「共同参画」2009年 1月号

「共同参画」2009年 1月号

リレーコラム/男女共同参画のこれまでとこれから 9

「男女の雇用機会均等」と「ワーク・ライフ・バランス支援」 東京大学社会科学研究所教授 男女共同参画会議議員 佐藤 博樹

「男女の雇用機会均等とワーク・ライフ・バランス支援」の2つを課題としてあげていますが、企業の人材活用ではいずれも重要です。

「均等」は、性別にかかわらず、意欲や能力に応じて活躍できる企業であるかどうかを、「ワーク・ライフ・バランス支援」は、出産や育児や介護などライフイベントがあっても仕事を続けられることができる働き方や仕組みがあるかどうかを示します。

企業の人材活用の実態を「均等」と「ワーク・ライフ・バランス支援」のそれぞれの実現度で分けると4つの類型ができます。4つの類型のうち「ワーク・ライフ・バランス支援」のみが充実している企業では、結婚や出産や子育てなどに直面しても女性が仕事を続けやすいものの、女性の多くは補助的な仕事にしか従事できていません。「ワーク・ライフ・バランス支援」は充実しているものの、「均等」が不十分なためです。他方、「均等」のみが実現できている企業では、女性が様々な仕事で活躍していますし女性管理職も多いのですが、結婚する、子どもが生まれるなどのライフイベントがあると、仕事を続けにくいため離職率が高くなります。「ワーク・ライフ・バランス支援」が不十分なためです。

均等法が成立した当初は、男性と同じように意欲や能力のある女性が、男性と同じキャリアを歩めるようにすることにその主たる目的がありました。女性が男性と同じように働き、男性と同じように仕事ができれば、女性でも管理職や、いろいろな仕事に従事できるという形で、「均等」を実現しようとしたわけです。しかし同時に、そうした女性にとっては男性の働き方を受け入れることが必要であったとも言えます。女性が昇進していくためには、自分の生活を犠牲にせざるをえない、あるいはスーパーレディーでないと仕事と生活の両立が実現しにくいことになったわけです。こうした結果、女性の間に、自分の生活を犠牲にするのは嫌だし、スーパーレディーのように有能ではないので自分には無理と判断してしまいがちな状況も生まれたのです。

女性の活躍の場を拡大していくためには、「均等」と同時に、「ワーク・ライフ・バランス支援」を充実することが不可欠なのです。「均等」が実現していても、「ワーク・ライフ・バランス支援」が不十分な企業では、男女役割分業を前提とした男性の働き方を前提にするのではなく、それを変えて行くことが必要となります。「ワーク・ライフ・バランス支援」を実現するためには、男性の働き方を見直すということが鍵になります。そのためには、つぎのような職場の管理職の役割が重要です。

とりわけ「均等」に関しては、能力開発機会の均等化が重要で、現場の管理職が、部下の性別にかかわらず、個々人が持っているポテンシャルを適切に判断し、部下が能力開発やキャリアを実現できるようにすることです。また、「ワーク・ライフ・バランス支援」では、仕事の仕方や管理の仕方を変えることです。残業や休日出勤を前提にするのでなく、部下には様々な「時間制約」があるということを前提にした仕事の仕方にしなければなりません。管理職に求められることは、部下が休業しても対応できるような職場作りです。情報共有ができ、お互いの仕事をカバーできるようにすることです。これからは「時間制約」つまり「社員が仕事に投入できる時間には制約がある」ことを前提にした働き方に改革することが求められています。このことは女性だけでなく、「時間制約」のある男性が意欲的に働くことができるためにも必要なのです。

佐藤 博樹
さとう・ひろき/1953年東京生まれ。1981年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位修得退学。1981年雇用職業総合研究所(現、労働政策研究・研修機構)研究員。法政大学大原社会問題研究所助教授、法政大学経営学部教授を経て、1996年より現職。厚生労働省・労働政策審議会分科会委員、内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、厚生労働省・仕事と生活の調和推進委員会委員長などを務める。