「共同参画」2008年 12月号

「共同参画」2008年 12月号

特集

地域における男女共同参画推進の今後のあり方について -1/2- 内閣府男女共同参画局推進課

座談会「地域における男女共同参画推進の今後のあり方について」
出席者     高橋 泰子     特定非営利活動法人 緑と水の連絡会議 理事長
吉村 憂希 特定非営利活動法人 青少年育成審議会JSI 理事長
桜井 陽子 財団法人横浜市男女共同参画推進協会理事、 男女共同参画会議基本問題専門調査会委員
船木 成記 内閣府男女共同参画局政策企画調査官

船木 10月に公表された男女共同参画会議基本問題専門調査会の報告書「地域における男女共同参画推進の今後のあり方について」では、地域の課題解決のための実践的活動を通じて男女共同参画を推進していく取組の重要性が示されています。今回は、実際に地域で活動されている方々のお話を伺いながら、地域の課題解決を通じた男女共同参画の推進や、そのための連携・協働について考えていきたいと思います。

では最初に、それぞれのご活動についてご紹介ください。

高橋 島根県大田市で、里山保全運動、具体的には国立公園三瓶山の草原景観や世界遺産石見銀山の環境保全活動を行っています。

当初は、松食い虫防除の薬剤空中散布反対運動から、家庭の主婦がつくった会です。私は宮城県出身なので、当時は「よそ者が何をするか」とかなり叩かれました。山に人が入る仕組み、「循環社会」をつくるためには必要だと提案した政策を誰も振り向いてくれなかったので、20年かけて自分たちでこなしてきた。それが現在の活動につながっているのです。

また、有限会社で立ちあげた福祉施設に託児所を作ったり、病後児保育を県との協働事業で立ちあげている最中でもあります。

吉村 大阪のNPO法人青少年育成審議会JSIの吉村憂希(うさぎ)と申します。これは本名で、みんなから「うさぎさん」と呼ばれています。

私も高橋さんと同じで、地元の者ではなかったのでなかなか受け入れてもらえませんでした。

うちの団体は活動して23年になります。私は目が悪く、目を細めたくないので、誰でもすれ違った人にはニコッと笑うようにしていました。きっかけは、コンビニへ買い物に行って茶髪の子どもたちと目であいさつするようになり、声をかけられて道端で話を聞くことになったのです。話を聞いているうちに、では解決できる人に会わせてあげようと知り合いを紹介することになって、活動がだんだん広がっていきました。

できることをやり始めたら、いつの間にか500人以上の子どもを相手にすることになりました。その子たちは今40歳前で、日本中にいろんなチームを作って広がっています。

その後、活動が徐々に認められて、大阪府教育委員会の「こころの再生」府民運動をはじめ、府の条例の深夜外出禁止規定や、防犯・防災のプログラムなどに関わってきました。

まちづくりはまず人ですから、私はそのための人づくりで役に立ちたいと思います。

桜井 私のいる男女共同参画センター横浜は20年前にできました。男女共同参画センターは、確かに一昔前は中高年の女性が主な利用者でしたが、1999年に男女共同参画社会基本法ができてから、女性の地位向上や女性問題の解決から広がって、地域全体を視野に入れて、NPOや行政、学校などと一緒に、性別にとらわれずに個人の力が発揮できる社会をつくっていこうということになっています。うちのセンターでは年間150本ほどの事業を実施していますが、その半分以上は他機関や団体との連携・協働で行っています。

船木 桜井さんもNPO活動をされてますね。

桜井 はい。一つは「女性の安全と健康のための支援教育センター」と、もう一つは「神奈川子ども未来ファンド」です。二つに共通するのは、生きにくさを抱える女性と子どもの支援です。男女共同参画センターも、これからはそういう人たちの切実なニーズに応える事業をしていかねばならないと思います。

もう一つ、全国女性会館協議会という、全国各地の男女共同参画センターを会員とした中間支援組織にも関わっていて、そこで、今最も力を入れているのは、母子家庭の母親やDV被害を受けた女性と子どもを支援する事業です。そういう意味では、私がもともとやりたいと思っていた仕事と、男女共同参画センターという場所が、近づいてきたと思っています。

船木 最初は女性であるがゆえに苦労したり辛かったりすることがあったかと思います。どんなことがあって周囲が、または御自身が変わられたのかをお聞かせ下さい。

高橋 私は、よく「女のくせに」と言われました。学生結婚でしたが、夫と同じように勉強して、同じ苦労をして、私の方が成績も良かったのに(笑)、なぜそんなことを言われるのかという思いが常にありました。島根に行ってからは、「誰々の奥さん」と言われるのがとても嫌でした。

子供が生まれてから、家にいなくてはいけない状況になり、自分ができることをと思って、子供を背負って学習塾を始めました。そこで地域の課題や子供たちの悩みを知り、いろいろな人とのつながりも育っていきました。今はエネルギーを溜める時期だと、自分の中で解決したのです。

私は、カチンときたところを解決することで、ステップアップしていきました。「なぜ講演会へ子どもを連れてくるのか」と言われたら、託児をしてくれる人を探す。自分一人が頑張らなくても、それができる人をたくさん見つけて、友達になってコーディネートすればいいのだと気づきました。

女性の悩みを聞く機会もありましたので、「私が言ってあげる」と前に出て、叩かれたら太い釘になって、もう誰も叩かなくなった(笑)。

船木 格好いいな(笑)。

高橋 考え方を変えると逆に強みになると常に思っています。例えば、女性で環境活動をしていて理事長というのは少ないので、私はどこかの審議会に必ずあたるのです。そのチャンスを必ず活かすようにしています。そこで多様な考え方を学び、自分や自分たちの活動に活かし、自分が変わる、周囲を変えることができたと思います。

吉村 私は僧侶の世界で育ったので、生きるとか学ぶとかでは男女差はありませんでした。多分、家庭で男女差がなかったら、違和感なく育つと思うのです。40、50代の方は「こうでなければいけない」世界で育ちましたが、今の若者たちは、男女差のない世界を見て育ってきたので、これから先が楽しみです。温度差のある地域で育つ子たちは迷うだろうなとも思います。

桜井 私はずうっと働き続けたいと思っていましたが、ベビーブーマーで、子どもの保育園がどこも一杯で入れなかったので、専業主婦を3年ほどしています。その頃、小さい子どもの手を引いて当時の職安へ行き、「働きたい」と言ったら、「子どもがいてなぜ働くのか」、「夫はいないのか」と言われました。女性は家で子育てしていた方がいいという時代でした。今は社会の意識が随分変わったなというのが実感です。

船木 今は1団体だけで事業を進めるのは難しくて、いろいろな人たちといかに連携・協働するかが重要です。

基本問題専門調査会の報告書でも、男女共同参画の推進主体が課題解決のために多様な団体と連携・協働し、活動を通じて男女共同参画を浸透させていく手法が重視されています。

桜井 私たち男女共同参画センターでは、地域のNPOとの連携・協働を重視していますが、NPO側から見てどうなのか、どういう形なら一緒にやらせていただけるのかというお話を、お二方から伺えますか。

吉村 行政と一緒にやって辛いのは、融通が利かなかったり、途中で方針が変わったり、問題を放置されたりすることです。ですから、行政の作ったものを一方的に受け入れるのではなく、どこまで協働し合えるのかを議論し、一緒に契約づくりや予算づくりをしたいですね。

高橋 うちの場合は、自治体になかなか認めてもらえなくて苦労しました。一緒にやり始めれば徐々にいい関係を築いていけますので、まず自治体に同じ席についてもらうために、自ら手を挙げて国の事業を取るなど、トップダウンの方法も随分使いました。

それと、行政は予算ががんじがらめになっていて、お金を有効に使えないので困りますね。

桜井 女性が地域活動をしながら再就職もしたいと思ったとき、行政と関わると、特に専業主婦はボランティアと称して無償で使われてしまうということを見てきましたから、男女共同参画センターでは、それを絶対にやってはいけないと思っています。NPOの人たちには、「協働とかパートナーシップという行政からの誘いに軽々に乗らない方がいい、下請けに使われちゃうわよ」と言っています(笑)。

船木 他のNPOや市民団体と協働するときは、どんなことを大切にされていますか。

高橋 一緒に過ごす時間を長く持つ、一緒に食事をして考え方を聞く、強いていえば一晩飲んで明かすとか(笑)。考え方が同じでも違っても、同じテーブルに着くことから始めます。

NPOの中には「あの高橋とは一緒にやりたくない」という人もいます(笑)。そんなときは、まず同じテーブルに着けるように行政に声かけをお願いします。

それから、うちは研究者に入ってもらって、学術的な成果も長年積み上げてきました。大学も地域との連携を課題にしていますので、研究材料をたくさん持っていると、いろいろなつながりができます。

吉村 私のところは、医師や救急救命士などのプロも集まっていますが、チームとして動いたときは、その日のうちに反省会をしています。業種や団体によって持ち味が違いますので、お互いに良いところ悪いところをまず認め合う。そして今必要な力をギュッと集める。その集め方を間違ったときは反省して謝ります。「次はやりますから」と。私が一番謝っているかもしれません(笑)。

船木 違う分野の団体と協働するには、まず同じテーブルに着くこと。一緒に活動するうちに相互理解が生まれる。違いを認め合ったうえで個々の持ち味を活かしていくということですね。

桜井 男女共同参画センターの職員として必要なことは、昔は企画力でしたが、今はそれに加えて、課題を解決するためにはどこと組めばいいかを見極める力だと思います。

それからNPOを下請けに使わないことも、肝に銘じておかなければと思います。逆に言えば、対等に協働できるNPOとは、行政の言いなりにならないところです。共通の目標に向かって、「ここはこうでなければ困る」とはっきり言ってくる相手としか協働できないということです。

そうではない場合は、協働とかパートナーシップではなく、「支援」という言葉を使った方がいいと思います。

もう一つ、男女共同参画センターとしては、連携や協働していく相手に男女共同参画の視点を提供し、地域に根付かせていくことも仕事です。

例えば、若い女性を「お姉ちゃん」呼ばわりしてお茶くみをさせていたNPOがありました。一度でわかってもらえるわけではありませんが、お付き合いしているうちに徐々に変わってくるということがあります。

吉村 うちのスタッフの年配男性には、皆が立ち働いていてもデーンと座っている方もいます。若者にその姿を見せられないので、「うちは女性も男性も分担してますから、できることをやってください」と言っています。みんなが、できることを分担できればいいですよね。

桜井 定年退職した男性がメンバーのNPOと一緒に、女の子に科学分野の面白さを教える事業をしたとき、最初は「女の子を集めるためにチラシをピンクにした」とか言っていたのに、昨年のプレゼンでは、内閣府の出した男女の理数系学部への進学率のデータを使って、「社会経済の発展のためには男女共同参画社会が欠かせない」という話をし始めて、やったじゃんと思いました。

相手に気付いてもらうことも、男女共同参画センターの役割だと思います。

船木 興味深いお話です。連携・協働する相手に男女共同参画の視点を提供する。そうすると、今度はその人たちから地域に男女共同参画の考え方が浸透していきますね。

最後に、これから後に続く世代の方々へのメッセージをお願いします。

高橋 娘には、「あなたのすることを応援してくれる人が3人いたら、その道へ進みなさい」と言っています。迷っている人には、やりたいことをやり続けなさい、きっとプラスになることがあると言いたいですね。

吉村 こういった活動は99%が悩みと疲労と辛い部分だと思います。みんなにお願いしていたのは、失敗を後に引かない、責めないこと。どんな職業でも、格好良さとは、服装などではなく生き様だと思うのです。大人の方には、「本当の格好いい大人というものを、子どもに見せてあげてください」とお願いしています。

「七転び八起き」という言葉がありますが、そんなに転んでいられないし、痛いじゃないですか。いっぱい失敗した人からなぜ失敗したかを聞けば、成功するのも早いと思っています。

桜井 少し視点が違いますが、霞を食って活動はできませんので、行政は仕事として成り立つようなお金の出し方をしてほしい。そうすると、女性たちが地域活動をもっと元気にやっていけると思います。

税制も、それから寄付文化の醸成も含めて、非営利の民間組織に関するお金のあり方について、社会の認識がもう少し変わるといいと思います。

船木 ありがとうございました。皆さんは活動領域は違いますが、基礎の部分で通じるところがあったと思います。

課題解決のために、性別も含めて様々な立場の人たちと連携・協働する。最初は考えが違っても、ともに活動するなかで互いを知り、違いも認め合いながら、互いを信頼して同じ目的に向かって進んでいく。そのつながりが、新たな課題の解決に向けてさらに広がっていく。そういうダイナミックスが地域のよりよい未来をつくっていくのだと、改めて感じました。

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