「共同参画」2008年 12月号

「共同参画」2008年 12月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 8 ~カナダ~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

以前、WLBへの取り組み方は、大きく英米型と欧州大陸型に分類でき、「英米型はワーク軸が強く、欧州大陸型はライフ軸が強い」と述べた。カナダは丁度、両者の中間に位置する。また、「リスク回避策」としてのWLBという色彩が強い点もカナダの特徴だ。

攻めのWLBと守りのWLB

英米型は、「経営戦略として」のWLBという色彩が強い。一方、欧州大陸型は、「社会厚生として」あるいは「地域戦略として」のWLBという色彩が強い。これに対してカナダは、「リスク回避策としてのWLB」という色彩が強い。英米型や欧州大陸型がWLBのメリットを強調するという意味で「攻めのWLB」であるのに対して、カナダはWLBしないことのデメリットを強調するという意味で「守りのWLB」と言えよう。

同国では1990年代に、「ワーク・ライフ・コンフリクション(仕事と生活の衝突、以下WLC)」の急増が問題視された。1.仕事・家庭における役割が過重である、2.家庭に仕事が介入する、3.仕事に家庭が介入するという3つの側面から、さまざまな研究がなされた。

当時のWLCに関する従業員アンケート結果をみると、WLCは1.女性の方が男性よりも強く、2.子どものいる女性の方が子どものいない女性よりも強い。すなわち、夫が家庭を顧みない傾向にあるため、妻にしわ寄せがいく様子がうかがわれる。

また、WLCは、企業経営や社会厚生にとってもマイナスの影響を与えている。ストレス度が高い従業員は、欠勤が多く、従業員援助プログラムを頻繁に利用し、離職率が高い。カナダ企業は、欠勤により年30億ドルのコストを負担している。

また、WLCの高い人は医療への依存度も高いため、医療にかかる費用が年間4億2,500万ドルに上る(以上、内閣府「少子化社会対策に関する先進的取組事例研究報告書」第5章、2006年を参照)。

父親の育児参加プロジェクト

こうしたリスクを回避するために、2002年からカナダ連邦政府は「My Daddy Matters Because…(お父さんは大事、だって…)」プロジェクトを実施した。プロジェクト名は、子どもの目線を重視し、「父親が子どもの成長にとってとても重要な存在である」という考えによる。具体的には、1.父親の育児参加の現状の全国調査、2.父親が参加できるような育児支援のプログラムやガイドブックの作成、3.TV、ラジオ、ポスター等のキャンペーン、を実施している。例えば、「お父さんは地球でいちばんすてきな仕事」というポスターを貼ったキャンペーンは大きな話題を呼んだ。

翻って日本はどうか。現在、男性の育児休業取得率は1.6%に過ぎない。筆者も昨年、育児休業を取得したが、赤ん坊を抱えて日中、地域をうろうろしている男性の姿は「珍獣」のような存在らしい。「この人は失業者かしら」、「奥さんに逃げられたのかしら」という憐みの目を強く感じた。たぶん育児をしなければ「楽」だった。一方で、育児はたいへんだけど「楽」しい。同じ字だが、違いは大きい。実践者の一人として、ライフとワークの相乗効果をまざまざと実感している。男性にとって、育児参加のメリットは非常に大きい。

WLCのリスクを回避するためにも、カナダにならってわが国も父親の育児参加をさらに推進していくべきであろう。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。