「共同参画」2008年 9月号

「共同参画」2008年 9月号

リレーコラム/男女共同参画のこれまでとこれから 5

育児との両立支援からワーク・ライフ・バランスへ 男女共同参画会議議員 (株)資生堂代表取締役副社長 岩田 喜美枝

企業で働く女性の状況は近年どのように変わったのか、また、変わらないことは何か。変化の大きなきっかけになったのは、22年前の男女雇用機会均等法の施行であったと思う。それまでは、企業の中では、定年までの長期勤続を前提に配置転換をしながら昇進させる男性の雇用管理と、結婚までの短期勤続を前提に補助的な業務に就け育成とは無縁だった女性の雇用管理とは、大きく違っていた。これが均等法により改められることとなり、多くの大企業が対応したのは、男女別の雇用管理からコース別の雇用管理に改めることであった。

当初は、全国転勤があり企画業務に従事する総合職はほとんどが男性で、女性は例外的に少数であった。一方、転勤がなく定型的な業務に従事する一般職は全員が女性であった。このように男女別がコース別に変わっただけで実質的な変化がなかった企業も少なくなかったが、それでも総合職への女性に対する門戸はだんだんと拡大されることとなった。これには、我が国の労働力人口が減少していることと、景気拡大期の学生の採用難が、後押しをすることとなった。

最近では、総合職の女性採用を増やすために、総合職で採用する女性の割合について25%とか30%などの目標を設定する企業があったり、さらにはコース別雇用管理をしている限りは女性全体のフル活用ができないことに気づいた企業はコース別雇用管理を廃止する動きもある。これらの結果、女性の採用・登用が進んだ企業では、子供がいなければ、女性であることのハンディは解消したと言える段階にまで男女共同参画は進んだと言ってよいであろう。

問題は、子供のいる女性(あるいは困難を予想して子供を生まない女性)である。出産する女性の7割もが仕事をやめている、という現実はなかなか変わらない。それでも、育児・介護休業法や次世代育成支援対策推進法により、育児休業、短時間勤務、事業所内託児施設など、子供が小さい時期の両立支援策により、出産・育児のために仕事を辞めなくてもよいという段階にまで到達した企業もある。しかし、子供が小学校に上がれば育児が終わるはずはなく、長期にわたって仕事と育児を両立させなければならない。残された課題は、「子育てのために仕事を辞めなくて済む」段階から、「子育てをしながら管理職や専門職としてキャリア・アップができる」段階へ進めることである。そのための最大の障害は、キャリア・アップを望む社員に求められている長時間労働などの無定量な働き方である。

政府は昨年12月にワーク・ライフ・バランス憲章と指針を策定した。子育てをしている女性に限らず、性、年齢などによらず、すべての社員が仕事とそれ以外の活動の双方を充実させ両立できるように働き方を見直すこと、これなくしては企業の中での男女共同参画は次の段階へ進めないのである。

ワーク・ライフ・バランスの実現は企業にとってコスト増になるという懸念が産業界にはある。残業を縮減するために人手を増やせばもちろんコスト増になるが、そうならないためには、社員の1時間あたりの生産性を向上させなければならない。ワーク・ライフ・バランスの推進は業務改革そのものであると理解して取り組むべきであろう。

岩田 喜美枝
いわた・きみえ/1971年労働省入省。働く女性支援や国際労働問題を担当し、03年退官。同年株式会社資生堂に入社。取締役執行役員、取締役常務を経て08年代表取締役副社長に就任。この間CSR、H&BC事業、国内アウトオブ資生堂事業、人事、秘書、お客さま情報、広報、企業文化を担当する。社外では政府審議会委員(男女共同参画会議、国民生活審議会、中央教育審議会)、経済友会幹事、NPO法人ユニフェム日本国内委員会理事も兼任。