審議会答申

平成12年9月26日

内閣総理大臣
森 喜朗 殿

男女共同参画審議会
会長 岩男 壽美子

本審議会は、平成11年8月9日付け総共第267号をもって諮問された「男女共同参画社会基本法を踏まえた男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本的な方向」に関し、男女共同参画社会基本法に基づく男女共同参画基本計画を策定していく際の基本的な考え方について調査審議を進めてきたところであるが、この度、調査審議の結果を別紙のとおり取りまとめたので、答申する。

はじめに

女性も男性もすべての個人が、互いにその人権を尊重し、喜びも責任も分かち合いつつ、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現は、21世紀の我が国社会にとっての最重要課題である。

我が国では戦後、日本国憲法に男女平等の理念がうたわれて以来、男女平等の実現に向けた様々な取組が、国際社会における取組とも連動しつつ進められてきた。しかし、我が国社会の現状をみるとき、男女共同参画社会の実現に向けて取り組むべき課題は依然として多く残されている。

取り組むべき課題は、あらゆる行政分野にまたがるだけでなく、社会の制度や慣行、さらには国民一人一人の意識や行動とも深くかかわっており、その解決には継続的で着実な努力が必要である。また、男女共同参画社会の形成は基本的人権に深くかかわる問題であるとともに、状況の変化に対応した適切な取組が絶えず求められるものである。

平成8年7月、「男女共同参画ビジョン」(以下「ビジョン」という。)が男女共同参画審議会から答申された。ビジョンは、男女共同参画社会について、その定義、理念、目標を明らかにするとともに、その実現について、我が国の経済・社会の変化を踏まえつつ、おおむね西暦2010年までを念頭に、目指すべき方向とそれに至る道筋を示した。

政府は、ビジョンを受けて、「男女共同参画2000年プラン」(平成8年12月男女共同参画推進本部決定。以下「プラン」という。)を策定し、これに基づき男女共同参画社会の形成に向けて関連施策を推進してきた。

ビジョン、プランで検討が提言された男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律については、男女共同参画審議会での調査審議を経て、平成11年6月に男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号。以下「基本法」という。)が公布・施行された。基本法は、男女共同参画社会の形成に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、男女共同参画社会の形成を総合的かつ計画的に推進することを目的としている。

基本法において、政府は、男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならないとされている。これを踏まえて、内閣総理大臣は、平成11年8月、男女共同参画審議会に対し、「男女共同参画社会基本法を踏まえた男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本的な方向」について諮問を行った。これは、ビジョン及びプラン策定の後の国内外の様々な状況の変化を考慮の上、今後、政府が基本計画を策定していく際の基本的な考え方を示すことを求めたものである。

これに対し、当審議会では、諮問にあった「国内外の様々な状況の変化」を念頭に置く一方で、人権の尊重を男女共同参画社会の根底を成す最も重要な基本的理念と位置付けて審議を行ってきた。これは、ビジョンにおいて、「すべての施策は、男女の人権があらゆる場において平等に尊重され、公平に実現されることにより、個々の人生が可能な限り豊かに全うできることに結びつかなければならない。」と指摘され、また基本法においても、5つの基本理念の最初に男女の人権の尊重が掲げられたことを重く受け止めたものである。

当審議会はこのような基本的視点に立って、関係者からのヒアリングを含め、幅広い観点から調査審議を行い、本年5月には論点整理を公表して国民からの意見を求めた。その後、国民から寄せられた意見及び本年6月にニューヨークで開催された国連特別総会「女性2000年会議」における成果も踏まえて更に調査審議を進め、本答申を取りまとめた。

これまでの成果を来るべき次の世紀に引き継ぐとともに、残された課題を克服し、男女平等を基礎として、男女が社会の様々な分野に対等に参画する機会が確保される男女共同参画社会の実現に向けた動きを一層力強いものとしていくことが必要である。

当審議会は、政府に対して、本答申及び本答申の前提となっているビジョンを踏まえて、基本計画を速やかに策定することを強く希望するものである。

第1部 男女共同参画社会実現に向けての基本認識

1 21世紀に向けた男女共同参画社会の展望ー男女共同参画ビジョン及び男女共同参画2000年プラン

  1. 平成8年7月30日、男女共同参画審議会は、内閣総理大臣にビジョンを答申した。同審議会は、内閣総理大臣から「男女共同参画社会の形成に向けて、21世紀を展望した総合的ビジョン」について、平成6年8月に諮問を受け、以後約2年にわたり審議を進めた。ビジョンは、この間平成7年に北京で開催された第4回世界女性会議の成果なども踏まえ、おおむね2010年までを念頭に置いて、目指すべき男女共同参画社会の姿を明らかにし、この目標に至る道筋を示したものである。

  2. ビジョンは、まず、男女共同参画を「人権尊重の理念を社会に深く根づかせ、真の男女平等の達成を目指すもの」と位置付け、男女共同参画社会の理念として、人権の尊重を掲げた。

    すなわち、人権は、人類が共有する普遍的価値で、男女共同参画社会の根底を成す基本理念であり、すべての施策は、男女の人権があらゆる場において平等に尊重され、公平に実現されることにより、個々の人生が可能な限り豊かに全うできることに結びつかなければならないとしている。我が国において、男女平等は、法の下の平等として憲法にうたわれ、各種の法律や制度の中にも位置付けられているが、これを社会に深く根づかせ事実上の平等を達成するにはいまだ至っていない。このため、男女共同参画社会の実現に向けて必要とされる女性問題の解決を念頭に置きつつ、それらと表裏の関係にある男性の諸問題も視野に入れ、「人権の確立」、「政策・方針決定過程への参画による民主主義の成熟」、「社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に敏感な視点の定着と深化」、「新たな価値の創造」、「地球社会への貢献」という5つの目標を提示した。

  3. その上で、ア)社会制度や慣行の中に性別による偏りにつながりやすいものが多く残されていること、イ)職場・家庭・地域における男女の参画には大きな格差があること、ウ)政策・方針決定過程への参画という面でとりわけその格差は大きいこと、エ)性別にとらわれずに生きる権利を推進・擁護する取組が不十分であること、オ)地球社会の「平等・開発・平和」の実現に向け、積極的な貢献が求められていることを、男女共同参画社会の実現のための取組の視点として指摘し、具体的な取組を提案した。また、これらの取組を総合的かつ効果的に推進するための体制の整備・強化の必要性も指摘した。

  4. 平成8年12月、政府(男女共同参画推進本部)は、ビジョンを受けプランを策定した。

    プランは、平成12年(西暦2000年)度までを対象期間として、「男女共同参画を推進する社会システムの構築」、「職場・家庭・地域における男女共同参画の実現」、「女性の人権が推進・擁護される社会の形成」、「地球社会の『平等・開発・平和』への貢献」という4つの基本目標を掲げ、その下に11の重点目標を掲げている。その上で、それぞれについて、施策の基本的方向と具体的施策を示し、また、取組を総合的かつ効果的に推進するための体制の整備・強化について言及した。政府は、現在、このプランに基づき、男女共同参画社会の形成に向けて、関連施策を推進している。

2 男女共同参画社会基本法の公布・施行及びその後の主な取組

  1. 平成11年6月、基本法が公布・施行された。政府はそれまでも累次の国内行動計画等にのっとり関連施策の推進に取り組んできたが、この間、国、地方公共団体を始め、国民各界各層の間で、一層の取組を行っていく上での「法的な支え」、「基本的な考えを示してくれるもの」が必要であるとの意見があった。このためビジョンにおいても、男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律についての検討が盛り込まれた。これらを受け、政府は、プランにおいて基本的な法律についての検討をうたい、男女共同参画審議会での議論等を経て、男女共同参画社会基本法案を国会に提出した。同法案は参議院及び衆議院で全会一致で議決され、平成11年6月23日に公布・施行された。

  2. 基本法では、「男女共同参画社会の形成」を「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成すること」と定義している。基本法は、男女の人権が尊重され、かつ、社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現することの緊要性にかんがみ、男女共同参画社会の実現を21世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付けている。

  3. また基本法は、男女共同参画社会の形成に関して、5つの基本理念を定めた。すなわち、「男女の人権の尊重」、「社会における制度又は慣行についての配慮」、「政策等の立案及び決定への共同参画」、「家庭生活における活動と他の活動の両立」、及び「国際的協調」である。同法では、さらに、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、各種施策の策定等に当たっては男女共同参画社会への形成に配慮しなければならないこととした。このほか、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、男女共同参画社会の形成を総合的かつ計画的に推進することとした。

  4. 一方、中央省庁等改革においては、内閣機能強化の一環として、平成13年から、内閣総理大臣を長として新たに内閣府が設置されることとなっている。内閣府には、重要政策に関する会議の一つとして、男女共同参画会議が設置されるほか、内部部局として、男女共同参画局が設置されることとなっている。このように、中央省庁においても、社会のあらゆる分野に男女共同参画の視点を反映させる組織体制が強化されることとなる。

  5. このほか、個別分野においても、平成9年6月の男女雇用機会均等法の改正(平成9年法律第92号)により、募集から退職までの雇用の各場面における女性に対する差別の禁止といわゆるポジティブ・アクションの促進等が規定(平成11年4月1日施行)された。また、平成11年7月に施行された食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)において、女性の参画の促進が規定されるなど、各般の取組が進められている。さらに、このような国における男女共同参画社会の形成の促進に関する動きを契機とし、地方公共団体においても男女共同参画社会の形成の促進に関する条例の制定等独自の取組が進められている。

3 男女共同参画ビジョン、男女共同参画2000年プラン後の状況変化等

昨年8月に男女共同参画審議会は、内閣総理大臣から、ビジョン、プラン策定後の男女共同参画社会の形成に関連する国内外の様々な状況の変化を考慮の上、今後、政府が基本法に基づく基本計画を策定していく際の基本的な考え方について諮問を受けた。

ビジョンが策定されてから4年弱が経過したが、まず、この間の「国内外の様々な状況の変化」とはどのようなものであっただろうか。

ビジョンにおいては、我が国の経済・社会環境の変化を、(1)少子・高齢化の進展、(2)国内経済活動の成熟化と国際化、(3)情報通信の高度化、(4)家族形態の多様化及び⑤地域社会の変化の面からとらえ、これらと男女共同参画社会の形成との関係について分析した。これらの変化はいずれも、基本的な方向としては現在も変わっていないが、その進捗の速度は極めて速くなっている。

合計特殊出生率はビジョン策定後も毎年最低値を更新し続けており、また、65歳以上の高齢者人口は増加を続けるなど、少子・高齢化は一層進んでいる。

我が国においては、経済の成熟化や国際化への対応、循環型社会の形成のため、高度成長時代に確立した規格大量生産、大量廃棄型の経済社会構造の改革が進められてきており、また、働き方の多様化等も進行している。さらに、グローバリゼーションの進展に伴い、内外の市場での競争は一層厳しさを増し、バブル経済崩壊後の厳しい状況の中で、失業率も戦後、統計が整備されて以来最高水準となっている。

情報通信技術の革新はビジョン策定後も速い速度で進んでいる。また、国民の情報へのアクセスという点では、情報公開法(平成11年法律第42号)の制定(平成13年4月1日施行)や平成13年1月6日からの中央省庁等改革に伴い導入される政策評価制度等により、男女が等しく行政に接する機会が拡充される方向にある。

また、家族形態についても、高齢者の単独世帯や夫婦のみ核家族世帯の増加、ライフスタイルの多様化等の変化が進んでいる。

さらに、地域社会という点からみると、ボランティア活動者数の増加や活動内容の多様化、及び2次にわたる地方分権推進計画の策定や地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)の制定(一部を除き平成12年4月1日施行)による一連の地方分権の動きは、地域レベルでの活動の重要性を一層高めることが期待される。

また、このほか、近年は、温暖化等地球環境の悪化が一層進行するおそれがあり、環境の保全のための取組が強く求められるようになっている。 今後とも、こうした状況の変化に的確に対応した施策を講じ、男女共同参画社会の形成を図っていくことが求められている。

また、人の生命、身体、精神に深くかかわる、女性に対する暴力、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、メディアにおける人権、教育・学習の問題などが、個人の尊厳にかかわるものとして、その重要性に対する認識が一層深まり、国民各層から対応を強く求められている。

4 男女共同参画ビジョン、男女共同参画2000年プラン後の状況変化等

既に述べたとおり、平成11年8月の諮問においては、ビジョン、プラン後の国内外の様々な状況の変化を考慮の上、今後、政府が基本法に基づく基本計画を策定していく際の基本的な考え方を示すことが求められている。

ビジョンはおおむね2010年までを念頭に置いたものであり、そこに示された基本的方向は現時点においてもなお有効である。この答申もビジョンと同様おおむね2010年までを念頭に置いて取りまとめたものであり、政府は、基本計画を策定するに当たっての基本的方向としては、ビジョンの内容を踏まえるとともに、人権尊重の理念に立脚しつつ、本答申の第2部において述べる取組を推進する必要がある。

第2部 今後の施策の基本的方向と具体的な取組

男女共同参画社会の形成に当たっては、第1部で述べたように、人権の尊重の理念を基礎として様々な個別の課題に取り組んでいく必要があるが、当審議会では、大きく次の3項目に分けて具体的な取組を検討してきた。

すなわち、(1)ビジョン策定後の男女共同参画社会の形成に関係する状況の変化に対応するという視点からの今後の取組、(2)新たな認識の深まりを踏まえ、個人の尊厳を重んじる視点からの今後の取組、及び(3)これらの取組を推進していくための体制である。

(1)については、平成11年8月の諮問が、ビジョン、プラン策定後の「国内外の様々な状況の変化を考慮の上」となっていることから、第1部で述べたような、少子・高齢化等の男女共同参画社会の形成に関係する周辺の状況の変化を踏まえ、新たに取組が必要となったものを中心に、男女平等の達成などビジョンの内容を前提とした上で、「Ⅰ 男女共同参画ビジョン後の状況の変化に応じた今後の取組」として整理した。

(2)については、男女共同参画社会の形成の前提条件である個人の尊厳の重要性に対する認識の深まりを踏まえ、女性に対する暴力、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、メディアにおける人権、教育・学習の問題を「Ⅱ 個人の尊厳の確立」として整理した。

(3)については、(1)及び(2)で述べるような取組を総合的に推進していくためには、基盤となる男女共同参画社会形成のための推進体制が重要であるとの認識に立ち、「Ⅲ 推進体制の整備・強化」として整理した。

なお、ⅠからⅢにおいては、それぞれ事項ごとに、取組に当たっての「視点」と、その視点を踏まえた「具体的な取組」に分けて記述を行っている。

Ⅰ 男女共同参画ビジョン後の状況の変化に応じた今後の取組

男女共同参画社会は、人類の普遍的価値である人権をその基盤とするものである。その意味で、男女共同参画社会の実現は、いかなる状況の下でも優先されるべき課題である。同時に、これに的確に取り組んでいくためには、我が国をとりまく様々な状況変化を考慮する必要がある。ビジョン策定後の主な状況変化としては、少子・高齢化の一層の進展、家族や地域の変化、経済の構造変化、高度情報通信社会の進展、国際的取組の進展等が考えられる。これらは単独に、また相互に関連し合い、男女共同参画社会の形成に影響を与えるものである。

また、男女共同参画社会の形成の促進に当たっては、これまでの仕事中心の男性の生き方を見直し、男女がともに仕事と家庭、地域社会の一員としてバランスの取れた生活を築いていくという視点が重要であり、施策の推進に当たってはそうした点に特に留意する必要がある。

1 男女共同参画を推進する社会システムの構築

(1)あらゆる社会システムへの男女共同参画の視点の反映

【視点】

基本法では、社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならないと規定している。我が国の社会制度・慣行の中には性別による固定的な役割分担を前提とするものや、それ自体は明示的に性別による区別を設けていない場合でも、男女の置かれている立場の違いなどを反映して、結果的に中立的に機能しないものが残されている。こうした社会制度・慣行について、男女共同参画の視点に立って見直していく必要がある。

また、基本法では、国及び地方公共団体は、男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、男女共同参画社会の形成に配慮しなければならないと規定している。これは、国、地方公共団体の施策は、社会経済活動全般を対象に展開され、当該施策に伴って生じる影響も広範多岐にわたるため、直接的に男女共同参画社会の形成の促進に関する施策ではなくても、結果的に男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策をも視野に入れて、必要な対応をとるべきことを意味している。

これまでのような、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を狭義の意味での男女共同参画関連の施策と呼ぶのであれば、結果的に男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策は広義の意味での男女共同参画関連施策と位置付けられる。そして、今後は、従来の狭義の施策に加え、広義の施策をも視野に入れた取組が必要となる。

【具体的な取組】

  1. 我が国の社会制度・慣行には、男女が置かれている立場の違いなどを反映し、あるいは、世帯に着目して個人を把握する考え方をとるため、結果的に男女に中立的に機能していないものが少なくない。このため、男女共同参画の視点に立って、これらが中立的に働くような方向で見直しを行う必要がある。例えば、夫婦同氏制など家族に関する法制や配偶者に係る税制、国民年金制度における被用者の被扶養配偶者(第3号被保険者)、遺族年金の在り方や夫婦間での年金権の分割、健康保険制度における被扶養配偶者(介護保険制度の第2号被保険者を含む)の扱い、税制や社会保障制度の所得限度額を目安として決められることがある企業の配偶者手当等、個人のライフスタイルの選択に大きなかかわりを持つものについて、個人の選択に対する中立性の観点から総合的に検討を行い、世帯単位の考え方を持つものについては個人単位に改めるなど、必要に応じて制度の見直しを行うべきである。また、これらの制度は相互に関連しており、総合的な視点からの検討も必要である。それに資するため、諸外国における社会制度について総合的な視点から調査研究を行う必要がある。

    さらに、女性従業員のみへの制服の着用など、様々な慣行の中でも、性別による偏りにつながるおそれのあるものは、国民一人一人が積極的に見直していくことが望まれる。

  2. 政府の企画・立案、実施する施策は、女性と男性に対して異なる影響を与えるなど、男女共同参画という視点から無視し得ない影響があり得ることから、男女共同参画社会の形成を促進していくためには、施策の企画・立案、実施に際して、そのような影響を考慮することが求められている。このため、政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響について効果的な調査手法を確立し、的確な調査を実施していく必要がある。

  3. 性別による差別的取扱いをなくしていくことは男女共同参画社会の基本的理念である。訴訟等において差別の立証は実際上容易ではなく、雇用の場における性別による差別的取扱い等差別の有無が疑われるような場合には、申立人の立証責任を軽減し、相手方の反証責任を重くしていくような方法について広く検討することが必要である。さらに、訴え等をする者への援助の在り方についても検討する必要がある。

  4. 施策の企画・立案に資するため、統計資料について、実態把握のための男女別統計の充実を図るとともに、外部による分析・研究を可能とするため 、プライバシー保護に配慮した上で、統計データを可能な限り公開していく必要がある。

  5. 男女共同参画社会の形成に当たっては、男女が有償労働と無償労働をバランスよく担えるようにしていくことが重要である。育児、介護等のいわゆる無償労働については、女性がその大部分を担っているのが現状であるが、その実態が数量的に十分に把握されていないので、無償労働の数量的把握の方法について調査研究を行うとともに、その社会的評価の在り方について検討を行う必要がある。

(2)積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の具体化

【視点】

基本法では、積極的改善措置の定義を定めるとともに、国及び地方公共団体が講ずべき男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の中に積極的改善措置が含まれることを明記した。積極的改善措置は、その導入の是非を論じる段階から、具体的にいかなる措置を講じていくかを検討し、取組を進めるべきときに来ている。

【具体的な取組】

  1. 国の審議会等委員への女性の参画の拡大については、平成8年5月21日付け男女共同参画推進本部決定において掲げた目標のうち、平成12年(西暦2000年)度末までのできるだけ早い時期に女性委員の割合を20%にするということについては既に平成12年3月末に実現された。中央省庁等改革に伴う審議会等の整理合理化後も、引き続き女性の参画に努め、「国の審議会等における女性委員の登用の促進について」(平成12年8月15日付け男女共同参画推進本部決定)において掲げられた、平成17年(西暦2005年)度末までのできるだけ早い時期に30%にするという目標を、できるだけ速やかに達成する必要がある。

  2. 国家公務員について、国家公務員法に定める平等取扱いと成績主義の原則に基づきながら、女性の採用・登用等の促進のための具体的施策として、女性の採用・登用の実態把握、女性の採用拡大のための募集活動、女性への幅広い職務経験の付与、研修参加の機会の拡大などを推進するとともに、積極的な採用、登用に向けた中長期的な努力目標を設定する必要がある。

  3. 独立行政法人、特殊法人及び認可法人についても、国における取組に準じて、女性の参画に係る計画を策定する等の積極的な取組を促していくよう働きかけを行っていく必要がある。

  4. 地方公共団体においても、国における取組に準じて、女性の参画を促進するための取組がとられることを期待する。  特に、地方公務員について、女性の採用・登用等の促進のための積極的な取組が行われることを期待する。例えば、地方公共団体が職員を研修に参加させる場合、女性職員の受講に配慮することも望まれる。また、国が地方公共団体の職員に対して研修を行う場合には、必要に応じ女性職員の参加を奨励するなど、適切な配慮を行うべきである。

  5. 本年5月、国立大学協会・男女共同参画に関するワーキング・グループが、国立大学における男女共同参画を推進するための提言を行い、また、本年6月、日本学術会議が、日本の学術体制における男女共同参画の実現に向けた声明を行ったところでもあり、学術・研究の分野における女性の参画を促進するため、国公私立の大学等の教育機関、国公立及び民間の研究機関、その他の関連機関において積極的な努力が行われるべきである。

  6. 農山漁村においては、これまでも地域ごとに農業委員等への女性の登用等女性の参画の拡大のための取組が行われてきた。平成11年11月には農山漁村男女共同参画推進指針(11農産第6825号、各局長・長官連名により、各都道府県知事、各地方農政局長、沖縄総合事務局長、各森林管理局長及び農林漁業関係団体代表あてに通知)が策定されたところであり、これを踏まえ、男女共同参画について、今後とも取組を一層推進していく必要がある。また、農林漁業関係団体においても取組を一層推進していくことが期待される。

  7. 国会及び地方議会における女性の参画促進に向けて、政党を始め政治の分野における団体等の取組が期待される。

  8. 女性の参画を促進するための条件整備として、参画の意識を育む教育の充実、さらには、既に参画した女性の活動の成果が広く世の中に伝わるように可視性を高めるための措置を講じていく必要がある。

【視点】

平成11年の合計特殊出生率は、1.34と政府見通しを下回り、持続的な低下傾向が続いている。少子化が進む要因は様々であると思われるが、そのひとつとして、経済社会環境の変化の中で女性の就業率が高まる一方、仕事と家庭の両立が困難であるなど、男女共同参画社会の形成が遅れていることが挙げられよう。我が国では、結婚、出産、子育て期に当たる年齢層に、仕事をしたいのにそれを実現できないでいる女性が多い状況や、高い教育を受けている女性が人材としていかされていない状況が続いている。

もとより結婚や出産は個人の自由な選択の問題であり、社会が個人に対し押しつけることがあってはならないが、個人が望む結婚や出産を妨げている要因を取り除くことは必要であり、それを通じて少子化の要因への対応を図るべきである。すなわち、女性も男性も家庭生活における活動とその他の活動を両立させ、安心して子育てできるような様々な環境整備を行うことが重要である。女性が働きやすい環境を整備することは、個々の企業にとって、短期的には負担となる場合があっても、中長期的にはプラスに働くものである。先進諸国のうち、我が国よりも女性の社会進出が進んでいる国々では、総じて合計特殊出生率も我が国より高い。安心して子どもを生み育てるためにも男女共同参画社会の形成が必要であると言えよう。

また、少子化の進行により、生産年齢人口(15歳~64歳)が、今後一層減少することが予想される中で、豊かで活力ある社会が維持され、安定した社会保障制度が運営されるためには、就業の場に女性が進出していくことが不可欠であり、そのためにも、男女共同参画社会の実現は喫緊の課題である。

一方、高齢化の進展との関係では、高齢社会を支えていくためにも男女共同参画社会の形成が必要であるということが言えよう。その際、高齢者の生き方に対する年齢のみに基づく固定的な見方や偏見を除去し、高齢者を単に支えられる側に位置付けるだけではなく、他の世代とともに社会を支える重要な一員として、高齢者の役割を積極的にとらえる必要がある。高齢者人口に占める女性の割合が高いことにかんがみ、高齢期の女性の健康を維持増進し経済的自立を確保することは、経済・社会全体の活力の維持にとっても肝要である。そうした観点から、高齢者の社会参画の機会の提供や環境の整備について、一層充実していくことが必要である。さらに、高齢者も、男女共同参画の意識を一層高めていくことが必要である。また、育児休業や介護休業の取得、年次有給休暇の完全取得、さらには教育訓練休暇の取得が進めば、高齢者の雇用機会の創出にも貢献すると思われる。

【具体的な取組】

  1. 政府は、少子・高齢化に向けての対策として、既に、少子化対策推進基本方針(平成11年12月17日、少子化対策推進関係閣僚会議)、新エンゼルプラン(平成11年12月19日、大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治6大臣合意)及びゴールドプラン21(平成11年12月19日、大蔵・厚生・自治3大臣合意)を策定し、実施している。これらに盛り込まれた施策は、男女共同参画社会の形成の視点からも重要であり、引き続き関連施策を着実に実施していく必要がある。

  2. 男女がともに仕事と家庭の両立を容易にできるよう、育児・介護休業を取得しやすく、かつ、職場復帰しやすい環境の整備が図られなければならない。このため、育児休業制度及び介護休業制度の定着促進、育児・介護休業制度の充実に向けての検討及び休業給付の拡大、育児・介護休業取得者の円滑な職場復帰に対する事業主への支援、職場復帰後の職務や処遇の在り方の検討等を実施していく必要がある。特に、男性が育児休業を取得しやすいよう、十分配慮する必要がある。

  3. 仕事と育児・介護との両立を支援していくに当たっては、男女を問わず育児・介護を行いながら働き続けることのできる環境の整備を図ることが重要である。このため、短時間勤務制度等育児・介護のための時間確保に関する制度に関し検討を行うとともに、育児・介護を行う男女労働者の時間外労働が長時間にわたる場合に時間外労働の免除を請求することができる制度、子どもの看護のための休暇制度の在り方について検討を行うことが必要である。また、年間総実労働時間1,800時間の達成・定着、フレックスタイム制等柔軟な働き方の普及促進を行うことが必要である。さらに、事業主が従業員の育児・介護支援を行うことを促進することが必要である。

    こうした取組のほか、子どもの送り迎えや家族で食卓を囲むことができるようにするため、1日当たりの実労働時間の短縮や育児・介護期に当たる労働者の転勤や単身赴任に関する配慮についても、官民を挙げての取組が必要である。

    一方、育児・介護期の働き方として、様々な雇用形態ないし勤務形態を選択する労働者も見られることから、パートタイム労働者と通常の労働者との処遇・労働条件の均衡の確保に向けた労使の取組を促進することが重要である。同時に、家族的責任との両立を図りながら職業生活を継続することができる在宅ワーク(*1)、テレワーク(*2)、SOHO(*3)等の働き方を、就業環境の整備とともに普及させていくことも重要である。

    また、急な残業や子どもの急病等に対応するために、臨時的、突発的な保育や軽易な介護を地域における相互援助活動として行うファミリー・サポート・センター事業を拡充させていくことが必要である。

  4. 固定的な性別役割分担意識の解消や職場優先の組織風土の是正に向けて、広く意識啓発のための広報活動を実施する必要がある。また、仕事と育児・介護とが両立できる様々な制度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取組を行うファミリー・フレンドリー企業を目指す企業の取組を促すことが必要である。

  5. 育児・介護等により退職した者のうち将来的に再就職を希望する者が、その能力や経験を最大限にいかすことができるようにするため、情報提供や講習、相談、自己啓発への支援の一層の充実を図る必要がある。

  6. 利用者の多様な需要に対応した保育サービスの整備を図るため、低年齢児を中心とした保育所の受入枠の整備などの保育サービスの計画的整備、学校内の余裕教室の活用などによる放課後児童健全育成事業の一層の推進、延長保育等の推進による保育所の機能強化、病気回復時の子どもに対する保育の普及促進、幼稚園と保育所の連携の推進や幼稚園における子育て支援の充実、事業所内託児施設の設置・運営に対する支援の充実、保育担当者の資質の向上に向けた研修等の推進、保育サービスに関する情報提供の推進及び保育サービスの評価に関する研究等の推進に取り組んでいく必要がある。なお、乳幼児の健全な発育を保障し、事故を防止するための対応を行う必要がある。

  7. 妊娠、出産、育児を理由とする差別的取扱いについては、具体的にどのような取扱いが差別に当たるのか検討を行うとともに、その結果を踏まえ、企業の望ましい雇用管理の在り方やそのための環境整備に向けての方策、関係法令等の検討を行う必要がある。

  8. 介護サービスの基盤整備を図るため、ホームヘルパー等の人材確保、研修強化や労働条件の適正化、特別養護老人ホームや痴呆性老人グループホーム等の介護関連施設の整備に取り組んでいく必要がある。

  9. 高齢者の社会参画の促進を図るため、高齢者の意識や行動を制約するような年齢のみに基づいた固定的な見方や偏見を除去するなどの高齢者の生き方についての意識改革、65歳までの継続雇用の推進、多様な形態による雇用・就業機会の確保、高齢者に係る施策の企画・立案に資するための高齢者についての統計データの一層の充実に取り組んでいく必要がある。  また、高齢者の間で男女共同参画の意識を一層浸透させるために、男女共同参画の理解を進めるプログラムの開発に取り組んでいく必要がある。


(*1)在宅ワーク:情報通信機器を活用して在宅形態で自営的に行われる働き方のうち、請負的にサービスの提供を行うもの等をいう。(「在宅就労問題研究会報告」(平成12年3月、労働省)による。)

(*2)テレワーク:情報通信を活用した遠隔型の就労形態。テレワークの形態としては、本社から 離れた近郊の事務所に出勤して仕事をする「サテライトオフィス勤務」、自宅に居ながら仕事をする「在宅勤務」、携帯情報端末を利用して移動先でも仕事をする「モバイルワーク」などがある。(「平成12年通信に関する現状報告」(郵政省)による。)

(*3)SOHO(Small Office Home Office):企業に属さない個人起業家や自営業者などが情報通信ネットワークや情報通信機器を活用し、自宅や小規模な事務所で仕事をする独立自営型の就労形態。(「平成12年通信に関する現状報告」(郵政省)による。)

3 家族や地域の変化に応じた今後の取組

【視点】

これまでの我が国社会は企業中心型とも呼ぶべきものであり、仕事と家庭の両面での男女の固定的な役割分担を雇用安定や生活給保障の前提としてきた。それは、反面で長時間労働や頻繁な配置転換・転勤を伴い、地域や家庭生活の犠牲を強いてきた面も大きい。

ところが、近年、家族形態や雇用システムの変化、さらには円滑な転職を支援する仕組みが整備されつつある中で、これまでの価値観にとらわれずに自分に合った生活を追求しようとする傾向が、ライフスタイルの多様化を促進してきている。

低成長、競争の激化、資源循環型経済の下では、男性が職場だけに生き甲斐を求めることは、予想される雇用システムの変化、父親の子どもに対する家庭教育の必要性、長くなっている退職後の人生、心の充足の必要性等を考えると、一般的には困難又は不適当となってきている。男性にとっても、個人の生き甲斐の場が職場、家庭、地域社会にバランスをとって展開されることが今後必要となる。特にこれまで家庭や地域への参画の少なかった男性が家庭・地域生活に参画するよう促進することが求められる。その際、男性は職場における肩書きにとらわれずに参画していくことが重要であり、また、社会としても男性の家庭・地域生活への参画を奨励していく必要がある。

男女がともに職場、家庭、地域にバランスをとって活動していくためには、固定的な役割分担を排し、どのようなライフスタイルを選択したとしても不利にならない社会の形成と自律的な生き方を基本とし、様々な活動の場で、互いの連携をとっていくことが必要である。

このような動きは新しい家族像の構築にもつながる。男女共同参画社会は個人を尊重する社会であって、もとより家族を否定するものではない。むしろ、これまでの家庭内における固定的な役割分担の慣行やそれを前提とした様々な社会制度の在り方が、結果的に若い男女の間で家族形成への魅力を損ねている面がある。例えば、子の自立が進まず、親も子離れできていないと言われているが、そうしたことには、社会の制度や環境が影響しているのではないかと考えられる。すなわち、年功序列賃金の下での親と子の収入格差、住宅取得能力の差、長時間労働により生活面の世話を親に依存しなければならない状況、親元からの通勤を前提とする企業があるといったことが影響していると考えられる。男女共同参画社会は、これまでの制度・慣行にとらわれずに個人を尊重し、個人の尊重の上に家族が成り立つ社会を目指すものである。

一方、個人を取り囲む社会環境に目を向けると、特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)(平成10年法律第7号)の制定(平成10年12月1日施行)など、企業、家族といった従来の帰属先のほかに、個人が自発的意思によって参画し、個と個が連携する様々なネットワーク活動が活発化する条件整備が進行している。また、地方分権が進む中で、地方公共団体が、基本法に基づき、都市部や農村部など地域の状況や特性をいかした形でそれぞれ主体的に男女共同参画社会の形成に取り組むことが期待される。地方分権は、地域の決定権の範囲を拡大し、それぞれの地域の創意工夫の余地を広げる改革である。その意味で、住民の地方自治への主体的なかかわり方はより重要となる。例えば、地方公共団体が男女共同参画計画を策定する際には、住民の参画を確保することなどが重要であり、このことが男女共同参画型の地域づくりの機会が増大する契機となりうる。

しかし、反面、戦後の急速な経済成長に伴う産業構造の変化及び人口の移動は、伝統的な地域社会を崩壊・弱体化させるとともに、コミュニティ意識の希薄な新興地域を多く生み出してきた。今後は、既に述べたような多様なライフスタイルを持つ住民を包容でき、家庭の内外の問題に対して対応力・補完力のある男女共同参画型のコミュニティの創出が緊急な社会的課題となりつつあることも、念頭に置かなくてはならない。

また、現在の我が国の大きな課題の一つとして、地球環境の健全な保全があげられる。今日の複雑・多様化する環境問題の解決のためには、地域社会において女性の一層の参画が期待される。この観点からも、男女共同参画の視点に立った施策を展開していくことが重要である。

【具体的な取組】

  1. 家族や地域の変化に応じた今後の取組のためには、「2 少子・高齢化に応じた今後の取組」に掲げた家庭生活における活動とその他の活動の両立支援、働く環境の整備、高齢者の社会参画の促進などの取組を着実に推進していくことが必要である。

  2. 個人のライフスタイルが多様化すれば、個人から成る家族の形態も多様化する。そうした中にあって、どのような世帯であっても、次世代を担う子どもが望まれて生まれ、子どもの生育が社会によって支援される体制づくりが必要である。こうした視点に立って、多様な家族形態に対応した、次世代を育てるための家庭教育が行われるよう、国として支援を行う必要がある。

    さらに、近年社会問題として注目されている児童虐待や少年非行の原因として、家族関係が議論されることもあるが、その原因は一様ではないと思われる。こうした問題が起きている背景や原因、改善のための更なる研究が進むことが期待される。

  3. 地域社会をより豊かなものとし、家庭、職場と並んで、男女を問わず生きがいの場となるようにするため、ボランティア活動などのNPO(*1)等の活動に参画しやすいような環境の整備を一層促進していく必要がある。また、既に活動を行っているNPO等に対しては、情報提供等の支援の一層の充実を図っていく必要がある。

  4. ボランティア活動やPTA活動などの地域活動への参画は男女を問わず求められるものであるが、特にこれまで職場に生活の中心が置かれがちであった男性が、職場での肩書きにとらわれず、地域活動に目を向け参画することが評価されるような環境の整備が重要である。男性の地域活動への参画は、ビジネス社会で培ってきた経験や専門性を日常生活に密着した視点と融合させることにより、地域社会を活性化させる上で大きなメリットとなることが期待される。また、こうしたことは、働く女性についても当てはまるので、同様の視点に立って取組を行うべきである。

  5. 地域づくりやまちづくりは個人の生活と密接に結びついている。都市計画や環境保全、資源循環等に関する政策・方針決定の場に女性が積極的に参画でき、生活の視点やニーズが十分に反映され、男女双方にとって住みやすい地域づくりが行われるようにする必要がある。

  6. 基本法では、都道府県は、国の策定する基本計画を勘案して、都道府県男女共同参画計画を定めなければならないこと、及び市町村は、基本計画及び都道府県男女共同参画計画を勘案して、市町村男女共同参画計画を定めるように努めなければならないこととされている。地方公共団体において、基本法に基づく男女共同参画計画の策定が円滑に進むためには、各団体の積極的な取組とともに、国においても、情報提供等の支援の一層の充実を図る必要がある。特に、住民に最も身近な行政を担う市町村に対しては、地域の自主性を尊重しつつ、国が策定の手順や盛り込むべき基本的な事項などに関し参考となる資料を策定し、情報提供を行っていくなどの取組が必要である。

  7. 近年、人類存続の基盤である地球環境が損なわれるおそれがあることが世界の共通の認識になっている。大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動や生活様式を見直し、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会に変えていくことで、地球環境を健全な状態に保全して将来の世代に引き継ぐことは、我々の責務である。

    こうした環境問題の解決に当たっても、男女共同参画の視点が反映されていくことが重要であり、環境に関する意思決定過程に女性の参画を一層拡大していくことが求められる。


(*1)NPO(Nonprofit Organization):行政・企業とは別に社会的活動をする非営利の民間組織。平成10年、これに法人格を与え、活動を支援するための特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)が成立。福祉、まちづくり、男女共同参画、環境など様々な分野で活動を行っている。

4 経済の構造変化に応じた今後の取組

【視点】

貿易・投資活動の国際化の強まり、経済成長の長期的な減速及び労働者の平均年齢の高まり等の国の内外における経済環境の変化や産業構造の変化により、これまでの高い成長期に適応してきた様々な制度・慣行の見直しが必要となっている。特に労働市場では、長期雇用保障と年齢と結びついた昇進・賃金等の慣行が変化してきている。年齢や結婚の有無にかかわらず、多様な働き方を求める労働者も増加している中で、従来のように男性を主たる家計の担い手とし女性をその被扶養者とするような世帯単位の見方を改め、男女ともにその能力を発揮し、職場や社会において性別によらない評価がなされるようにする必要がある。働いた時間の長さを評価するのではなく、むしろ結果や成果に対する公平・透明な評価制度を確立することが重要である。そのことは、柔軟な勤務形態を適正に実現させる上でも必要である。

グローバリゼーションが進み、国際的な競争が激しくなる時代にあっては、経済面での一層の規制改革、すなわち、公正な競争を抑制するような従来の制度・慣行を見直すとともに、公正な競争を促進するような施策(独占禁止法等)やセーフティネット強化の施策を推進していくことが必要となる。また、このことは、男女にかかわりなく個人の能力をいかし、女性の社会進出を促進することにつながる。

さらに、経済構造が変化していく中で、女性が重要な担い手となっている農林水産、商工業等の自営業においても、男女共同参画の一層の促進により、その活性化や女性の新規参入が期待される。

なお、経済構造が変化していく時期にあっては、雇用等における均等な機会と待遇の確保の一層の徹底を図るなど、女性に不利な影響が出ないようにすることが必要である。男女の経済力の格差をなくしていくことは、女性の人権の確立を図る上でも重要である。

【具体的な取組】

  1. 雇用の分野において、女性が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できるようにするため、引き続き、男女雇用機会均等法に基づく男女均等取扱いの確保を図っていく必要がある。

    雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を一層徹底するためには男女雇用機会均等法の実効性を高めることが重要であることから、調停制度の在り方を含め、同法の履行確保手段の実効化について検討を進めるべきである。

    さらに、男女共同参画社会の形成に向けて、女性のみならず実質的な男女双方の均等取扱いの実現に向けての検討に着手することが必要である。

  2. 女性労働者がその能力を十分に発揮して充実した職業生活を送ることができるようにするためには、雇用の場において、形式的な男女均等が確保されるだけでなく、事実上生じている差を解消するための企業の積極的な取組(ポジティブ・アクション)が重要である。これについては、大企業やグローバルな事業展開が進んでいる企業等を中心に具体的な取組が見られ始めている。しかし、全体としては、その概念や必要性が十分に認識されていない状況にあり、女性労働者の能力発揮の促進や職域拡大のため、企業における積極的取組を推進することが必要である。

    また、実質的な男女の均等な機会及び待遇の確保を一層進める観点から、諸外国の取組事例を参考にしつつ、ポジティブ・アクションの推進のための取組を一層実効あるものとするための手法の検討を進めるとともに、自主的にポジティブ・アクションの推進のための取組を行う労使団体等に対し支援を行うことが必要である。

  3. 経済の構造変化等の中で、女性が幅広い職業分野に進出していくためには、個々の女性が職務遂行に必要な能力を身につけていく必要がある。各人の個性をいかしつつ社会経済情勢の変化への的確な対応を図ることができるようにするため、女性の職業能力開発と能力発揮の支援を一層推進していく必要がある。また、社会人・職業人を再教育するリカレント教育の推進等女性のエンパワーメントのための教育・学習機会の充実のための必要な支援を行っていく必要がある。

  4. パートタイム労働や派遣労働などの多様な働き方を、良好な就業形態として主体的に選択できるようにするとともに、これらの働き方の就業条件を整備する必要がある。また、パートタイム労働者と通常の労働者との処遇・労働条件の均衡の確保のための施策の推進が必要である。

    また、在宅ワークについては、育児・介護期にある者を中心に仕事と家庭の両立が可能となる就労形態として広がりつつあり、社会的な期待や関心も大きなものとなっているものの、トラブルの発生も少なくない。このため、在宅ワークの健全な発展に向け、平成12年6月に策定されたガイドラインの周知・啓発、各種情報提供、相談体制の整備、能力開発・能力評価に係る支援、就業支援の仕組みの整備等の施策を推進すべきである。

    さらに、今後、多様な働き方が増加していくと見込まれることから、どのような働き方であっても、安心して働き、生活できるよう総合的に関係諸制度の検討を行い、必要に応じ見直しを行う必要がある。

  5. 女性起業家については、男性とは異なる様々な困難に直面すると考えられるため、経済環境が変化している状況下においては特に一層活発に進められるよう、産業ごとの特性に配慮しつつ支援を行っていく必要がある。

    また、新たな事業形態や拡大が見込まれる事業分野での起業を支援するため、起業を目指す女性のニーズ等を把握しながら、支援の在り方について検討を進めるべきである。

  6. 商工業等の自営業において、女性が家族従業者として果たしている役割の重要性が正当に評価されるようにするためには、自営業における経営と家計の分離が重要であり、関係者の理解が得られるよう努力することが必要である。また、商工業等の自営業における家族従業者について調査研究等の取組を行っていく必要がある。

  7. 農林水産業においては、今後とも農山漁村男女共同参画推進指針等を踏まえ、女性の能力開発と経営参画、及び地域の生産・生活に関するあらゆる方針決定の場への参画を促進する必要がある。また、同指針を踏まえ、農林水産業に従事する女性に関する調査研究や女性の労働の軽減・快適化のための技術開発の促進、関係者への研修教育の実施及び農林水産統計の充実等についての取組を行っていく必要がある。

5 高度情報通信社会の進展に応じた今後の取組

【視点】

職場や家庭における情報通信ネットワークの進展は、距離や時間の制約を離れて、個人間の連絡や情報交換を格段に容易にし、地域を超えたネットワークの広がり、幅広い人間関係の新たな形成等個人の生活に大きな影響を与えるとともに、SOHO等就労形態の多様化も促進してきている。

しかし、急速な高度情報通信の発展は、女性の参画の機会を拡大し、プラスに働く可能性がある一方で、的確に対応できなければ、男女間の情報活用能力の差を生じさせ、さらにそれが他の格差にもつながるおそれがある。また、NGO(*1)等においても、情報活用能力が不十分な場合には、状況に応じた的確な活動が困難になることが懸念される。男女共同参画社会の形成の促進に当たっては、特に女性やNGO等の情報活用能力の向上に留意することが必要である。

行政機関の保有する情報に対する国民のアクセスは、関連法制の整備や高度情報通信システムの利活用により確保されてきている。今後も引き続き、国民の行政情報へのアクセスを進め、政策・方針決定過程の透明性を一層推進することが必要である。

【具体的な取組】

  1. 情報通信技術の進歩やインターネットの普及等の情報化の進展により、場所にとらわれない働き方として、テレワーク、SOHO等が可能となっている。こうした働き方は、通勤負担の軽減や場所にとらわれない柔軟な働き方を可能にし、男女を問わず育児・介護と仕事の両立、高齢者等の雇用・就労機会の拡大、地域活性化等にも貢献するので、就労条件や市場の整備といった点に配慮しつつ、今後、一層の普及促進を図ることが必要である。

  2. 情報化に対応するための教育・能力開発の推進の観点から、学校教育、社会教育、職業訓練において、情報活用能力を向上させるための取組を進めることが必要である。

  3. 高度情報通信社会における行政情報へのアクセスの拡大を図るため、情報公開法制及び政策評価制度等の的確な施行を確保するとともに、広く国民等に対し案等を公表し、意見を募集するパブリック・コメント手続が一層活用されることが必要である。


(*1)NGO(Non Governmental Organization):非政府組織。国家間の協定によらず民間で設立される非営利の団体。非営利性という点でNPOとほぼ同義であるが、女性問題、平和、環境保護、援助などの国際的に課題となっている分野で活動するものを指して呼ばれることが多い。国連経済社会理事会に認定され、国連機関と協力して活動するものを国連NGOという。

6 国際的な動向に応じた今後の取組

【視点】

第4回世界女性会議で採択された行動綱領は、女性の地位向上に当たって、平等、開発、平和の3つの目標が不可欠のものであり、一体として機能するものであることを改めて確認した。そして、平成12年6月にニューヨークで開催された国連特別総会「女性2000年会議」では、上記行動綱領の実施状況の検討・評価が行われるとともに、更なる行動とイニシアティブの検討が行われ、その結果が「政治宣言」及び「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ」(いわゆる「成果文書」)として取りまとめられた。

我が国としては、これら国際会議の成果をも踏まえ、環境など世界的規模で問題となっている分野を中心に、男女共同参画の視点から、より効果的で公正な国際協力を実施していく必要がある。その際、女性のみに視点を当てるのではなく、女性と男性の不平等な関係や女性を不利な立場にしている社会的構造そのものを変えていくという、いわゆるGAD(Gender and Development)の視点に立つべきである。また、グローバリゼーションの進展の結果、景気の変動が瞬時に伝播し、増幅されることが予想される中、途上国において経済危機が発生した場合、それが女性の社会的危機につながらないような視点をもって、必要な援助を適時適切に行う必要がある。

国連を中心として展開される世界の女性の地位向上のための活動に対しては、積極的協力を行うことを通じて、一層の国際的協調を推進していく必要がある。

さらに、平和の維持は平等、開発の達成のための基本的要件であり、国際社会における平和の構築及び復興開発に女性の積極的な貢献が望まれる。

【具体的な取組】

  1. 第4回世界女性会議において我が国は、「WIDイニシアティブ」を発表し、特に女性の「教育」、「健康」、「経済・社会活動への参加」の3つの分野を中心に、開発援助の拡充に努力していくことを表明した。今後とも一層の推進を図っていく必要がある。また、その際、開発途上国及び他の援助国、国際機関、NGOとも協力しつつ、WID分野の開発援助の拡充に一層努めるとともに、援助の決定及び評価への女性の参画を促進することが必要である。さらに、個別の援助案件の企画、実施、モニタリング、評価及びフォローアップについてNGOの一層の参画が検討されるべきである。

    また、1998年2月、OECD/DACが策定した「ジェンダー平等/WID指針」では、従来のWID/ジェンダーをも包含するジェンダーの視点への変化が反映されている。我が国としても、引き続きWID/ジェンダーの観点から、男女格差の是正を念頭に置きつつ、社会全体の持続可能な経済・社会開発を目指していく必要がある。

  2. 我が国における男女共同参画社会の形成に関する取組を広く周知するための国際レベルでの広報施策の充実を図っていく必要がある。

  3. 個別の援助案件の計画・実施・評価の各段階における女性の参画と受益を確保する視点に立って国際協力を実施し、被援助国における男女共同参画の促進を図るよう努める必要がある。また、その際、援助側における女性の参画が促進される必要がある。

  4. 女子差別撤廃条約等の遵守とそれらの条約の趣旨に沿った施策の充実に努めるべきである。また、世界人権宣言や「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」などの国際的指針を踏まえた国際的活動を展開するとともに、女性にかかわりの深い国際約束のうち女子差別撤廃条約の選択議定書やILO条約等の未締結のものについて、世界の動向や国内諸制度との関係にも留意しつつ、男女共同参画の視点から積極的な対応を図っていく必要がある。

  5. 国連婦人開発基金(UNIFEM)(*1)及び国連開発計画(UNDP)(*2)等女性の地位向上を推進する国際機関等に対しては、積極的な協力・貢献を推進していく必要がある。

  6. 平和構築及び復興開発への女性の参画を一層促進する観点から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等関係国際機関等への一層の貢献を促進していく必要がある。

  7. 1992年(平成4年)、リオデジャネイロにおいて、国連環境開発会議(いわゆる地球サミット)が開催され、環境と開発に関する基本計画である「環境と開発に関するリオ宣言」、21世紀に向けての行動計画である「アジェンダ21」等が採択された。「環境と開発に関するリオ宣言」では、環境管理と開発における女性の役割の重要性が、また「アジェンダ21」では、持続可能な開発に関する政策の策定等に携わる女性の比率の増加、女児、女性の教育の向上等がうたわれている。

    政府は、これらの動きを受けて「『アジェンダ21』行動計画」を策定し、関連施策を推進してきている。今後も、環境問題に関する国際協力においては、事業の実施が女性と男性に対してそれぞれどのような影響を与えるかに関して十分配慮するとともに、事業の各段階における意思決定過程への女性の参画を促進していく必要がある。


(*1)国連婦人開発基金(UNIFEM):女性関係の草の根のプロジェクトに直接援助を提供するとともに、主要な開発計画の意思決定過程への女性の参画を促進するために1976年に創設。

(*2)国連開発計画(UNDP):開発協力に資金を提供する多角的な援助機関として1965年に創設。他の国際機関や政府と協力し、生活水準の向上、迅速で公平な経済成長、環境的に健全な開発などを促進している。

II 個人の尊厳の確立

個人の尊厳の確立は、男女共同参画社会の根底をなす考え方である。生命、身体、精神にかかわる個人の尊厳が確立されなければ、男女がその個性と能力を発揮していくことはできない。国際的にも民族紛争により発生した難民への対応など国家主権を超えた視点での取組が課題になるとともに、「女性2000年会議」においても女性に対する暴力の問題がこれまでよりも一層重視されるなど、個人の尊厳の確立は、その重要性に対する認識が一層深まっている。

1 女性に対する暴力への今後の取組

【視点】

女性に対する暴力は、女性に恐怖と不安を与え、女性の活動を束縛し、自信を失わせ、女性を男性に比べて更に従属的な状況に追い込むものである。女性に対する暴力は、人権の尊重の基本理念を踏みにじり、男女共同参画社会の実現を阻害する。

そもそも、暴力は、その対象の性別や加害者と被害者の間柄を問わず、決して許されるべきではないが、暴力の現状や男女の置かれている社会構造の実態を直視するとき、特に女性に対する暴力について早急に対応する必要がある。

平成12年の「女性2000年会議」で採択された「北京宣言及び行動綱領の実施のための更なる行動とイニシアティブ」でも女性に対する暴力の問題は大きく取り上げられた。

これまで、女性に対する暴力は潜在しており、公的関与も十分でなかったが、実態調査で明らかになった現状を踏まえると、女性に対する暴力は、多くの人にかかわる社会的問題であることが認められる。さらに、女性に対する暴力は個人的問題として矮小化されることもあるが、むしろ家庭や職場など社会における男女の固定的な役割分担、経済力の格差、上下関係など、我が国の男女が置かれている状況や過去からの女性差別の意識の残存に根差した構造的問題として把握し、対処していくべきである。

女性に対する暴力は男女共同参画社会を形成していく上で克服すべき重要な課題であり、その根絶に向けて努力を続けなければならないことを、関係者だけでなく社会のすべての構成員が強く認識しなければならない。

【具体的な取組】

  1. 女性に対する暴力はこれまで潜在していることから、重大な問題と認識されておらず、社会の理解が不十分である。このため、特に若年層に留意しつつ、女性の人権尊重や、暴力によらない問題解決の方法が身につくような教育・学習の充実等に取り組むとともに、「女性に対する暴力をなくす運動」を国民的運動として推進するなど、国際社会と協調しながら意識啓発に努めることが必要である。

    また、加害者への対応を含め調査研究を行うことが必要である。

  2. 女性に対する暴力に的確に対応するためには、その基盤となる体制整備が必要である。このためには、暴力を受けた女性に対する緊急的、中・長期的な相談、カウンセリングなどの精神的なケアの充実やそのための体制整備、対応に携わる関係者の研修等が重要であり、訓練を受けた女性職員の配置と活用も必要である。

    女性に対する暴力については、被害の状況に応じて様々な機関の関与が必要である。すなわち、国レベルにおける関係省庁の連携、地方レベルにおける関係機関相互の連携及び国と地方公共団体との連携を強める必要がある。また、行政や警察だけでなく、NGOや地域住民など幅広い関係者による、地域を挙げての暴力を決して許さないという姿勢を基本とした取組が期待される。さらに、女性が被害を受けても自らの安全と生活を守りながら自尊意識をもって生きていくことができるように、女性の経済的・精神的自立を進めることが必要である。

  3. 既存の法律の中には、女性に対する暴力の問題に活用できるものもあるが、対応に当たる関係者等によっては、十分に理解されず、活用も不十分と言わざるを得ないものもあると考えられる。まず運用面で的確な実施を図るべきであり、関係者は、これを重大な問題として認識すべきである。さらに、そうした取組で対応が困難な点があれば、新たな対応を検討することが必要である。

    現在、被害者が置かれている状況等を踏まえると、女性に対する暴力に関して、総合的な対応に関する法制度や、暴力のそれぞれの形態に対応した法制度など、早急に検討することが必要である。

  4. 夫・パートナーからの暴力については、警察、人権擁護機関、婦人相談所、民間シェルターによる取組を推進することが必要である。また、関係機関による相談体制の連携充実を図ることが必要であり、24時間対応できる公的な専門的相談体制について検討を行うとともに、地域格差が生じることなく、プライバシーに配慮しつつ、的確かつ迅速な対応が図られる相談体制が確立されるよう努力すべきである。被害者と接する可能性の高い医師などの専門家が通報できるようにすることには意義があると考えられる。この点については、守秘義務との関係が問題になるので、検討が必要である。

    夫・パートナーからの暴力に関する緊急一時保護は重要な課題であるが、売春防止法に基づく従来の対応には限界があるので、新たな体制の検討が必要である。また、緊急一時保護の新たな体制の検討の際には、相談体制との関係や、緊急一時保護の後の次の段階の対応も視野に入れるべきである。なお、相談から緊急一時保護、次の段階に至る体制の整備に当たっては、民間組織との関係についても考慮されるべきである。いわゆる民間シェルターについても、関係機関との関係の強化を図るとともに財政支援も含め様々な支援の在り方の検討が必要である。

    また、事例に応じて加害者の検挙その他の措置を行ったり、暴力行為の禁止や接近禁止の仮処分等の措置を迅速に講じていくことが必要である。仮処分等については、まずは、関係者への取り得る手段の情報提供を行い、その活用を図り、実例を積み重ねることが必要である。さらに、簡易、低廉、迅速な運用や強制力の付与等についても、法制度の在り方も含め、幅広く検討することが必要である。

    被害者の抱える問題を本質的に解決するには、家事調停及び訴訟の活用を図っていくことも必要である。

  5. 性犯罪に関しては、加害者の処罰を厳正に行う必要がある。強姦罪については、女性に対する暴力は女性の人権に深くかかわる社会的・構造的な問題であることを十分に理解した上で、「暴行又は脅迫」についての事実認定がされることが望まれる。

    また、被害者が相談しやすい環境を作ることや、捜査段階における事情聴取及び公判段階の証人尋問等も含め被害者の精神的負担の軽減に努力していく必要があり、今後、警察や検察における被害者支援の取組及び体制の充実の一層の推進が必要である。本年5月刑事訴訟法の改正等が行われたが、今後被害者の立場に立った運用が期待される。さらに、捜査の状況や加害者の処分の状況を知らせることも一層推進すべきであり、犯罪者の刑務所等からの釈放に関する情報を知らせることについても検討が必要である。

  6. 売買春は、女性の性を商品化し、金銭等により売買するものであり、女性の尊厳を傷つける。その中でも特に児童買春は、発達過程にある児童の心身に有害な影響を与えるものであり、国際的にも大きな問題となっている。また、外国人女性に係る売買春については、管理下で強制的に売春させられている事例が報告されており、児童買春と同様に国際的問題となっている。

    売買春の根絶に向けて、関係法令の厳正な運用とともに、女性の人権尊重の意識を、教育や各種の広報啓発を通じて国民の間に根づかせていくことが必要である。

    さらに、「人の密輸」(トラフィッキング)については、国際組織犯罪条約を補足する議定書の一つとして、国連において文書の作成が進められるなどしており、そうした国際的な動きに我が国も引き続き積極的に取り組むべきである。

  7. 職場等におけるセクシュアル・ハラスメントについては、男女雇用機会均等法に基づく職場における取組を一層推進するとともに、国家公務員についても、平成11年4月1日から施行された人事院規則等に基づき防止対策をより組織的、効果的に推進することが必要である。また、前記以外の請負形態など直接雇用形態にない労働や雇用関係以外の教育、社会福祉関係等の場においても、今後取組が進められるよう支援を行うことが必要である。

  8. つきまとい行為については、平成12年5月には、ストーカー行為等の規制等に関する法律が制定され、同年11月から施行されることとなっている。今後、被害者保護の立場に立って、各種施策の推進とともに、同法に基づく適切な対応が求められている。

    なお、つきまとい行為については、加害者の精神的な問題も指摘されており、研究を進める必要もある。

  9. 平成12年7月31日の「女性に対する暴力に関する基本的方策について」の答申を踏まえ、女性に対する暴力の根絶を目指し、施策を進めることが重要であり、平成13年1月から設置される男女共同参画会議においても、引き続き女性に対する暴力の問題について調査審議が行われることが必要である。

2 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(*1)への今後の取組

【視点】

女性も男性もそれぞれの身体の特性を十分に理解し合い、思いやりをもって生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提といえる。とりわけ、女性は、妊娠や出産をする可能性があることもあり、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点から女性の生涯を通じた健康を支援するための総合的な対策の推進を図ることが必要である。

妊娠、出産期は女性の健康支援にとっての大きな節目であることから、我が国の妊産婦死亡率が先進国の中でやや高いことなどの課題を踏まえ、妊娠・出産の安全性や快適さを確保することが必要である。また、不妊に悩む男女が多いことから、精神面を含む支援を行っていく必要がある。

女性が自らの身体について自己決定を行い健康を享受するという観点から、性と生殖に関することを含め自らの健康について、幼児期から高齢期に至るまで適時、正しい情報を入手できるよう十分に対応する必要がある。人工妊娠中絶の件数は、昭和30年と比較し、平成11年では1/3以下に減少しているが、未だに33万件を上回っており、中でも20歳未満の女性の人工妊娠中絶は増加の傾向にある。これらの事実は人工妊娠中絶が女性の心身に及ぼす影響に対する認識や安全な避妊の知識が十分でないことなどが原因となっているものと思われる。このため、女性と男性の相互の尊敬と理解に基づく家族計画等の普及が重要である。

女性の生涯を通じてリプロダクティブ・ヘルス/ライツが保障されることが肝要である。

【具体的な取組】

  1. リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方を踏まえ、性と生殖に関し、自ら判断し、決定すること(性的自己決定)を相互に尊重することが重要である。このため、自分の身体や相手の身体について正しい情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるようにするため、学校や地域における性教育や健康教育の一層の充実を図る必要がある。その際、青少年の性行動が低年齢化・活発化している状況を踏まえ、また、性情報が氾濫している状況を踏まえ、学校や地域においてリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点に立つ性教育や健康教育の充実を図る必要がある。なお、性教育を進める際には、避妊に関する情報提供及び適切な対応にも留意するとともに、学校と関係機関・地域社会、あるいは産婦人科医・助産婦・保健婦等と必要に応じ適切な連携・協力を行うことも重要である。

  2. 摂食障害、喫煙、飲酒及び薬物については、それらが生殖機能や胎児に影響を及ぼすものであることから、女性が主体的に取り組めるよう学校や地域社会において健康被害に関する正確な情報提供が行われる必要がある。特に、喫煙は個人の問題ではあるが、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方を踏まえ、生涯を通じた女性の健康への配慮という点から、公共空間を始め飲食店など不特定多数の人が利用する空間及び職場においては禁煙が推進されることが望ましい。

  3. 妊娠・出産の安全性や快適さ及び避妊の選択肢を確保するため、周産期医療や家族計画指導を含む母子保健医療施策等を推進する必要がある。

  4. 子どもを持ちたいにもかかわらず不妊で悩む人々が、正しく適切な基礎情報を基にその対応について自己決定できるよう、不妊に関する多面的な相談体制を整備する必要がある。また、不妊治療に関する研究環境の整備を推進する必要がある。

  5. 月経、乳がん、子宮内膜症、骨粗鬆症、更年期障害等の女性に特有な健康状態あるいは女性に多く見られる疾病について、これらに関する研究及び予防、健康診査、相談、情報提供等の適切な保健サービスを推進する必要がある。

  6. 医師、保健婦、助産婦、看護婦、カウンセラーや保健所、市町村保健センター等の担当職員に対し、女性の生涯を通じた健康支援の総合的な推進を図る視点から、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修を強化する必要がある。

  7. 女性が生涯を通して自己の健康を維持・管理するため、思春期、月経時、妊娠・出産期、更年期、高齢期など女性の生涯を通じたメンタルヘルスに関する事業を推進する必要がある。

  8. HIV/エイズや性感染症は、女性の健康に甚大な影響をもたらすものであり、HIV/エイズについては、正しい知識の普及・啓発、医療体制の充実、治療薬の研究開発等の予防から治療までの総合的な対策、性感染症については、正しい知識の普及・浸透、予防、健康診査、相談、治療等の対策の推進を図る必要がある。

  9. 女性が主体的に避妊するため、低用量経口避妊薬(ピル)や女性用コンドーム等に関する知識の普及等の支援を行う必要がある。

  10. 女性労働者の母性保護及び母性健康管理の徹底を図る。特に、妊娠中及び出産後も継続して働き続ける者が増加していることにかんがみ、これらの女性労働者が引き続きその能力を十分に発揮する機会を確保するための環境を整備することが重要である。また、妊娠又は出産を理由として、雇用管理面で不利益な取扱いを受けることのないよう企業の望ましい雇用管理の在り方やそのための環境整備に向けての方策等について、母性保護条約の改正など国際的な動向も見極めつつ検討を進めるべきである。

  11. 女性をめぐる現行の関連法令、関連制度について、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障するための法的整備を含め、総合的に今後の在り方を検討する必要があるが、その際、リプロダクティブ・ヘルス/ライツのうちのライツの概念については、種々の議論があるため、世論の動向を踏まえた検討が必要である。


(*1)リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:1994年にカイロで開催された国際人口・開発会議において提唱された概念。リプロダクティブ・ヘルスは、個人、特に女性の健康の自己決定権を保障する考え方。健康とは、疾病や病弱でないことではなく、身体的、精神的、及び社会的に良好な状態にあることを意味する。リプロダクティブ・ライツは、それをすべての人々の基本的人権として位置付ける理念である。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの中心課題には、いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性生活、安全な妊娠・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどが含まれており、また、これらに関連して、思春期や更年期における健康上の問題等生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論されている。

3 メディアにおける人権への今後の取組

【視点】

21世紀に向けて、高度情報通信社会が一層進展することが予想される中で、メディアによってもたらされる情報が社会に与える影響は、さらに拡大するものと予想される。

このような状況の中で、メディアを通じて女性の様々な参画の姿が広く伝達されることは、男女共同参画の意識が広く国民に浸透するという観点からも、大きな意義がある。

一方で、一部の出版物及び映像メディア等においては、女性の性的側面のみを強調したり、女性に対する暴力を無批判に取り扱った情報が見受けられることも現状においては少なくない。その背後には、女性を一人の人間として認めず、性の対象としてしか見ていない男性の考え方があると考えられる。こうした情報によって、青少年の健全な育成が妨げられたり、性犯罪や女性に対する暴力が引き起こされる可能性も否定できない。

表現の自由は、日本国憲法で保障された権利であり尊重されるべきであるが、その一方で、表現の自由を享受する者は、表現される側の人権や、性・暴力表現に接しない自由、マスメディアや公共空間において不快な表現に接しない自由にも十分な配慮を払うべき責任を有していると考えられる。このため、女性の人権に対する配慮を欠いた取扱いがなされるのを防ぐことが必要である。

しかしながら、こうした問題については、現在メディアによる自主的対応の動きも見られるところでもあり、行政の対応については、表現の自由に対する介入、干渉とならないように慎重な対応が求められる。

公的機関の作成する広報・出版物については、性別に基づく固定的な役割分担にとらわれない、男女の多様なイメージを社会に浸透させることが重要であり、そのための率先した取組が重要である。

また、高度情報社会が進展する中では、メディアからもたらされる膨大な情報を、各人が無批判に受け入れるのではなく、主体的に読み解いていく能力が不可欠であり、そのような能力を高めるための機会の支援も積極的に行う必要がある。

【具体的な取組】

  1. メディアにおける人権尊重を一層推進するため、人権の尊重を十分念頭に置いた番組基準や倫理綱領の策定・遵守及び社内研修の機会の充実などのメディアの自主的な取組の促進並びに性・暴力表現を望まない者からの隔離等に関する方策の推進を図ることが重要である。また、第三者機関等の活用による国民からの意見、提言や苦情等に対応するための体制の充実を図る必要がある。

  2. インターネット等新たなメディアにおけるわいせつ情報や性の商品化に対しては、刑法第175条等現行法令の適用による取締りを引き続き強化するほか、有害情報を受信者側で排除できる技術の開発、接続業者及び情報提供者に対する広報啓発活動の推進、接続事業者等による自主ガイドライン策定等のメディア自身による取組に対し一層の支援などを行うことが必要である。

  3. 性・暴力表現や、固定的な性別役割分担意識に基づく表現などの改善の観点からも、また、方針決定過程への女性の参画の拡大という観点からも、企画、制作、編集などメディアのあらゆる段階に女性の参画が進むことが重要であると考えられる。新聞や放送などのメディアの分野における女性の参画状況などを見ると、ビジョン答申時と比較して、メディアにおける女性の参画は、徐々にではあるが、着実に進んできていると考えられる。今後も、メディアに関する企業や組織において、これまで以上の女性の積極的な登用が期待されるところであり、自主的な取組の促進が必要である。また、その際、特に方針決定の場への女性の参画を一層促進することが重要である。

  4. 性・暴力表現のうち、いわゆる児童ポルノについては、児童の人権に対する重大な侵害であることから、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号、平成11年11月1日施行)に基づく取組を推進することが必要である。また、地方公共団体においても、青少年保護育成条例による有害図書の指定制度の適切な運用等地域の特性に対応した積極的な取組が期待される。

  5. 公的機関が作成する広報・出版物の内容が性別に基づく固定観念にとらわれないものとなるよう、遵守すべきガイドラインを早急に策定し、策定の後は、広く周知に努めるとともに、民間のメディアがこれを自主的に規範として取り入れることを奨励するべきである。

  6. Ⅰの「5 高度情報通信社会の進展に応じた今後の取組」においても指摘したように、高度情報通信社会の進展は、女性の参画の機会を拡大し、プラスに働く可能性がある一方で、的確に対応できなければ、男女間の様々な格差につながる可能性もある。したがって、メディアからもたらされる膨大な情報を、無批判に受け入れるのではなく、主体的に読み解いていく能力を涵養することが非常に重要である。このため、国民への広報・啓発などを通じて、メディアを選択し、主体的に読み解き、自己発信する能力(メディア・リテラシー)の向上のための支援を積極的に行う必要がある。

4 教育・学習の充実への今後の取組

【視点】

男女共同参画についての意識や自立を基礎とした社会の一員としての考え方と態度が国民の間に浸透することは、今後、男女共同参画社会の形成を促進するに当たっての基盤となる。そのような観点から、学校、家庭、地域社会などで行われる教育や学習は極めて重要な意味を持つ。

平成12年2月に総理府広報室が実施した「男女共同参画社会に関する世論調査」では、「男は仕事、女は家庭」という考え方について、同感する方か否かを聞いたところ、「同感する方」と答えた者の割合が25.0%、「同感しない方」と答えた者の割合が48.3%となっている。「同感しない方」と答えた者の割合は、昭和62年3月の世論調査以来一貫して増加傾向にあるものの、人々の意識の中に長い時間をかけて形づくられてきた性別に基づく固定的な役割分担意識が根強く残っていることがうかがえる。このような固定的な役割分担意識を是正するためにも、また、女性を性的な対象としてしか見なかったり、女性に対する暴力を容認したりする意識をなくすためにも、人権尊重を基盤にした男女平等観の形成の促進のための教育・学習の一層の充実が求められている。

男女共同参画社会は、男女が性別に基づく固定的な役割分担意識にとらわれず、各人の個性と能力を発揮できる社会である。このような社会にあっては、近年の科学技術の進歩、情報化、国際化、産業構造の変化など、我が国の社会や経済が直面する課題の変化に伴い、知識・技能を絶えず向上させることが求められている。一方、所得水準の向上、自由時間の増大、高齢化等に伴い、心の豊かさや生きがいのための学習需要も増大している。これらのニーズに対応して、生涯にわたって多様な学習機会が確保されることが、我が国が21世紀に向け豊かで活力ある社会を構築していくためには極めて重要である。

【具体的な取組】

  1. 男女共同参画社会の形成に当たっては、参画、自立の意識を醸成する教育及び個人が主体的に学び、考え、行動する姿勢を育む教育を推進することが重要である。このような自立を育む教育、一人一人の個性や能力を尊重した教育を推進するためには、自ら多様な選択ができる学校教育及び学習機会の提供がその前提となる。

    また、公共の場における政策・方針決定過程への参画を男女を問わず積極的に促進していくという観点からは、政治などの現代社会に対する関心を高める教育・学習を充実することが重要である。

  2. 学校教育全体を通じて、個人の尊厳、男女平等、男女の相互協力・理解についての指導を引き続き充実するとともに、教科書などの教材においてもそれらについて十分に配慮されることが重要である。

  3. 教職員の男女平等などに関する理解を促進するため、教員養成課程における教育や、採用後の研修を推進する必要がある。また、学校外における青少年教育活動の指導者など、地域社会で指導的な役割を果たす者に対して、男女共同参画についての意識啓発を行うことも重要である。

    学校行事などの学校運営やPTA活動などの地域活動が、性別に基づく固定的な役割分担を前提に行われることがないよう、留意することが望まれる。

    学校長を始めとする教職員が男女共同参画の理念を理解し、今後とも、学校における男女共同参画を推進するための取組がなされることが重要である。

  4. 進路指導、就職指導については、今後の社会経済情勢の変化も念頭に置きながら、男女の役割について固定的な考え方にとらわれず、幅広い選択ができるよう一層の充実を図るとともに、高い職業意識の育成を図るため、職場体験やインターンシップ(*1)の充実を図ることが重要である。

  5. 高等教育機関等における女性学・ジェンダー研究については、一層の振興が図られることが望ましい。また、これらの研究の成果が、社会に還元されるように努めるべきである。

  6. 自立の意識を醸成していくためには、学生が、親の金銭的援助に過度に依存することなく、自立して学ぶことができるような条件を整備していくことも重要である。そうした観点から、奨学金制度の充実を図ることが必要である。

  7. 社会教育においては、女性も男性も生涯を通じて、個人の尊厳と男女平等に関する意識を育むことが重要である。このため、人権学習や男女共同参画に関する学習について、プログラムの開発や学習機会の提供、専門的な指導者の養成等を図ることが必要である。

  8. 男女共同参画の視点に立った家庭教育を推進することが必要である。特に、男女共同参画の意識を社会に深く根付かせるためには、幼児期から、個性を大切にし、固定的な男女の役割分担意識にとらわれない、男女共同参画の視点に立った教育を家庭で男女が協力して行い、また、地域において推進することが重要である。このような観点から、年少の子どもを持つ親を対象とした教育についての調査研究や地域社会全体で取り組む事業等を行うことが重要である。

  9. 男女が性別に基づく固定的な役割分担意識にとらわれず、各人の個性と能力を十分に発揮していくためには、生涯学習の振興は極めて重要な意義を持つ。このため、生涯学習の推進体制の整備、普及啓発と情報提供、学習機会の拡充、学習成果の評価と活用等に関する施策を一層推進することが必要である。

    また、男女共同参画社会の形成に当たっては、個人の尊厳、男女平等の意識を育むとともに、個々の女性について、その意識を高め、能力を発揮できるようにしていくことが必要である。このため、女性のエンパワーメントのための生涯にわたる学習機会を一層充実するとともに、女性団体の活動の支援などを通じた女性の能力開発・社会参画の促進等を図ることが重要である。

  10. 国立婦人教育会館、各地の公私立の女性センター等について、有機的な連携を図りながら、機能等の一層の充実が図られることが期待される。また、これらについて高度情報社会の進展に対応して、情報のネットワーク化の一層の推進が期待される。


(*1)インターンシップ:学生等が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと。

III 推進体制の整備・強化

男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進に当たっては、第1部で述べたような基本的方向に沿いつつ、また、第2部Ⅰ及びⅡにおける提言を踏まえながら、広範かつ多岐にわたる取組を展開することが必要である。このような取組を整合性をもって、総合的かつ効率的に推進するためには、基盤となる推進体制を整備・強化し、国民的な広がりをもって社会のあらゆる分野での取組を進めることが必要である。

1 国内本部機構(*1)の組織・機能等の拡充強化

【視点】

男女共同参画社会の形成の促進に関する施策は、広範、多岐にわたり、また、あらゆる政策分野において男女共同参画の視点を反映させる必要がある。したがって、男女共同参画社会の形成のための取組を整合性をもって、総合的かつ効率的に推進するためには、その基盤となる国内本部機構の組織・機能の整備・強化が重要である。国際的に見ても、1975年(昭和50年)の国際婦人年以来、累次の世界女性会議等で国内本部機構の重要性が常に指摘されている。

我が国においても、こうした国際社会の動きに対応して、国内本部機構の整備が着実に図られ、男女共同参画推進本部(本部長:内閣総理大臣、副本部長:内閣官房長官(男女共同参画担当大臣)、本部員:全閣僚)と男女共同参画審議会とが、男女共同参画社会の形成の促進のための施策を展開するに当たり、いわば「車の両輪」として機能している。

平成13年1月6日に移行が開始される中央省庁等改革においても、男女共同参画社会の実現の重要性にかんがみ、新たに設置される内閣府に、基本的な政策及び重要事項の調査審議を行う男女共同参画会議が設置されるとともに、併せて内部部局として男女共同参画局が設置されることとされており、これまで以上にその推進体制が充実・強化されることとなる。

男女共同参画社会の実現が21世紀の我が国の最重要課題と位置付けられている中で、充実・強化されることとなる推進体制の機能を最大限に有効に発揮するため、その的確な運用を図ることが最も重点的に取り組むべき課題の一つとして位置付けられる。

【具体的な取組】

  1. 平成13年1月6日に移行が開始される中央省庁等改革においては、内閣府設置法(平成11年法律第89号)及び中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第102号)により、内閣に内閣総理大臣を長とする内閣府を新たに設置することとされている。内閣府の任務として、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること、また、その任務を達成するため、男女共同参画社会の形成の促進を図るための基本的な政策に関する事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務等を所掌することとされている。さらに、男女共同参画審議会が廃止され、内閣府に新たに設置される男女共同参画会議(*2)にその機能が発展的に継承されることとされている。男女共同参画会議は、内閣府に置かれる重要政策に関する会議の一つとして、内閣官房長官を議長とし、各省大臣等と有識者から構成され、男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な方針、基本的な政策及び重要事項の調査審議、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視、政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査等を行うこととなっている。

    中央省庁等改革に当たっては、男女共同参画会議が国内本部機構の重要な機関として、その機能を最大限に発揮するよう運営に配慮することが必要である。その際、会議に男女共同参画に識見の高い学識経験者や民間女性団体などの国民の幅広い意見が十分に反映されるよう配慮することが特に重要である。

  2. 学校教育全体を通じて、個人の尊厳、男女平等、男女の相互協力・理解についての指導を引き続き充実するとともに、教科書などの教材においてもそれらについて十分に配慮されることが重要である。

  3. 平成12年5月に閣議決定された内閣府本府組織令では、内閣府に、男女共同参画社会の形成の促進に関する企画立案及び総合調整等を主な所掌事務とする男女共同参画局が設置されることとされている。この男女共同参画局が総合調整機能を的確かつ効果的に発揮することが重要である。また、中央省庁等改革後も、引き続き国内本部機構が全体として有効に機能するよう、改革後の各省庁における男女共同参画担当部署の明確化やその機能の充実を図るとともに、相互の連携を確保することが必要であり、そのためにも、男女共同参画局が中核としての機能を発揮することが期待される。

  4. 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視及び政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査(影響調査)については、効果的かつ的確に実施することが重要であるが、その際、総務省や各省庁が行う政策評価との関係にも留意する必要がある。

    特に、影響調査については、効果的な調査手法を確立し、的確な調査を実施していく必要がある。また、影響調査の実施に当たっては、男女別の統計の把握が不可欠であり、各分野の各行政機関がその一層の充実に努めるべきである。

  5. 基本法では、国は、政府の施策についての苦情の処理のために必要な措置及び人権が侵害された場合における被害者の救済を図るために必要な措置を講じなければならないことが規定されている。

    こうした苦情の処理等については、具体的には、まず、行政相談委員を含む行政相談制度、人権擁護委員を含む法務省の人権擁護機関等既存の制度の一層の活用によりその機能の充実を図ることが必要である。このため、行政相談委員・人権擁護委員への女性の積極的な委嘱、委員等に対する男女共同参画に関する認識を高めるための研修の充実を図る必要がある。また、男女共同参画に係る苦情の処理等に当たっては、地方公共団体の男女共同参画担当部署等の活動を尊重しつつ、相互の緊密な連携を図る必要がある。さらに、今後、諸外国における苦情の処理等の状況について調査・研究を進め、諸外国の取組の現状を把握する必要がある。

    なお、これらの取組を踏まえつつ、必要があれば我が国の実情に適したオンブズパーソン的機能を果たす新しい体制について検討することも視野に入れるべきである。

  6. 男女共同参画担当大臣については、あらゆる施策に男女共同参画の視点を強力に反映するという観点から、内閣の要であり、男女共同参画会議の議長である内閣官房長官が引き続きその任に当たることが必要である。その際、内閣官房長官が担当大臣としての機能を十分発揮できるようにするため、補佐機能の一層の充実を図るべきである。

  7. 男女共同参画についての意識が国民一人一人の間に浸透することが、男女共同参画社会を実現していくための基盤となるものであり、基本法の目的、基本理念等が広く国民に理解されるよう、広報・啓発活動を一層推進することが必要である。

    その際、国民が男女共同参画を身近に考え実践する契機となるように、広報・啓発の方法を工夫すべきである。その一環として、男女共同参画にちなんだ日や週間を、基本法の公布・施行日を踏まえて定め、広報活動や顕彰等を実施することについて、検討を進めるべきである。


(*1)国内本部機構:1987年に国際連合事務局が主催した女性の地位のモニタリング及び向上のための国内本部機構に関するセミナーでは、「女性の地位向上を取り扱う機構として政府が認めた単一の組織又はしばしば異なった当局の下にある数種の組織の複合体」と定義されている。我が国では、男女共同参画推進本部、男女共同参画審議会(平成13年からは男女共同参画会議にその機能が発展的に継承される。)及びこれらを支える事務体制等が国内本部機構としてとらえられている。

(*2)男女共同参画会議:平成13年1月に予定されている中央省庁等改革に伴い、「重要政策に関する会議」の一つとして、内閣府に設置される機関。男女共同参画審議会の機能を発展的に受け継ぐ。内閣官房長官を議長とし、議員は24人以内で、各省大臣等(内閣総理大臣の指定する国務大臣)及び学識経験者(各省大臣等の人数以上)で構成される。

男女共同参画会議の所掌事務としては、 男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な方針、基本的な政策及び重要事項の調査審議、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視、政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査等が規定されている。(中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第102号、平成13年1月6日施行))

2 地方公共団体及びNGOの活動との連携協力の強化

【視点】

男女共同参画社会の形成は、我が国社会の在り方そのものを変えていくことであり、国、地方公共団体、国民のそれぞれの主体が、基本法の基本理念を踏まえ、それぞれの責務を果たしていくことが重要である。この場合、国の取組のみならず、住民にとって身近な行政を担う地方公共団体や独自の視点に立って自主的な活動を展開するNGOの取組が極めて重要な意味を持つ。

特に、地方分権が推進される中、地域の実状やニーズに適った行政を展開する地方公共団体が男女共同参画社会の形成に果たす役割は、今後ますます大きくなっていくと考えられ、国としても地方公共団体の主体的な取組に対して積極的な支援が必要である。また、地域社会において男女共同参画を一層推進するためには、地方公共団体における男女共同参画担当部署の担当者のみならず、全ての職員が男女共同参画の理念を理解することが求められている。とりわけ首長の理解が大きな影響をもたらすことを認識する必要がある。

一方、男女共同参画社会の形成にNGOがこれまで果たしてきた役割は大きく、国際的な場での活躍も含め、今後もその取組が期待される。NGOの活動は、国や地方公共団体から一定の距離を置いて自主的に展開されるものであり、公的機関による介入や干渉は好ましくないが、両者の対等な協調関係を維持し、NGOの自主性を重んじながら、行政としても可能な支援を引き続き進めていくべきである。

【具体的な取組】

  1. 都道府県に対しては、関連施策の着実な一層の推進、市町村への働きかけ等のために、情報提供、研修機会の提供を行うとともに、広報・啓発等について一層の連携を強化していく必要がある。

  2. 市町村に対しては、推進体制の整備充実、関連施策の着実な一層の推進、基本法に基づく男女共同参画計画の策定・実施等のため、情報提供、研修機会の提供、広報・啓発等について一層の連携の強化を図る必要がある。このうち、男女共同参画計画の策定・実施に係る情報提供については、その自主的な策定に資するよう、参考となる資料を作成して市町村に提供していく必要がある。

  3. 都道府県、市区町村の自主的な取組を支援するため、「男女共同参画フォーラム」 (*1)の開催や男女共同参画宣言都市奨励事業(*2)の実施などを通じて、地域における男女共同参画社会の形成に向けての気運を広く醸成することも重要である。

  4. 基本法の制定等、国における男女共同参画社会の形成の促進に関する動きを契機として、地方公共団体においても男女共同参画社会の形成の促進に関する条例の策定等の独自の取組が進められつつある。このような条例の制定については、地方公共団体が判断すべきものであるが、施策を推進する上での一つの手法であると考えられることから、国としても、他の地方公共団体の状況を含め、適切な情報提供を行うことが必要である。

    なお、これらの取組を踏まえつつ、必要があれば我が国の実情に適したオンブズパーソン的機能を果たす新しい体制について検討することも視野に入れるべきである。

  5. 国・地方公共団体とNGOにおける相互の自主性を重んじつつ、両者の間の情報の共有を一層推進するとともに、NGO間相互の交流や情報交換等のネットワークづくりを引き続き支援することが重要である。

    その際、平成8年から開催されている男女共同参画推進連携会議(えがりてネットワーク)は、男女共同参画社会づくりに向けて、国民的な取組を推進するため、各界各層との情報・意見交換の場として重要な役割を果たしており、今後ともその活発な活動が期待される。

  6. 国際会議などの動向に関する情報等についても、新しい高度情報通信技術も活用しつつ、国・地方公共団体とNGOとの間で情報を共有することが重要である。その際、こうした場にNGOの意見を反映させることも男女共同参画社会の形成に当たっては重要であり、連携の推進を図る必要がある。


(*1)男女共同参画フォーラム:男女共同参画社会づくりに向け、各界・各層の国民、民間団体、行政機関関係者が一堂に会する連携の場として、分科会、全体会議などを開催する、都道府県、政令指定都市を対象とした総理府の事業。

(*2)男女共同参画宣言都市奨励事業:地方公共団体を挙げて男女共同参画社会づくりに取り組む「男女共同参画宣言都市」となることを宣言し、住民の理解と協力を得るためのシンポジウムの開催などを行う、市区町村を対象とした総理府の事業。