「共同参画」2008年 4・5月号

「共同参画」2008年 4・5月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 1 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

不満は大きいが、あきらめている日本

今回から数回にわたり、諸外国のワーク・ライフ・バランス(WLB)の現状と官民の取組み、日本への示唆について述べたい。 まず、今回は世界の中で日本のWLBがどのような位置にあるのかをご紹介したい。独立系の調査会社が組織している世界調査連合(IRIS)による世界24カ国1万4千人を対象にした「WLBに関する世界意識調査」の結果をみてみよう。「あなたは現在の仕事と私生活のバランスに満足していますか」という質問に対して、「全く満足していない」、「あまり満足していない」を合計した、不満を持つ人の割合は世界24カ国のうちで日本が最も多く、48%の人が不満を感じている。

また、「最近2年間で、仕事と私生活のバランスをよりよくするために、ご自身の生活を積極的に変化させようとしたことはありますか」という質問に対して、「改善を試みたことがない」人の割合も日本は66%と2番目に多かった。

そして、各国ごとに上記2つの数値の分布状況をみると、総じて「不満を感じている割合」が低いほど、「改善を試みたことがない割合」が高い。そして、不満の割合が高くなるほど、改善を試みたことがない割合は下がっていく。考えてみれば、当たり前だ。この点で、日本は「不満を感じている人の割合」、「改善を試みたことがない割合」いずれも高く、右肩下がりの傾向線とはかなり乖離した位置にある。つまり、「不満は大きいが、あきらめてしまっている」という日本の状況は、世界的にみてかなり特異な状況だ。

英米型と欧州大陸型のWLB

WLBへの取り組み方は、大きく英米型と欧州大陸型に分類できる。

アメリカやイギリスではWLBに関する国・地方自治体の取組は、あまり盛んではない。これを補完する形で、企業経営上メリットがあると考える企業が、積極的に託児所の設置やさまざまな休業制度、経済的支援等を実施している。

これに対して、ヨーロッパ大陸諸国では、公共政策として国・地方自治体が中心となってWLBのためのサービスに取り組んでいる。特に保育・介護の基盤整備は、国・自治体の責任として広く定着している。したがって、企業は企業責任として、法律で定める最低基準の上積み措置としてWLBのプログラムを提供している。

筆者は、英米型、欧州大陸型それぞれから日本は学ぶ点があると感じている。次回以降、各国ごとにWLBに関する官民の具体的な取組み、日本が学ぶべき点について述べていきたい。

WLBに関して「不満を感じている人の割合」、「改善を試みたことがない割合」(世界24ケ国調査)

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、子どもと家族応援戦略会議委員を歴任。