「共同参画」2008年 11月号

「共同参画」2008年 11月号

コラム

ドラマ「ラスト・フレンズ」がもたらしたもの 早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター 助教 兵藤 智佳

22.8%。ドラマ「ラスト・フレンズ」の最終回の視聴率である。ここのところのテレビドラマとしては驚異的な数字であろう。1話からだんだん視聴率が上がっていったことを考えると、見ている側が、いまどきの俳優見たさだけでなく、その物語に引き付けられたということでもある。ザ・ボディショップと早稲田大学が主催した私との対談企画で、プロデューサーの中野氏は、「今を生きる若者たちを切り取りたかった。だからこそ、今、旬の俳優を起用した。」と語っていたが、まさに暴力の問題が今を生きる若者たちの問題であることを「見せた」ことの意義は大きい。そこにずっとあるものが見えないこと、言葉にして語られないことによって「ないもの」にされてきたことがDVである。ドラマという物語を通じ、そこにあるものとして描かれることによって、それが話してもいいこと、私の周りにもあること、そして、私にも起こることとして感じる多くの人がいたはずである。ドラマが放映されていた間には、大学生たちから数名「自分もまた恋人からの暴力を受けている。母親が父親からの暴力を受けている。」という告白があった。そして、「友人がDVの被害を受けているがどうしたらいいか。」という質問も寄せられた。ドラマがDVを取り上げ、社会のタブーに挑んだことの意味は大きい。

しかし、一方で、それがテレビドラマであること、虚構でありエンターテイメントであることの意味と限界にも留意しておかねばならない。現実の暴力の被害者や実際の現場の支援者の視点からは、「あんなことは現実にありえない」であったり、「そういう描かれ方がDVに対する誤解や偏見を生む」というシーンはいくつもあった。特に、最後にDVの加害者男性が自殺を試みる終わり方には納得いかない人がたくさんいたであろう。私自身も「ちょっと待って」という箇所は多かった。また、学生たちの「ドラマの見方」として気になったのは、「私の恋人はあんなには酷くはないからだいじょうぶ。」であったり、あんなに酷い目にあっても、恋人の弱さに寄り添い、一途に愛することができるというヒロイン像に対して、あこがれ、共感する態度である。

私の授業を受けていた学生たちがDV啓発のムービーを制作したが、その中で伝えたかったメッセージのひとつに「つらい恋をせつないラブストーリーとはき違えていませんか」というのがある。多くのデートDV被害者が、被害を受けていることに気づけないのは、「変だな」と感じるときでも、「彼は、私のことを想ってくれているからこういうことをするんだ。」という物語を自分でつくるからである。長澤まさみ演じるヒロインもまさにこれであった。そのことを、「それでいいのか…」と批判的な視点を持って見ていた視聴者がどれほどいたのだろうか。日々、多くの大学生と接する中で、そういう力こそが必要なのだと感じている。

ひょうどう・ちか/東京大学大学院、国連人口基金フェローなどを経て現職。DVやHIV/エイズの活動家であり研究者。現在は、早稲田大学で学生によるDV被害者支援・啓発活動を主催。DV被害者支援キャンプやデートDV啓発ムービーを制作などの活動を展開している。

【ラスト・フレンズ】

平成20年4月から6月にかけて放映されたテレビドラマ。恋人からの暴力やセックスレスなど、現代人が抱えるさまざまな問題を正面からとらえ、若者たちが自分らしく前向きに生きていく姿を描いている。