「共同参画」2009年 1月号

「共同参画」2009年 1月号

特集

配偶者からの暴力防止と被害者の支援に関する全国会議について 内閣府男女共同参画局推進課

平成20年9月26日、東京ウィメンズプラザにおいて「配偶者からの暴力防止と被害者支援に関する全国会議(DV全国会議)」が開催されました。DV全国会議では、DVの問題に関わる官民関係者が一堂に会し、情報提供、地方公共団体の先進的な取組について事例発表、有識者等による講演等が行われました。

配偶者暴力防止法の改正により被害者保護や市町村の役割が強化されましたが、これまで、行政担当者と民間関係者が全国規模で情報を共有し、共に考える機会が無かったことから、今回、「地域に根ざした被害者支援を考える」をテーマに、官民の関係者が一堂に会する全国会議を開催しました。

第1部 全体会

1 小渕大臣の開会あいさつ

開会にあたり、小渕優子内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)からあいさつとして、「被害者に最も身近な市町村や民間団体の被害者支援の先進事例を発表いただく場を設け、この問題に関わる関係者が有益な情報を共有することで、取組みの推進と官民連携のさらなる強化拡大を図っていきたいと考えています」と述べました。

2 基調講演

「地域における官民連携のこれから」~NPO法人「全国シェルターネット」代表理事 近藤恵子~

  • 総務省のアンケート調査
    先だって、総務省によるDV施策の政策評価が発表されました。この結果ですが、公的な機関で働いている者のDV施策の展開についての評価と、現場の当事者やサポート支援グループの評価とのギャップは、私が予測した以上にはるかに大きな開きとなっていました。『地域における官民連携のこれから』ということを考えるときに、このギャップをどのように埋めていくのか、ということを具体的に考えていく必要があります。
  • 法改正と基本方針改定
    平成13年に配偶者暴力防止法が制定され、2度の改正を経ております。また、基本方針についても、この度、改定がなされました。 国の基本方針について、私は、最低限のミニマムスタンダードと考えるべきだと思っています。それから続いて、都道府県・市町村で作る基本計画において、国の基本方針に則って、地域で具体的に施策を動かすアクションプランを実効性のあるものにしていかなければなりません。そうしてはじめて、いつでも、どこでも誰でも、必要なサポートを受けられるようになるのだと思います。
  • 配偶者暴力防止法の権利主体は被害当事者であること
    配偶者暴力防止法の権利主体は被害を受けている当事者です。その当事者がどういう状況であっても、この法律に基づいて自分自身の再生を図ることができなければ、本当の意味での法の精神は活かされないと思います。 当事者がどんな地域に暮らしたいか、どういう人生を送り、そのためにはどのようなサポートが必要かということは、当事者が一番よくご存じで、当事者こそが専門家なのです。その意味で、女性が女性に対する様々な差別や不利益を克服して、男性と女性が対等に向きあえる社会を作り上げるために、特に、暴力の被害を受けている当事者と共にこの地域のあり方を変えていこうとするならば、当事者参画を柱にした連携のあり方というものを、組み立て直す必要があると思います。 総務省の政策評価のギャップが少しでも縮まっていくためには、当事者が専門家としてこの問題のグランドデザインを描き、地域が、社会が、国が支えていく必要があると考えます。

3 パネルディスカッション

「身近な行政主体としての市町村の役割について」

コーディネーターを男女共同参画センター横浜の納米恵美子館長にお願いし、久留米市男女平等推進センターの石本宗子相談コーディネーター、「S・ぱ~ぷるリボン」の梛尾和枝協同代表、野田市保健福祉部男女共同参画課の柏倉一浩主査、NPO法人「のだフレンドシップ青い鳥」の鈴木洋子総括責任者、岡山県の小野恵子男女共同参画課長の5名のパネリストにより、パネルディスカッションが行われました。

納米 平成19年の法改正を踏まえ、都道府県、市町村を問わず、行政と民間団体がそれぞれの立場で、被害当事者に役立つ支援のためどうすればいいのか、一緒に考えていきたい。

石本 久留米市では、市のDV施策として、被害者支援のワンストップサービスや、ワンストップ化のためのDV被害者相談共通シートがある。また、被害者支援で各課が何をすべきかを盛り込んだ対策マニュアルも作成している。機関連携としては、市役所関係の庁内ネットワーク会議と外部機関も入った相談関係機関ネットワーク会議がある。行政と民間の壁をつくるのは行政の官僚意識であり、その有無でワンストップサービスの成否が決まる。

梛尾 「S・ぱ~ぷるりぼん」は久留米市の民間シェルターで、シェルターの提供、保護命令申立手続き支援や生活再建のための情報提供と手続きの同行支援などの活動をしている。被害者の意思を尊重しながら安全に配慮し必要な支援を心がけている。市との連携では、特別支援団体の指定を受けて施設・駐車場の利用料が免除され、また、市の無償提供によるスペースでリサイクルショップを経営し、そこでは自立し始めた被害体験者も働き、社会との繋がりの回復の場となっている。行政とは、対等な立場で顔の見える関係の中で連携している。

柏倉 野田市は千葉県の中でも最北部なので、身近な場所での保護が必要だろうと、市でシェルターを設置した。退所後の住宅確保のための施策なども設けるなど、相談から自立支援までのトータルな支援を行っている。市に配偶者暴力相談支援センターを設けることにより、保護命令の際の地方裁判所、県警本部との連絡や申立ての際の証明を市で対応できる。市町村には、まずDVの窓口を一本化して、DVの担当を作ってほしい。そうすることで、被害者が他の市町村へ行って自立する際に互いの協力体制ができる。

鈴木 野田市がシェルターを設置する際、市長から市民に協力要請をして、シェルターの運営を市から受託するNPO法人「のだフレンドシップ青い鳥」を立ち上げた。シェルターに入所した被害者に寄り添い、何気ない会話の中から被害者の本心や気持ちの変化などをつかむことを心がけている。住居や仕事の確保の支援、同行支援もしている。スタッフが高齢化しており、増員が課題だが、無償のボランティアなので確保が難しい。

小野 岡山県では、市町村との連携強化を重点目標として県のDV基本計画を改定した。県内の市町村の取組は地域により差がある。市町村の基本計画は、策定の過程で関係者や職員の自覚が高まるので策定自体に意味がある。DV対策は全ての市町村が地域の実情に応じて進めていくことが重要であり、民間団体との連携も必要。県としても、DV対策を地域に広げ、充実させていくために中心となって取り組んでまいりたい。

第2部 分科会

第2部は、地域に根ざした被害者支援を考える上で重要な、安全への配慮、機関連携会議、継続的な自立支援の3つのテーマで分科会を設けて議論を行いました。

第1分科会 「被害者・支援者の安全への配慮~相談・啓発事業において」

第1分科会では、NPO法人全国女性シェルターネットの近藤恵子代表理事、名古屋市子ども青少年局子ども育成部の原田恵理子主幹、名古屋第一法律事務所の可児康則弁護士、警察庁生活安全局生活安全企画課の杉田理佳主任を講師に議論が進められました。

【主な議論】

被害者と支援者の安全の確保については、「ハード面では、いかに安全な施設を確保していくか、ソフト面では、二次被害あるいは二次加害等の危険な状況に遭遇しないための様々な配慮が必要である(近藤氏)」「関係部局での認識の共有化が必要であり、配偶者暴力相談支援センターは関係部署の調整機能を果たし、組織的な対応をすることが重要である(原田氏)」「警察にきちっと相談しておくこと、これは最低限必要である。本当に危ないケースでは早めに弁護士につなぎ、弁護士と支援者との間で連携を取り進めることが第一である(可児氏)」「最悪のケースを想定して誰が110番するか、誰が被害者を逃がすか、どうやって逃げるか、役割分担を決めることから始めてほしい(杉田氏)」などの意見がありました。また、「啓発事業において抗議活動等が予想される場合は、事前に警察に情報を入れてほしい、情報がないと対応が難しくなる(杉田氏)」「調停での危険を回避するため、部屋を別にすることや日時を変えることなどの配慮が大事である(可児氏)」との発言がありました。

その他にも、被害者の安全を図るために保護命令制度の活用も必要であること、保護命令の裁判所での手続きは地域ごとに違うこと(可児氏)、加害者対策で一番必要なのは毅然とした態度で対応すること(原田氏)などが紹介されました。

【会場からの意見】

会場からは、セキュリティチェックもなく、金属探知器も置いていない地方裁判所における安全確保の問題、家庭裁判所での調停における二次被害の問題、2度目・3度目のDVにおける警察の対応、地域における警察の対応の違い、DV被害の通報のための学校関係者や医療関係者に対する教育や周知、DVケースでの加害者と子どもの面接交渉等について意見がありました。

第2分科会 「機関連携会議の運営の実際」

第2分科会では、新潟市市民生活部の本田加代子男女共同参画課長、NPO法人「かながわ女のスペースみずら」の阿部裕子事務局長、厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課母子家庭等自立支援室の坂井隆之女性保護専門官を講師に議論が進められました。

【主な議論】

本田氏からは、市町村における連携会議において、単なる情報交換の場だけでなく、事例をもとにそれぞれの部署でどんな支援・対応ができるのかを考えるグループワークを含めた研修を、民間団体との共催で企画している事例が紹介されました。

阿部氏からは、県単位で行政・民間が連携した被害者支援を行う仕組み、相談支援センター、実施機関、シェルターの担当者が本人と一緒にケースカンファレンスを行い、分担して支援に向けた連携を図っていること、支援に関する様々な連絡会議があり、行政と互いに意見交換を行っていることなどについて情報提供されました。

坂井氏からは、DV対策に関係のある子ども虐待死亡事例から関係機関の連携や情報提供が重要であること、機関連携会議を有意義なものとするため、具体例を検討してこそ共通認識・役割分担・連携方法が明確になる(管理職レベルの会議でこそ重要)こと、DVが直接の職務ではない機関(部署)こそ参加してもらうべきであること、当面の「主担当機関」「主たる援助者」を確定すべきであること、事務局は「ケース進行管理台帳」を作成・更新すべきであることなどの方策が示されました。

【会場からの意見】

国が紹介した死亡事例について「DVというのは、女性だけでなく子どもに対する暴力であるととらえ、婦人・児童の関係機関がもっと連携できなかったのだろうか」という意見、また、シェルターへ来て精神的なもので医療機関にかかる子どものDVの影響に関する意見、被害者支援に当たって行政側の知識や意識が壁になっているという意見、さらに、連携会議に研修会を盛り込んだ事例が参考になったといった意見がありました。

また、参加者の法務省人権擁護局から、地域の配偶者暴力防止連絡協議会への人権擁護機関の参加について発言がありました。

第3分科会 「地域における被害者の継続的な自立支援」

第3分科会では、認定NPO法人ウィメンズハウスとちぎの中村明美代表、宇都宮市市民生活部の広瀬路子男女共同参画課長、内閣府男女共同参画局推進課の土井真知暴力対策専門職を講師に議論が進められました。

【主な議論】

中村氏からは、「シェルター退所者を対象に親子で参加できるイベントを企画し、その中に小児科医、保健師、子育て相談員等に参画してもらっている。子どもに発達障害の疑いがあっても、被害者は毎日の生活が大変で、わざわざ病院等には行かない。バーベキューなどのイベントが、専門家に相談できる場となるよう工夫している、一時保護期間中に保護命令や転校・転宅の手続きはできても、それ以外の問題は解決できない。本人が精神的につらかったり、子どもが父親と別れたとたんに暴力的になったりして、自分が家族を捨てたせいではないかと自らを責める場合がある。自分の選択が良かったのだと思えるような支援のシステムが必要」等の意見がありました。

また、広瀬氏からは、「日常の生活支援として、料理ができない、洗濯ができないなど、基本的な生活に困難を感じている被害者に対し、ニーズがあればすぐに2、3人でも集めて講座をするようなことができたらよいと思っている、就労支援についても、現在民間団体によるIT講座の開催に助成をしているが、これだけでなく、資格取得への何らかの支援ができないかと考えている」などの発言がありました。

「市町村の基本計画を策定し、その過程において、各地域の社会資源がどうなっているか、どういう対応をするか、官民の関係者で検討いただきたい。(内閣府)」「行政としてはできるところからまずやるべき。予算が少なくても、やり繰りはできるはず。官民の連携と協働が必要。(広瀬氏)」「精神的ケアや生活支援がないまま地域に出た場合、子どもの不登校やひきこもり、借金を抱えてしまうなど二次的な問題が生じる。継続的な支援は被害者当人だけではなく、地域の安全な社会を築くために必要な対策である。(中村氏)」とのまとめがありました。

配偶者からの暴力防止と被害者の支援に関する全国会議について 配偶者からの暴力防止と被害者の支援に関する全国会議について 配偶者からの暴力防止と被害者の支援に関する全国会議について