点整理ですが、今後、監視・影響調査専門調査会で関係する施策の状況確認等も含めて更に議論を深め、具体的な取組の在り方も含めて最終報告をとりまとめる予定です。論点整理の詳細については、ホームページ(トピックス・お知らせ欄)をご覧ください。

URL:http://www.gender.go.jp/

注:「相対的貧困率」とは、等価可処分所得(収入から税・社会保険料を差し引き、社会保障給付を加えた額を、世帯の人数の平方根で割って調整した値。世帯構成員の所得水準を示す。)の中央値の50%未満の所得の人口が全人口に占める割合。