「共同参画」2008年 12月号

「共同参画」2008年 12月号

リレーコラム/男女共同参画のこれまでとこれから 8

経済の視点から男女参画社会の実現を求める (株)インターアクト・ジャパン代表取締役 男女共同参画会議議員 帯野 久美子

リーマンブラザーズの破綻に端を発した金融危機で、世界はすっかり変わってしまった。日本経済も深刻な打撃を受け、株価暴落・円の急騰に、輸出業者の悲鳴が聞こえてくる。同じ光景を私たちは、1985年のプラザ合意時に見た。それ以来、内需拡大が政策課題となってきたが、20年間で問題はどれくらい解消できたのだろうか?

家計支出で見る限り、バブル崩壊後、日本人の消費は低迷している。家具・家具製品は8割に、被服、履物は5割に減少した。食費は1975年比で3.5倍に増えたが、外食が増えた分、生鮮食料費の割合は1.2倍にしか伸びていない。日本人は家で食事をしなくなった。そして「物」を買わなくなった。

一方で、消費を伸ばしている分野もある。例えば1975年に比べ、交通、教育、通信は3倍に伸びている。交通には観光・旅行の費用が含まれ、教育には子供の教育費の他にカルチャースクールや語学学校などの費用が、通信には携帯の料金が含まれている。

他にも目立たないところで増えている消費がある。美容室だ。美容室は過去四半世紀で約1.5倍に増えた。美容師の数も1.7倍に増加し、現在39万人の若い女性たちが働いている。面白いところでは、犬の美容師ならぬトリマーの数が増加していて、こちらは中高年の女性たちが多く就業している。

こうして見てみれば、消費の伸び悩みは、経済よりも需要と供給のミスマッチに起因しているということが分かる。日本人の平均年齢はすでに43歳。社会が成熟期を迎え、消費スタイルが変化しているのに、産業政策は未だ重厚長大のものづくりに重きがおかれている。成熟社会で伸びていく消費は、「やさしさ」「安らぎ」などの付加価値のついたサービスが主流だ。そこでは女性が主人公となる。

言うまでもなく、わが国の女性の社会参画は遅れている。政府は、「2020年までに、すべての分野で指導的立場の女性を30%にする」という目標を設定し、女性研究者、医師、公務員に焦点を合わせた実行プログラムを展開している。この目標の達成を願うことはもちろんだが、特別な女性だけではない。地域の「普通の女性」たちにもスポットライトを当てる政策が欲しい。

日本列島の津々浦々で、多くの女性たちは経済活動に参加したいと考えている。地域の「普通の女性たち」が、創意工夫をこらした物販、飲食、アートなどのニューサービスを起業しやすいしくみ作りができたなら、その先に、地域振興、観光産業の発展、ひいては内需の拡大が見えてくる。小さな力だが、国を変える大きな力をもった女性たちだ。今後の男女共同参画社会づくりには、そんな女性たちが中心になって欲しいと考えている。

帯野 久美子
おびの・くみこ/追手門学院大学卒。1985年(株)インターアクト・ジャパン設立。財団法人国際観光サービスセンター理事、社団法人関西経済同友会常任幹事、和歌山大学観光学部特任教授、追手門学院大学客員教授・同学院理事、2007年より内閣府男女共同参画会議議員。