「共同参画」2008年 10月号

「共同参画」2008年 10月号

Special Feature 1

女性研究者の活躍促進に向けて 大学等における女性研究者支援の取組の好事例 お茶の水女子大学教授・学長特別補佐 塩満 典子

平成18年度より開始された科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成プログラム」では、女性研究者がその能力を最大限発揮できるようにするための支援等を行うモデル事業を推進している(図1)。

スタートして間もないが、女性研究者の活躍促進のためのシステム改革として、1.人事・予算、2.業務・体制、3.研究教育支援,4.情報支援,5.意識啓発に係る改革が著しく進展している。重点の置き方は各機関により特色がある。機関内で改革効果を深めるとともに、機関外へ波及効果を水平展開することにより、女性研究者の採用比率の向上、離職率の低下、研究業績の向上、女子中高生など次世代の科学技術分野への参加等が加速的に推進されることが期待されている。

採択機関における共通的な事業効果として、意思決定・実行・評価に係るシステム改革が推進され、機関長の意思決定過程と密接に結びついた位置づけで、「男女共同参画室」、「女性研究者支援室」など、支援策の中核となる組織が設立されている。

また、機関長が率先して方向性を指し示すことにより、「男女共同参画宣言」、「アクションプラン」等の基本方針、女性研究者の積極的な採用のための「数値目標」等の明示とフォローアップが行われている。制度改革としては、人事・採用、予算配分、勤務時間、研究教育、情報支援等について、新制度の導入や関連規程の改定が進められている。

筆者の所属するお茶の水女子大学では、「女性研究者に適合した雇用環境モデルの構築」に向けて、学長の強いリーダーシップの下、女性研究者支援、キャリアサポートのためのCOSMOS推進室の立ち上げを始め、システム改革として、以下の進展を図っている。

図1

1 人事・予算改革
  • 公正で透明性の高い公募採用と客観的業績評価の積極的な推進
  • 「女性の教員比率の低い領域の新規教員採用に関して学位・業績・能力等が均等の場合は、女性を優先する」原則を中期目標・中期計画に明記
  • 子育て支援のための予算配分
2 業務改革
  • 9時―5時勤務実現のための業務改善・合理化
  • 会議時間管理のための学内制度・規則の改定(「予定しない、延長しない」)
3 研究教育支援・子育て支援
  • 支援要員の配置
  • 学内保育施設等の整備
  • 次世代育成支援対策行動計画
4 情報支援
  • ホームページ、冊子配布
  • 相談窓口、カウンセラー・メンター制度、キャリアサポート
  • 人材情報バンク
  • ロールモデル情報の活用、シンポジウム・交流会の開催、DVDの作成
5 意識改革
  • 全学的ワーク・ライフ・バランス

この結果、顕著な効果として、支援要員が配置された5名のモデル研究者が、勤務時間「9時―5時」をほぼ可能にしつつ研究時間を確保することにより、通常は研究活動の低下が生じやすい子育て期に、研究業績の維持・向上を図っている。また、支援要員自身のスキル向上など、副次的効果も確認されている。

女性教員数の割合は増加し、大学の平均値(16%、平成19年5月、講師以上)に比較し、極めて高い割合を示している(平成16年度:38%→平成20年度:45%)。

昨年度に実施した科学技術振興調整費・若手研究者自立的環境整備促進プログラムの国際公募においても、高い競争率(21倍)の中、女性研究者の多くの応募(21採択機関の平均応募率9%、本学:31%)、優秀な女性研究者の採用(平均採用率11%、本学:44%)につながっている。

他のモデル育成事業採択機関でも、先進的な取組が推進されている。たとえば、機関長の持つ裁量的経費を財源として、人件費の再配分などを報奨的な動因とすることにより、女性研究者の採用比率の向上に努めるなど好事例が多い。女性の機関長は、本学を含め、3機関に限られているが、理事、副学長、学長特別補佐、副理事、部局長等への女性の参画を促進し、女性研究者の意見の反映に努めている機関も増えている。また、出産・育児・介護に配慮した評価システムの開発・導入、出産・育児に伴う任期延長、情報ネットワークを活用した子育て支援など、効果的な両立支援策も多く見られる。

一般的には、大学において、男女共同参画のための取組が進んでいない面もまだ多いが(図2)、先導的な機関での男女共同参画に向けた取組や制度改革に触発される機関も多く、全国展開が推進されつつある。 

このような我が国における機関単位及び連携したネットワークでの取組が、類似の家族文化・労働価値観を有する東アジアを中心とした国際的な取組として発展することが期待される。

図2

しおみつ・のりこ/1984年、東京大学理学部卒、科学技術庁入庁。1990年、ハーバード大学行政大学院修士。文部科学省宇宙政策課調査国際室長、奈良先端科学技術大学院大学教授、内閣府男女共同参画局参事官、調査課長、日本科学未来館調査役を経て現職。2007年、日本女性科学者の会功労賞受賞。