「共同参画」2009年 2月号

「共同参画」2009年 2月号

特集2

育休パパの育児体験記

内閣府では、平成20年9月2日から10月17日にかけて男性の育児休業体験記を募集し、84編の体験記が寄せられました。これらの体験記では、様々なエピソードが語られているほか、これから育休を取得しようとしている男性や職場、家族に対するアドバイスも含まれています。詳細については、HPをご覧下さい。http://wwwa.cao.go.jp/wlb/index.html

今回は、その中から富田晃彦さんの体験記1編と、育休パパの妻の立場から西垣淳子さんからの寄稿をご紹介します。

育休で得た5つの仕事能力  富田 晃彦さん

わたしたちは4年前、子を授かりました。3ヵ月だけですが、私が育休を取りました。子を持ったことで多くのことに気付き、学びました。ここではそのうち5つを記したいと思います。

まず、自分の想像力の限界を知り、謙虚になることができたことです。妻が妊娠してから、街中にお腹の大きな女性がたくさんいることに私は初めて気がつきました。とたんに、恐ろしくなりました。私はこれまで多くのことに気がつかず、たくさんの人に失礼なことをしていたかもしれない。私は自分に妙な自信がありました。仕事もうまくいっていました。しかし社会全体が自分の先生、という謙虚で前向きな態度を忘れていました。育休の時間は、それを思い出させてくれました。

次に、人生の先輩誰もを尊敬することができるようになったことです。子育てだけでなく、社会の中のいろいろな仕事、助け合いで、たくさんの人が働いていること、働いてこられたことを、心から尊敬できるようになりました。育休の時間は、そういう心を作り出してくれました。

3つめに、人の話をよく聞くことができるようになったことです。これは仕事で大いに役に立ちました。仕事でトラブルはつきものです。トラブルの相手は大変感情的になっている場合があります。しかしじっくり話を聞くと、問題の核心がよく見えてきました。じっくり話を聞くと、お互いの信頼も生まれました。この仕事能力は、育休中に鍛えたものでした。

そして、子をかわいらしく思うようになったことです。何だ、と思われるかもしれません。見た目が愛らしい、という単純なものではありません。言葉で表現するのは難しいですね。子育てを何ヵ月かこなしていくうちに、初めてかわいらしいという感情を持ちました。また、人の子もかわいらしく思うようになりました。変な表現ですが、私が指導する若手も、かわいらしく思うようになりました。子を授かる前は、子どもが嫌いということでは誰にも負けない自信があったくらいでした。育休の経験から、かわいらしく思うという感情を、実感をともなって持つことができました。若手育成への新たな意欲につながりました。

最後に、制度整備で仕事をする方々への感謝の気持ちを持つことができるようになったことです。私たちは子を授かることを予想していませんでした。私も妻も仕事はどうなるのか、私は妻をどう支えたらいいのだろうか、何も用意していないのにどうすればいいのか。こんな私に貴重な時間を下さったのは、育休制度でした。育休制度を整えて下さったすべての方々に感謝したいと思います。

子育ては、私を成人させてくれた、と思っています。おっさんと呼ばれる年齢になってからですが、社会人として大きな能力を身につけることができました。育休制度は、そのための、ある意味静かな時空間を用意してくれました。そこで得た力を、仕事上の粘り、若手の育成への意欲、いろいろな人との信頼関係構築という形で社会に還元することが、私の次の仕事だと考えています。

パパの育児休業体験記に寄せて  西垣 淳子さん

80通を超える育児休業体験記が内閣府に寄せられたことは、男性の育児休業が社会的に広がってきていることを示していると思います。もちろん、育児参加の有無は、決して育児休業の取得の有無だけで計れるものではありません。男性の育児休業取得率の相変わらずの低さにもかかわらず、街で見かける赤ちゃん連れのお父さんたちの姿は確実に増えているのを感じています。

体験記の中にも指摘されていましたが、育児休業の取得の難しさもありますが、育児休業のあとに、連綿と続く長い育児生活を、いかに仕事と両立させていくか、ということのほうが、難しい点も多いと思います。

女性の7割が第一子出産後に仕事をやめています。そして、仕事と育児の両立の難しさをその理由としてあげている人が多いのは、現実の厳しさを物語っているのでしょう。

私自身も、1歳にならない双子を保育園に預けて職場復帰をしたときには、自分のキャリア継続に苦労していました。それでも、第三子の誕生をきっかけとして、夫が一年間の育児休業を取得し、その間3人の育児を主体的に行ってくれた結果、仕事継続の困難さはずいぶん軽減されました。

現在は、夫も職場復帰をし、夫婦双方が、仕事と育児の両立を協力しながら行っています。そうした中で感じるのは、双子の育児責任を一人で負いながら、仕事と両立していた時期と、夫とその責任を分担しながら、3人を育てている今との相違です。

第三子出産前の夫は、自分の都合のよいときにだけ子どもを見てくれるという「育児のお手伝い」でした。最後は、「俺には仕事がある」という言葉で逃げ切られてしまいます。「君が休めないのか」「誰か他の人に頼んでくれよ」といわれることはあっても、「俺が何とかする」とは言いませんでした。

夫も「育児」をしている今は、私の負担と責任は、半減どころか、精神的には10分の1ぐらいになりました。夫が「育児」をするようになったきっかけは、育児休業取得です。子育てを自分で100%行うことにより、自分のかつての「育児のお手伝い」が、いかに「育児」と呼べないかということを痛感したようです。

妻が働いている場合に、夫が育児責任を共有することは、妻の仕事との両立を格段に容易にすると思います。常に、子どもに何かあったら、自分が仕事を休むあるいは辞めるという選択肢しかないのに比べて、場合によっては夫に頼めるということであれば、妻は仕事を続けやすくなります。

また、妻の職業の有無にかかわらず、子どもを育てるという責任の重みは、一人で負うには重過ぎます。そして、同時に、日々成長していくわが子のいとしさを妻に独占させるのはもったいなさ過ぎます。体験記の中にもありましたが、育児休業を取った皆さんはそれに気がついています。

男性の育児休業の取得は、夫婦がともに子どもを育てるという選択をするきっかけとなるように思います。もちろん、家庭のあり方、子育ての方針は、それぞれの家族で納得して決めていくことです。それでも、育児休業の取得を阻む要因が大きければ、家族の選択は達成できません。体験記の中でも、職場の理解や周囲の環境による後押しが、取得の決断につながったというコメントがあるように、おそらく、その逆に、取りたくても、周囲の反対で取れなかったという人たちも多くいらっしゃるのでしょう。仕事と生活の調和、男性の育児休業取得促進に向けて、社会全体で取り組んでいくことは、非常に重要だと思います。

富田 晃彦(とみた・あきひこ)
和歌山大学准教授、平成16年10月から12月までの3か月間の育児休業を取得。

西垣 淳子(にしがき・あつこ)
平成3年通商産業省(現経済産業省)入省。産業組織課課長補佐等を歴任し、平成14年に双子を出産、1年間の育児休業を取得。平成16年に男児を出産。夫である山田正人さんが1年間の育児休業を取得。(山田さんは「経産省の山田課長補佐ただいま育休中」の著者)