「共同参画」2009年 1月号

「共同参画」2009年 1月号

有識者に聞く

女性農業者と男女共同参画時代
昭和女子大学教授 天野 寛子

戦前には、日本の農家の女性は発展途上国の女性と同じような問題を抱えていた。農家の嫁は、意見を言うことなど許されず、「角の無い牛」として、ひたすら働くことで自分を護るよりほかなかった。しかも、農業労働報酬がないため、資産形成ができず、主体的な人生設計もできなかった。女性農業者は、家族のなかに囲い込まれ、地域社会の慣習の中で、主体的な個人として生きていくことは困難であった。

こうした状況の改善のため、1948年、当時の農林省は生活改善課を設置した(この間数回組織替えがあり、2008年現在人材育成課女性・高齢者活動推進室にその仕事が引き継がれている)。普及活動方法は、農家女性の生活技術を伸ばし、日常生活を改善することで、自信をつけ、一個人として地域からも評価されるように成長するといったもので、現在の共同参画の目指す労働報酬、資産形成、社会参画という要素は前面に出ていなかった。

1992年の中長期ビジョンにおいて、ようやく現代的な意味での女性農業者の課題が見え、モデルが示された。1995年以降、家族経営協定締結、女性農業者の起業支援、規模拡大意欲をもつ認定農業者重視施策を通した女性支援、農家女性のチャレンジ支援イメージ形成、共同参画社会の推進の指標が示され、実績向上に取り組まれた。

では、これらの取組を経て、農村部は今、どのように変化しているのか。

まず、意識と行動の改革の側面では、「個としての主体性」は変化がみられるが、固定的役割分担とりわけ家事については遅々として進んでいない。他方、男性の介護についての意識は変わりつつある。世代交代によって大きく変わるかもしれない。社会的な機運の醸成については、リーダーがでてくる一方で、多くの委員や役割が一人に集中したり、交替する人材がえられないために疲れてきているという実態もある。

政策・方針決定過程への女性の参画の拡大についても、数値は上がってきているものの、次の世代が育ってこない、また育てる役割を担っていた都道府県の普及組織が改編されつつある状況もある。女性農業委員が経営アドバイスをし、そこから家族経営協定を進め活動している地域もあるが、共同参画のためのネットワークは、まだ弱く、十分に浸透しているとは言えない。

女性の経済的地位の向上については、家族経営協定締結者の調査結果でも労働報酬があるのは60%程度であり、経済的地位の向上に直結してない場合もある。また、税制面での問題もある。「共同経営者」と言葉では言うが、現行の制度では、「一経営体に一人の経営主」となっているために、経営主以外は家族従業員となってしまう。

現代の新たな課題として、グローバル化がもたらす様々な影響がある。国際価格競争、食の安全問題についての消費者の反応に対応するため過重労働を生んだり、食糧や飼料がバイオ燃料に回され地球規模での食糧問題を引き起こしたり、わが国の畜産農家を直撃したり等々である。

明るい面では、力のある女性農業者のロールモデルが出てきている。グループ活動で技術とリーダーシップを磨き、その技術を生かして起業するとともに、農業委員などで社会参画を実現し、活動しているような女性達である。女性の生き方も多様化している。今後、自分の農地をもたなくても、若い女性たちが単独で農業ができるような仕組みづくり、支援づくりがなされる必要がある。

(談)

あまの・ひろこ/1963年昭和女子大学卒業。昭和女子大学短期大学部家政学科専任講師、助教授、生活文化学科教授を経て、2003年昭和女子大学人間社会学部福祉環境学科教授、大学院生活機構研究科担当に就任。専門は、日本の女性農業者の地位問題、生活経営学、家族福祉文化。